ペルト帝国到着
「連絡用の水晶はあるか? 連絡先を教えておく。また航海のときに困ったら連絡してくれ」
フォゼが四次元バッグから、占いか何かで見るような水晶を取り出した。もちろんそれが本来の大きさなわけではなく、拡縮魔法で拡大したのが元のものらしい。
連絡先を交換しているのに、なぜか既視感を抱く。ああ、そうか。ラインに似てるんだ。できるのは映像連絡だけらしいのに、不思議だね。
「じゃあな、気をつけろよ」
ファルガに見送られて、わたしたちはラウト大陸に上陸した。
ここはラウト大陸にある三国のうちの最大領土を持つ国、ペルト帝国だ。帝国と名のつく国はリクシネッサの中でもここだけらしい。
「なあ、ここってお前が下手にうろついたらまずいんじゃねぇの?」
「お前もな? むしろテーサの方が顔知られてるだろ」
有名人は大変ですねー。フォゼはともかく、テーサはなんで有名なんだろ。まあでも、竜人って珍しいと思うし、それでかな?
帝国はランウェールよりも賑やかなところだった。
「で、どーするよ?」
「どうと言われても……。とりあえずは情報屋かな」
元々それが目的だもんね。
「ここの情報屋って冒険者ギルドじゃねーか。そのへんの関係者って俺らのこと知ってるよなぁ……」
「さあ? トップは知ってるだろうけど。俺はわかんないし。最近は行ってないから」
まただよ! わたしだけポツンは嫌なんだけど!
「フォカのため、なんてのが言い訳なのはわかってるけど……。帝国議会、行きたくないんだよ」
帝国議会? 日本でもそれはあったらしいね。その時代に生まれてないから詳しくは知らないけど、授業で習ったなぁ。たしか、一八九〇年一一月二九日開会の第一回議会から、一九四七年三月三一日閉会の第九二回議会まであったんだっけ?
それにしても、世界三大賢者とも関わりがあって、その上最強の冒険者だから議会に呼ばれてるのかな?
「珍しいな? てっきりフォカちゃんのことをしながら議会くらいは出てるかと思ってたのに」
「お前こそ。まだ継いでなかったのか? 元服の儀まで一年切ってるのに」
元服なんて教科書でしか知らないよ……。成人じゃないの? まあ、そもそもの世界線が違うか。
「まあ、書類仕事はちゃんとやってたぞ?」
なんでだろう、イメージがないんだけど。意外……。
「話戻すけどさー、やっぱここは顔知られてるよなー。ってことで俺は空の散歩にでも行っとくからやることやってこいよ。連絡はいつもの感じで」
「まあ、無難な判断だよな。レサルは俺と一緒にこい。どうせこいつについて行ってもいいことないし」
言われなくてもフォゼを選んでたよ。なんかボロを出しちゃったら危険だからね。リクシネッサには異世界人の知識が普及してないって言われたし。
テーサと別れてギルドに向かう。完全な人化はできるらしく、今は人間にしか見えないけど、必然的に目立つよね。鮮やかなミントグリーンの髪はそれだけで目を引く。加えて彼は色違瞳だ。議会とやらについても知ってるらしいし、だいぶ地位が高いんだろうな。……うん? そんな人呼び出してよかったの? ……考えても仕方ないし、忘れよ。
「幻島ってわかるか?」
「えっと、パラディですか? ……申し訳ありません、何の情報もございません」
カタカタと光る石版__パソコンのキーボードみたいなものだ__を操作して情報を調べたようだけど見つからなかったらしい。
「じゃあ、アイツは一体何者なんだ……?」
アイツっていうのはランウェールで幻島について教えてくれた情報屋の男だろう。たしかに、なんであの人だけ知ってるんだろ?
「今はいいか……。さて、レサルはロビーで待っててくれ。ちょっと……電話してくるから」
公衆電話__水晶玉だけど__があるのだろう小部屋に入るフォゼ。その瞬間にちらっと部屋を見たら、思った通り電話ボックスだった。長くはかからない用事みたいだったし、大人しく待っていることにしよう。
「それくらいの仕事くらいこなせってんだよ!」
突然の怒鳴り声にわたしはビクリと反応する。そう、それはまるで……來亜みたいな。フォゼではない。彼の電話相手のようだ。
「なんでそれくらいのこともできない?」
『なんでそんなこともできないの?』
「議会にさえも来ないとか、ナメてんのか? 仮にもお前はあの人の__!」
『大豆製品すら常備してないとか、ナメてんの? 頭にもダイエットにもいいのに!』
相手の大声で漏れ聞こえる会話は來亜とのそれを連想させる。フォゼにもこんな相手がいたんだ。恐怖の感情の奥に喜びに似た気持ちがあった。遠く感じるほどに彼は強いから、わたしは自分と重なる部分に孤独感が薄れて安心したのかもしれない。
ガチャ……。長く感じた時間が終わりを告げるドアの音。フォゼは疲れ切った様子で「最悪だ」と呟いた。それが罵声によるものなのか、静まり返ったロビーのなんとも言えない空気感に対してなのかはわからない。
「フォゼ……」
名前を呼んで、それ以上の言葉は出てこなかった。さっきの怒声に身体は未だに危険信号を出し続けている。怒られるのは怖い。來亜に罵声を浴びせられることがないように常に気を張っていたわたしは怒鳴り声が一番嫌いだった。身が縮こまってしまっていた。
「逃げるぞ」
耳元に囁かれて、ハッとする。怖い思いをしたのはわたしじゃない__フォゼだ。怖いと思ったかは知らないけど。もしかしたらあれが日常茶飯事なのかも? でも、逃げるってことはここまで大声を出されるとは思ってなかったってことなのかな?
フォゼの表情に変化はない。わたしにはわからない。でも、これだけはわかった。彼は感情を隠すのが上手過ぎる。わたしも來亜に感情を読まれないように常に無表情を取り繕っていた。だからわかる。今のフォゼは危険だ。無理やり感情を押し込んでいる感じがする。
「うん」
わたしには頷いてついていくしか選択肢がない。周囲の注目を浴びながら、わたしたちはギルドを出た。
「……城に向かうぞ」
はい?
ギルドを出てからテーサと会話__水晶玉も使ってないけどやり取りはできてるっぽい__していたフォゼの一言にわたしは驚きで目を丸くする。
「テーサが……いや、街中で言わないほうがいいな。俺も詳しいことは知らないし、着いてからテーサに直接聞くぞ」
これは行くしかないよねぇ……。
今回は久しぶりに來亜と過ごしていた回想を入れてみました! フォゼと誰かの会話にも注目してほしい会になりました。
次回はフォゼが言っていたようにお城に行きます! 議会の話題が出てるので察した方もいらっしゃると思いますが、フォゼとテーサは王様との面識がありますからね……。
応援よろしくお願いします!




