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巫女の異世界転移録  作者: 江蓮 蒼月
第一部 RPG攻略序盤、物語が現実に
12/20

船上の敗北

 港に着いた。ザザン、と響く波の音。これが海……。

 実はわたし、元の世界を含めて海に来たのは初めてなのだ。両親は忙しいし、わたしも巫女見習いのバイトをしていたから仕方ない。友達もいなかったしね。そういうわけで、わたしのテンションは上がった。


 船が来た。ザザザッと波をかき分けて港に止まり、中から乗客が降りてくる。

「えー、お乗りのお客様は、乗組員の指示に従ってお進みください」

 アナウンスがかかってわたしたちは船に乗り込む。木製の、小さめのフェリーのような船だ。

 出港した船の中には、わたしたちを含めて十数人が乗っていた。

 このとき、誰も想像していなかったのだ。この後に起こる悲劇を……。


「ねぇ、フォゼ。話したくなかったらいいんだけどさ、フォカちゃんについて聞かせてよ」

 デッキで潮風にあたりながら、わたしはフォゼに話しかける。

「フォカのこと?」

「うん、フォカちゃんを助けるのに、その本人のこと何も知らないからさ」

 すっと空に飛ぶテーサ。あれ? なんで? 直後、わたしはその理由を痛感することになる。


「つまり、フォカちゃんはかわいいってことだね?」

 つ、疲れた……。フォゼ、シスコン気質あるよ。そりゃあテーサが逃げたのも納得だね。

 色彩の淡い金色の長い髪。クリクリとした青色の瞳。大人びているようであどけない表情についてまで、しっかり語られた。

「一言でまとめればそうだな」

 うーん、過去の話を聞き出したかったんだけど。ま、いいや。

「……っ!? おいフォゼ、あれ、なんだ?」

 羽をたたんだテーサに言われ、わたしもその方向を凝視する。そこには確かに何かがいた。

「進行方向か……船長に知らせろ。こいつは多分、巨海魔(ラージシーダ)だ」

「マジで!? すぐ行ってくる」

 大きい、海の魔物。もしかしたら……。

「フォゼ、あれ、クラーケンじゃない?」

 領域有魔(エリアボス)、クラーケン。つまり、舵を切るのが遅れたら……間違いなく戦闘になる。クラーケンは巨大スライムと同じ称号を持ちながら、その強さは桁違いのバケモノだ。

「そうかもな」

 予想はしていたのか、苦い表情の彼は頷いた。肯定されると不安は増す。

 その時点で、すでに取り返しのつかない状況に陥っていたのだった。


「せ、船長! 舵が効きません!」

 操舵手の絶望を知らせる声が船内に響く。

「救命ボートを出せ! 脱出する!」

「無理ですよ! エンジンから出火してます! ボートも燃えてますよ!」

 最悪の事態だ。え? 死にたくないんですけど。帰らなきゃいけないんだから。異世界(こんなところ)で死ぬのはまっぴらなんだってば! 神様ってわたしに意地悪なの!?

「火は魔法で消せ! この船さえ浮いてさえいりゃ、生きられる可能性もある!」

 いや、可能性低くない……?

「魔法かなんかで無理やり進路変更できないの?」

「実行した場合、船が大破するぞ? 中途半端な威力じゃ魔法耐性がある(もの)は動かせないからな」

 わたしの提案は恐ろしい結果を冷静に告げるテーサによって却下された。

「じゃあどうするの!? わたし、死にたくないんだけど」

「飛ぶしかないだろ」

「飛べない人たちは?」

「どうしようもないな」

 自分が焦っているからか、テーサの淡々とした口調に腹が立つ。

「可能性は低い。……が、助かる方法はある」

「何!?」

 静観していたフォゼの言葉に、わたしは食いついた。

「あいつと戦って、勝利することだ」

 それなら、やるしかないじゃない! やってやれないことはない。……だって、やらないと犠牲者が出ちゃう。やっても出るかもしれないけど、一人でも多く助けたいから。その思いを持って、わたしはクラーケンに立ち向かう。


 ドゴッ!

 鈍い音とともにわたしは船に叩きつけられた。衝撃が内臓にダメージを与える。

「コフッ……」

 自分から吐き出された空気の塊がその衝撃を表している。今のわたしはレベル一〇だ。元の世界のわたし(いのる)よりもずっと強い身体を持っているはずなのに、何でここまでのダメージを……。まだ序盤なんだから、(あいて)も弱いはずなのに。

 そこまで思って、ようやく気づいた。これはゲームなんかじゃないのだ。敵の強さなんて決めつけることはできないのだ、と。

 頭ではこれが現実だとわかっていた。でも、わたしはどこかでこれがゲームの出来事だと思っていたのだろう。

 ……思えば、うまくいきすぎていた。非現実的な世界に放り込まれて、チュートリアルのような出会いを果たした。その時点でわたしの思考はとっくに容量限界(キャパオーバー)になって止まっていたのだ。


 視界の隅に、わたしに付き合って戦うフォゼとテーサが写った。

「ねぇ、どうして無謀な戦いに付き合ってくれてるの?」

 風にかき消されるような呟き。それに答えが返ってきた。

「単純に放っておけないってのもある。……けど、約束なんだ。師匠との約束。『護れる命は護れ』ってな。俺は(フォカ)を護れなかった。……今度こそ、護る」

 強い決意。その瞳に宿る意志に気圧される。


「避けろ!」

 切羽詰まったテーサの怒声。目の前に、クラーケンの太く長い触手が迫っていた。

 死にたくないなんて言っておいて、死なせたくないなんて言っておいて、強敵の前で意識がそれた。それはリクシネッサ(このせかい)では致命的なミスで。

 しまった……! そう思ったときにはもう遅かった。頭が真っ白になる。身体が動かない。ほんの一、二秒なんだろうけど、嫌に長く感じられた。

「麻痺弾っ!」

 フォゼが早口で唱えた魔法はわたしに迫る触手に命中し、その動きが鈍る。一瞬の隙をついてわたしは必死に身体を動かして飛び退いた。

 避けられたのは良かったけど、鈍っているとはいえ、筋肉の塊ともいえるクラーケンの触手は脅威的だった。触手の力が抜けて落ちてくる。言葉にすればその一言だというのに、その一撃は船を破壊するには十分すぎる威力を誇っていたのだ。


 ついに死者が出た。

 叩きつけられた触手に押し潰されたのだ。赤黒い血飛沫と、それに染まった木切れが宙に舞う。何人もが巻き込まれ、船は真っ二つに大破した。

「ぁ……」

「フォゼ、脱出するぞ! 船が沈む!」

「そうだな。レサル、しっかりしろ! 飛べ!」

 その声で、身体は生きるための本能だけで空中飛歩(シエルウォーク)を始める。

 船上での戦いは、大敗に終わった。


 魔力が切れかけたのか、気分の悪さで正気に戻った。

「フォゼ、テーサ……。魔力、ない……。気持ち悪い……」

「は!? おい、箒は一人乗りだぞ? 俺も魔力、かなりギリギリだし。さっきの船みたいに沈没する」

「俺も自分一人が限界だな……。体力が持たない」

 あれ? わたし、溺死しない?

 ……なんかもう、意識が……。

 今回は、Twitterでいただいたアドバイスのもと、改行を増やしてみました。読みやすいと思っていただければ幸いです。


 さて、レサルは初めての敗北を味わいました。次回はその後のことをテーサの視点で書いていきます。


 「プリ小説」「Twitter」でも活動しています。応援よろしくお願いします!

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