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12話 日常の違和感

遅くなりましたが宜しくお願いします。


──俺は朝早くに目が覚める。

朝が早いとは言っても、平日の高校生にとってそれほど早い時間ではなく、これから20分以内に準備して家を出なければ遅刻の時間。


要するに寝坊してしまったのだ。


だけどそれは仕方ない。

昨日は全く眠れなかったんだから。

次の日が学校だと言うのに、夜遅くまで眠れなかったから起きるのがキツイ。休もうかと本気で考える。



──昨日の夜眠れなかった理由は簡単。


…………


…………


夜遅くまでゲームをしていたからだ。

麻衣も一緒だったから、熱中し過ぎて気が付いたらとんでもない時間になっていたという訳。


ただもちろん通信だから互いの家は別になる。



「りょ、亮介ッ!?まだ起きてなかったの!?」


異常事態に気が付いた母さんが俺を起こしに来た。今は夜勤を再開しているが、帰ってきたら家に俺がまだ居たので慌てている。



「か、母さん……もうちょっと寝かせて……」


「……どれくらい?」


「え……あ……3時間くらい……?」


「こらっ!亮介ッ!!」


母さんに怒られてしまった。これ以上は粘れないと観念し、諦めてベッドから起き上がる。


すると母さんが嬉しそうに俺の方を見ていた。



「どうしたの?」


「ううん……幸せだな〜って」


「……そうだね」


母さんが言おうとしている事は分かる。




──俺は5ヶ月前、父さんやクラスメイトに苦しめられて入院生活を余儀なくされた。

だけど母さんが運ばれた病院の中庭で倒れてしまい、目が覚めてから俺の様子が変わったらしい。


もちろん、良い方向に変わっている。


ただし、今でも日常の何でもない瞬間に辛くなったりするし、急に硬直して動けない時がある。

だけど皆んなが支えてくれるから踏ん張って来れている。これからも周りの皆んなには感謝しなくちゃダメだな。


医者からはしばらく症状に悩まされると言われた。

しかし、自分で調べたらこの病気には一生苦しまされる人が多いと書いてあった。


完治は本当に難しいらしい。

だけど年数で症状が和らいだり、俺のようにひょんな事から改善する人も居るという。


今回のケースだと、抱え込んでいたストレスから解放されたなんて言われているけど……父さんと離れて暮らし、学校を転校したお陰だと思う。



──俺は冷蔵庫にあったサンドイッチを食べる。

母さんが夜勤前日には必ず用意してくれている、最高に美味しいサンドイッチだ。


俺は朝食を頬張りながらテレビをつけた。



『本日の『おはようテレビ』ゲストとしてお越し頂いたのは今人気沸騰ッ!──あのカリスマ女優➖➖➖さんですッ!』


「…………ん?」


──急にテレビにノイズが走る……女優の名前が聞こえない。しかもカメラが切り替わり、誰も存在しない空間を映し出した……こういう時ってゲストを映し出すんじゃないのか?


放送事故だろうか?

まぁあんまり興味ないから良いんだけどね?




──ピッ



「……あ」


母さんがテレビの電源を消した。

早く御飯を食べてしまえと言う事だろう。


俺は促された通り、急いでサンドイッチを完食し家を出た。因みに一緒にゲームをやっていた麻衣も寝坊したらしく、二人仲良く遅刻ギリギリのタイミングで学校に到着する。



──────────



「昨日のパータンヌーボー見た?」


「みたみたっ!➖➖➖出てたよね!ウチらより一個しか年齢違わないのに、凄く綺麗だよねっ!」


「しかも凄いブラコンだって有名だし、弟さんが羨ましいよね!私は同性だけど、あんな素敵なお姉さんが欲しかったな〜」


隣の席の女子がテレビの話で盛り上がっている。

やはり同年代でも男女間で観るテレビが違うんだなと、改めて思い知らされた。


いやもう全く話が分からない。



「………ん?どうしたの碓井くん?」


「い、いや……ちょっと考え事をしてて」


一緒に話をしていた碓井くんが急に静かになった。どうしたのかと声を掛けると、何でもないと手を振りながら返事をしてくれる。


その後はいつもの様に二人で会話を楽しんだ。麻衣が近くの席ならもっと楽しかったと思うけど、碓井くんが一緒なら寂しくはない。




「──山本くんっ!昨日の映画観た!?」


「うん、凄く面白かった。でも2からじゃなくて、その前から見たかったかも」


「それなっ!」


前の席に座っている男子が声を掛けて来た……それに対して普通に話を返せている。

言いたいこと、言っちゃダメなこと、相手が喜びそうなこと……色んな情報が脳裏に思い浮かぶ。



「──山本く〜ん!数学の成績満点だったんでしょ〜?ちょっと勉強教えてくれない?」


「田中佳奈さんでしたっけ?──う〜ん……勉強はいつも麻衣と二人でやってるからなぁ……他の人が一緒だとペースが乱れるかも──テストに出そうな所とか、その程度で良ければ協力出来そうだよ」


「あ、ありがとう〜……(やっぱり中里さんとデキてるんだ……密かに狙ってたからショック)」


こうして無闇に頼み事も引き受けず、無理な時は相手が嫌な思いをしないように、本音を交えつつやんわりと断る。


残された高校生活は残り数ヶ月。

だけど文化祭も楽しめたし、最後の一年間は悪くない日々を過ごせている。



「山本君って、あんなに話しやすい人なんだね!」

「前はどこか近付き難かったけど、今は雰囲気も良くて人当たりもいい感じ」

「何よりイケメンだしさ!」

「それなっ!──でも前のミステリアスな雰囲気も捨て難いわっ!」

「中里さん一筋な所も高評価よね!」

「さっき佳奈がコナ掛けに行ってたけど?」

「アホだねぇ〜……あんな可愛い子に勝てるか」

「マジでそれな」



──クラスメイトの女子達は亮介について話す。

数ヶ月前から雰囲気がガラッと変わり、女子達からの人気を集めていた。


だがそれ以上に、男子からは話しやすくて面白いと評判が良く、何より麻衣を普段から大切にしている姿が好評だった。

他の女子との距離間をしっかり保ちつつ、麻衣とも所かまずイチャイチャしたりもしない。

そんな姿が好青年の印象を与えていた。


徐々にかつての亮介に戻りつつある。

麻衣はそんな亮介について話している女子達にも嫉妬せず、むしろ誇らしげに眺めていた。

亮介が周囲から高く評価されているのが嬉しくて仕方ないのだ……『自分の大好きな人はこんなに凄いんだよ』と心の中でいつも喜んでいる。


そして1日の授業が終わった放課後……亮介の周りに数人の男子生徒が集まって来た。



「山本くん!今日ラーメン食いに行かない?」


碓井や麻衣以外にも友達が出来た。

もう学校は亮介にとって嫌な場所ではなくなった。


何度も心が折れ、何度も死のうかと悩んだかつての学校生活は地獄でしかなく、辛い毎日を過ごしていた。


そんな自分はもう居ないのだ。

今の亮介は間違いなく、充実した普通の高校生生活を満喫出来ている。



「亮介、私は良いから行って来なよ!」


誘いに悩む亮介の背中を麻衣が押した。自分と帰る約束があるから悩んでるのは明白だったからそうした。自分は亮介といつでも会える……だから友達との関係を優先して欲しいと考えていた。



「……じゃあ、行ってくる」


かく言う亮介も、麻衣や碓井が居なくても遊べるまでに回復している。


そんな麻衣の優しさを汲み取り、亮介は友人達との楽しい時間を過ごすのであった。



─────────


ラーメンを食い終えた俺は直ぐ家に帰った。

そして部屋の椅子に座ってお腹を摩る。



「……あー、腹痛い」


食べ過ぎた感が否めない。

ぶっちゃけ無理やり食べさせられた気がする。そして何度も麻衣との関係について聞かれたりもしたが……嫌ではなかった。話してて楽しい人達だと思う。



「…………はぁ」



──俺は窓の外を眺めている。


……そうだな、特に変わり映えしない景色だ。

というより、悠長に窓の外を眺めてボーッとしている時間なんてない……俺にはやりたい事が多過ぎる。


大好きだったゲームもしたいし、麻衣や碓井くん、クラスの皆ともメールで話したい。色々と食べたいモノもあるし、行きたい所なんかもあるぞ。



「例えば──」


俺は無性にデザートが食べたくなったので近くのコンビニでアイスを買って食べた。足が非常に軽い……コンビニへ向かうのも周囲の目が気になって動けなかったのに、今はそんな心配は少しもない。



「…………ッ」


それが涙が出るほど嬉しかった。

いつの間にか泣いてる……アイスが本当に美味しいと感じる事が出来ている。

これっぽちの事が俺には嬉しくて仕方ないんだ。



「…………まただ」


立ち寄った本屋の雑誌コーナーで、表紙が黒く塗り潰されている雑誌を見付ける。

最近、良く見かける悪趣味な雑誌なんだけど……全く興味をそそられない。友人との話題に出そうとも思わないし、何故か周りの人達もこの異様なデザインの雑誌について突っ込んだりして来ない。



「あっ!➖➖➖が表紙を飾っている!」


一人の女子中学生がその雑誌を手に取り、徐に読み始めた。俺は何も言わずにその場所を急いで離れた。

どうして急ぎ足になったのかは分からないが、彼女の言葉を聞いて無性に離れたくなってしまった。



──そのまま家に帰り、自分の部屋に戻ると、麻衣がベッドに腰掛けてゲームをしている。

時刻は20時前だけど、同じマンションで隣同士だから問題はない。何より明日が休みなのがデカかった。



「……じゃあ俺もゲームしようかな」


麻衣の隣に座って同じゲームを始める。



「ラーメン美味しかった?」


「美味しかった!煮卵の半熟具合と柔らかいチャーシューが食欲を引き立ててくれたよ」


「えへへ……グルメ気取りだね〜?」


「気取りって………あ、また負けちゃったよ」


「あらら〜、インフレの波に呑まれてるね!」


「くそ……与ダメ上昇とか多段ダメージとか、少し辞めてる間になんだよ……絶対課金して強くなるしっ!」


「そんな事したら凛花さんに言うからね?」


「……それはズルい」


それから1時間ほど遊んでから麻衣を隣の家まで見送った。母さんが夜勤だと一人になるので寂しい。麻衣のお父さんとお母さんは泊まりに来ても良いって言うけど、俺も成長しないとダメだから断っている。


自分で決めたんだから、寂しいと思わないようにしなくちゃな。



それにネガティブになると『あの人』が来る。


………


………


あの人って誰だ?

思い出せないのか、それとも最初から分からないのか……どちらにせよ最近感じてる喪失感に関係しているんだと思う。


俺は何か大事なことを忘れている……多分だけど。

だけど思い出せないし、無理に思い出さない。


それが有益なのか不利益なのかも分からない。

本当に何なのか良く分からない。


例え回復しても俺の人生はこんなモノだ……解らない事だらけで、俺は異常者の枠からはどうしたって抜け出せないんだ。


でも──


眠くなれば熟睡出来る──



これは大きな成長だと思う。

今はそれだけで十分なんだよ。




……俺はまぶたを閉じて眠りについた。



────────



「渚沙に会いたい?」


「……うん」


間もなく高校を卒業する2月上旬。

もともと成績の良い俺は志望校に合格した。嬉しい事に麻衣も同じ大学に通う。俺との学力に差があったから必死に猛勉強したらしい──まぁ九割教えたのは俺だけどね。


そして心に余裕が出来たからなのか……俺はずっと心残りだったモノとケリをつける決心を固めた。


その中の一つには『渚沙と話をする』のが含まれている。だから母さんが会いに行ってる日に、俺も連れて行って貰おうと考えた。



俺はもう逃げない。


血が繋がってないからって、たった一人の妹相手にいつまでも逃げ続ける訳にはいかない。


そして俺が前に進むためには必要不可欠な事だ。本当の意味で成長するには……向き合うしかないんだ……









次回は妹との決着です。

最近、夜遅くまで仕事なので、投稿が遅くなりそうです。


恐らくは今日くらいの時間帯になると思います。

ですけど好きで書けてるので楽しめてます。いつもお付き合いして頂きありがとうございます。


もう間違いなくエタらないので最後まで安心して貰えると嬉しいです。

また、25日には後編が終わりますので宜しくお願いします。


総合ポイントが50000を超えてます。

折角なのでブックマークとポイント評価を頂けると非常に嬉しいです!!


これからも宜しくお願いします!!

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