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ある女性の不満


最初の計画ではターゲットから連絡先を聞き、そこから兄に連絡を入れる……そして、何も知らない風を装った兄が示談金で解決を提案するというモノだった。


わざわざ兄を呼び出す理由としては、何も知らない設定の兄が後から現れて、大事な妹に手を出したターゲットに激昂し、警察に通報するという脅しを掛けるつもりだから。


簡単に言うなら、社会的に死にたくなければ大人しく金を払えという話。


だけど私は勝手に計画を変更する。

コイツの親と警察に通報する事にしたのだ。


そもそもどうせ相手は学生なのだから両親を巻き込まないと金は毟り取れない。兄の想定では大人を相手にするつもりだった様だけど、それを事前に言わなかったんだから、こちらも責められる筋合いなんてないし。

言わなくても分かるだろとか……知らないから。



『ば、ばかやろう』


警察署にやって来た兄は心底動揺していたと思う。

どうやら最初から上手く行くとは思っておらず、話に折り合いが付きそうになければ逃げ出すつもりで居たらしい。

相手によっては警察沙汰になってでもお金を払いたくない人物が居ると兄は考えていたのだ。


なので私から警察沙汰にされ、駆け付けた兄は真っ青になっている。


これで逃げ道は無くなったのだ。

もし、こちらが計画している事がバレればもうタダでは済まされない。



──だけど私は、どうしても山本亮介が信頼している姉を籠絡し、この男を陥れたかった。


もうそれしか頭にない。


既に私達は警察署に来ている。

それでも大丈夫そうな態度の山本亮介が憎くて堪らない、許せないどうしても……!



私がアイツの姉を騙す算段を建てていると、ある女性が走って私達の元へ駆け付けて来た。


いや私達というより……山本亮介の元へ。



『……ぁ』


思わず目線を逸らしてしまった。

兄と役立たずの三人は逆にその女性の姿を目にし、目線を外せずに固まってしまう。


弟がイケメンだからある程度の覚悟はしていたが、それでもその姉はあまりにも綺麗で美しかった。

予想を遥かに上回る外見、そして芸能人のようなオーラを放っている。


まだ名乗りも受けてないのに、すぐに姉だと理解出来たのは山本亮介に顔立ちが似ていたから……なんて美しい姉弟なんだろうと私は固唾を飲んだ。



(……どうしよう)


私はこんな化け物相手に、本当に勝てるのだろうか?


弱気になってしまう。

この人を騙せる自信が私にはない。





だけど──


私の不安が現実になる事はなかった。


警察と少し話した後、アイツの姉が被害者を装った私の元に歩いてやって来る。

化け物相手に動揺を隠しきれない……そんな私のすぐ目の前に立ち止まると、その姉は私を凝視する。



『……詳しく話を聞かせてほしい』


『……はい』


私は泣きながら山本亮介を指差して事情を説明する。事情というより嘘っぱち。あなたの弟に襲わせているのを、この三人に助けて貰ったという捻じ曲げた真実だ。


聞いてる内に、平静を保っていた表情は見る見るうちに苦虫を噛み潰したような表情に変わった。



『………私じゃなく……こんな女に……』


『え?』


小声で上手く聞き取れなかった。

だけど怒ってるのは分かる。



(もしかして気付かれのか……)


流石に焦り始めてしまったが、アイツの姉は少し離れた所に立っている山本亮介に向かって行く。



『見損なったぞ、亮介ッ!』


『……え?楓姉さん?』


顔が良く見える、山本亮介の顔が。

だからこそ気が付いた……明らかにショックを受けているんだと。説得するまでもなく、彼女は私の口にした妄言・大嘘を信じてくれた。



『楓姉さん!アイツらを信じるの!?』


『…………』


楓と呼ばれた女性は、もう一度こちらを向いた。

刺すような眼差し、冷たい瞳、何を考えてるのかまるで分からず、私は恐怖した。

周囲の馬鹿どもは美しい女性に見られて嬉しそうに笑っているが、とても被害者に向ける目ではない。


とにかく、何かがおかしい女性。

あの顔の向こうには別に意思を感じられる。

良からぬ事を考えているような表情。



『証拠があるのだから言い逃れは出来ないぞ』


『楓姉さんッ!!』


にも関わらず、彼女は頑なに弟の言葉を信じようとはしなかった。


その後、少し経ってから彼の父親がやって来た。

姉とは違った意味で山本亮介の言葉を聞こうとはしない、かなり質の悪い男だと思った。


楓という女性は弟の言葉こそ信じないが、アイツの言い分を最後まで聞いていた……途中で遮ったりしない。


だけど父親の方は言葉さえも遮る。

聞く耳を持たない態度は同じだが、姉と父親とで罪を犯した山本亮介に対する気持ちが違う気がした。


父親はともかくとして……姉の方は弟に対する愛を感じるのに、どうして信じてあげないのか不思議で仕方ない。だからこそ何を考えているのか理解出来ない。



……でもそれで良い。


アイツの追い詰められている姿を見れて嬉しい。


もうそれだけで十分満たされた。



──そして話はなんとこちらの都合が良い様に進んだ。

向こうの父親が示談金を払う事で決着がついた。

私も兄も能無しな三馬鹿ですらも、長期戦になる覚悟だったのに……アイツの父親は話が大きくなるのを嫌がり、大金を払う事で全てを解決してしまったのである。



──なんとも拍子抜けで呆気ない結末に終わった。

あれだけ信頼していた姉に信じて貰えず、父親にさえも見捨てられた。



実に哀れな男だ。



『……………』




最後に……


ここで言葉を掛ければ……


もしかしたらチャンスが……



『……弟がすまなかった』


『い、いえ……償って頂けるのなら……』


『そうですか……示談になって良かったです』


声を掛けようとして姉に遮られる。

その間に山本亮介も違うところに連れて行かれたし、やっぱり諦めるしかないか。



『あの……良かったらこちらの番号を』


『…………』


兄は紙に書いた自身の電話番号を山本亮介の姉へと差し出した。


いつの間に用意したのやら……それに、このタイミングでどうかと思うよ。まぁ私もさっき声を掛けようと思ったし、血は争えないって訳ね。




──この時の楓は示談にして貰った手前、大人しく差し出された電話番号を受け取ったが、直ぐに警察署内のゴミ箱に捨てたという。




──


──



──『ご、500万円!?』


受け取った示談金は予想を遥かに上回っていた。

軽い小遣い稼ぎ……まぁ良くて十数万と考えていた私達は、想像を超えた額に興奮を抑え切れなかった。


警察沙汰になってしまったし、これっきりにするつもりだったが、こんなに儲かるなら続けるに決まっている。

それからはやり方を変え、今度は近くを通り掛かった『男子中学生』と『男子高校生』に的を絞った。

同じ様に親から金を巻き上げようと考え付く。



『全然捕まんねーよな』


『……はぁ〜』


私は思わず溜め息を漏らした。

あれから2週間も同じ方法を試してみたが、山本亮介以外で不良に絡まれている女性を助けようとする人物は一度も現れなかった。

なのでそちらも絡まれてるのではなく『具合悪そうに蹲っている私に声を掛けてきた人物』をターゲットに変えてみる。


すると2日目で獲物が見付かった。

相手は下心丸出しの男子高校生。


流石に立て続けで警察を呼ぶのは怪しまれると思い、今回はターゲットの家族のみに連絡をする。


今回は山本亮介の様にすんなりとはいかなかったが、20万のお金を受け取る事で解決した。

本当はもっと高い金額を要求したのに、それ以上は弁護士を雇って本格的に争うつもりだと言うので、仕方なく20万で手を打ったのだ。



(……ふざけるな)


私の値打ちがたったの20万円だと言われてるみたいでイライラしてしまう。

最初の想定通りの金額なのに、500万円の後だと雀の涙程の金額に思えて仕方ない。



(まぁ、でも……今回は相手が悪かったと諦めるか)


私は次に期待する事にした。



………



………



だけど、中々上手く行かない。

次のターゲットも直ぐに見つかったが、今度は相手の親が息子を信じて折れなかった。



『親として証拠がなければ息子を信じる!』


こう言って聞かない。

それでもしつこく絡んでいたら、逆に警察に通報されそうになったので私達は逃げ出した。



その後も失敗。

次は成功。

次は失敗。


失敗、失敗、成功。


これを繰り返す。


兄も言ってた通りに上手くいかない事が多い。

失敗する度に場所を変えてたお陰で、かなりの範囲で活動をするハメになってしまった。




それに成功しても10万程度で割に会わない。これではリスクばかりが先行してしまう。



(もうそろそろ潮時かな)


私はそう思う様になるのだった。




『──はぁ?引きこもり?』


『ああ、なんでも二番目に詐欺った奴が居たろう?ソイツが学校にバレて、もう通えなくなったらしいんだわ』


『へぇ……』


山本亮介じゃなければどうでもいいや。


それに二番目に騙した奴……?

そんなの名前すら覚えてないし。



『どうでも良さそうじゃん』


『どうでも良いしね、実際』


『つめてぇーな!俺らが嵌めた所為だってのに!』


そう言う割には楽しそうに話す、三馬鹿の一人・小林。


ソイツの下品な会話を適当に遇らう。



だけど……次に興味深い話を始めた。



『そう言えば……最初に騙した金星いたろう?』


『……ッ!……うん』


金星……山本亮介の事だ。

めちゃくちゃ大金を稼げたから、兄と三馬鹿は金星と呼んでいる。


私は久方ぶりに真剣に小林の話に耳を傾けた。



『俺さ……そいつと仲が良かった女と付き合う事にしたんだわ!』


仲が良かった……山本亮介と……彼の事が聞けるかも。



『……へぇ……紹介してよ』


『ん?良いけど別に?』




──そして私は、かつて山本亮介と仲の良かった女子、桐島文香と出会う事になった。












予想以上に長くなったので話をもう一話追加します。

ここは大事な過去編なので丁重に書いていこうと思います。


夜遅くになると思いますが、次話は明日投稿しますので宜しくお願いします。



沢山の感想もありがとうございます。

楽しみにしてくれてるコメントが多くみられるので、かなり嬉しい気持ちで書けています。

活動報告にも暖かいコメントが溢れており、感謝の気持ちが止まりません。


今は執筆しやすい環境なので来週も結構投稿出来そうです。これからも宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?更新は?
[気になる点] 作者さん煽るような感じになりそうでこんなこと言いたくないのですが… はやくぅぅぅ〜!!(煽り違い) まさかこっちの視点あるとは思いませんでした。(続き…
[良い点]  このバカ女にすら傍目から見て解る位には父親がクズだったこと。  そして楓の異常性も。  亮介よく真っ当に育っていたな。  ある意味スポイルされていたのか。 [気になる点]  バカ女同士の…
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