ある女性の末路
ちょっと前倒しで犯罪者の話を書きます。
二話構成で、続きは明後日までに投稿します。
〜???視点〜
私がまだ十六歳だった頃、兄や男友達と一緒に犯罪行為に手を染めていた事がある。
それは見知らぬ誰かを冤罪に仕立て上げてお金を巻き上げるというモノだ。幾ら未成年だったとはいえ、最低な事をしていたと今では心から反省している。
そう……反省しているのに……
それなのに世間はちっとも許してくれやしない。
私は今年で26歳になる。
あれから十年が経過していた。
『女子高生だった私』が犯した罪で『大人になった私』は今でも苦しめられている。
人を殺した訳でもないし、捕まってからは心を入れ替えて二度と犯罪行為に手を染めていない。
なのに……それなのに……
〜十年前〜
私の名前は松田有希。
高校二年生の私は金遣いが荒かった。
私には成人した兄が居るが、給料の良い会社に勤めているお陰で、催促すれば簡単にお金をくれた。
とにかく私に甘い単純な人だ。
特に好きでもない、だけどお金をくれるから嫌いでもない、そんな程度の印象しかない兄。
そんな兄は私の男友達と仲が良かった。
その男友達とは、三人でいつも連んでいて普段からイキってるような連中だ。
男としては見れない奴らだけど、少しヤらせてあげればムカつく奴らとか脅してくれるし、言いなりになってくれるから、まぁ便利に使っている。
『え……公平兄さんマジでやるんすか?』
『ああ、うまくいけば小遣いが稼げるぞ』
『マジヤバいっすね!やりましょうよ!』
『よしっ!……有希〜、ちょっといいか?』
『はぁ〜……何よ?』
兄は嫌いじゃないけど、この三人と一緒に居る時は面倒くさい──ろくでもない事しか言わないし。
『なぁに……実はさ……』
本当にろくでもない話だった。
私達が暇な時に屯っている裏路地で、私を囮にして見ず知らずの人間から金を巻き上げるというモノだ。
マジもんの犯罪だ……これならウリをやった方がマシかも知れない。まぁそんな提案してきたら流石に縁を切ってしまうけどね……プライドが許さない。
だけど報酬を多く渡してくれるというので、大人しく言う通りに動く事にした。
私は三馬鹿と一緒に裏路地へ向かう。
兄は『襲われてる設定』の私の保護者として、後から示談金の話を持ち掛ける役割を補っている訳ね。
大して学力もないのに最低な事を考えるのは上手。
──取り敢えず夕方から裏路地に張り付いてみた。
しかし、何も起きないまま数時間が経過する。
『襲ってる設定』の三馬鹿は段々イライラし出す。
正直に言ってしまうと設定を間違えたと思う。
今の時代、不良に絡まれている女の子を助ける奴が居る訳がない。現に何度か通り掛かってる奴らが居たんだけど、私達を見掛けると逃げて行く。
仮にヤクザみたいな人物が通り掛かっても怖い。
そこまで考えてないし、兄は低学歴なだけはある。
『……はぁ………ん?』
辺りが暗くなった頃、私はそれを見つけた。
猫をモチーフにした可愛らしいキーホルダーで、私はそれを手に持って眺めていた……単なる暇つぶしとして。
『おい!誰か来たぞ!』
『有希!早く襲われてるフリするべ!』
『はいはい』
どうせ逃げ出すだろうと思っていたが、仕方なく持ち場に戻った。遠目でしか見えない人物は、真っ暗な路地をスマホのライトを頼りに歩いていた。
地面を照らしているので何かを探している様だ。
徐々に近づいて来た所で、くだらない茶番が始まる。
『おい姉ちゃん! 黙って付いて来いや!』
『いや……やめて下さい……!』
恥ずかしいったらありゃしない。
もうこんな演技は二度とごめんだ。
だけど相手も逃げてゆく筈だ。
見た目だけは強面の三人組なのに対して、相手はたったの一人。向こうの様子は見えないけど、こっちには街灯があるから向こうには見えている。
わざわざ危険に飛び込むなんてこと──
『なにやってんの?』
『あ、な、なんだよ?』
『いや、女の子を相手に酷いんじゃないか?』
普通に話しかけて来る……そんな馬鹿が居た。
私は思わず、聞こえてきた男性と思しき人物を見る。
声の感じからしてかなり若い。初めて堂々と向かってきた相手に三人も慌て始めた。だけど私は彼の姿を見て……別の意味で慌て出してしまうのだった。
近づいて来た彼の顔が街灯に照らされ認識出来るようになって……ようやく気付かされる。
『かっこいい……』
テレビなんかでしか見た事ないような綺麗な外見に、私はおかしな言葉を口にしていた。
かっこいいだなんて言葉を口に出すなんて、どうかしているんだと思う。
こんなに感情が昂るのは、ずっと無視され続けてたのもあるかも知れない──一人で立ち向かって来る彼が、何よりもカッコよく見えてしまった。
『……ん?なんだよ、ビビらせやがって……は〜い、獲物釣り上げ成功〜』
相手が強そうな見た目ではないと分かった途端、三人は強気に動く。
『なるほどな』
そして、勘が鋭いのか……怯えてない私の表情や三人の様子を見て彼も私達の企みを察したらしい。
呆れたような顔をする。
『くだらない連中だな』
『なんだと!?』
挑発され、三人の一人が彼の胸ぐらに掴み掛かる。
だけど知っている……コイツらに誰かを殴る度胸はない。脅すことはあっても直接は手を出さない。
イキってる割に停学や退学を心配している……本当に考えが小物で、だからこそ男として全く好きになれない。
『ちょっとやめなよ!計画と違うだろ!?』
だけど私は止めずにはいられなかった。こんな奴らが彼の胸ぐらを掴む事すら許されない気がしたからだ。罠に嵌めた癖に、私には彼が救世主に見えて仕方ない。不良に絡まれる私を助けてくれた優しい人。
だけど私は気づかない……私にとってヒーローでも、彼にとっての私は醜悪な悪女なのだ。
『…………』
『……ッ!』
彼からの冷たい視線に私は思わず息を呑む。
(何を悲劇のヒロインぶってるんだ、私はっ!上手いこと話をしなきゃダメ……!この状況を利用して【彼を手に入れる】ように動かないと……!)
彼に魅了された私は、お金よりも彼が欲しくて仕方なかった。別に計画を変更したからといって、私が怒られるなんて事はない。
兄もコイツらも所詮は私の言いなりだから。
私には……もう彼しか目に入らないのだ。
『……ここでアンタに襲われたって……叫んでも良いんだけど?流石に囲まれてたら逃げられないでしょ?』
『やれるもんならやってみろよ』
『は、はぁ?』
『俺の家族は……特に楓姉さんは、そんな嘘を信じるような人じゃないからな』
『……ふ、シ、シスコンかよ』
『別にそう思いたければ……おいっ!!』
『あ、てめッ!』
『勝手に動くな!』
『クソッ!力つえぇ!』
私が手に持ったキーホルダーを目にすると、彼は血相を変えて近寄って来る。
役立たずな三人が力づくで止めようとしていたが、そんなのは意に介さず、呆気なく私の側に辿り着く。
『ひぃ!?』
彼が手を伸ばして来た為、叩かれると思い目を瞑ってしまった……だけど彼の眼中に私なんて写っておらず、私の手にある先ほど拾ったキーホルダーを勢いよく奪い取っただけ。
『かえで姉さんから貰った大切な物なんだ!お前みたいな最低な人間が気安く触るなよ!』
『な、なんですって!?』
人をバイキンみたいに扱う。こっちは付き合ってくれれば許すつもりだったのになんて恩知らずな男なのだろうかっ!
大事そうにキーホルダーを仕舞い込んだ彼を見て、私は更にイライラを募らせていった。そんな小汚い物に私は負けたんだという現実を突き付けられるように思えたからだ。
それでも私はダメ元である提案をしてみた。
『私と付き合わない?』
『はぁ?』
『この提案を受け入れないんなら……どうなるか、分かってるでしょうね?』
『おい、有希……そんな話は──』
『うるさい!アンタは黙ってて!』
『お、す、すまねぇ』
コイツらは私には逆らえない。
金払いの良い私の兄、私の身体……どれも手放せない筈なのだから。
しかし、どうしてだろう?
急にコイツ達が汚らしく思えて仕方ない。どうでも良い存在だったのに、今は無性に穢らわしく思う……自分自身も。
そして、往生際の悪い私からの提案を──
『絶対に無理だ。アンタと付き合うなんて、未来永劫あり得ない事だ』
残酷な言葉で断った。
『…………そう』
その言葉と同時に、私の初恋は一瞬にして消え失せる。
(いや違う、踏み躙られたのだ、目の前の男にっ!)
私の愛する気持ちは一瞬にして憎悪へと移り変わる。
本当は彼……コイツを脅し、金を巻き上げるだけのつもりだったけど、もっと手酷く苦しめる事に決めた。
学生からは大して金を巻き上げられない。
だったら警察沙汰にして、コイツをもっともっと、どうしようもない位に貶めてやろうと……私はそう考えた。
──後に知る事になる。
コイツの名前が『山本亮介』であるという事を。
コロナと年度末が重なり、作品を執筆する余裕がありませんでしたが、頑張って業務を落ち着くところまで終わらせました。
しばらく帰りが早いので執筆に集中します。
この作品をキリの良い所まで終わらせてから別作品を執筆してゆくので宜しくお願いします。