16話 校舎裏での暴力
残り6話ほどで前編のエピローグです。
途中でだいぶヘイトが溜まると思うので今日6話投稿しようと考えてます。
私としても、皆さんの主人公に対するもやもやを少しでも早く消したいと考えています。
「亮介のお陰で渚沙がまた学校に通い始めたわ!ありがとうね!」
「いやそんな良いよ別に」
意図しない事で母さんに褒められてしまった……役に立てて本当に嬉しい。
渚沙に手紙を書いたお陰なのだが、まさか渚沙に感謝する日が来るなんて夢にも思わなかった。
今は食卓テーブルに座っており、家族二人とその他三人で夕食を食べている。
許すと言った手前、一緒に食べない訳にはいかないのが辛い所だ。ただ二人っきりの時以外に話し掛けないルールのお陰で姉が何も言って来ないのは幸いだ。
父親は煩いけど、基本無口だから我慢出来る。
いや出来ないけど、まぁ出来る。
「カレー……だね」
それに加えて今日は渚沙も居る。
俺が冤罪だと分かって初めて顔を合わせた。最初はモジモジと何か言いたそうにしていたが、結局は何も言わず食事の席に着いた。
そんな妹を見ても何も感じない。
久しぶりに顔を合わせて懐かしい気持ちにもならないし、会えて良かったとかの感情もない。
ただ憎しみも特に湧き上がって来なかった。
姉や父のように顔を合わせても恨みが膨らまない……何故なら謝って来なければ気安く話し掛けても来ないから──とにかく、コイツは俺が不快に思う行為を躱し続けている。
「………お母さん……美味しいです」
「一緒に食べるの久しぶりね?」
「……はい……ごめんなさいお母さん」
泣きながらカレーを頬張る妹。
長い間、コイツは母さんと一緒に食べてなかったから懐かしく感じてるんだろうな……俺はいつも一緒に食べてたけど。
泣いてる渚沙を母さんが優しく宥めていた。
妹に優しくする母さんを見て胸が締め付けられる。
「渚沙、亮介には謝ったのか?」
「え……まだ、だけど」
「真っ先に亮介へ謝罪しないでどうするんだ?」
謝る順番が逆だと楓が指摘をする。
凛花の隣に座っている和彦も『そうだな』と頷く。
「お、お兄ちゃんには、ちゃんと反省を行動でみせてから、しっかり謝ろうって考えてて──」
「それでは遅いぞ?──全く、亮介の事を分かってないんだな?」
「……………うぅ」
「二人ともやめなさい」
凛花の叱咤を受け二人は黙り込む。
渚沙は純粋に反省の気持ちから……楓は母親と仲が良い亮介に気に入られようとする不純な動悸だ。
亮介はそんな楓を冷めた目で眺めていた。
気色悪い姉の考えが透けて見るからだ。
「………はぁ〜」
──母さんも呆れたように首を傾げている。
それに、姉に対して何処か距離があるように感じる……妹に比べて明らかに対応が違うのだ。
なにか有ったんだろうか?
母さんを困らせたら俺に殺されるんだけど、分かってるのかこの女?
──それにしても学校も家も地獄。
あ、でも母さんが近くに居るから大丈夫……地獄でも余裕でギリギリなんとか必死に生きていける。
でも姉と父親はやっぱ屑だな。
その所為で俺は毎晩、この二人を妄想で害している。
考えなくても勝手にコイツらは現れる。
だから折角だし害する。
その所為で眠れない……でも寝る前だけなので辛抱しよう。明るいウチはいつもの自分で居られるんだからな。
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〜涙子視点〜
その翌日、午後の時間。
校舎の中庭ベンチで涙子は本を読んでいた。
栗色のショートヘアで、頭にはカチューシャを着けており、街中でモデルにスカウトされる程に整った顔と、すらっとした美しい体型。
しばらく休んでいた彼女は、今日がおよそ二週間ぶりの登校になる。
学校を辞める覚悟だったが、母親と父親からの説得に押し切られてしまい今日から登校する事となった。
学費を払って貰ってた以上、強く言い返せなかったのもあるが、自分の覚悟はそんなものかと落ち込んでいる。
体調が悪いと午後の授業をサボっていた。
「……あれ?」
そんな時、校舎裏に五人の女子が向かう姿を発見する。
不良が授業をサボり校舎裏に屯するのは良くあること……別にスルーしていい案件なのだが──
「麻衣さんと桐島さん?」
組み合わせを見て他人事ではなくなった。
一人は亮介と仲が良い女子。
もう一人は『過去』に亮介と仲の良かった女子だ……そう、自分と同じ過去形の女。
「良くないことが起こるかも……」
麻衣のピンチには駆け付けてくれると思うが、亮介にはとっくにブロックされている。
なので自分でこの状況を何とかするしかないと……涙子は勇気を振り絞って五人の後を追いかけた。
───
───
「ねぇ中里……亮介との仲を取り持ってよ」
桐島文香は威圧感たっぷりに言い放つ。
「……そ、それは」
麻衣はカタカタと震えていた。
こういう修羅場での耐性が麻衣にはあまりない。いつもは亮介が守っているのだ。
「私からも頼むよ」
今度は全く無関係な筈の三人目の女子が麻衣に対して言う。
この女子は砂川千秋。隣の席だが亮介に名前を認知されて居ない可哀想な女だ。
二人とも髪を染めて制服を着崩しており、見るからにガラの悪い見た目をしてた──もちろん、残りの二人も同じ風貌をしている。
つまり、今の麻衣は四人の不良に囲まれてる状況なのだ……その恐ろしさで麻衣は涙目になってしまった。
それでも二人は追及を止めない。
男女別の選択授業で亮介の居ない今はチャンスなのだ。この麻衣を懐柔できれば仲直りの可能性が生まれると桐島文香は確信していた。
あんなに見下していたダサい女に頼るのは癪だが、今は贅沢を言ってる場合ではないと、桐島は断腸の思いで麻衣に頼み込む。
「ご、ごめんなさい」
──それでも麻衣は首を縦に振らなかった。
不良達から校舎裏に呼び出され、桐島には逃げられないように腕を掴まれているがそれでも断った。
普段どれだけ弱かろうと、亮介が絡んだ時の麻衣は誰よりも強いのだ。どんな脅しにも屈しない。
「ふざけんなっ!」
そんな姿が桐島の癪に障った。
去年までは亮介から相手にされてなかった癖に、馬鹿にすれば泣いて逃げてた癖に……そんな見下す気持ちが爆発する。
掴んでいた手を放し、両手で麻衣を突き飛ばした。
「あぅ……ッ!」
地面に倒れ伏す麻衣。
傷を負ったワケではなかったが、怖すぎて起き上がる事が出来なかった。
幼い頃から交流のある楓と違い、最近知り合ったばかりの桐島からの暴力は恐怖以外のナニモノでもない。
「……おい、今日のこと亮介にチクったらタダじゃおかないからな?」
桐島が見下ろしながら脅しを掛けた。
「………ぁ、ぁぁ」
怯えて声が出せない麻衣。
しかし、それを砂川千秋は【無視】されたと捉える。
「ふざけんなテメェッ!」
地面に倒れる麻衣を殴りつけようと腕を振り上げた。しかも照準を顔に定めている。
「待って!顔はまずいっ!亮介にバレるっ!」
出来るだけ証拠を残したくない桐島が止めようとするが、もう間に合わない。
千秋の拳は麻衣の顔面に直撃──
「危ないッッ!!」
──する前に、生徒会長・姫川涙子が止めに入った。まさに間一髪……千秋の拳が触れる前に、涙子は千秋を突き飛ばす事に成功した。
「……せ、生徒会長さん?」
「大丈夫!?──貴女は何をやってるの!?」
涙子は麻衣を庇うように不良達の前に立つ。
「この女っ!!」
「千秋を突き飛ばしやがってクソがッ!」
……だが、仲間を突き飛ばされた事が我慢出来ず、傍観していた二人組が襲い掛かった。
涙子に……だけではなく、倒れてる麻衣にも暴力を振るおうとする。
「だ、だめっ!」
「せ、生徒会長さんっ!?」
恐怖で動けない麻衣を庇うように、涙子は倒れている彼女に覆い被さった。
それでもお構いなしに暴行を働く二人……涙子は背中で彼女たちの蹴りを受ける。
「うぐ……!」
それも何発も繰り返し……鍛えていない涙子には一発一発の蹴りが痛くて苦しかった。
ただそれでも麻衣を抱き締めている腕の力は絶対に緩めなかった。
麻衣は亮介にとって大切な存在……自分の代わりにずっと亮介を守ってくれていた女性。
何がなんでも無傷で助けたい……そう考えている。
「せ、生徒会長さんっ!?──やだっ、止めて!誰か生徒会長さんを助けてぇぇッッ!!」
「生徒会長だと!?」
「マジか……なんかヤバくね?」
二人の暴行が止まる。
学校行事に参加しないから、生徒会長の顔を知らなかったのだ。
そして涙子は背中に蹴りを数十発も受けた所為で、ぐったりとしている──背中はボロボロになっており、頭に着けていたカチューシャも取れて泥塗れだ。
「生徒会長さん……うぅぅ……」
麻衣は傷だらけになった生徒会長を、頭から抱き締め泣いていた。
「ズラかるか?」
「そうだな……千秋と文香も行くよ!」
「……アンタら、何してくれてんの?」
「うっせぇしっ!でも目撃者居ないし、シラを切ればよくね?」
「そうだって!第一、吹き飛ばされた千秋のせいだカンね!!」
「……急に来るとは思わないじゃん……悪いフミ……コイツら連れてきたの間違いだったわ」
「あ、アンタが最初に手を出そうとするからでしょ!?」
「わ、悪い……こんな陰キャに無視されたらと思うと、ついカッとなって」
「亮介に知られたらどうするのさ!!!」
「あんなにビビってたら言わないでしょ……それに中里はなんだかんだ無傷だし──てかアンタら二人ヤバくね?生徒会長をあんなに殴ったりなんかして……背中ボコボコなんだけど?」
「だから逃げんだよ!」
そう言って四人はこの場から立ち去った。
途中、桐島文香だけが何度も振り返って様子を見ていたが、だからと言って助けを呼んだりする事は無かった。
「りょ、亮介……!!」
「うぅ……あ、青あざになってるかも」
麻衣は大急ぎで亮介に電話を掛けるが、その間もずっと涙子を抱き締めたままだった。
次話は12時に投稿しました。
『好きだった幼馴染と可愛がってた後輩に裏切られたので、晴れて女性不信になりました』
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