10話 再会……そして、覚醒へ
──その電話は唐突に俺を襲った。
「嘘だろ……ど、どうして」
その連絡を受け、俺は何も考えないで走り続けた。
行き先は病院だ。
だけどいつも俺の通っている病院じゃない。
これから向かうのは初めて行く病院だ。
俺は歩道を無我夢中で走り続けていた。
「……か、母さん……どうして……!」
──会社で倒れたと電話がかかってきた。
麻衣と二人で歩いていた学校の帰り道、楽しい筈の時間は崩れ去り、全身の血の気が引いてしまう。
生きた心地がしなかった。
当然、今も生きてる気はしていない。
母さんが倒れるなんてあってはならない。俺なんかは今更別にどうでも良いけど、あんな優しい人が病気に掛かるなんて理不尽だっ!
俺はどこまでも無我夢中で走り続けている。
「……ま、待って……りょうす……け……」
──麻衣が背中越しに声を掛ける。
運動の苦手な麻衣では亮介に追い付けない。
しかし、今回ばかりは亮介も気遣う余裕がなかった。
『母親に会わなくては』とういう必死な思いが視野を狭めてしまっている。
麻衣の声が届かないのは冤罪事件以降では初めてだった。それでも麻衣は懸命に亮介の背中を追い掛けるが、とうとう引き離されてしまうのだった。
────────────
電話を貰ってから1時間程で病院に到着した。
とても大きな病院だが受付の場所は分かり易い。
俺は真っ先にそこへと向かった。
「か、母さんは!!?」
「──はいっ!?」
大きな声を出した所為で注目の的だ。
でもそんなのは関係ない。
早く母さんに会わないと。
──俺は後からやって来た医者と一緒に、母さんの居る病室へと向かった。
「──ごめんなさいね、心配掛けて」
俺が訪ねると、母さんはベッドから起き上がり、申し訳なさそうに話しかけて来た。
「……………よかった」
意識がハッキリしていた。
俺にいつものような優しい口調で語り掛けてくる。
いつもの母さんだ。
俺は思わず安堵する。
心の底から安堵する。
本当に良かった……もしも母さんに何かあると、山本亮介の生きる大きな理由の一つが無くなってしまう。
そうなれば、山本亮介という人間の生きる価値はガクンと下がっていた。
「……………あ」
安心すると身体中から汗が噴き出して来た。
そう言えば走って来たんだった……急いでるならタクシーを使えば良かったのにな。
母さんは心配そうに俺を見ている。
医者から少し安静にさせた方が良いと言われ、大人しく病室を後にした。
俺が見舞う立場になるのは初めてだったが、正直とても不安だった。
絶対に逆の立場が良い……大切な人間が弱って入院している姿は見たくない。
……
母さんも同じ気持ちで見舞いに来てたのかなぁ。
本当に酷い子供だ……親孝行の欠片もない。
ずっと母さんを苦しめていたなんて……最悪だ。
「──過労……ですか?」
俺は母さんの倒れた原因を医師から聞かされた。
「ええ……少し無理をなされ過ぎたようです」
俺は黙って話を聞く。母さんは無理をし過ぎた所為で倒れてしまったらしい。
それに加え、寝不足の影響もある様だから、退院後もしばらくは家でゆっくり休ませて欲しいとも頼まれた。
……過労?
……寝不足?
……無理をしてた?
それって俺の所為だよな?
間違いなくそうだよ……だって家から会社まで遠いし、病院ではずっと付き添ってくれる。
ああ俺が原因なのか……俺の所為で倒れてしまった。
引っ越す事になったのは俺の所為だし、俺が健康なら病院にも行かなくて済んだ。
足を引っ張ってる、思ったよりずっと母さんの人生で重石になっている。親不孝どころの話じゃない。
大好きな人に迷惑掛けるなよっ!
だから言い聞かせて来たじゃないかっ!
何度も死ねって自分自身に!!
なのに無駄に生きやがって!!!
母さんは倒れるほど苦しい思いをしていた。
それなのに学校に通って幸せになりたい?
「どうかしていた……でも──」
少しくらい……幸せになる夢を見ても良いだろ。
それもダメなのか?
──俺は中庭のベンチで座り込んだまま動かなくなった。俺が生きてると……母さんは幸せにはならない。
気が付くと周囲は暗くなっていた。
もう少しで強制的に帰らされる時間だ。
母さんの様子も見ないで逃げ出し、こんな所で、何もしないで座っている。
そんな自分が憎くて堪らない。きっと俺が生きてるだけで大切な人達を傷付けてしまう。
だったら死ねば良い。
でも……まだ生きようとしている。
死ぬ勇気さえも俺には無いのだ……学校に向かう一歩が踏み出せても、命を投げ出す一歩が踏み出せない。
どこまでも生き汚い男だ。
「──亮介、会いたかったぞ」
「…………え?」
俺は声を掛けられ、顔を上げる。
そこにはネエサンが立っていた。
俺が弱った時には決まって現れるネエサン。
絶対に来ると思ったぞ。
……けど──
──何かが……いつもと比べておかしい。
「私の方にもこの病院から電話が掛かってきた。離婚してなかったのが役立つとは思わなかったよ──そして、きっと亮介なら居ると思ったから……急いで来たぞ?」
「…………あれ?」
こんなにハッキリとした喋り方だっけ?
それに居場所がおかしい……俺の足元じゃなくて、目の前に立っている。
そして存在感がいつもの比じゃない……ネエサンは恐ろしいオーラを放っている。
1週間前に家の玄関で会ったばかりなのに、あの時とは比べものにならない。
この半年、偶に現れるネエサンは何だったのかと思うレベルで別人のように思えた。
「本当に……会いたかったぞ──見てくれ、今日はとびきりオシャレをして来たんだ」
ネエサンは段々近付いて来る。
怖い怖い……いつもより遠いのに、今日のネエサンは今までで一番怖かった。俺の中にある何かが危険信号を発信している『この姉には近付くな』と。
だけど逃げ出せない。
身体中が麻痺してた。
危険信号は意味をなさない。
こんな怪物を倒そうと考えていたのか。
「……亮介」
そのまま両手で俺の顔を挟み込んで、無理矢理正面を向かせる。目と鼻の位置にネエサンの顔があった。
前触れもなく、なんて恐ろしい事をしてくるんだ。
緊張で額から汗が溢れ出た……それをネエサンが指先で拭き取る。
助けて母さん……あ、入院中だった。
麻衣は……あ、置いて来てしまった。
……守る人が誰も居ない。
じゃあどうやってこの悪魔から逃れれば良いんだ。
──死ねば許してくれるのか?
「もう勘弁してくれ……分かった死ぬからっ、死ぬから離れてくれっ!」
「ダメだ……長いこと我慢して来たんだ──それに何で死ぬ必要がある?これから不自由なく私と一緒に暮らすんだぞ?私は母さんみたいに倒れたりしない……ずっと守ってあげるぞ?」
【じャあハヤクシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ死ねシネシネシネシネシネシネ死ねッ!!】
「そんなに死ね死ね言わなくても分かってるから!だから手を離してくれよっ!勇気出して死ぬからっ!」
「そうか、幻覚を見ているのか……なんて可哀想な亮介──だけど、私だって何ヶ月も会えなくて辛かったぞ?」
【ソウダ、オマエは幻覚をミテイエル 、狂ッテルンダよ、ダカラモウハヤクシネ!!】
「幻覚じゃない……俺はそんなの知らない!!」
「安心しろ、健常者でも異常者でも、お前は私の大切な弟に変わりない。そして私と会えば症状が悪化するのも分かっている。だが安心しろ、私はどんなに悪くなっても側に居てやる──死んでもお前を放さないぞ?」
【オマエノセイで母さんはタオレタ……ダカラセキにンモッテシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ……アアアアダケド──死んでもお前を放さないぞ?】
「……………………………………………………………………………………………………………………ぁ」
どうやら死んでもダメらしい。
もうダメだ……本当にもう無理だ……終わった。
死ぬ事さえも許して貰えない。
死んでも、地獄まで俺を追ってくる気だ。
恐ろしいにも限度がある。
……
だったらどうする?
どう逃げればいい?
対策を……
ネエサンに──
負けないように──
…………………
…………いや、違うな。
対策なんて立てなくて良い。
何も考えない方が良い。
どうせ逃げたって今日みたいに直ぐ見つかる。
だったら何も考えなければ良いよ。
うん、難しい事は全部、ゴミ捨て場行き。
………………頑張った。
………………俺は多分頑張った。
………………死ぬような思いで頑張った。
………………だけど報われなかった。
………………ただそれだけの事だ。
………………頑張っても報われない人間は大勢居る。
………………何も俺だけが諦める訳じゃない。
だったらもう終わりで良いじゃないか。
もうこのhnんでいlじゃnか。
こkぉがおrjの終teんnもうあkrkらmまsyショウ。
……………………………
……………………………
【君………がん………って………あ……らめ……で】
【リョウスケ、死ヌのガコワイノカ、ナサケナイヤツメ……じゃアモウ、消エテシマエ】
【お兄…………どうか……………がんば………】
【リョウスケモウそのママデイイ、ワタシを蹴っタノハユルスからサ】
【君……………………………】
【涙子ノイウコトナンテ、キクナ、モウ閉ジコモッテシマエ、カワイイカワイイ、ワタシノリョウスケ】
【お兄…………………………】
【リョウスケの妹サン、ウルサイネ、モうガンバラ無クテイイヨ】
【………………………………………】
【アキラメヨウ、リョウスケ】
【………………………………………】
【アキラメマショウ、リョウスケ】
……………
そうだな。
そうしようかな。
諦めは大事だからな。
それに我ながら粘った方だろう。
──俺はゆっくりと瞳を閉じた。
次に目を覚ます時はもう本来の自分ではない筈だ。
『みんな……今まで本当にありがとう………そして、さよなら』
結局、俺は負けてしまった……ネエサンにも、そして自分自身にも──
「──亮介から離れてぇぇッッ!!!」
「……ぐっ!?」
駆け付けた麻衣が渾身の力で楓に体当たりした。
弱い麻衣の力でも、完全に油断している時なら通用するらしく、楓は地面に倒れ伏した。
「………………」
しかし、麻衣の到着はあまりに遅かった。
もう亮介は麻衣を見ようともしない。
目線は真っ直ぐに正面を見詰めているが、ずっと遠くを見ていた。大好きな麻衣さえも見えないのだ。
高宮院長が何よりも怖れていた事が現実で起きた。
亮介は現実の世界で死に、完全に『向こうの世界』へと旅立ってしまったのだ。
「……亮介……嘘でしょ……」
逃れる術は幾らでもあった。
凛花が倒れた電話を貰ったとき、動揺せずに、麻衣と一緒に病院まで来ていれば、楓と二人っきりにはならなかっただろう。
それに麻衣の到着がこんなに遅くなったのも、亮介が凛花の運ばれた病院を麻衣に知らせなかったからだ。
しっかり行き先を伝えていれば、麻衣がこんなに遅れる事もなかったのだ。
まるで神が、亮介を苦しませる為に仕込んだシナリオの様である。桐島が高宮精神科に通院しているのもそうだが、運命は何処までも亮介を執拗に追い詰めてしまった。
「………亮介……私……目の前に居るよ……ねぇ?」
「………………………………」
麻衣は抜け殻と化した亮介をジッと見る。
何の反応も示さない。
文字通り死人だった。
もう亮介は帰って来れない。
「……亮介……そうか……」
麻衣に突き飛ばされ地面に倒れていた楓は、完全に壊れた亮介を見て不気味に笑う。
そしてゆっくりと近付き、亮介を抱き締めた。
もちろん、こんな事をされれば抵抗する。
しかし、今の亮介は一切反応を見せない。
それが楓には嬉しかった。拒絶されず身体に触れられるのに、幸せ、生き甲斐をを感じている。
冤罪事件の後、楓は亮介を突き放し、周囲もそうするように仕向けた。そして孤独になった所で優しく接し、自身に依存させることを目論んでいた。
その歪んだ計画は麻衣の愛情に阻止されたが、今の楓は違った形で亮介を手に入れた。
依存させるのではなく、完全に壊す事で亮介を自分のモノにしたのだ。楓の異常さが……ずっと逃げ続ける亮介を遂に捉えた。
──今ここに楓が現れなくても、数ヶ月もすれば探偵に依頼し、亮介の居場所まで辿り着いていた……それは間違いない。
遅かれ早かれ亮介はこうなる運命だった。
それが数ヶ月早まったに過ぎない。
この姉の弟として生まれ、この姉に目を付けられた時点で不幸な未来は決まっていたのである。
「亮介……お姉ちゃんの家に行こう……貯蓄に不安があるから、しばらくは贅沢させてあげれないけど……今日からはずっと一緒だ……」
「……………………」
楓に引っ張られて、亮介は中庭のベンチからゆっくりと立ち上がった。
抵抗する素振りを全く見せない。
まさに楓が理想とする順従な弟だった。
「ま、待って!亮介を連れて行かないで……!」
だが、亮介が無抵抗でも麻衣は必死に抗う。
楓の行手に腕を広げて立ち塞がった。
「……そういえば、やり残した事があったな」
「……え?──あぐぅッッ!!」
今度は楓が麻衣を突き飛ばす。
それは先程の復讐……というより、亮介と一緒に過ごしていた麻衣に対する妬みだ……単なる八つ当たり。
普段からスポーツに励み、運動が得意の楓の力は麻衣に比べて遥かに強い。
「……いた……い……」
勢い良く地面に叩き付けられた。
それでも……痛みに身悶えながらも、麻衣はすぐに立ち上がった。亮介が連れ去られるのを黙って見てる訳にはいかない。
「…………」
こんな状況でも、亮介はまるで動じない。
麻衣が痛め付けられても、助けようとせず、ずっと立ち尽くしている。
「…………………」
………
麻衣……
助けないと……
あ、でもダメだ……動かない……
どうあっても体が動けない……
愛の力でどうにか出来ると思ってた……
けど違うんだな、人生はそこまで優しくない。
でも俺と離れた方が麻衣は幸せになれると思う。
こんな面倒臭い病人に構ってないで……どうか自由に生きて欲しい。
ネエサンから助けられなくてごめん。
俺は黙って見てるしか出来ない。
「──退けッ!中里麻衣ッッ!!」
「い、嫌ですっ!」
「チッ……騒ぎになる前に帰りたいのに……亮介が冤罪にならなければ見向きもされない負け犬がっ!!」
「……わ、分かってる!!でも──」
「お前が私に勝てるモノがあるか!?頭も悪いし、顔も私に比べればイマイチ、根暗で、言いたい事も言えずにオドオドして……お前に亮介は似合わないっ!」
「………そ、それは──」
「亮介への愛情なら勝ってると言いたいか?そんな訳ないだろう?お前は亮介の為に何もできない。心の壊れた亮介を守る事なんて不可能だ……お前にもそれは分かるだろ?」
「…………」
好き放題言いやがって……
早く助けないと……
誰でも良いから……
此処を通り掛かってくれ……
…………
…………
【いやお前が助けろよ】
無理だ……だって身体が動かない。
【頑張れよ】
もう頑張ったからっ!
何回も何回も立ち上がって、それでもダメだったんじゃないかよっ!
【最後にもう一度だけ】
それも既に使った。
玄関の扉を開ける時に、俺はコレが最後だと覚悟を決めた。だから最後の一回は残ってない。あの時に使ってしまったから……だからもう無理なんだよ。
【自分の為にはもう一度だって立ち上がれない?】
ああそうだとも、それは確実だ。
努力で補える範囲を遥かに超えている。
【自分の為に立ち上がれなくても、麻衣の為になら何度でも立ち上がれよ】
……………………いや……でも──
【でもじゃない】
………だ、だって──
【だってじゃない】
うるさい奴だなっ!
『俺』の癖に偉そうにするなっ!
『俺』なんだから、俺の事は誰よりも分かってるだろ!?もう無理なんだって!!さっきから麻衣を助けに行こうとして身体が動かないんだよ!!
【じゃあもう見捨てるか】
そんな風に言わないでくれ……頼む。
俺は『俺』の狂言を振り払い、麻衣とネエサンのやり取りに耳を傾けた。
何としても『俺』の言葉から逃げたかった……だって煩いから、弱っちい癖に。
「──ふざけないで」
「ん?なんだ?本当の事を言われて怒ったのか?」
「……亮介が壊れたって何よ」
「それこそ本当の事だ──だが安心しろ。私が最後まで面倒を見る」
「……馬鹿にしないで」
「なに?」
「私の───
私の大好きな人を馬鹿にしないでよぉッッ!!!!」
麻衣は泣きながら叫び声を上げた。
麻衣の熱い言葉が、愛情が周囲に鳴り響く。
楓は辺りを確認する。
誰かに気付かれるのを恐れているのだ。
「……チッ、聞かれたらどうするッ!」
「どうして周りの目を気にするの!?裏でコソコソするしか出来ない癖にッ!一番恥ずかしいのは貴女でしょ!?」
「な、何だと貴様ッ!!!」
亮介と繋いでいた手を離し、麻衣の元へと向かう。
そして以前のように彼女の胸ぐらを掴んだ。
「……ぐく……!」
「あの時は母さんに止められたが………今日は許さない。此処を離れる前に痛い目を見せてやる!!」
──麻衣の頬を引っ叩こうと腕を大きく上げた。
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「大好きな人を馬鹿にしないでよぉッッ!!!」
………麻衣の叫び声が五臓六腑に染み渡る。涙が出るほど嬉しかった。動けないほどボロボロになって、麻衣を助ける気力もなくなって……それでも、こんなに愛してくれてる。
そんな麻衣を置いて……俺は逃げるのか?
【どうなんだ?】
ノーだ、ダメだ、あり得ない。
確かに『俺』の言う通り、自分の為にだったら二度と立ち上がれない……だけど、麻衣の為なら何度だって頑張れる筈だ。
【じゃあ後は任せたぞ】
………………………
………………………
………………………
………………………わかった。
そして、お前の正体はきっと、俺に残された僅かな理性だったんだろうな。まだ生き残ってくれてたのか。
………………………
………………………
………………………
………………………よし、最後にもう一度だ。
いやいや、麻衣の為なら更に何度でも追加でオーケーだ、最後なんて言葉は決して使わない。
麻衣に恩を返そう。
そう思えば立ち上がれる筈だ。
麻衣の事を心から愛してる。
それに冷静になって考えろ。
あんな女の何処が怖いんだ……ただの狂人だろ?
………
……そうだ。
今ならハッキリとわかる。
麻衣の叫びは『俺』を取り戻してくれた。
愛の力を馬鹿にしたばかりなのに……申し訳ないが訂正しよう。俺の為に必死になって闘う麻衣が、俺に希望と勇気を与えてくれた。
俺を愛してくれる人が目の前にいる。
その女性はこんなにも愛してくれている。
それに麻衣だけじゃなく、母さんも、碓井くんも、麻衣の両親も──
孝太郎伯父さんに………そして──
──高宮院長さん。
麻衣を暴力から守ってくれた姫川先輩。
冷たく突き放しても和解しようとした渚沙。
……これだけ大勢の人に守られてるのに、孤独だの、立ち上がれないだの、誰も信用できないだの、よく言えたモノだ。
それは本当に孤独に苦しむ人達へ対する冒涜だ。
考えろ。
そして、思い出せ。
……妄想なんだよ、姉が恐ろしく見えるのは全て。
……そして幻覚に振り回されて来た。
本当に胸に刻むべき姿と言葉は?
大好きな人を馬鹿にしないで……そう言ってくれた女性だけを見れば良いじゃないか。
何回でもリピートできる……本当に嬉しかった。
なのによ、山本亮介……お前は大好きな女の子が殴られるのを黙って見てるなよ。
そしてネエサン……いや、楓姉さん。
俺が無抵抗なのを良い事に、これまで散々好き放題やりやがって……
だけど、俺はもうアンタから絶対に逃げないぞ。
立ち向かう勇気……そして、誰にも負けない強い覚悟を、麻衣に見せて貰ったんだからな。
大丈夫、俺は至って冷静だ。ちゃんと自分の意志で楓姉さんと正面から向き合える。足元に居るなんて有り得ない。
第一、麻衣のピンチで立ち上がれないのなんて、そんなのは俺自身が絶対に許さないッッ!!
「………あ……く……」
意識が覚醒した俺は直ぐさま二人の元へ向かう。
今まさに麻衣を殴ろうとしている瞬間……楓姉さんの振り上げたその手を、俺は掴んだ。
──麻衣に、これ以上格好悪い姿は見せれない。
8000文字近くあるので長かったと思います。
でも途中で切ってしまうと、とんでもない状況のまま終わるので2話分を頑張って書きました。
明日は19時に投稿予定です。
最後まで宜しくお願いします。
※こんな簡単に病気は克服出来ないという感想が何件かあったで……これからの投稿をお待ち下さい。
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これからも宜しくお願いします!!