帝国軍VSゴブリン軍
「遠隔発声、拡声魔法。……ヴァルハザク、このペンダントを音源にしておいたから持っていろ。俺は親玉のところに行くから、後は頼んだ」
「わかりました。人型二体はお任せします。残りは我々帝国軍にお任せください」
キリッとした表情で請け負う軍団長。いや、いいの……? 人型がどれだけ強いかは知らないけど、異形型四体とゴブリンの軍勢はバランス的に厳しくない?
わたしはそう思ったけど、後に彼らが正しかったのだと考えを改めることになる。
「戦闘、開始だ」
フォゼの一言で全てが動き始めた。
わたしは空中飛歩、フォゼは箒、テーサは翼というそれぞれの飛行法で空に駆け上がる。__足を使ってるのはわたしだけだけど。
ゴブリンの軍勢の上を飛び越える。高原は草の一本すら見えないくらい辺り一面、ゴブリンだらけだった。
「フォゼ、レサル、そろそろ着くぞ」
テーサのその言葉で、わたしたちは徐々に降下していった。
異様な気配がした。魔力が一点に集中しているような、違和感のある魔流を感じたのだ。
「避けろ!」
急旋回で「何か」を避ける。次の瞬間、真横に熱線が通った。熱気で頬がヒリ、と痛む。
「魔術師系か。それも、炎の」
フォゼの冷静で苦々しげな発言から、相性が悪いことが察せられた。それもそうか。高原の方に出ていればもう少しマシなんだろうけど、ここは森。一面が火の海になるのは時間の問題だ。それに__この戦いで全力を出すことはできない。人型有識魔はもう一体いるのだから。
「人型竜装!」
衣服を赤い鎧に変化させ、双角と竜の尾を露わにしたテーサが背中に下げていた剣を抜いて構えた。その右瞳が、竜の黄瞳が妖しく光る。
「ドラゴステイト」
再び魔流が乱れる。テーサの身体が金色の光に包まれた。
「まったく……竜力状態になるなら言えってのに」
魔流が乱れたことで唱えようとしていた魔法が消失したらしい。チッと舌打ちをして、フォゼが空に舞い戻ってきた。
「だって、魔法使ってくるんだぜ? それも、結構なレベル。接近戦のほうがいいだろ?」
「それはそうだが……。どっかの誰かが俺に指揮を任せたと記憶してるんだけど」
かんっぜんに嫌味だよね。テーサが相談なしに突っ走ったの怒ってるよね。
「悪かったって! で、次はどうすればいい?」
「作戦潰したやつの言葉じゃないが……? まあいい。余裕もないし、この際お前は突っ込め。俺がフォローするから。それからレサル、頼みたいことがある」
わたしは空から戦場を見下ろしていた。今回の戦いで一番重要なのは、ゴブリンをペルト城に__特に城下町に行かせないことだ。そして、死人を出さないこと。今度こそ。今度こそ、全員無事で__。
「範囲結界!」
戦場すべてを覆う、巨大なドーム。フォゼに頼まれたこと、それがこの逆シェルターを張ることだった。
「運命之女神微笑!」
勝利を祈る。誰も犠牲にならないことを祈る。わたしはわたしのできることを全力でする。そう思ったとき、シャン、と聞き覚えのある音がした。
「あれ?」
手にしていた大幣が神楽鈴に変わっていた。同時に、服が儀式用のそれになっている。
わたしは神楽鈴を握り直して、シャンと鳴らした。舞は本来なら__色々な種類もあるし、断定はできないけど、わたしの神社では扇と神楽鈴の二刀流で舞うものだ。だけど、ここには鈴しかない。でも、それはそれだ。舞えないわけじゃない。
シャン、シャン、シャンッ……。
戦場に、軽やかな鈴の音が響き渡る。
シャン、シャン、シャンッ……。
わたしは足を踏み出してくるりと回る。
シャン、シャン、シャンッ……。
今度は反対の足を踏み出して。
シャン、シャン、シャンッ……。
建御名方神への舞だけど、この世界でも通じるのかな?
シャン、シャン、シャンッ……。
そんなことを思いながら。
シャン、シャン、シャンッ……。
祭事でも滅多に踊ることがない武舞を間違えないように、慎重に。
シャン、シャン、シャンッ……。
武運を祈って、わたしは舞う。
「レサル!」
わたしの名前を呼ぶ声がして、夢から覚めたように集中が途切れた。見えなくなっていた景色に色が付き、そして目の前に__。
「テーサっ!」
剣で熱線を受け止めるテーサがいた。わたしが無防備だったからだ……!
「乱魔吸収」
熱線が紫黒の渦に巻き込まれて消えた。また、助けられちゃったな。フォゼには迷惑かけっぱなしだ。テーサにも借りをつくった。返さなきゃ。
「……って、マズい! フォゼが得意なの、魔法と弓だ! 接近戦に弱いんだった!」
「え……?」
それって、わたしのせいで不利な戦いを強いられてるってこと……だよね。
「フォゼからの頼まれごとは終わったんだろ? 一緒に来てくれ!」
「うん!」
剣が交わって火花が散る。不利な状態だとは思えないほどに彼__フォゼは素早い立ち回りと剣撃で人型有識魔と戦っていた。
「おいおい、両方魔法系だろ?」
そうか、それだ。魔法系同士だからこそ、この戦いは決着が付きそうに見えないのか。補助呪文と剣撃が入り乱れている、ハイレベルの争い。互いに傷だらけで、とても余裕があるようには見えない。ギリギリで__尚かつ半永久的に続きそうな……じゃなくて!
「回復しなきゃ」
「いいから、テーサ、代われ!」
キィンッと音がして、テーサの剣が有識魔のそれを受けて、そのまま勢いを流した。その隙にフォゼが戦いを抜け出してくる。
「ねぇ、回復……」
「俺に回復魔法は効かない」
被せるように発された言葉に絶句する。嘘でしょ? こんなにボロボロになるまで戦って、回復すらできないの?
「俺の身体は魔力を魔力として吸い取る。低級程度なら速撃魔法も飲み込むくらいだ。代わりに回復魔法も魔力の回復にしかならない」
それは、諸刃の剣。圧倒的な強さの裏で、自分自身をも蝕んでしまうもの__。
「乱魔吸収はこの体質の応用だ。俺が蛋白石になったのもこれが功を奏したからだし」
色々びっくりすること言われたけど、その中でも体質の応用ってのが気になる。けっこうなパワーワードだよ!?
「回復されるのが厄介だな……。一気に方をつけるか」
テーサの剣が白く光りだした。それはバチバチと音をたてる雷を纏う。
「神速一魂、雷々斬!」
空気の圧でわたしの身体が吹き飛ぶ。テーサの姿は見えなかった。
「討伐完了! フォゼ、次のターゲットは__こっちだ」
「了解。そっちは戦士系だと情報が入っている。単純な強さはさっきのやつ以上だ」
もっと、強いの……? わたしにできることはもうないだろう。足手まといになることだけはないように頑張らないと。
そしてわたしたちは森を抜けて、高原に進みだした。
お久し振りです。2月末には書き上げていたにも関わらず出し忘れてしまい、申し訳ございませんでした。
さて、今回はフォゼの体質についても触れてみました。彼は強いので、弱いところも知ってほしかったんです!
それにしても、戦闘シーンは難しいです。今回の戦いは前回のランウェール防衛戦より長くなる予定ですけど……。
これからも応援よろしくお願いします!




