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エピローグ 〜これからと、ここまで〜

本日、二話目の投稿です。


俺は一人で家にお留守番だ。

そして今はリビングのソファーに座ってゆっくりしている。


この家ともあと少しでおさらばだ。

母さんと二人で暮らしていたマンション……もう直ぐその母さんとは離れ離れになる──とは言っても新居は割と近くにあるからいつでも会える。


これは悲しい別れではないんだ。


そしてお母さんと麻衣は披露宴の準備で忙しい。男の俺には分からない、女性ならではの下準備がどうも有るらしい。


とても疎外感を感じてしまうが、それすらも今は楽しくて仕方なかった。

でも、そのお陰で話し相手が居らず、凄く暇を持て余している。



「……飯でも食いに行くか」


昼飯時になり、俺がそんな事を考えると、何者かが玄関から入って来る気配を感じた。

チャイムを鳴らさずに入って来る人物は、母さんと麻衣以外だと該当者は……ああ、一人しか居ない。



「……お母さ〜ん……あ、お兄ちゃんだ」


リビングに顔を覗かせたのは想像通り渚沙だった。話す感じから母さんに用事があるらしいが、生憎と今は不在だ。



「……何か用事か?伝言があれば帰って来た時に伝えとくぞ?」


「……うん、成人式の着物見に行こうって」


「そういえば20歳か」


「………うん」


気まずい沈黙が訪れる。

しかも隣に座るからますます気不味い。


俺は黙ってテレビの電源をつけた。

特に面白い番組はやってないか……だったら予定通りメシでも食いに行くか。



「渚沙……暇なら御飯食いに行く?」


「……ッ!?ぜ、絶対に行く!!」


「う、うん」


まぁ偶には奢ってやるか。

というか渚沙と二人で出かけるのは中学生以来だな……どんな食べ物が好きなんだっけ?


玄関を出てから鍵を掛け、その事について尋ねてみる。



「う〜ん……お兄ちゃんが好きなもので!」


「一番困る回答だわそれ……んんー……じゃあ取り敢えずファミレス行くか?」


「はいっ!取り敢えずそれで!」


バイトして買った車に乗り、渚沙とファミレスへ向かった。俺が運転席に座ると、続くように渚沙が助手席に座った。


俺は助手席にあまり人を乗せない。

母さん、麻衣、碓井くん……そして渚沙で四人目だな。まさか渚沙を乗せて、しかも二人っきりで出掛けるなんて……4年前は考えられなかった。



「渚沙は彼氏とか居ないの?」


「え?……考えた事ないかも」


「そうか」


「うん………ハ、ハンバーグ食べる」


「実は俺も」


「……い、一緒だね」


「……まぁそうだな」


「…………」


「…………」


「御飯を食べたら映画行きませんか?」


「……暇だから良いぞ」


本当にそうだから断る理由がない。

花嫁衣装は当日まで内緒って言われてるし。



──ファミレスに到着し、入り口で店員さんが接客対応してくれた。



「ではお席に案内する前に、手のアルコール消毒をお願いします!」


「……ッ」

「………」


「……え?!私何か変なこと言いました!?アルコール消毒をお願いしただけなのに凄く悲しい顔してますよ!?」



──食事後、渚沙と一緒に映画を観に行く。

その後は部屋に戻って仮眠をとった。



─────────


「いや〜綺麗だったよ〜?」


結婚式当日。俺は麻衣の花嫁姿を今か今かと楽しみにしていた。なんか煽って来る一個上の先輩が居るけど無視しよう。


姫川涙子。

ある場所で偶然再会し、また話す様になった。その時には一悶着あったんだけど……まぁ今は思い出さなくても良いかな?



「じゃあ私は麻衣さんの様子見て来るから!君もゆっくりしててね?」


「……暇なのかあの女の人は?」


ウロチョロしてる姫川先輩は……凄く楽しそうに笑っていた。


しばらく会わない間に吹っ切れた気がする。

一番変わったのはあの人かも知れない……もちろん、変な意味でだが。

人の結婚式なんだから大人しくしてくれ。



────────


「これからは麻衣を宜しく頼むよ」


「はいっ!!」


俺は麻衣のお父さんの言葉に力強く頷いた。

目の前には両親に手を引かれ現れた麻衣が居る……その美しさに目を奪われてしまったが、お義父さんの一言で我に返った。


そして麻衣がくるりとまわって衣装を見せる。実際に着てる所を見るのは初めてだけど……この世界に存在するあらゆる宝石よりも綺麗だと思う。



「ど、どうかな?」


「うん……本当に綺麗だ」


俺は当然、本音で答えた。


俺が麻衣に見惚れていると、いつの間にか周囲が気を利かせて二人っきりにしてくれていた。


有り難い……実は麻衣に伝えたい言葉が山程あるんだ。気持ちの昂ってる今だからこそ、その気持ちを伝えたい。



「……麻衣が居たお陰でここまで来れたよ……ありがとう」


「ん?亮介?」


「俺には幸せになる権利がないと思っていた。資格じゃなくて、そうなる権利が奪われたと思っていた。だけど今はそうじゃないと確信が持てる」


「………ふふ、どうして?」


「………だって、死ぬほど幸せだからな……まぁそんな感じだっ」


俺はドアの隙間から会場を覗いて見た。

もちろん、この行動は単なる照れ隠しだ。



「どれどれ〜?」


麻衣も同じように式場を隙間から覗く。



──お酒に酔って楽しそうに騒いでいる孝太郎伯父さん。


──忙しい所を駆け付けてくれた高宮院長。


──俺に対し、心から謝罪してくれた姫川先輩と渚沙。


──唯一無二の大親友……碓井くん。


他にも、お母さんや麻衣の両親も含めて、大勢の人達が集まってくれている。

親族席に座っている父親も気にならない位に、俺は皆んなからの暖かい祝福に感極まった。



「亮介」


「ん?どうした麻衣?」


「私の方こそありがとう……側に居てくれて」


「……愛してるよ」


「もちろん私もだよ!」


──そして俺達は、腕を組みながら皆の待ち受ける披露宴会場へと足を踏み入れた。




──────────



「ふぅ〜……」


無性に外の空気が吸いたくなり、俺は一人で喫煙所を訪れていた。

俺はタバコを吸った事がない。だからこれまで無縁の設備だったんだけど……今日は違う。


酔っ払う孝太郎伯父さんのポケットからタバコとライターを借りて来たのだ。

実は少し、タバコには憧れていた……だって吸ってる孝太郎伯父さんカッコいいし。


それに今は酒の力も借りている。普段出来ない事にチャレンジするチャンスなのだ。


俺はそう考えてタバコに火をつけようとした。



ギィッ──


背後から喫煙所の扉が開く音が聞こえて来る。孝太郎伯父さんが取り返しに来たのかと焦ったが、振り返るとそこには誰も居なかった。


気のせいだと気を取り直し、俺は再びタバコに火をつけようとする。



【タバコハ、カラダニワルイゾ】


「……え?」


手に持ってた筈のタバコが消える。

突発的な心霊現象に本当なら戸惑ってしまう筈だが、何故か怪奇現象にも心は落ち着いていた。


最初からタバコを持ってなかった……よし、その路線で行こう……酒も結構飲んだしな。



【リョウスケ】



俺は椅子に腰掛けて天井を見上げた。

心を落ち着かせてから会場に戻るつもりさ。


碓井君やたくさんの友達、愛する人があの会場には大勢待っている。


だからこそ怖くもあった。

この幸せがその内崩れるんじゃないかと。


こんな時に何を考えてるのか……いや、これほど幸せだから、今を失うのが本当に怖いんだ。



「でも恐れてはダメだ……皆んなを最後まで信じないと……!」



【ソノトオリだ】



この幸せの反動が来るなんて考えちゃうのは止めよう。逆に考えれば良い……今までの不幸は、これから幸せになる為の試練だったんだと。



【イママデ、傷ツケテゴメン、最後ニドウシテモ、アヤマリタカッタ……オマエにハ、キコエナイだろウケドナ】



「そろそろ戻るか」



【ソウカ……ソノホウが良い】



もう一度試しにタバコに火をつける……やっぱり消えてなくなる。

お前はタバコと縁のない人生を過ごせという、天からの暗示なのかも知れない。



【ケンコウが何よりイチバンだ】


俺は喫煙所のドアを開ける……うん、これが人生で最後の出入りになってしまいそうだな。



【モウ、会いに来たりシナイよ……これまでたくさん傷付けてゴメン……どうか元気で──】



「……………」


──何故か俺は涙を流していた。何も悲しい事なんてないのに止め処なく涙が溢れてくる。



「…………」


俺は最後にもう一度だけ喫煙所を振り返ったが、やはり中には誰も居なかった。

結局、この涙の理由も解らないまま、俺は披露宴会場へと戻る事にした。
















「──お幸せに」




これまでご愛読ありがとうございました。


と言いたいんですけど……これから後日談が少しだけ続きます。


予定としましては

1認識されなくなった姉視点

2桐島と生徒会長と再会

3亮介を冤罪に陥れた犯罪者の末路(簡潔)

4クラスメイトとの再会

5父親への復讐


の順番に投稿して行こうと思います。

1、2は割と直ぐに投稿出来ますが、3〜5は他の作品との兼ね合いもあり、少し時間が掛かると思いますので許して下さい。


一話一話のボリュームはすごいと思います。

姉が最後にあんな事を言った理由、生徒会長と話すようになったキッカケも語られます。



連載は最後まで悩み、あまりに重い内容に何度か人目に浴びせず削除しようと考えました。

あまり受け入れて貰える作品だと思えなかったからです。


ですが勇気を出して投稿すれば、これまで投稿して来たどの作品よりも評価して貰えて、投稿して良かったと心から思えるようになりました。


応援してくれた皆さんには本当に感謝です。


亮介の物語……つまり本編は一旦おしまいです。

最後に父親との決着が残ってますが、その話は時間軸の都合で一番最後の投稿になってしまいます。


本当に人生が上手くいかない時に書いた作品でしたが、今ではこの作品を残せたので、あの頃も少しは良かったのかな……と思えるようになりました。



本編後の物語にもう少しの間お付き合い願います。


※追記

活動報告に裏設定などを書きました。

どうしても本編では書けなかったので、良ければ確認してみて下さい。




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― 新着の感想 ―
冤罪で心を蝕んでいたゴーストかな?麻衣との結婚で第2の人生を進にあたり深層心理に生まれたもう一人の自分にお別れしたんだね 麻衣ちゃんとお幸せに~♪
[一言] 姉君…冤罪事件さえなければとしか言いようがない
[一言] 最後のところ少しだけ泣いてしまった
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