出立のトリガー
少し落ち着いたのか、ぐったりしてはいるものの動けるようになったフォゼと合流してランウェールに戻る。宿に帰るなり、フォゼは机に地図を広げる。昨日から続けて泊まる予定だったのだ。さらに二ルクを払ってもらった。
そんなことより、どうしてフォゼは横にならないのだろうか。
「休みなよ……」
「次に向かうところは決めなきゃだからな」
うん、後でよくない? 心配なんだけど。結構な無茶してるんだから、まずは自分の身体のこと考えなよ。
「テーサに聞いておきたいこともあるしな。休む暇はない」
それで身体壊したら元も子もないよ?
「やっぱり変わってないな。もうちょっと自分に優しくしたらどうだ? お前は自分の限界をすぐに突破しようとしてる。昔から言ってるだろ」
テーサもわたしと同じ意見のようだ。ちなみに彼は二ルク五〇〇チャル払ってこの部屋の隣を借りている。どうやら、人数が多いほうがオトクなようだ。
話を戻すけど、そういえばワイバーンのときも無理してたみたいだったもんね。昔からだっていうんだから、性格なんだろうけど……。それでもやりすぎだと思う。自分を追い詰めるのは彼の悪い癖だ。
「やること増やしてんのはお前だろ」
「すみません……」
「レサルは不可抗力だっただろ。謝る必要はない」
反射的に謝るわたしにそう言うフォゼ。
「俺も呼び出されただけだよな? 不可抗力っていうのは同じだよな?」
「この辺りはハズレか……。次は海を渡るかな」
訴えるテーサを無視して彼は再び地図に目を落とした。
「そういえばさぁ、フォカちゃんどうしたんだ? ずっと一緒にいただろ? 年頃だから一緒に居辛いのか?」
一段落したのか、ようやく顔を上げたフォゼを質問攻めにするテーサ。フォゼはその言葉にピクリと反応する。地雷ですか? それにしてはわたしには割とすんなり話してくれたけど。
「……封印してる」
「え?」
「封印してる」
「いや、聞こえなかったわけじゃないけど」
封印してるってことは、フォカちゃんってフォゼの妹さんかな? 名前聞いてなかったもんね。
「師匠が殺されたときに呪われた。命の時間制限は残りちょうど七ヶ月だ。俺がしっかりしてれば、強ければ、少なくともフォカは護れたのにな」
楽しくも嬉しくもないだろうに、淡々と話す彼はクッと嗤った。自虐的な笑みだ。
「だから、残り僅かって……」
意味深な言動に直結していた、具体的な日数。それに気づいて絶句する。
「なるほど、これで辻褄は合った。お前が聞きたかったのは俺がどうしてこんなところにいるのか、だろ?」
「ああ。表に出てきていいのか?」
サラッと流すテーサが何を考えているのかわからない。でも、辻褄が合ったってことは、何となく感づいていたってことだよね。わたしもあえて触れずに話を聞くことに徹する。
「お前が継承者なのに表舞台に出てきてないからさ、じいちゃんに様子見てこいって言われたんだよ。で、お前の気を探りながら剣士として旅に出てたってワケだ。その道中に呼び出されて、そこに運よくフォゼがいたってのが経緯だな」
継承者? 表舞台? パッと全部は理解できない。だけど、わたしのことを忘れたかのように状況確認をしているのを遮ることは不可能だった。その理由の中に、フォゼがわたしに隠してることを言ってくれるかも、なんて思ったから、っていうのがあるのは秘密だけどね。
「俺はフォカを助けるまでは表舞台には立たない。立てないんだよ。個人的な理由で悪いな。トゥテラリィには了承してもらってる。だからといって、そのせいで負担が大きいのはわかってるし……。時間もないし、迷惑もかけてるし、もう何が正解か、わからないんだよ」
初めて、だ。フォゼが弱音を吐いたのを見るのは。わたしはそのまま空気と化して様子を見守る。もはやわたしには、それしかすることがなかったのだ。
……って、あれ? トゥテラリィって、世界三大賢者の名前じゃなかったっけ? 関係者だとは言ってたけど、フォゼってどういう立ち位置なの?
「……正解なんて、ないと思うぞ。俺は、フォゼがフォカちゃんを助けたいって考えてることが大事だと思う」
話が深い……。しかも、ついていけない……。
「俺も協力するよ。フォカちゃんを助けたいってのは同じだからな。それで、どんな呪いをかけられたんだ?」
「永遠睡眠」
「エターナル……何?」
さすがに聞き取れなくて、わたしはついに口を挟む。フォゼは丁寧に答えてくれた。どうやらわたしのことを完全に忘れていたわけではないようで、急に話しかけたのに驚いた様子はない。
「永遠睡眠。時間制限までに目覚めることができなければ死に至る呪いだ。自ら目覚めることはできず、他者の干渉が必要になる」
「よりにもよって精神干渉系かよ……」
うわぁ、言葉だけで厄介そうだってわかるよ。
「だから、虹の麓に咲く花の蜜が必要なんだよ。幻島の名前はわかったんだけど、場所がわからな……」
紡がれる言葉が途切れた。え? と思ってフォゼを見ると、彼は机に突っ伏して眠っていた。やっぱり身体は限界だったんだ。
「レサル、だっけ。俺が取ってる部屋で寝てもらってもいいか? フォゼを移動させてから俺もこっちで寝るから」
「そうだね、その方がいいかも。じゃあ、おやすみなさい」
わたしは二人を残して部屋を出た。
翌朝。
「おはよう」
「おはよう、レサル。朝食を取ったら出発するぞ」
隣室を覗くわたしに、フォゼはそう言う。それにテーサが目を見開いた。
「もういいのか? 回復しきってないだろ?」
「問題ない。昨日も言っただろ、時間がないんだ。早くしないと」
「でも、フォゼ……。回復したほうが効率もいいだろうし、テーサが言ってることは正しいんじゃないの?」
急ぎたいなら、万全の状態のほうがいいと思うんだけどな。ほら、急がば回れって言うじゃない?
「いや……ほとんど全快だし」
「まあ、ならいいか……。たしかに魔力は安定してるみたいだし」
テーサが太鼓判を押すんなら大丈夫か。
ホテルの食堂で朝食を取る。旅の道中では食べることのできないふわふわの白パンと、香ばしいベーコンエッグ、シチューのようにとろみのついたスープだ。おいしかった。
食休みを挟んでから、わたしたちは港に向かう。目的地は、海の向こう。ラウト大陸だ。
今回はほとんどがフォゼとテーサについてでしたね。彼らはどうして旅に出たのか。フォゼの妹のフォカの状況について。それがわかっていただければと思います。
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