また間違えてしまったら
生徒会長編を投稿します。
時系列的には亮介と麻衣の結婚式前です。
宜しくお願いします。
※御要望がありましたので、桐島文香編が終わりましたらキャラ紹介を書きたいと思います。
〜姫川涙子視点〜
姫川涙子は今年22歳となる。
生徒会長という肩書きも三年以上前のモノ。
高校では任期を終えてもずっと生徒会長と呼ばれ続けていたが、大学では誰もそんな風に呼んだりしない。
至って普通の大学生として日々を過ごしている。
涙子は高校を卒業後、教員を目指すことに決めた。
今は専門の大学に進んでおり、来週からようやく教育実習生として小学校に数週間配属される事となった。
「──う〜ん、不安だ〜」
受け入れ先の小学校に関する資料と、勉学を高める参考書を見ながらソファーで寛いでいる。
さっきまでは姿勢良く机に向かっていたが、現在はリフレッシュの意味も込めてソファーに移動していた。
それでも資料は手放せない。眺めていないと不安で仕方ないらしい。少しでも赴任先の小学校に関する理解を深めておきたいと涙子は考えていた。
そんな彼女に、誰かからメッセージが届く。
ピロンッ
「あ……L◯inだ……」
──私は新着通知を確認する。
差出人は……大学の元先輩からだ。
『姫川さんもう直ぐ教育実習でしょうか?既に人間関係が出来上がっているクラスは色々と大変でしょうが、うまく馴染める様に頑張ってね!姫川さんは真面目だからきっと大丈夫ッ!』
励まし、激励のメッセージだ。
それに対して私は感謝の返信をした。
『ありがとうございます!頑張ります!』
……うん、我ながら面白みのない返信だと思う。
でも適当だとか、悪気があるとかじゃなく、これが私に出来る精一杯の受け答えだ。
私は他人にどれだけ踏み込んで良いのか、それが全く分からなくなっている。
初対面はもちろんなんだけど、相手が良い人であれば良い人であるほど、私の言葉が傷付けてしまいそうで怖かった。
人をどこまで信じて良いのか殆ど分からない。
その答えを誰も教えてくれないのだから、自分で見極めるしかない。でも大多数の意見だけを鵜呑みにし、大好きだった亮介くんの言葉を信じなかった私にはその見極めが凄く難しい。
人を傷付けてしまうのが怖い。
亮介くんの悲しそうな顔が頭から離れず、今でもちょっとした出来事でそれを鮮明に思い出す。
そんな時は何も考えられなくなる。
だって考えれば考えるほど、自分という生物が恥ずかしいから……もう本当に情けなくて堪らない。
ずっと立ち止まっていたいと思ってしまう自分が居る。
でも、それでも、人生は勝手に進んで行くんだ。
………
………
そうだ、もう直ぐ教育実習が始まろうとしている。
今年で大学四年生になったから……さっき連絡をくれた女性は、去年一足先に卒業した面倒見の良い先輩だ。
その先輩は国語の先生として、既に別の学校へと配属されており、生徒だけでなく他の先生達とも良好な関係を築けている様だ。
人付き合いの苦手な私には羨ましい限り。
でもいろいろと教えてくれた優しい先輩だし、子供達や他の先生達に好かれるのも分かる気がした。
話したいことを上手く話せない私にも、大切な事をいろいろと教えてくれったけ……とても優しい人。
先輩以上に優しい人は居ない……と言いたい所だけど、彼女より優しい人が知り合いに二人ほど存在している。
「亮介くんと麻衣さんは大学三年になるのか〜」
もう会うことは無いかも知れない二人。
いや、合わせる顔なんてないよね。
少なくとも私から会いに行ってはいけないんだ。
それでも──
二人が幸せになる事を願ってます──
「……………」
気持ちが沈んでしまっている。
こんな体たらくで教員なんて務まるんだろうか?
そんな風に考えつつも、それでも、教員になる夢はどうしても諦める事が出来なかった。
「テレビでも見て、気を紛らそうかな」
私は気晴らしにテレビを付けてみる。
面白いチャンネルはないか探していたら、ちょうど楓ちゃんが出演しているテレビ番組を発見した。
私は迷わずそのチャンネルを見る。
「うわー……楓ちゃん、こんな凄い番組に出るんだ」
それは有名な大物女性芸能人と、その日訪れたゲストがマンツーマンで話をするというモノ。
魅力はなんと言っても不思議な空気感で、私が生まれた時からずっと続いてる長寿番組だ。
それのゲストとして出演している楓ちゃんは、明るくテキパキとした受け答えで場を盛り上げていた。
「目が笑ってないね」
……だけど、私には退屈そうに見えて仕方ない。
親友の私にはそれが分かってしまう。
「付き合い長いからね」
親友だと思ってるのは、私だけかも知れないけど。
最近は遊んでもくれなくなったし、ちょっとだけ楓ちゃんが離れて行くみたいで寂しい。
楓ちゃんとは本当にたくさんの事があったけど、それでも大好きで一番の友達だ。
楓ちゃんの声に耳を傾けながら資料を読み返す。
『楓さんは容姿端麗ですしね、性格もとても素晴らしいじゃないですか?地元に友人は多いんですかやっぱり?』
『いえ、心から信頼できる友人は一人だけです。今は先生になろうと頑張っている最中なので、私はそれを心から応援してます』
『……ふふふふ』
『どうかされました?』
『嬉しそうな顔してらっしゃるから……今、初めて心が通った気がするわ、アナタと』
『……そんなことは』
『いや冗談ですからね?……それでその友達は大事?』
『……はい、今は大変な時期なので、こちらからあえて連絡を入れてませんが、落ち着いたら御飯にでも誘おうかと思っております』
『……ふふふ、大事にしているのねアナタその子を』
『彼女が居なければ……今の私はないのかも知れません。家族以外で信頼できるのは彼女だけです』
『ちゃんと伝えてるのかしらそう思ってるってこと』
『恥ずかしいので言えません。この番組に出演するのも伝えてないですし』
『じゃあ見てないし、何か言ってみないこの場で?』
『伝えたい言葉ですか……難しいですね……』
『難しく考えることないのよ、思ってる簡単な言葉でも良いんじゃない?』
『そうですね……じゃあ『頑張れッ!!』──力強くそう言ってあげたいです』
…………
…………
涙子は顔を真っ赤にしながらソファーに顔を埋めている。既に勉強どころではなくなっていた。
そのままスマホを取り出してメッセージを送った。
宛先は……もちろん山本楓である。
『ちょっと楓ちゃん!!!テレビであんな恥ずかしいこと言わないでくれる!?』
『なっ!?勝手に見るな!』
『勝手に見たよ!楓ちゃんが出てるなら見るよ!というかそんな風に思ってるなら言わないと分からないじゃない!ずっと避けられてると勘違いしたんだけど!?』
『……避けてると思ってたのか!?──いや、違うぞ?あれは涙子の事ではない違う人だ。そもそもアレは白柳さんに乗せられてしまったんだ。誘導尋問という奴だ。だから言わされた感がとても強い。あそこに私の意思はなかったんだ。それと色々と編集されている。私もいま放送を見てビックリしている。私はあんな事を言った覚えがない。上手いこと言葉を切り抜いて繋げている訳だ。テレビ業界には詳しくないだろう?そういうのが出来るんだ今の人達は!素晴らしい技術を有しているからな!というかそもそも涙子の事ではないからな!?……分かったか!?』
『いや長文すぎて草生える』
──数分後──
『楓ちゃーん?』
『既読つかないけど?』
『ねぇーごめんってばー』
『…………あれ?』
『もしかして私ブロックされてる!?』
涙子は慌てて電話を掛けた。
直ぐ電話に出てくれた楓の声は、受話器越しでも分かるほど羞恥で震えていたが、涙子の謝罪を聞き、ブロックを解除してくれたという。
〜数日後〜
……いよいよ今日から教員実習が始まる。
楓ちゃんと久しぶりに話せたお陰で、ここ数日は楽な気持ちで勉強が出来たと思う。
(……それなのに職員室では上手く話せなかったなぁ)
自己表現が難しい……というより出来なかった。
何かアピールしようと思うと、そのアピールの仕方で相手を傷付けないか、そればっかりを考えてしまう。
相手を傷付けるくらいなら自分を表に出さない方がいい。
(前にそれで亮介くんを傷付けてしまった)
反省しなさい。
相手に謝りなさい。
楓ちゃんのいう事を聞きなさい。
そんな的外れな言葉で、亮介くんの気持ちを何一つ考えないで追い詰めた私が、相手を傷付けずに話せるなんて無理だ。
『……よろしくお願いします』
だから俯いて、小声で挨拶をしてしまった。
先生達はそういう性格なんだろうと、特に気にしてない様子だったけど、あれは単に人と接するのから逃げただけ。
私はいつもこうなる。
心では分かっていても、誰かを目の前にすると、ハキハキと自分の意見を口に出来ない。
(楓ちゃんが相手だと、あんなに話せるのに……私って典型的な内弁慶なんだよね)
認めるしかない……私は自分が苦手だ。決して他人が苦手なんじゃない……自分の事が苦手で信用できないんだ。
(こんな私が……本当に、先生になれるのかな?)
私は教室の前に立ち尽くしながらそう考えていた。
「では、先生を紹介します!──入って来てください!姫川先生!」
「は、はいっ!」
弱気になっちゃダメだよ。
子供達に失礼になっちゃうんだから……!
私は気合を入れ、担任の合図で教室の中へと入る。
「み、皆さん!初めまして!姫川涙子です!これから少しの間ですが宜しくお願いします!」
「「「「宜しくお願いしまーす!」」」」
私が自己紹介をすると、小学生達はとても元気良く挨拶を返してくれた。
私が受け持つのは五年生。
男女合わせて30人のクラスだ。
この子達を傷付けない様に気を付けなくちゃ……細心の注意を払って、どうやったら傷付けずに相手と接する事が出来るのかを、しっかり観察しないと。
「私は丸谷紗枝です!宜しくお願いします!」
「俺は松坂祐輔!将来の夢はプロ野球選手さ!」
──私は子供達の自己紹介に耳を傾ける。
みんなとても明るくて可愛らしい。
「水岡晃です!読書学校好きです!」
「桐島遊香です……宜しくお願いします……」
(あの子は……嘘……まさかほんとに……!?)
今の自己紹介をした子は……うん、顔を見た時に少し見覚えがあると思ってたけど、声と名前を聞いて確信した。
間違いなく桐島文香さんの妹だ。
当時で小学一年生だったから、年齢的にも五年生で一致しているし、やっぱり間違いないと思う。
彼女とは亮介くんと仲が良かった頃に、ちょっとだけ顔を会わせた事がある。
「……………」
(……あれ?)
自己紹介が終わるとそのまま俯いてしまった。
最後に会った時は幼かったから、私を覚えてないのは仕方ないとして……当時はとても活発な子供だったのを間違いなく覚えている。
だけど今の遊香ちゃんからはその面影がない。
(もしかして何かあったんじゃないだろうか?)
彼女の事がどうしても気になってしまっている。
それに遊香ちゃんと話せば、行方が分からなくなってしまった文香さんについても何か解るかも知れない。
生徒会長編と桐島文香編をそれぞれ二話ずつで終わらせるつもりでしたが、文字数的にも難しそうなので、話数を少し増やしたいと思います。
次話は2日後に投稿予定です。
宜しくお願いします。
※総合ポイントが60000を越えました!
随分前からですけど、恋愛[現実]でも年間二位になっており、とても嬉しいです。
投稿するのか迷う小説だったんですけど……いや、勇気出して投稿して本当に良かったと今では思いますね。
これからも宜しくお願いします!!