2話 狂気の足音、しつこい女
沢山の感想、誤字報告をありがとうございます。
執筆の糧となっております。
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〜凛花視点〜
「お、お願いしますっ!どうしても亮介……山本くんに会いたいんです!」
「………そう毎日来られても困るわ」
亮介が入院して1ヶ月が経過した。
本当は仕事なんか辞めて付き添いたいけど、先の事を考えるとそれが中々難しいわ。
だけど最近は調子も良く、私や麻衣ちゃん達が居なくても普通に話せるようになったみたいね。
……それでも明るかった頃の亮介には程遠い。
本当の亮介はもっともっと元気で良く喋る子供よ。
そうよ、思い返せば1年前からおかしかった。
顔や態度は平気そうでも、あの事件からあまり喋らなくなってたじゃない……どうして見た目に騙されて気が付かなかったのよ。
話し掛けるといつも笑顔だったから……でも、母親として失格だわ。あんな状態になるまで異変に気が付かなかったんだもの……
……だけど私は塞ぎ込んだりしない……必ずあの頃の亮介を取り戻してみせるわ。
──だからこんな子に来られると困るのよね。
私の前で頭を下げているのは桐島さん。
彼女に関しては詳しく聞いている……麻衣ちゃんを暴行して亮介の心を壊した人間の一人だ。
悪いけど、和彦さんと楓の次に許せないのが貴女なのよ。麻衣ちゃんに取り入ろうとして、麻衣ちゃんが断ったから暴行ですって?
そんな子と会わせる訳にはいかなかった。
亮介が入院してからは毎日謝りに来てるけど、それでも絶対に心が動かされたりなんかしない。
冷たい女だと思われても良い……この子がしでかした事は決して許されないから。
「麻衣ちゃんに暴力を振るう子と話すことなんて何一つ有りません……家の前から消えなさい」
ごめんなさいね?
私って見た目が幼いから勘違いされ易いけど、許せない人は絶対に許さないのよ?
……だけど、私がキツめに忠告しても彼女は動こうとしない。本当に諦めの悪い子だわ。
「ぼ、暴力なんて振るってません!ただ突き飛ばしただけですっ!」
「ただ突き飛ばしただけですって!?当たりどころが悪ければ大怪我なのよ!!そんなふざけた話をする為に来たわけ!?」
「あ……その……ごめんなさい……」
「私に謝る必要はないわ。それにどれだけ印象良く見せようとも絆されないわ──私は亮介の母親なのよ?子を守る母親なの!!……良い?もう金輪際関わらないでっ!亮介にも!麻衣ちゃんにも!」
「……………はい……今日は帰ります……」
私の啖呵で項垂れながらトボトボと帰って行く。
同じ年頃の娘が居る身として、悲観に暮れた後ろ姿を見るのは心苦しい……でも後悔の類いは微もない。
悪いんだけど桐島さんに同情の余地はないわね。
『桐島を思いっきり蹴ったんだ』
「…………ッ」
本当に痛かったでしょうね。
あの姿を見た限り亮介に本気で好意が有るみたい。好きな男性に暴力を振るわれるのは辛かったでしょうに。母親としても手を出してしまった事は申し訳ないと思うわ。
……
……
だけどね……亮介はもっと痛かったのよ?
ウチの可愛い息子を大勢で追い詰めて……挙げ句の果てに麻衣さんまで……とてもじゃないけど許せない……絶対に……ぐ……くぅ……あぁ……泣くなっ!強い母親じゃないと亮介は守れない。
私は涙を拭って病院へ向かった。
もちろん尾行には充分に注意を払っている。何度か後をつけて来た楓と桐島さんも振り切って来たわ。
今日も桐島さんが付いて来たけど途中で撒いた。
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〜亮介視点〜
──俺は窓の外を見ている。
他にする事がないから仕方なくそうしてる。ゲームもする気が起きない。無理にプレイしようとしても直ぐに画面を消してしまう。
──俺は窓の外を見ている。
鳥が飛んでいた、とても羨ましいと思う。何も考えずに空を飛んでそう。だけど鳥に生まれ変わりたいとは思わない。チキンとして食われる運命なのだから。
──俺は窓の外を見ている。
暇つぶしにナースコールを押したら怒られてしまったけど、どうしようもなく暇だったから押したと正直に言ったら話し相手になってくれた……でも患者が待ってると直ぐに帰った。
──俺は窓の外を見ている。
──俺は窓の外を見ている。
──俺は窓の外を見ている。
そうなってくるとする事がない。
俺の人生はそもそも無駄が多過ぎる。
だけどする事がないのは悪くない。
誰かを憎まなくても済む。
視線を感じなくて済む。
学校に行かなくても済む。
姉を見なくて済む。
父親の話を聞かなくて済む。
桐島と会わなくて済む。
クラスメイトに殺意を抱かなくて済む。
俺はずっと空を眺めていた。
──すると突然ドアが開かれる。
せっかく空を見てたのに誰だろう。
「亮介ぇ〜……今日は昼上がりして来たよ〜」
「あっ!母さん!」
やって来たのは母さんだった。
一人で暇してる所だったんだ。
母さんが来てくれて嬉しい。
「お母さんね〜?さっきコンビニで高校生くらいの子にナンパされちゃった〜……そこのお嬢さんだってぇ!……私もう直ぐ40歳ですって言ったら驚いて逃げて行ったわ!」
「……それは仕方ないよ。母さん見た目が凄く若くて綺麗だし……あ、あと胸も大きいし」
「ふふ……セクハラって言葉知ってる?」
悪戯心でふざけた事を言ったら、母さんがジト目で睨んで来た……だけど怒った様子はない。
俺もいつの間にか冗談を言えるようになったか……こんな風に誰かにふざけた事を言えたのは久しぶりだ。
それから1時間後、今度は麻衣がおじさんとおばさんと3人で遊びに来てくれた。
でも何故か孝太郎伯父さんも一緒だったから4人だ。
孝太郎伯父さん……そんなに接点はなかったのに、入院してからは頻繁に顔を見せに来てくれる様になった……割と良い人かも。
伯父さんとは学校を潰す同盟を組んでるけど……誰にも言ってないよね?
──俺の周りは今日も賑やかだ。
涙が出そうなほど嬉しい。
もう頑張るのには本当に疲れたから……しばらくはこの病院で一休みしよう。
──だけど夕方になれば皆んなが帰って行く。
この病院には面会が2時間までという決められたルールがある。俺だけを特別扱いする訳にはいかないそうだ。
「…………」
静かになった病室に自分だけが取り残された。
「…………」
俺はもう一度窓の外に目を向けた。
「…………あ」
良く見ると雲の上に姉さんが立っていた。
「あんな高いところで何をやってんだ?」
相変わらず頭のおかしい人だ。
だけど何一つ恐れることはない……あんな高い所からは降りて来れないだろう。
前までは足元に居たのに今はあんなにも遠い。
そのうち見えない所まで離れてくれる筈だ。
そうすれば何かが変わりそうな気がする。
姉さんの存在が俺の中から完全に消えた時……俺はようやく一歩前に進める気がする。
最近の俺は何も考えずにボーッとしてる事が多い。
誰かを恨んだり、憎んだり、悪夢に魘される事なく窓の外を安心して眺めて居られるんだ。
それがどれだけ有り難い事か。
もうずっと頭の中がぐちゃぐちゃだったから……此処なら大嫌い人とは会わないし、安心して過ごせる。
「……………姉さんが目障りだな」
俺はベッドから立ち上がりカーテンを閉める。
「さよなら……昔は綺麗で優しかった姉さん」
妹はちゃんと学校に行ってるのだろうか?また引き篭もってお母さんを困らせてるんじゃないだろうな?
「いや余計なこと考えるのはやめよう」
俺は瞼を閉じ……夕飯まで仮眠を取る事にした。
(良い夢が見れると良いなぁ)
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〜新米看護師視点〜
「高宮さーん!娘さん来てますよー!」
「おっ!椎名か!」
院長の娘さんが夕飯を届けに来てくれたみたい。院長は笑顔で席を立ち上がり、受付で待つ娘さんの元へと向かった。
──院長の娘は高校三年生。
小柄で、可愛くて、小動物的な可愛さ持っている。引っ込み思案だけど学校では生徒会長を務めているらしい。こうして偶に夕飯の弁当を持って訪れる。
「……娘が弁当を忘れて来たみたいでね……せっかくだし娘と一緒に外で食べてくるよ。直ぐに帰って来るけど留守番を頼むぞ?」
「は、はい!」
……ドジっ子属性まであるとは侮れないっ!
私は笑いながら話す院長と、ペコペコと何度も頭を下げて来る娘さんを見送った。
「よしっ!仕事モード仕事モード!」
それにしても初めての一人勤務はドキドキする。
気が緩るませちゃダメっ!引き締めないとっ!
………
………
「……あの……山本亮介に会いたんですけど」
「あ、はい!」
それから十分後──1人の年若い女性がやってきた。
若いというか多分だけど高校生くらい。
大人びた風貌から気品が漂って見える。
山本亮介さんは……確かさっきまで結構な人数の御見舞いが来ていた子だ。
人数が多かったけど騒がないから苦情もないし、何より高宮院長が目を掛けている男の子だから、配属したばかりの私でも印象強く覚えてる……何よりイケメンだし。
「う〜ん……面会ですか」
「ダメですか?……私に会えなくて寂しがってると思うんですが……」
面会には院長の許可が居るんだけど、受付の時間はもう直ぐ終わってしまう。
院長が帰って来るのを待っていたら会えないよね。
「……お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「山本楓と申します」
「山本、山本………あ、もしかして山本亮介くんのお姉さんか妹さんですか?」
「はい、姉です」
そうだったんだっ!
そう言えば顔立ちがそっくり!
だったら身元はしっかりしている。
それに、さっきまで楽しそうに話していたから重篤者ではないし……だったら通しても大丈夫そうね!──うん、彼を特別気に掛けている院長ならきっと通すと思う!
……いや、待ってよ?
──私は悪寒を感じ、引き出しに入れてあったリストを取り出した。
そこには患者について色々書いてあるんだけど……え、うわ、やばっ!
要注意人物に『山本楓』と書かれていた。
母親が見舞いに来てたから、家族間での問題はないと思ったのに……配属早々とんでもないミスをしてしまう所だった。
このリストに記載されている人物を通してしまったら間違いなく首が飛んでしまう。
「すいません……もう受付は終了してまーす」
「…………そうでしたか」
──そう言って楓は潔く帰って行く。
楓の威圧感に怯えていた受付嬢だったが、何事もなく話が終わり一安心していた。
額からは一粒の汗がダランと流れ落ちる。
「はぁ……飲み物取ってこよう」
緊張、真夏の暑さで喉の渇いた受付嬢は冷蔵庫に入れてある飲み物を取りに持ち場を離れる。
そして30秒も経たずに受付に戻るのであった。
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「……どいつもこいつも……邪魔をする」
受付嬢が離れたタイミングを見計らい、楓は病棟に侵入した。
それほど大きくないこの病院は従業員もそれほど多くはない。沢山の患者が居る場合なら新しく看護師を雇うが、現在の入院患者は亮介を含めて数人程だ。
これならば少人数でも充分やっていける。
受付の新米看護師以外は、他の患者の世話をしている最中なので病棟の廊下は歩いておらず、楓に気付く者なんて誰も居ない。なので受付さえ通過してしまえば……後はどうにでもなってしまう。
「…………ここだな」
そして楓は目当てのネームプレートを見付ける。
まさか病棟に不法侵入してくる人間が居るんなんて誰も考えない……それ故に、ネームプレートには『山本亮介』と隠す事なく書かれていた。
──そして楓は亮介が待つ病室の扉を開ける。
明日はお休みです。
めちゃくちゃ良い所でごめんなさい……
明後日から三日間投稿します。
次の三日間では楓との対面、そして学校への復讐までやりますので宜しくお願いします。
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『普通の勇者とハーレム勇者』
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