エピローグ 〜統合失調症〜
急ぎ足の投稿でしたが、このエピソードまで早く読んで欲しかったのでまとめて投稿しました。
主人公への印象が少しでも改善されると嬉しいです。
「と、統合失調症……息子がですか?」
「はい……今から治療が必要です」
「そ、そんな……」
医者が話すには幻覚・妄想・思考障害が見られ『陽性症状』というモノに当て嵌まるらしい。
症状としては、思考や自我に障害が生じ、考えや行動にまとまりがなくなる。
めちゃくちゃな会話や思考になったり、暴力的になったり、行動に一概性がなかったり──今の亮介の状況にピッタリと当て嵌まるのだ。
こんな病気が発症する心当たりなんて………山の様に有った。亮介ほど該当する人物はそうそう居ない。
こんなモノ学生がなって良いような病気では無いと言うのに……
「ああぁぁぁッッ!!!!」
亮介の絶望や苦しみを想像し、凛花は大声で泣き叫んだ。隣に立っている和彦が背中をさすろうとするが、直ぐに払い除けた。亮介がああなった原因は和彦にもある……とてもじゃないがこんな男に触れて欲しくはなかった。
「………すまない」
払い除けられた掌を眺める。
和彦にも流石に自覚が大いにあった。
亮介を追い詰めてしまったのは自分だと。
「……な、治りますよね?」
泣きじゃくる凛花の代わりに和彦が尋ねると、医者は資料を観ながら質問に答えてくれた。
「……家族のサポート、投薬……あとは安静にしてれば回復の見込みがありますよ」
「そ、そうですか」
『家族のサポート』
……その言葉でホッと胸を撫で下ろす和彦──しかし、続けて医者から放たれる言葉を聞いて目を丸くさせた。
「──ただし、山本亮介くんが病気になった原因の人物は近付かないで下さい……心が乱されてしまいます。トラウマを抱えてる場所、物にも出来るだけ近付かせないで下さい」
医者は和彦を見ながらそう言った。
ケアする立場上ある程度の事情は把握している。なので父親には大きな原因があると解り、接触をさせないように強く言い放つ。
和彦は自責の念に苛まれ顔を伏せた。自分では家族として支えられる事が何もないのだから。
「……ぐぅ……ずっ……亮介は?」
凛花は顔を上げ、息子の居場所を尋ねた。
「ベッドで寝てます……顔を見て行きますか?」
「……はい」
凛花は返事をし、医者の後に続いた。
───────────
「──このクソ野郎がッ!!!」
「くっ!!」
待合室で待っていた孝太郎。
彼は一人で戻って来た和彦を見付けると、顔面を思いっきり殴り飛ばした。
「ちょっ、ぼ、暴力はダメですって!」
事情を聞き、急いで病院まで駆け付けて来た碓井が、大人の喧嘩の仲裁に入る。
だが孝太郎の目はそれでも怒りに満ち溢れていた。暴力は止まっても暴言までは止まらない。
そのまま和彦の胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「お前ッ!亮介をあそこまで追い詰めやがって!何度も言ったよな!?信じてあげろって!!」
──そうなのだ。
そこまで関心がないように見えて、この孝太郎も亮介を心配し、裏で動いてくれていたのだ。亮介に言わないのは負担を掛けたくなかったから……事実、孝太郎は和彦を何度も説得してきた。
しかしその度に──
『新聞記者に何がわかるんですか!?』
と突っぱねられて来たのだ。
「亮介の冤罪はようやく晴れたんだ……これからたくさん楽しい事が待っている筈なんだっ!なのに失調症だと!?ふざけんなっ!なんであの子があそこまで苦しまないといけないんだっ!?」
本当にやるせなかった。
亮介を病院に連れて行った事を、妹の凛花に感謝されたが、傍観者を気取り過度な接触を避けて来たのを孝太郎は心から悔やんでいる。
(何が鋼の精神だっ!勝手に決め付けやがって!俺の大馬鹿野郎がッ!!)
自分の見る目の無さを嘆いた。
本当に亮介のことは強い精神力の持ち主だと信じていたから、その偏見の所為で……やはり悔やんでも悔やみきれない。
日頃から交流があればもっと早く異常に気付けた筈なのだ。孝太郎は拳を握り締めて後悔の色を滲ませる。
「……碓井くん……亮介を見に行ってくれ頼む」
「………はい」
──言われるがまま碓井は病室へ向かった。
ずっと甥っ子を守り続けて来たのは、幼馴染と、母親と、親友の彼なのだから──自分ではなく彼が行けばきっと亮介も喜ぶだろうと、寂しいが孝太郎はそれを理解している……だから自分のやるべき事は一つ。
(……亮介を傷付けたツケは払って貰うぞ!!)
孝太郎は碓井を見送った後、項垂れる和彦には目をくれず病院の外へ出る──その手には亮介から貰った資料が握り締められていた。
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──俺は今日から入院する事になった。
今は麻衣が側に居てくれる。
俺がおかしいんだろうか……でも、俺は至って普通だと思うんだが……少し困惑している。
だけど嬉しい出来事が起こった。
「亮介ッ!!」
大好きな母さん。
「大丈夫か?」
大好きな碓井くん。
俺の大好きな人達が駆け付けてくれた。
これで麻衣のお父さんやお母さんが来てくれれば勢揃いだ……嬉しい。
入院した甲斐があったなぁ……なんで入院してるのかは全然わかんないけど。
「……亮介……家を出ようか?」
「……え?」
もしかして渚沙が大学を卒業したら離婚する話だろうか?だとしたら着いて行くって話したのに。
俺がその話をすると、母さんは『違う』と首を小さく横に振った。
「……退院してからよ。孝太郎お兄さんが亮介の暮らせる家を用意してくれるんだって」
「……どうして?」
そんな事をして貰う義理はない。
伯父さんとは今日まであまり話した事なかったし、世話になる訳にはいかないんだよ……それに迷惑を掛けてしまうから。
「……亮介、貴方が良い子だから、お兄さんが助けてくれるのよ?お父さんや楓達と離れて、少しゆっくりしましょう?」
「……良い子?」
違う、俺は良い子じゃない。
母さんは何も知らないんだ……俺が企んでる事を。
復讐の話も、桐島を殴った話も……知れば絶対に軽蔑される……でも──
何故か話してスッキリしたいと思ってしまった。
ここには大切な人しか居ない。麻衣、母さん、碓井くん……皆んなの前でなら本音で話せそうだ。
それに俺も限界なんだと思う。
最近、寝る前には復讐の妄想をする……それも現実で起きてるかのように、リアルな妄想を。
お陰で夜も眠れないんだ……でも……ここで皆んなに話せば少しは楽になれるかな?
だから俺は勇気を振り絞る事にした。
自分の醜悪な部分を大好きな人達に見せるのは心苦しいけど……この三人なら軽蔑せずに話を聞いてくれるかも知れないと思った。
だから俺は──
今まで助けてくれた人達を──
信じる事に決めた──
「……母さん……俺はちっとも良い子じゃないよ」
「ん?どうして?」
俺は息を吸い込んだ……そして、これまで溜め込んでいたモノを放出させる。
「いつも誰かを傷付ける事を考えている。この前なんかカッターを握り締めて刺そうと思ったよ。コーヒーをぶっ掛けようと思った事もあるし、クッキーを投げつけようとも思った。最近は麻衣に手を出した桐島にも暴力を振るったし、姉と父親には復讐しようとまで考えてるんだっ!!全然良い子じゃないよ!!全然全く……だから──」
「「「亮介ッッ!!!」」
三人は同時に声をあげた。
話の途中だったがこれ以上は聞いてられず、凛花は亮介を抱き締めて背中を優しく撫でた。
麻衣も反対側に回り込み、そこから亮介を優しくワレモノを扱うように抱き締める。
碓井は……涙を流して三人を見ていた。
そして親友として、こんなに追い詰められていたのに異変に気付けなかった……自らの無能さを呪った。
「亮介……母さんごめんね?今まで気付いてあげられなくて……ごめんなさい……」
「私もごめん……弱い幼馴染でごめん……私の所為で女の子に暴力を振るわせてごめんっ!」
「……ああ……皆んな……あぁ……ぐ……」
もう、気丈に振る舞うのは無理だった。
泣きながら抱き付く幼馴染と凛花──そして、離れたところで様子を見てる碓井も大粒の涙を流している。
全てを諦めてから半年、一度も流れる事のなかった涙が、止めどなく溢れ出して来た。
「た、助けて欲しい……か、母さん……麻衣……碓井くん……もう本当に限界だったんだ……ずっと辛くって、でも誰にも相談できないし、復讐したいとか、言える訳ないし……もう一人で立ち向かうのはダメだ……今まで隠してて、ほ、本当にごめんなさい……!母さん……本当に苦しかったんだぁ……麻衣が桐島に襲われたって聞いて、許せなくて報復に行って……ずっと蹴った感触が残ってて、お願いだ、俺の事を助けて欲しいッもう誰かを恨むのは疲れたんだっ!俺の人生は復讐の為にあるんじゃない……もっと普通の人みたいに生きたいのに……頭が理解してくれないんだよっ!!」
亮介は嗚咽を漏らしながら胸の内を語った。
そして、これこそが統合失調症の症状なのである。本人がどれだけ拒んでも思考が負の方へと導かれて行く。
周囲に対する憎しみは紛れもなく本心だが、殺意や害意は病気によるモノだ。
亮介はずっと暗い檻の中に閉じ込められ、覚えのない『本心』に従い戦わされ続けて来たのである。
「亮介ぇ……」
「ごめんね……」
「クソォッ!」
黙って聞いていた三人はあまりの悲惨さに簡単な言葉しか発せられなかった。そして、ここまで追い詰められていたのに、それに一切気付けなかった自分達の不甲斐なさに涙が止まらなかった。
この事を亮介は墓場まで持って行くつもりでいた。
だけど勇気を出して全て打ち明けたのだが──この決断が亮介の人生を大きく変える事となった。
──────────────
──四人はひとしきり泣いた後、楽しい会話に花を咲かせていた。麻衣は小学校のとき以来に碓井と顔を合わせて辿々しくしている。見た目が少し怖いから驚いた様子だ。
凛花と碓井は初対面だが、今でも変わらず友達として接してくれる碓井に心から御礼を言っていた。
「亮介ッ!」
「碓井くん?どうしたの?」
「喉乾いたか?ジュース買って来てやるっ!」
「……ぷっ……じゃあオレンジジュースで」
碓井くんは母さんと麻衣にも飲みたい物を聞き、自動販売機まで買いに行ってくれた。
碓井くんのああいう所が好きなんだよ。
きっと母さんに褒められて照れているんだね。
「──亮介。そう言えばさっきの話だけど、復讐じゃなくて、和彦さんを一泡吹かせる為の仕返しをやってみない?」
「……母さん?」
唐突だったし、意外だった……母さんは優しいから、そんな事を言うとは思ってもみなかった。
そして母さんは悪巧みする様な目をしていた。
「あ、だけど会社を潰すとかそういう計画は絶対にナシよ?──正々堂々、アイツの会社を乗っ取りましょう!」
「乗っ取る?」
「ええ……亮介のやり方だと色んな人に迷惑が掛かるわ。そこまでは考えてなかったでしょ?」
「………う、うん」
本当だ……会社は父さんだけの宝だと思っていた……でも冷静に考えると、会社が潰れると従業員に迷惑が掛かる。
何より倫理的に良くない。
そこまで考えてなかった……関係ない人は巻き込まないつもりだったのに、本当にとんでもない事を仕出かそうとして居たんだな……今ではいけない考えだとハッキリ分かる。
なんか久しぶりに胸がスッキリしてるし、思考がクリアで物事を冷静に考えられる。
やっぱり相談して良かった……本当に。
そして母さんは俺の手を握りながら話を続ける。
「亮介……母さんの今勤めてる会社ね……お父さんの下請けなのよ?だからあの人の会社については色々と知ってるわ……私に任せて、ね?」
母さんは自信満々にそう話す。
残念だけど勉強中だからあまり協力できない。期待はずれと思われなきゃ良いんだけど──
──バチンバチンッ
今度はその隣で、麻衣がほっぺを叩いて気合いを入れ直していた。
「……よしっ!楓さんは任せてっ!」
「どうしたの?」
姉さんに対する仕返しの事を言ってるんだろうか?
さては母さんに触発されたな……?
さっきも依存させて捨てる計画を考えてたって話したら、思いっきりつねられた……復讐の内容を聞かれたから正直に話したのに酷い。
──麻衣は座っていた椅子から徐に立ち上がった。
(やられっぱなしじゃ終わらないッ!!楓さんには今までの借りをキッチリ返すっ!!)
麻衣はそう心に誓った。
しかし、どうすれば良いのか思い浮かばない……力や学では全く歯が立たない相手なのだ。
それでも亮介の力になりたいと思う。
色々と考え、楓の立場になって思案し……そして、とある極論を導き出した。
「亮介ッ!!」
「は、はい」
「私と、け、結婚して下さいッッ!!」
──それは楓に対する最高の復讐であった。
前編のエピローグです。
後編に続きます。
ここからは大切な人達に支えられ、ちゃんとした思考回路に戻って行きます。
だんだんとまともになって行く心象描写も楽しんで頂けたらと思います。
実は自分が鬱病の時に書いた作品です。
落ち着いた状態では思い付きもしないような物語となっております。
何ヶ月も投稿しようか悩んだほどでしたが、精神病の主人公はあまり『なろう』で見掛けないので、新鮮味があって面白いと考えて投稿しました。
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せっかくなのでブックマークしてくれたり、ポイントを入れてくれたら凄く元気になります。
是非よろしくお願いします……執筆活力を下さい。
『普通の勇者とハーレム勇者』
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『好きだった幼馴染と可愛がってた後輩に裏切られたので、晴れて女性不信になりました』
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こちらも是非宜しくお願いします。