4話 【イモウト】
励ましの感想ありがとうございます!
でも今の仕事は全然キツくないので大丈夫ですよ!
心配掛けてごめんなさい……!!
夜、喉が渇いた気がして目が覚めた。
エアコンはついていたんだけど、夏場だから、それでも喉が乾くんだと思う。
俺は病室を出て自動販売機へ向かった。
廊下はとても薄暗くてお化けが出そうな雰囲気だが、それでも何事もなく目的地に到着する。
俺は自動販売機に500円玉を入れた。
しかし小銭を入れた所で実はそれほど喉が渇いていないことに気が付いた。喉が渇いていたのは……どうやら気の所為だったようだ。
やむを得ず返却レバーを押してお金を回収する。
俺はこの作業を5回ほど繰り返してから部屋に戻る事にした。
──俺は薄暗い廊下を歩いている。
今日はとても疲れた。部屋に戻ってゆっくりしよう。いや眠った方がイイのか……でも眠れないし、どうしようか?
──俺は薄暗い廊下を歩いている。
俺は何を信じればイイのか……麻衣と、母さんと、碓井くんと、麻衣のおじさんにおばさん……孝太郎伯父さんはどうだろう?少なくとも高宮先生よりは信用が出来る。
あの人を信用し、復讐の話をした直後にネエサンが来たんだから裏切りは間違いないと思う。明日からは要らんこと喋らない様に気を付けないと。
──俺は自分の部屋を通り過ぎた。
それにしても廊下は少し暑いなぁ……廊下に設置されている冷房は効き目が弱い気がする。まぁ広範囲を対象にしてるから仕方ない。
──俺は薄暗い廊下をゆっくり走っている。
この病院……こんなに怖かったっけ?寒気がして来た……いや蒸し暑いんだけど寒い……体温さえも良く分からない。
──俺は薄暗い廊下をゆっくり走っている。
さっきから看護師さんが後ろから付いてくる。お辞儀をすると微笑みながら返してくれた。良い人だ……でも高宮先生の件もあるし、やっぱり疑っておこう。
──俺は自分の部屋を通り過ぎた。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………行きたい所に辿り着けない。
──俺は来た道を引き返す。
そもそも何処へ行きたいのかも解らない……だったら諦めて部屋に戻るか。行く所がない時は寝床へ向かうのが丁度いい。
──俺は自分の部屋の前で立ち止まる。
「…………」
俺は真っ直ぐ歩いて生きて来たつもりだった。
それなのに、いつも何処かに躓いてしまう。
俺の目の前に平坦な道なんて存在しない。
他の皆んなが羨ましい。
大した挫折でもないのに辛いと容易くいじけられ、苦しい時には逃げ道がちゃんと用意されている。
だけど俺にはそれがない。
挫けると背後から無慈悲に蹴られて、逃げ道があっても今日みたいに直ぐ没収されてしまう。辛いキツイ苦しい……でも、俺に与えられた運命なら我慢するしかないんだ。
──走ったりしたから喉が渇いた。
俺は自販機でジュースを買い、こんな目に遭わせている神を恨みながら自分の部屋に戻る。
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【おかエリ……お兄ちゃん】
「……………」
すると、ベッドの上に妹が座っていた。
いや不意打ちにも程がある……ネエサンみたいに絡んで来ないから、油断していたぞ、渚沙の癖にやるじゃないか。
……う〜ん。
……それにしても妹への復讐はどうしようか?
妹は大して強くない。ネエサンみたいに大掛かりじゃなくても良さそうだ……簡単に絶望させられる。
なのに俺はその方法が中々思いつかない。
何故なら渚沙があまり協力的じゃないから、復讐心が湧き上がって来ない。
とにかく、渚沙は俺から憎まれるのが下手過ぎる。
盛大に復讐して欲しかったら、もっともっと俺に絡んで来ないと……あ、でも渚沙までネエサンみたいな事をしていたら、きっと今以上に眠れない夜を過ごしていたと思う。
そう考えるとありがとう……でも絶対に許さない。
俺は妹の側へゆっくりと近付いた。
「なんのようだ?」
【……ヒドイよ】
「何がだ?」
酷いのはお前らだろ。
俺を散々苦しめやがって……ふざけんな。
しかし、怒った感じで近付いても渚沙は微動だにせず、泣きそうな顔でコチラを見ている。
【あんな手紙をカクなんて……酷いヨォ……】
「手紙?靴に入れたヤツか?」
【ソウだよ】
「確か、一言だけ『ムリ』と書いてたっけ?あのやり取りの何が酷いんだよ……訳が分からない」
【ホンとうニ?】
「はぁ?」
【本当ニ、お兄チャンが書いたのは『ムリ』だったの?もっとチガウ言葉じゃなかった?──例えば➖➖みたいナ言葉じゃなかっタ?】
「なんだって?」
良く聞こえなかった……妹には俺の書いた『ムリ』という文書が何に見えたんだ?
それとも渚沙へ対する返事に……本当に違う文字を書いていたのか?
それから妹の返事はどうだったんだ?
本当に『今日は話せませんか?』『本日はどうでしょう?』で終わって居たのだろうか?
……もっと何か書いてあった様な気がする。
【ダメだよお兄チャン思い出しテ】
そうだ思い出せ……
でも何故か思い出したらダメな気がする……だけど思い出さないと……だけど──ッ!!
──俺は苦しんで居た。
妹はそんな俺を悲しそうに見ている。
【お兄ちゃん……優しい心を忘れないで】
「そんな目で見るなっ!俺がお前を傷付けたみたいじゃないかよっ!」
【お兄ちゃん……信じてくれてる人を忘れないで】
「忘れてないっ!忘れてないっ!でもどうすればイイのか分からないんだよっ!」
もう布団に潜り込んで逃げたい……ッ!
だけどベッドには渚沙が座っている……ッ!
──俺はどうにも考えが思い浮かばず、仕方なくその場にしゃがみ込んだ。
「亮介」
そんな時、暖かいモノが背中を抱き締めてくれた……俺は振り返り、その温もりの正体を確かめる。
「……亮介……遅くなってごめんね?」
俺を背中から抱き締めて居たのは麻衣だった。麻衣を見た途端、締め付けられて苦しかった胸の痛みが、急激に緩み始める。
「本当に?」
今日の面会時間は終わっているのに……どうして?
いやそんな合理的な考えはどうでもいい……麻衣が側に居てくれる……それだけで良いじゃないか。
「………麻衣?」
「……うん……心配で心配で仕方なかったから来ちゃったよ〜……亮介ぇ……一人で苦しまないでぇ……世界一大事で、世界一大好きな亮介……私がいつまでも側に居るよ?」
さっきの渚沙みたいに泣きそうな顔をしている。
俺を心から心配してくれている……暖かさに溢れた優しい顔だ……俺の方こそ世界で一番大事で大好きな女の子。
ああ、本当に……俺の中の何かが洗われてゆく。
麻衣に後ろから支えられて、頭の中のモヤが一気に晴れて行くのが分かる。今の言葉でどれだけ救われたことか。
「……ああ……苦しかった……なぁ麻衣……こんなこと頼むのも変だけど……今日だけはこうして一緒に寝てくれないか?」
「抱き締めたまま?」
「……うん」
「ふふ……いいよ〜」
そう言って麻衣は一緒にベッドの中へ入り、俺と寄り添って眠ってくれた。
こんな恥ずかしい願いでも麻衣は優しく受け入れてくれる。いつもそうだ……いつだって麻衣は優しい。
そして気が付けば渚沙も居なくなっていた。
というより、ベッドの上には渚沙が存在していた形跡すらも残っていない──だけど気にしないで良いか。
こうして麻衣が一緒に寝てくれる……もうこれだけで充分だ。
これが本当に麻衣なのか……
それとも夢を見ているのか……
どちらにせよ、俺の心に安らぎを与えてくれているのは確かなんだ。
「……麻衣」
「なぁに?」
「……いつも一緒に居てくれてありがとな」
「……どういたしまして……えへへ」
俺は麻衣の胸に身体を預けた。
そしてゆっくりと目を閉じて……麻衣に抱き締められながら深い眠りに堕ちてゆく。
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〜麻衣視点〜
私は胸の中で眠っている亮介の頭を優しく撫でた。
急いで駆け付けて来て本当に良かったよ……こんなに弱ってるなんて思わなかった。
「でもまさか楓さんが来るなんて」
楓さんが傷付かないように、亮介が病気になった原因を話さなかった事を凛花おばさんは凄く後悔している。
楓さんもやっぱり凛花さんにとっては大事な娘だから……出来るだけ傷付かないように情報を伏せたのが失敗だったと話していた。
その代わり、楓さんにバレないように病院に関する物は常に持ち歩いてたし、尾行も許さなかった……亮介のお父さんにも気を付けるように言ってたらしい。
だけど、今回は亮介のお父さんが仕事で忙しく、片付け忘れていた名刺を見られたみたい……本当に不用心だと思うよ。
「多分、今は覚悟を決めて楓さんに全てを打ち明けている。亮介が病気になった原因は楓さんにあるんだって事を」
楓さんがどんな反応を見せるのか私には解らない。
ただ、楓さんには子供の頃から沢山虐められてきたけど……亮介に近付きさえしなければ、もうそれで良い。
「どうして亮介ばかりが辛い思いをしなくちゃいけないの……なんにも悪い事してないのに……冤罪だって女の人を助けただけなのに……」
あまりに理不尽だよ。
あの時、亮介は楓さんに貰ったキーホルダーを探して裏路地に入った。失くすと姉さんが悲しむからって……その日、行動した道を辿って探し続けていた。
なのに楓さんが誰より亮介を傷付けた……ッッ!!
やっぱり許せないよ、楓さん。
絶対に亮介には近付けさせない、そして、亮介と一緒に幸せな日々を過ごす……言い方は悪いけど、これが私に出来る精一杯の復讐だ。
「亮介……」
私が強く抱き寄せると亮介は嬉しそうにする。
このまま私も眠ってしまおう……目覚めても亮介と一番に会えるんだぁ〜……えへへ……亮介も喜んでくれると嬉しいなぁ。
──私も亮介と同じようにゆっくりと目を瞑った。
次話は学校+生徒会長の話です。
次回も21時以降の投稿になると思います。
妹と手紙の真相も終盤で触れます。
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