許される資格
思ったより時間が掛かりましたごめんなさい……
かなり長くなったので2話に分けます。
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〜楓サイド〜
「………はい!オーケーです!」
「………どうも」
撮影が終わると楓は直ぐに現場を離れる。
その後も共演者に対する礼もなく、監督やスタッフにだけ挨拶を交わし、荷物をまとめて楽屋を出た。
楓は女優として映画やドラマに数多く出演している。容姿が整っているのももちろん有るが、何より演技力が抜群だった。
お陰で今は人気女優としての地位に立つ。
この頃の亮介は21歳の大学3年生。
つまり楓は22歳という若さでこの道で成功を収めているのだ。
しかも汚い手段や身体を売る事もなく、己のテレビウケする美貌と演者としての実力だけで確固たる地位を築き上げて来た。
その証拠に楓の美しさには更に磨きが掛かっており、周囲を魅了する程に底知れぬオーラを放っている。
(亮介……今回の映画見てくれるかな)
それも全て亮介に対する愛情によるモノ。それ以外の思惑は一切なく、金にも名誉にも興味はなかった。亮介に見て貰える様になれば直ぐにでも辞められる……楓にとって女優とはその程度の職業なのだ。
知性が無くても演技力さえあれば誰にでもなれる。そう考えてるからこそ、楓は同業者を見下して挨拶もろくに行わないのだ。
むしろ良い大学を出て、編集技術や企画書を立ち上げる知性を身に付けた番組スタッフの方が、楓からの評価は高い。
「楓さん……このあと、一緒に食事でも──」
「悪いが用事がある」
「は、はい……」
今日も共演した後輩に誘われたがキッパリと断る。一部の人間は不快そうに楓を観るが本人は気にしてない。スタッフや大物タレントにさえ気を配っていれば、多少性格が悪くても業界から干される事はないと楓は知っている。
そして、それだけの実力を楓は持っていた。
「沙耶香、もう辞めときなって……楓さん、塩対応で有名じゃん」
「そうそう、見下してるよね、あの人」
楓本人が居なくなってから、慰めるテイで無視された女の子に声を掛ける二人の女性。
楓を食事に誘った19歳の斉藤沙耶香は、そんな二人にこそ良い印象を抱いていない。慰めは建前で本音は一緒に楓を貶めたいのが丸わかりだったからである。
(え、私が勝手に誘ったし……)
それでも沙耶香は話に合わせて頷く事しか出来ない。指摘なんて勇気のある行動が出来ない。間違ってると言い返す事が出来ない。
だからこそ自分とは違い、強い信念を持っている楓に憧れているのだ。
──それからも沙耶香は顔を合わせる度に声を掛け、どうにか仲良くなろうと努力した。
同じ事務所なのが幸いしたのと、映画で共演しているのもあり、今だけは事務所でも撮影現場でも頻繁に顔を合わすことが出来る。
尤も楓は主役で自分は脇役と、与えられた役割に差はあるのだが……
「楓さん!昨日の私の演技はどうでした!?」
「………どうだかな」
塩対応だが懲りずに沙耶香は翌日も声を掛ける。
「昨日奮発してグッゾのバックを買いました〜、えへへ〜♬」
「………グッゾ?」
「え?……グッゾ知らないんですか?」
「……ああ、何個か貰ったのがあるな」
「そ、そうでしたか」
初めて会話らしい会話をした。
しかし、それは非常識なやり取りとなった。
実は楓も同じ物を幾つか所有していたが、ブランド品についてあまり良く知らない。
もちろん名前は知ってるが、持っていてもそれがブランド品だと分かってないのである。
今をときめく大女優とはとても思えない。
楓の身に着けてる衣装は全てマネージャーがあてがったもので私服すらも人任せだ。
楓との年齢差は3歳。
ほぼ同年代だから話題には困らない筈なのに、楓は亮介以外に趣味がない。正確にはそれしか無くなってしまったのだ。もう楓の人生は空っぽで何もない。
家にいる時もずっと亮介の事だけを考える。
その想いが届く事はないのに……そんな届かない感情が大きすぎて、最近は薬に頼らないと夜も眠れず苦しんでいる。
昔はブランド品で着飾るのを夢見ていた。でも今はそれに一切の興味を示せなくなってしまった。
今は亮介に見て欲しいという承認欲求のみで生きている。今の楓はそんな状況なのだ。
肝心な亮介は自分が認識出来ないのだから、楓自身にとっては実に無意味な日々を過ごしている。
──楓と亮介は四年前に決別した。
あの日から亮介の止まっていた時間は進み続けて居るが、逆に楓は一歩も前に進めなくなっている。
「楓さ〜ん!」
「…………」
こんな事があっても軽蔑せずに今まで通り駆け寄って行く斉藤沙耶香。
楓が事務所に告げ口すれば治まる筈だが、それをすると彼女がどうなるのか目に見えていた。
入って来たばかりで知名度のない彼女が、山本楓に迷惑を掛けているのだ……楓を売り出したい事務所からすれば邪魔な存在だと思われ、沙耶香の印象が悪くなってしまう。
(そんなの関係ない、勝手に消えれば良い)
楓はニコニコ笑う沙耶香に視線を向ける。
『楓姉ちゃん!!』
嬉しそうに自分に話しかけて来る姿が、どうしても昔の亮介と重なってしまう。渚沙はどちらかというと亮介にベッタリだったから、こんな風に自分と接して来るのは亮介だけだった。
なので擦り寄って来る彼女を邪険に出来ても、突き放す事が出来ない。脳裏にいつまでも焼き付いてる亮介の笑顔が邪魔をする。
──今日も撮影を終えて帰宅する。
頻繁に様子を見にやって来る母親の凛花、義妹の渚沙、涙子以外の知人がこの家に訪れる事はない。
この三人以外はマネージャーなど、仕事での付き合いに留まっている。
そして──
『亮介をあんな目に遭わせるなんて!!お前はもう娘じゃない!!』
──父親の和彦からは病院の一件で見限られてしまった。もう家には帰って来るなと言われている。
信頼していただけに、父親の言葉は胸に深く突き刺さった。
「……亮介も……同じ気持ちだったのかな」
父親から見放されたことで、楓はようやく亮介の苦しみ……その一端を味わう事が出来た。
それでもこんなのは一端だと楓は自覚している。自分が亮介に与えて来た苦しみはこんなモノじゃない。亮介を執拗に追い詰めて、更には逃げようとするのを追い掛けて壊そうとしたのだから──
「──ッ!!──はぁはぁ……!」
それを思うと呼吸が出来なくなる。ベッドから起き上がり水を飲む。静寂だった部屋の中には激しく脈打つ胸の鼓動がうるさく鳴り響いていた。
事務所から大きなマンションを買い与えられたが、リビング、寝室、風呂場とトイレ以外は使わない。
リビング中央には新品のテレビが設置されているが、自分にとっては文字通り『新品』のテレビで、遊びに来る家族と涙子しか電源を点ける事はない。
「……………」
もう何をする気も起きないのだ。
ただ仕事をして、眠って、身だしなみを整えて職場へ向かう。そんな日々の繰り返しだ。
周囲からは光り輝いて見えてもそれは全て偽物の栄光に過ぎず、当の本人は何処までも澱んでいた。
「楓さ〜ん!」
「……ちっ」
──翌日も沙耶香がいつものように絡んで来る。自分が事務所に告げ口しないのを良い事に、何処までも調子に乗って話し掛けてくる。
鬱陶しいと思っていた。
だけど昔の亮介がチラつく。
例え性別が違っても、亮介に似ているというだけで、楓にとっては究極の弱点となってしまうのである。
「……………」
「……………」
しかし、そんな沙耶香の立ち振る舞いは、周囲からすると『山本楓』に媚びている意地汚い女として映っていた。
徐々に周囲の態度は変わり始めていたのだが、楓の心情を察する事が出来ないほど鈍感な為、沙耶香はそれに気が付かない。
そして、遂にある事件が起きてしまった。
─────────
「わ、私は知りません……!!」
「ん?」
楓が現場に訪れたのは、沙耶香が叫び声を上げてる最中だった。
楓にとって沙耶香とは騒々しい存在として印象付いている。しかし、叫び声を上げるほど煩い訳ではなく、明らかにいつもと様子がおかしかった。
楓は離れた位置に座りながらも、無意識に彼女の言葉に耳を傾ける。
「いやでもアンタいつも一人で居るしさ」
「だいたい斉藤のカバンから私の財布が出てきたんだけど?」
沙耶香を責め立てるのは、以前、沙耶香に楓の悪口を吹き込んだ二人組だ。
もちろん、財布を盗んだうんぬんは冤罪で、二人が沙耶香を陥れようと仕組んだ罠である。
あの後も楓にベッタリだった沙耶香を逆恨みし、このような手段に打って出たのだ。
「斉藤さん……困りましたね〜」
その中には社長まで居た。
そして二人と一緒に沙耶香を責め立てている。
「しゃ、社長……話を──」
「のんのん、悪いけど問題児は要らないよ」
「そ、そんな……財布も誰かが入れたとしか……!」
「……証拠はあるの?証明してくれる人間は?」
「そ、それは……」
事件にするつもりなんてこの社長にはない。
シビアな考え方を持っている彼は、どちらの話を信じた方が有益かで行動する。
初めてカメラの前で演技する一年目の斉藤沙耶香と、目立った活躍こそないが何年も在籍している二人。
どっちの味方をすれば得なのか言うまでもない。それに沙耶香にはコネもなく、この状況を覆すのは不可能だった。
「わ、私盗んでません!!」
泣きながら否定する沙耶香。
今は楓を含んだ5人しか居ないが、あと少しで他の人達も到着する。
そうなればもう終わりだ。
だけど世の中はそんな風に出来ている。空気の読めない存在は淘汰されるべきで、沙耶香も例に漏れずそうなって終わり。
この状況を覆す可能性なんてない。
世の中はこういう不条理で周っているのだ。
「……………」
楓はその会話をずっと聞いていた。
社長も含め話し合ってる四人は楓の到着に気が付いてない。
(間違いなく冤罪だろう)
そして楓の知る限り、沙耶香はそんな悪事を働く度胸もないし、出来る性格ではない。
だから無実なのは楓にも分かっていた。
(だからと言って助ける義理はない)
楓は彼女達を無視して台本に目を通す。
楓と同じ事務所という恩恵で映画に出られる脇役の彼女達と違い、楓には覚える台詞も多い。
(これで静かになる)
だけど沙耶香が居なくなるのは良い事だ。周りをうろちょろする目障りな存在が消えるのだから……今日だってあんな事になってなければ、いの一番に駆け寄って来た筈だ。
あの社長なら不穏分子として間違いなく辞めさせるし、こんな辞めさせられ方をすれば、弱気な彼女は二度とこの道には戻って来ないだろう。
──楓は黙って台本を読み続けた。
……………
……………
「私は本当にやってないです!!」
『俺は本当にやってないんだ!!』
「…………ッ!」
ハッと、楓は顔を上げて沙耶香の方を見た。
自分はやってないと叫んでいた沙耶香の表情から生気が抜け落ち、既に諦め俯いていた。もう何を言っても信じて貰えないと悟った哀しい表情だ。
「りょう……すけ……」
あの顔には見覚えがある。
忘れる訳もない。
冤罪だと信じず、家出から帰って来た時に突き放すような言葉を投げ掛けた……その時に見せた亮介の表情そのものだ。
ただし、亮介と違って沙耶香は邪魔な存在だ。だから冤罪で首になっても気を病む必要がない。
「………ぁ」
それでも──
身体が勝手に動いてしまった。
楓はゆっくりと四人の側に近付く。
そして真っ先に社長へ声を掛けた。
「社長」
「ん………おおっ!楓ちゃ〜ん!!ごめんね!直ぐに終わらせるから!──斉藤さん、この映画の撮影が最後まで終われば契約終了だよ!」
「………はい」
楓の到着で諦めたのか、はたまた楓に無様を晒したくないのか……沙耶香は俯きながらその場を離れようとした。
──しかし、楓は彼女の手を掴んで引き留める。
「………え?か、楓さん?」
驚いた顔で見上げる沙耶香。
楓は真っ直ぐに社長の方を向いている。
「彼女は……斉藤さんは昨日一緒に食事をしてました。財布を盗む時間なんて無いですよ」
「……えぇ!?やだ、そうなのね!もう斉藤さん!いや、沙耶香ちゃんも早く言ってよ〜!」
「え……あ、はい」
社長の中にある優先順位が一気に変わる。
『早く言ってよ』と言うのは、楓と食事をするほど仲が良い事についてだ。
彼の経営する会社は99%楓のお陰で成り立っている。楓が全てと言っても過言ではない。楓が辞めてしまえば簡単に消し飛ぶようなちっぽけな事務所なのだ。
それなのに楓は同じ事務所の子達と仲良くする事がなく、いつか辞めてしまうんじゃないかと社長はいつもビクビクしていた。
だけどそこに沙耶香という存在が現れる。彼女を大切にしていれば楓を繋ぎ止められると社長は考えた。
数十人規模の小さな会社だが、その中で沙耶香は楓の次に重要な存在となった。
名前の呼び方も『斉藤さん』から親しみを込めた『沙耶香ちゃん』に早替わりである。
「ちょっと!食事に行っても、その前とかに盗む機会は幾らでも──」
社長の変わりように耐え切れず、財布を盗まれたと嘘を吐いた女性が抗議の声を上げる。
「証拠はあるの?」
「……え……あ」
そんなモノなんて有りはしない……だって冤罪なのだから。自分達の方が立場が上だったから沙耶香を追い詰める事が出来たが、楓が現れた以上はどうする事も出来ない。
もうさっきとは真逆の立場になっていた。
「失礼します……」
「す、すいませんでした……」
諦めた二人は荷物を纏めて帰ろうとする。
「撮影は最後までして行きなさい。違約金が発生するよ?」
「「……はい」」
二人は項垂れながら返事をした。
もともと楓に手を出せないから沙耶香に対して八つ当たりをしたのだ……それがこんな結果になるとは思いもしてなかった。
普段、沙耶香に対して冷たかった楓が助けるとは微塵も思わなかったのである。
主役は山本楓。
黒いカラスも楓が白と言えば白。
空の色も楓が緑と言えば緑。
楓には常識を覆すだけの力がある。
そんな彼女が敵になった時点で二人はもう完全に終わったも同然なのだ。
そして二人は永遠に知る事はない。
楓が沙耶香を気に入ったから終わったのではなく、他者を冤罪に陥れるという、楓には無視できない地雷を踏み抜き自滅したという事実を。
──そして社長の言葉通り、映画の撮影が終わると二人の名前は会社から完全に消えて無くなってしまうのであった。
必死に懇願していたが、最後まで決して許される事は無かったらしい。
「──楓さん!楓さん!」
「………はぁぁ」
この事を楓は後悔している。あの日以来、沙耶香の距離感がグッと近付いたからだ。
助けた事で何度も泣きながら礼をされた。
沙耶香も普段クールな楓が助けてくれるとは思ってなかったらしく、あの出来事がキッカケで、これまで抱いていた尊敬の念が更に深まる。
これまでも格好良い先輩として尊敬していたが、今は一人の人間として楓を心から信頼している。
絶対絶命のピンチを救ったのだから当然だろう。楓の思惑はともかく、救われた沙耶香にとっては誰よりも慈悲深く優しい女性なのだ。
そして沙耶香も仕事が増え始めた。
社長が楓と一緒に売り出す事が多くなったからである。お陰で周囲から『山本楓の腰巾着』と揶揄されるが、むしろ沙耶香にとっては最高の褒め言葉だ。
楓にしても自分が撒いた種なので、今更嫌とは言い出せないし、助ける為のウソだったと正直に話すのもプライドが邪魔して正直に打ち明けられない。
また周囲の目がある時は良いが、二人きりだと平気で抱きついて来る。
(誰とも仲良くなる資格はないのだが……)
こんな沙耶香を最近はそこまで嫌じゃないと思い始めている……それも楓に取っては嫌気の差す事実だ。
「楓さんはやっぱり格好良いな〜」
『楓姉さんは格好良いなぁ』
「……………ッ」
今も腕に引っ付いて来る。
だけどそんな沙耶香を強く振り払う事が出来ない。彼女の仕草や甘え方が亮介にソックリなのだ。特にあの窃盗事件以降はどうしても亮介と重なってしまい、彼女に冷たく当たる事が出来なくなってしまっていた。
──今日も撮影を終えて帰宅する。
私はベッドに背中を預けながら昔の事を思い出す。沙耶香を冤罪から救う事で一歩前に進めるかと思ったがまるで違った。
むしろ逆効果だったかも知れない。
もし、あの時に亮介を信じる事が出来て居れば、彼女から向けられている愛情に満ちた眼差しが、自分に対して向けられていただろう。
『楓姉さん……信じてくれてありがとう』
こんな風に感謝されていた筈だ。
(だけど現実は違う)
私は亮介を信じずに、最愛の弟を傷付けて追い詰める選択肢を選んだ──
「……うぐっ!」
──込み上げる吐き気に耐え切れず、私は吐瀉物をベッドの上にぶち撒けてしまった。
後片付けが面倒だが心はそれどころじゃない。
亮介があんなに苦しむ必要なんてなかった。
なのに愛する弟を追い込んでしまった。
逃げても追い掛けて更に追い詰めた。
それを思うと心臓が締め付けられる。誰かが亮介を追い詰めたと考えるだけでも狂いそうなほど許せないのに、自分が当事者なのだから救いようがない。
(私は心から反省している。今なら自分が異常だと分かるし、家族から見放される辛さも理解できる)
………
………
だけど……だけど……
世の中には許される過ちと、決して許されない過ちが存在するんだよ……
自分が行ったのは間違いなく後者だ……
決して許される事でない……
──そんな当たり前で、こんなにも簡単な事に私は今更ながら気付かされた。
だけどもう……何もかもが遅過ぎた。
それから更に数ヶ月後。
母さんから亮介が結婚するという話を聞かされる。心臓が苦しかったがなんとか落ち着かせた。
相手は中里麻衣……彼女しか居ない。
今となっては恩人の女性。中里麻衣が来なければ亮介は完全に壊れていただろう。
「…………楓は──」
「行かないよ」
今更、どのツラ下げて亮介に会える?
例え認識されなくても、私なんか近付くのもおこがましい。
「………そう」
「母さん」
「……なに?」
「その優しさは亮介にとって残酷だよ」
「……でも……最近の楓なら……いえ、ごめんなさい……だけど貴女も大事な娘だから──」
「……ありがとう」
御礼を言うと母さんは辛そうに俯いた。
だけど本当にありがとう。
ずっと見捨てないでくれて本当にありがとう。
私が少なからず変わる事が出来たのは、あんな事が有ったのに母さん達が見捨てないでくれたからだ。
母さんだけじゃない。
渚沙も……そして涙子も。
だけど私は亮介に愛されたいが為に、涙子に罪を被せようとした事がある。
居た堪れなくなり、それを打ち明けた……なのに涙子はそれでも構わないと側に居てくれた。
──やっぱり沙耶香の冤罪事件は大きなキッカケになったと思う。嬉しそうに笑う沙耶香を見ると、亮介からその笑顔を奪ったと自覚できるようになったんだから……
そして近々、芸能活動も辞めるつもりだ。
来年まで予定は埋まっているけど、徐々に減らして最終的には身を引こうと考えている。
以前のように、無責任な辞め方をしようとは思わなくなっていた。
「──だけど、沙耶香は私が居なくて大丈夫かな……?」
誰かに虐められたりしないだろうか?
それだけが心残りだった。
私は亮介に会わないと心に決めた──
しかし、運命の悪戯か──
──意外な形で亮介と出会う事になった。
後編は金曜日か、日曜日に投稿予定です。
プロットを大幅に付け加えたので、思ったよりも時間が掛かりましたが、宜しくお願いします。
楓がどんな結末を迎えるのか楽しみにしてて下さい。
『好きだった幼馴染と可愛がってた後輩に裏切られたので、晴れて女性不信になりました』https://ncode.syosetu.com/n2412ha/
こちらも12月30日から投稿する予定です。
宜しくお願いします。