15話 妹の距離感
「お母さん……離婚しようと思うの」
「……本当に?」
父親と姉に復讐を誓った日。
帰って来た母からそんな話を聞かされた。
まるで背中を押すような話だ。母さんをどうやって守るのか考えていたけど離婚するなら大丈夫そうだ。神様が俺の決断を祝福してくれているみたいに感じる。何より母さんの声は聞いてて癒されるよ。さっきまで堪らなく辛かったけど母さんが帰ってきたお陰で大丈夫になったよ。
それにしても父親と何か有ったんだろうか?
傷付けられてないか凄く不安になる。
「時期的には渚沙が大学を卒業するタイミングにしようと思ってるんだけど……その時まで亮介が家に居たら、一緒に来てくれる?」
「うん、付いてくよ」
それは当然の決断だった。
──それから3日ほど月日が流れた。
相変わらず学校ではへりくだった態度で接される。
麻衣は慣れたらしいが俺は全然ダメ。
生徒会長と妹はずっと学校を休んでいる。
妹に関しては部屋に篭っているらしいので顔すら見てない。
自分で考えて行動出来ない姉の金魚のフン。
どうしようもなく情けない妹だと思っていたが……まさか一番マシなのが渚沙だったとは。
クラスメートは許して欲しそうにヘラヘラしてるし、桐島に至っては毎日謝って来てはアイツとの交際は本気じゃないからキスもノーカンとか言って来るし。
とても充実した地獄の学校生活を楽しんでいる。
───────────
「今日はとても楽しい事があったんだ、学校に植えていた花に猫が集まって来てて、思わずたくさん頭を撫でてしまったよ、コンビニのおにぎりが値上げしてたんだって?知らずに買って計算が合わなくてびっくりしたよ。エアコンの調子が悪いから夏場を乗り切れるか少し心配だ。廊下を走ってる年下に注意したら顔を赤くしていたよあからさまに気のある態度を取られても困る私には亮介が居るのに。生徒会長が最近休んでるから手伝いをしているんだが涙子以外の生徒会役員は仕事が出来ない人間ばっかりだな先が思いやられる。そういえば亮介を理不尽に怒ってた数学の先生居ただろ?お前に言ったことを後悔して鬱病になったらしいスカッとしないか?そういえばコンビニの話の続きだがアップルティーと間違えてストレートティーを買っちゃったよ苦くてとても飲めなかった冷蔵庫にあるから亮介の飲むといい口付けてないから汚くないぞ?亮介があのおん……麻衣と一緒にやってるスマホゲーム私も始めたんだが中々欲しい武器ドロップしないんだよ同じ武器を四つ集めるのって大変だなぁ。駅前に忠犬ロク公の銅像があるだろそこに変なカップルが──」
「姉さん10分経ったよ」
「……………もうそんな時間か」
「もう寝るから今日はお休み」
「ああ、そうだな」
姉さんは残念そうに座布団から立ち上がる。
指に巻いてある包帯が痛々しい。だけどあれは自分で折ったイカレ傷だ。
「それじゃまた」
「うん……お休み亮介」
そのまま名残惜しそうに部屋を出て行った。
半ば強引な退席願いにも抵抗なく従うが、それには理由がある。
──偽りの仲直りをする際に、亮介はとある条件を二つほど姉に提示していた。
内容は簡単──
一つ目が、人がいる所では話し掛けないこと。
二つ目が、自分と話すのは寝る前の10分間だけ。
一つ目は前もって納得させていたが、二つ目のルールにはごねられた……お陰で説得に一苦労している。
それでも絶縁を武器になんとか従わせた。
「やっぱり10分は長かったかな?」
──いや流石にこれ以上短くしてしまうと俺に依存させる計画が狂ってしまう。ただでさえ1日に話をする時間を10分に短縮するのに絶縁の話を持ち出したんだ……あまり拒絶が酷いと上手くいかない可能性が僅かにある。
そもそも二つ設けたあのルールや絶縁をチラつかせた段階で、普通は諦めて距離を置いてくれるんだろうが、あの姉は本当に異常だ。そういう普通が通用しない。
楽しそうに毎日来ては1日の出来事をペラペラと報告してくる……それはもう狂ったようにずっと喋り続ける。
もっと懐かせて叩き落としてやろう。
その為には優しくするべきなんだけど、今はちょっと無理そうだ。部屋に入れるのだって我慢しているんだから。
それにしても最近の姉には狂気を感じる。
──次の日の朝いつもの様に学校へ向かう。
「………ん?」
すると靴の中に紙切れが入っていた。
その紙には『今日、話せませんか?』とだけ書かれており、差出人は渚沙と書かれている。
すかさずその紙切れ裏に『ムリ』と書いて妹の靴の中に入れて置いた。
「亮介〜いってらっしゃ〜い!」
渚沙とのやり取りに気を取られていると背後から母さんが抱き着いて来た。
「母さん……行ってきます」
俺の鳩尾くらいしかない低身長の母さん。初対面の人には中学生くらいに間違われるらしい。
そんな事よりも、渚沙の所為で母さんの接近に気付けなかった不甲斐なさを嘆いた。
──そして更に次の日。
『昨日は無理言ってすいません。今日はどうでしょうか?』
また靴の中に渚沙からの手紙だ。
でも顔を見せないだけマシか……毎日話しかけて来る姉や、もう父親に戻ったつもりの父親より遥かにマシ。
「亮介ー学校行こー!」
「麻衣、今日も可愛いね」
「あ、い、いつもありがとう」
「じゃあ行こうか?──ああちょっと待ってね?」
俺は紙切れに『ムリ』と書いて妹の靴に入れた。
──次の日も。
『今日はどうでしょう?』
『ムリ』
──その次の日も。
『本日はどうでしょう?』
『ムリ』
こんなやり取りが一週間も続いた。
「…………はぁ」
本当にしつこかった。
なのに父親や姉のようにドロドロとした嫌悪感は湧き上がって来なかった。
内容も簡潔で『話したい』という要件だけが毎回書かれている。これが長い文書だったら絶対に読まない。
返事もカタカナで『ムリ』の二文字で済むから返していた。姉と父親の後だと真面目に思えて仕方ない。
──だが土日を挟んで次の日。登校前の玄関で母さんは深刻そうな表情をしていた。そんな母さんが心配になって俺は声を掛ける。
「何かあったの?」
「うん……もう二週間も渚沙が学校に行ってなくて……どうすれば良いのか悩んでるのよ」
「……そうだったのか」
「うん、でも母さんが何とかするから気にしないで!」
母さんは直ぐに元気な表情に戻る。
しかしどう見てもカラ元気にしか見えない。
俺は渚沙に会わなくても構わないが、母さんはそうではない。不登校が続く娘を本気で心配している。
俺はいつものように靴を履こうとした。
やっぱり手紙だけは今日も入ってる……こんなの仕込む暇があるなら学校に行けや。
「……母さんの為だし、書いておくか」
『今日から学校行きな』
まぁこの程度で登校するなら苦労しないよな。
俺はいつもの様に手紙を渚沙の靴に入れ、麻衣と一緒に学校へと向かった。
──その日、少し遅れて登校する渚沙を麻衣の母さんが目撃したらしい。
遅刻の分際で鼻歌を歌い、更に笑顔でスキップをしながら登校してたと言ってたが………アイツ頭おかしいんじゃねーのかマジで。
『好きだった幼馴染と可愛がってた後輩に裏切られたので、晴れて女性不信になりました』
https://ncode.syosetu.com/n2412ha/
という作品を投稿してます。
休載中ですが、12月上旬から再開予定なので読んでみてくださいっ!面白いと感じて頂けたならポイント評価など宜しくお願いしますっ!!