7話 あれから半年……
沢山の感想ありがとうございます。
中には読んでて本当に嬉しい感想がありました。
素敵なレビューを二つも頂き……感謝です。
あんなに嬉しい感想貰って良いのかな……?
後編終了後、最終話の感想に対して一人一人へ返信させて頂きたいと思っております。
今は仕事のとき以外は執筆し、作品投稿に集中させて頂きたいと思っております。
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〜高宮院長視点〜
──寝る前には半年前の出来事を思い出す。
そして、酷く後悔する。
亮介君の姉を病棟に侵入させてしまい、大事な患者の容体を悪化させたのだ。
謝って済む問題ではない。
あの日以降、私は亮介君の『敵』になった。
彼が心を開いてくれた数日後に姉がやって来たのもタイミング的に最悪となる……きっと亮介君からすれば、私が姉に報告したと思えてしまった事だろう。
こうなると信頼を取り戻す事は困難極める。
私は急いで彼をもっと大きく、設備のしっかりした病院へと移し替えた。
そこは大人数が勤めており警護も配置されている。守衛所もある為、姉は玄関にすら辿り着けない筈だ。
──彼が病院を去る最後の日に別れの挨拶をする。
「それでは……さよならだ、亮介くん」
「……………」
やはり返事はなかった。
もう完全に姉を招き入れた敵なのだから、私は亮介君に相当恨まれている。
だけど麻衣さんやお母さんに支えられ、早く元気になって欲しい。
症状が悪化する原因となった私は、二度と君の前に姿を表す訳にいかないが……亮介君の回復を心から祈っている。
(私では君を救えなかった……だがもう少しで……いや言い訳はよそう……彼女の侵入を含めて私の医療ミスなのだから)
私はあの日の出来事を生涯悔やみ続け──
「……………ありがとう」
「………え?」
去り際、あの日から一度も話をしてくれなかった亮介君が、私に対してお礼の言葉を口にした。
彼に寄り添っていた母親も、そしてもちろん私も驚いた表情で彼を見た。
「…………」
しかし、表情は何も変わっていなかった。
むしろ私にマジマジと見られて不機嫌になってる。私はこれ以上刺激しないように慌てて彼から目線を逸らす。
きっと意識せずに言ったんだろう。
『ありがとう』と発したのは、症状が良くなったという訳ではないかも知れない。
しかし、その奇跡がとても嬉しかった。
落ち込んでいる私を見て、彼の奥底に残っている本当の亮介君が励ましの声を掛けてくれた……?
もし、本当にそうなのだとすれば、本来の亮介君はどれだけ優しい子なのだろうか?
母親もそんな彼に同じ事を思ったらしく、目から大粒の涙を流していた。
「救う立場なのに、患者に救われたな」
やっぱりどこまでも心優しい少年だ。
そんな彼をこの手で救えなかったのは……一生の悔いになるだろう。せっかく励まして貰ったのに済まない。
────────
あの日以来、お金をかけて警備を万全にしている。
病棟へ向かうフロアにドアを設置し、受付が開けないと入れなくした。
既に入院している患者の家族からは面倒臭いと不評だったが、事情を話すと納得してくれた。
それでも、もっと早く動くべきだったという後悔は今でも拭えない。
「孝太郎にもしこたま怒られてしまった」
しかし、それでも友人関係は続けてくれている。縁を切られても仕方ないと思ったが、その後の対応に誠意を感じてくれたらしい。
私にはそんな資格なんてないのに……凛花さん共々、本当に優しい家系なのだな。
「──次の方どうぞ」
「……失礼します」
精神科であるこの病院には、こうして1日に何人も悩みを抱えた人達が診断を受けに来る。
もちろん診察の結果、亮介君みたいに入院するケースも有るが、そんなのは極めて稀だ。
──そして、たった今患者として訪れたのは女性。
半年前まで高校に通っていたらしいが、それを中退してしまうほど精神的に追い詰められていた。今はこうして頻繁にカウンセリングを受けに来ている。
「……では、最近の症状はどうでしょう?まだ良くなりませんか?」
「……はい、まだ彼の幻覚を見るんです……」
「……そうですか」
幻覚を見てるという割にはどこか嬉しそうな少女。
彼女は『桐島文香』さん。
偶然にも亮介君の通う学校の生徒で、さらに恐ろしい事に、亮介君が暴力を振るってしまった人物……病気になった彼が唯一手を上げてしまった女性である。
因みに、彼女が見ている幻覚は亮介君の事だ。
しかし彼女は姉とは違い、亮介君がここに通っていた事実を全く知らない。本当に偶然訪れた病院が此処だったという訳なのだ。
その事実を知った時、私は恐怖に心底震えた。
彼女は亮介君と入れ替わるような形でこの場所に通い出した……もう少し転院が遅れていたらと思うとやはり戦慄する。
しかも彼女の場合は患者として来ている。
面会者以外は『要注意人物リスト』を見ないので、仮令亮介君が入院中でも、私は『患者』として間違いなく彼女を受け入れた。
そうなれば出会う可能性が高かった。
本当に恐ろしい……彼に待ち受ける運命とは、どこまで過酷なのだろうか?
あの日、姉を避けた所で今度は別の刺客が待ち受けて居たのだから──
「……先生……私は統合失調症だと思うんですよ」
「………もう少し念入りに調べてみましょう。統合失調症とは判断の難しい病気なんです」
「で、でも……幻覚を見ているんですよ!?毎日毎日……それに、偶に変な事を口走りますし──なので、きっと、彼と同じ統合失調症なんです……!!私は今、彼と同じ苦しみを味わってるんです……!!ああ、亮介はこんなに苦しかったんだ……もう一緒になっちゃったよ……えへへ」
「……確かに、普通の状態ではないですね」
精神的に病んでいるのは確かだ。
しかし、今のやり取りだけで統合失調症ではないと確信が持てる。
彼女は毎日幻覚を見ていると話していたが……まず、統合失調症の患者は幻覚を幻覚だとは思わない。
彼ら患者にとって幻覚が現実になるのだ。
例えば雲の上に誰かが立っていた……普通の人間はそれを見て『見間違い』或いは桐島さんの様に『幻覚』と思うだろう。
しかし、亮介君はそうはならなかった。
嫌われてしまう2日前に『雲の上に姉がいる』と話してくれた事がある。
どうして雲の上に居るのか分からない様子だったが、雲の上に人間が立っている事象自体には、一切の疑問を抱いてなかった。
つまり、彼の中には妄想や幻覚なんて存在しない。
……非現実的な妄想や幻覚でも、現実の出来事として脳内変換されてしまうのだ。
更に桐島さんは、自分が変な事を口走っている、と話していたが……亮介君にはその自覚もない。
彼の症状が一番重かったのが、姉の侵入を許してしまった日の夜。その時にみせた亮介君の奇行は凄まじいモノだった。
自動販売機で小銭の出し入れを『50回』以上も繰り返し、病院の廊下を『全力で』走り周っていた。
きっと亮介君にはそれがおかしな行動だという感覚は無いだろう。もしかすると頭の中では全く違う行動を取っていた可能性だって大いにある。
統合失調症とは本当に恐ろしい病気なのだ。
恐らく、桐島さんは被害妄想に近い症状だろう。治療は長引いているが、重い症状になる可能性は極めて低い──何故なら現実と妄想、正常と異常がハッキリしている。
ただ、万全な状態ではないのでケアは必要だ。彼女が亮介君を苦しめたとはいえ、そこに手を抜く訳にはいかない。
……だが、それでも──
「一緒の苦しみ……こんなに苦しかったんだ」
(断じて同じではない……彼の苦しみ、悔しさ、怒り、悲しみ、痛み、絶望は……決してこんなモノではない……!)
患者に対して感情は表に出さないが、それでも、心の中でそう思わずに居られなかった。
それに統合失調症だと一方的に思い込み、それで喜んでいる姿も不快に思ってしまう。
彼は今もその病気と向き合い、苦しみながら闘っているのだから──
「──では失礼します」
「お大事に……」
診察が終わり、薬を持った桐島さんが去って行く。
彼女は薬が切れた頃にまた訪れるだろう。
「……もうそろそろか」
しかし最近は亮介君に関する良いニュースが飛び込んで来た。有難い事に孝太郎と凛花さんは、亮介君に関する情報を頻繁に伝えてくれる。
その中でも先日、凛花さんが嬉しそうにある事を教えてくれた。
『亮介が4月から学校に行く事になったんです』
それは本当に嬉しいニュースだった。
リモートで授業は受けており、テストの結果も悪くないので進級には問題なかった。
なので卒業までリモートでの授業を続けると思っていたのだが……
なんと、亮介君の方から学校に行きたいと打診があったみたいなのだっ!周りからではなく、亮介君が自ら一歩を踏み出す決断をしたというではないかっ!
それが本当に嬉しくて堪らなかった。
一時期はもうダメかも知れないと思った。
大きな病院に移った後も、何も映っていないテレビをずっと眺めていたり、居る筈のない姉やクラスメイトの幻覚に悩まされてたり、誰も居ない空間に向かって話し掛けたりすると凛花さんに聞いていたからだ。
しかし、それも周囲の献身的な介護で日に日に良くなり、今では看護師とも会話が出来るまで回復している。
亮介君は……現実の世界に戻って来れたのだ。
もちろん完全という訳ではない……今でも時折、辛そうにしているらしいが、悪い時に比べると飛躍的に前進している。
学校に通うと自分から言い出したのがその証拠。
そうなったのは、もちろん周りもそうだが、一番は亮介君の絶対に負けるもんかという心の強さ……そのお陰だと私は思っている。
「それに、安心材料はまだまだある」
亮介君は碓井君と同じ高校に転校した。
私の娘も通っている高校だから詳しく知ってるが、転校先の校長先生はとても寛大で優しい方だ。
思った通り快く亮介君たちを受け入れてくれた。
このまま通えば麻衣さんと碓井君の手助けと、学校からの積極的なバックアップも受けられるだろう。
「これから亮介君にどんな幸せが待っているのか……今から楽しみで仕方がない」
──それにしても、別の病院に移った患者をここまで気に掛けるなんて……私も医者としてまだまだ未熟者だ。
後編……最後までお付き合い下さい。
次回は妹サイド&主人公サイドの話です。
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