【コタエアワセ】
14話 【父と姉の謝罪】における姉サイドの話です。
ちょっと怖い話かも知れません。
エピローグだけで60件以上の感想を頂きました!
ありがとうございます!
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
〜楓視点〜
──最近、最愛の弟の様子がどうもおかしい。
私が謝った日から、妙な反応を見せるようになった。
許して貰った喜びで最初は気が付かなかったが、どうも会話が噛み合わない事がある。
私は、亮介に謝った日の出来事を思い返した。
──────────
──私は涙子を悪者に仕立て上げた後、亮介に対する気持ちを力強くぶつけた。
「──私の行為は全てお前への愛の鞭だったんだっ!涙子とは違うッ!それは分かって欲しいっ!」
この言葉を聞いた直後、亮介は見た事もないような不思議な表情を見せた。
不思議と表現したのは言葉通りの意味だ。
虚ろなのか、怒ってるのか、悲しんでるのか……とにかく何を考えてるのか読み取れない表情になった。
そして次にとんでもない事を言い出した。
「じゃあ今から自分の右手小指を折ってよ……出来るでしょ?」
急に恐ろしい事を言い出したから心底驚いた。
私はもちろん断った……亮介のことは愛しているが、そんな痛い事は絶対に出来ない。
もしかして、涙子や義妹を悪く言ったから怒ってるんだろうか?とりあえず謝っておくか……ここで亮介の好感度を下げたくはない。
「亮介……その……すまなかった……」
そう思い躊躇なく頭を下げる。
陰口を叩いて気を悪くさせてしまったんだな。
でも亮介は何も言って来ない……ただ、自分の足元を見ながらブツブツと独り言を呟いていた……また、時折だが笑みも浮かべている。
しかし妙だ……私は正面に立って居るのに、まるで私が亮介の足元に居るかのようだ。
直前まで話してたのに……私はそこに居ないぞ?
第一そんなところに居たとすれば、それはもう土下座じゃないか。
私がする訳がない。
でも亮介は足元を見ながら話をしている。
小声で上手く聞き取れないからもどかしい。
──だが唐突に顔を上げ、こちらの方を向いて来た。
「……じゃあ姉さんを信じようかな?」
「え……急にどうしたのだ!?」
「うん、だって凄く痛そうだし、俺の為にそこまでしてくれたのが嬉しかったんだよ」
──痛そう?なんの事かさっぱりだが、許して貰えるなら問題ない。
私は涙子や渚沙より更に上のステージに登ったぞ!
「……亮介ッ!!……本当にありがとう!!嬉しいッ!!またこれまでみたいにずっと一緒に居ようっ!」
嬉しさのあまり抱き着こうとしてしまったが、手で止められる。私が不満そうな顔をするも亮介は無視して話を続けた。
「だけどお願いがある」
「何でも言ってくれ!手始めにお小遣いを渡そうか?私の貯金を全部くれてやるっ!」
「……違うよ」
「じゃあ……買って欲しい物があるとか?」
「違うよ。一旦、金から離れて?」
ほ、骨……?
いや金と言ったんだな……酷い聞き間違いだ。
だけど亮介のお願いか……それだけは本人に聞いてみるのが一番だろう。
「じゃあお願いとは何なのだ?」
「──急に仲直りしたら周りが変に思うだろ?」
「私は気にしないぞ?」
そう言うと亮介は不機嫌な表情になった。
「俺が気にする……だから前みたいに話したりするのは二人っきりの時だけにして欲しい」
「……せ、せっかく仲直りしたのに」
「それが嫌なら許すのも無しだ」
「し、しかし──」
「ああもうしつけーなっ!俺の言う通りにしろよっ!?昔みたいに仲良くなりたいんだろっ!!だったら俺が良いって言うまで我慢しろよっ!」
「………あ、わ、わかった」
ま、まずい……大きな声で怒鳴られてしまった。
幾らなんでも調子に乗り過ぎた……これ以上怒らせるのは非常にマズい。
だけど急に怒鳴り声を上げなくても良いのに……
私が従うと亮介は『うんうん』と頷いた。
「じゃあそういう訳で宜しく」
「ほ、本当に二人っきりの時は話し掛けても良いんだよなっ!?」
「……いいよ」
亮介は笑顔で頷いてくれた。
さっきは怒鳴られて怖かったけど、やっぱり許してくれる話は本当みたいだ……今の亮介は上機嫌に見える。
「亮介……また宜しくな」
「……そうだね」
そして亮介は部屋に戻って行った。
私も直ぐに自分の部屋に戻り、年甲斐もなくベッドの上で飛び跳ねた。こんなに嬉しい事はない……これで昔みたいに仲の良い姉弟に戻れるんだっ!
私は心地よく眠りに付いた。
ぐっすりと朝まで……今の私は幸せ者さ。
──だが次の日から……何故か亮介は、私の右手を頻繁に確認する様になった。
右手というか……右手の小指を見てくる。
だけど私は敢えてこの話題には触れなかった。また小指を折るように言われると恐ろしいからな……亮介は愛しているが、あの時の亮介は忘れられない……怖過ぎる。
だから何も言わなかった。
その後、1日に10分しか話してはいけないルールを設けられた……流石に渋ったが、言う通りにしなければ絶縁すると言われて大人しく従う事にした。
「今日は学校で楽しい事があったんだ……なんだったと思う?」
「……………なに?」
「学校に植えていた花に猫が集まって来てて、思わずたくさん頭を撫でてしまったよ」
「…………良かったね」
こんな風に私は1日の出来事を亮介に話す。
自分に何があったのかを亮介に聞き逃して欲しくないから、分かりやすく丁寧に話をする。
亮介の返事はどこか適当だけど、日にちが経てばいずれ心を開いてくれるさ。
──だが様子のおかしい時が偶にある。
何かの拍子に自分の足元に視線を移し、ブツブツと独り言で話しを始めるのだ。
亮介と話す時、私は必ず目線を合わせて正面に座る。
床に座っているなら同じく床に……ベッドに座った時には椅子を借りている。
絶対に足元に座ったりしない。なのに亮介は、まるで足元に私が居るように話し始める時がある。
指摘して機嫌を悪くさせたくないから黙ってるが、理由がなんなのか一向に分からない。
だから黙って様子を見ている。
でも私は幸せだ。こうしてまた亮介と話せるようになったんだからな。
──今日もぐっすり眠れそうだ。
この話と14話を見比べみると、また違った印象を受けると思います※14話の切り替わるタイミングを分かり易くする為に、演出を追加しました※
14話の姉との会話は、こっちがホンモノで、向こうは妄想と現実が入り混じってます。
会話中に妄想と現実がコロコロと切り替わってます。
他にもそう言う場面が幾つか有ります……分かりますかね?※麻衣たち相手には発症してません※
後編の投稿は少しお待ち下さいっ!
週間総合ランキング1位になりました!!
たくさんの応援ありがとうございました!!
とても良い作品だと思って頂けたなら、ブックマークしてくれたり、ポイントを入れてくれたら凄く嬉しいです。