13話 たった一人の親友
この作品には珍しく日常回です(途中まで)
まだ連載を開始して4日なのですが、沢山の感想を頂けて本当に嬉しいです。
なかなか返事をお返しする時間が取れず、誠に申し訳ありません。
──姉の企み、あるいは妹の後悔なんて知りもしない亮介は、とある人物と二人きりで喫茶店を訪れていた。
「こちらがご注文のアイスコーヒーとなります」
「ありがとうございます」
頼んだアイスコーヒーを受け取った後、友人と二人で向かい合いながら座る。上手い具合に周囲には客が居らず、離れた所に1組の女性グループが居るくらいだ。
お陰で周りの目を気にしなくて済む、亮介好みの静かなゆったりとした空間が形成されている。
欠点は、出来上がった商品をカウンターまで受け取りに行くシステムであること。
更に食い逃げ防止のため前払い制ではあるが、それを差し引いても良い店だと亮介は確信している。
それに犯罪を未然に防ぐシステムは必要だ。
世の中にはろくでもない事を企む人間が存在している事を、亮介は誰よりも良く知っていた。
「ここのアイスコーヒーは美味いな」
「そうでしょ?麻衣もここ好きなんだよね」
俺は久しぶりに会った友人と映画を観に行き、その帰りに行きつけの喫茶店に来ている。
メールや電話でやり取りはしてるけど、こうして会うのは二ヶ月ぶりだ。やっぱり直接会うのと電子機器越しとでは全然違う。
学校さえ一緒ならいつでも会えるのに……しかも距離が離れている所為でなかなか会えないのが非常に残念だ。
「窓から見る景色もいいよな〜」
「この席は特にオススメだよ」
正面で優雅にコーヒーを嗜んでいるのが、今となっては唯一無二の男友達。
名前は碓井恭介。年齢は17歳で茶色に髪の毛を染めている。
見た目が少し不良っぽいから初対面だと怖い印象があるけど、中身はとても素晴らしい。
俺は碓井くんと会えるのを楽しみにしていた。彼は俺のことを最後まで信じてくれた友人で、今も変わらずに接してくれる。
『ん?お前が女の子に暴行を働いたって?──え?お前の学校の奴らはその話を信じているのか!?いやいや、人を見る目なさすぎだろ……お前ぜってーそんな事しねーのに』
こんなことを言って貰えるなんて夢にも思わなかったから、涙が出るほど嬉しかった。
──そして今日は冤罪が認められた祝いだと碓井くんから誘って貰った。次に遊ぶのは夏休みだったから、予定が大幅に早まって本当に嬉しい。
「相談があるんだけど、良いかな?」
「ん?別にいいぞ?」
──他愛もない会話を楽しんだ後、俺は碓井くんにある相談を持ち掛けた。
「これまでのことどうやって挽回しようかな?」
俺が真剣な表情になると、碓井くんも姿勢を正して真剣にこちらの話を聞いてくれる。
「ああ、例の幼馴染?」
「うん」
相談事とは麻衣についてだ。
今でこそ宇宙一大切な存在となっているが、1年前まではかなり疎遠となっていた。
同じ歳の幼馴染と遊ぶ恥ずかしさが有ったとはいえ、幼馴染ではなく生徒会長やクソ姉妹を選んでしまったのは事実。
それに加えて、同年代でも桐島と話す方が楽しいと感じてた時期がある。
今では本当に理解出来ない恥ずかしい過去だ。
麻衣と一緒に居る時もその事が後ろめたい……俺が麻衣を疎かにしていた時期が確かにあるのだ。
どうにかしてこれまでの失態を取り返さなければ……麻衣と離れるなんて今じゃ考えるのも怖い。
──幸いにも碓井くんは非常にモテるらしい。
だったら良いアドバイスが貰えそうだ。
「──前に碓井くん言ってたでしょ?自分は恋愛マスターだから高校ではモテまくるって……だから何か良い方法を教えて貰えないかな?」
「………うん……まぁ……そうかな?」
アイスコーヒーの入ったガラスコップを持ち上げる碓井──しかし、その手はプルプルと小鹿のように震えていた。
それも当然……全部ウソなのだ。
亮介と碓井は幼稚園、小学校の幼馴染だ。
それ以降も友達としての繋がりはあったが、中学校からは別々の学校に通っている。
なので学校での碓井に関して亮介は何も知らない。
それを良い事に嘘をついてるのだ。
本当は恋愛マスターどころか恋人すら出来た事もなく、挙げ句の果てに女友達すら居ない。
ただ見栄を張って大嘘吐いただけに過ぎない。
そうとも知らずに純粋な目を向ける亮介。
冤罪事件の後、亮介は自分を信じてくれた碓井の言葉を完膚なきまでに信じるようになった。
その所為で亮介の中にある【碓井恭介】はとんでもない偉人レベルの存在にまで昇華してしまったのである。
どうやら亮介は、自分を信じてくれた人間をどこまでも信用してしまうらしい。
実際には三枚目の非リア充なのだが──そんな事とは全く思ってもない。
だからこそ碓井は相談に乗るしかなかった。
自分とは無縁の恋愛相談に……むしろ、そんな関係の幼馴染が居るのが羨ましいと思っている。
「それに碓井くんって友達も多いからね!俺は碓井くん一人だけだよ?」
「お、おう……かなりたくさん居るぞ!──孝志だろ?雄治だろ?和志だろ?──それから………」
「……………ん?それから?」
「………そ、それからぁ〜」
以上だった。
しかし、亮介を前にそんな事は言えない……だって友達がたくさん居る設定なのだから。
そんな時、近くの棚に置かれたファッション雑誌が碓井の目に飛び込んで来た。
「……後は………橘雄星」
「……えっ!?」
亮介はガタンと立ち上がった。
──橘雄星。
碓井の学校に通う生徒の名前だが、たまたま目に入った雑誌の表紙を飾っていた彼の名前を使ったのだ。
そして、その名前は亮介でも知っていた。
なんでも相当なイケメンで、モデルとしての活動も行っている人物だ。かなりの有名人で都会では広告塔にもなっているらしい。
「そ、そんな有名人と友達だなんて……やっぱり碓井くんは凄いなぁ」
亮介の尊敬度が更に跳ね上がった。
「だ、だろ?」
もちろん嘘だ。そんな有名人の友達は知らない。
もはや碓井は汗でびっしょりだ……夏場の熱さから来る汗ではなく、動揺や戸惑いによるもの。
亮介は碓井が相手だと純粋な為、普通なら疑うべき言葉でも信じている……お陰でウソだと気付かれず、話がどんどん膨れ上がって行く。
とんでもない悪循環である。
「一回会ってみたいな」
「えぇ!?会いたいのか!?」
「いやだって有名人だし、碓井くんと友達なら絶対に良い人だろ?」
「……まぁ……そうだな──でも実は結構ヤバいやつかも知れないぞ?」
「碓井くんの友達だからそんな訳ないよ!」
「ねぇそれやめて?」
「……え?何が?」
あまり神格化しないで欲しいと碓井は思った。
でも自分で蒔いた種だから仕方ないと諦めた。
──そんな時だった。
会話を聞いていた三人の女子が亮介の居るテーブルの前までやって来る。
「あ、あの……」
「…………」
三人は亮介のクラスメートの女子だった。
名前は知らないが自分と麻衣を無視したり、陰口を叩いていた相手で間違いない。
離れた所にいた所為で亮介は気付かなかったようだ。
友人との楽しい時間に水を刺されてしまい、何一つ面白くなかったが、寄ってきた三人は微笑んでいる。
「よ、良かった、心配してたから……」
「……何が?」
気の弱そうな女子が意味不明な事を口にする。
何が良かったのか訳がわからない……しかし、直ぐに答え合わせをしてくれた。
「学校じゃ暗かったからさ。でも楽しそうに笑ってるし、もう大丈夫そうだね?」
「……………」
気の弱そうな子とは別の女子が的外れで愚かな事を言い出した……亮介は目の前にあるコーヒーをぶっ掛けようと考えるが、店側に迷惑をかけるのが申し訳ないのと、万が一碓井に掛かるのが嫌なので我慢した。
「……ちょっと……それは無いんじゃないか?」
女子に近寄られて舞い上がっていた碓井も、ピリ付いた空気を察して話に割って入る。
亮介が学校でどんな目に遭ってるのかは、本人から聞いてて知っていた……だからこそ今の発言は友達として許せなかった。基本ヘタレな男だがこういう時には男気を見せる。亮介を最後まで信じ抜いた友情は伊達ではない。
「はぁ?事情も知らない他校の男子は黙ってなよ!」
「そ、そうだよ!山本くんは学校で大変なんだからね!」
「そうよ!それに耳に付けてるそれ……なに?ピアスのつもりかも知れないけど穴空けないタイプじゃん、ダサ」
「……お……ぉぉ……」
深刻なダメージを受ける碓井。
『今となっては』亮介に優しい三人の女子だが、碓井には厳しかった。
顔の良い亮介は冤罪前かなりモテていた。
どうにか関係を改善できるチャンスはないかと、三人はずっと謝罪する機会を伺っていた。
それだけに碓井の横入りが邪魔だったのだろう。
「…………クソ女」
その下心が見え見えなのにも不快感を覚えたが、何より大切な友達を傷付ける発言をしたのが心底許せなかった。
他校の男子だと甘く見ていた三人は知りもしない。
この碓井へ向かって酷い言葉を投げ掛ける……その行為がどれだけ愚かなのかを……
──亮介は椅子から立ち上がり、三人の中でも特に酷い言葉を放った女へ詰め寄ってゆく。
「……おまえ……碓井くんは最後まで俺を信じてくれてたんだぞ?」
「……な、何を?」
「名前は知らないけど見覚えがある──お前は俺の弁当をゴミ箱に捨てた奴だろ?」
「いや、でも……違う子の方が煽ってきて──」
「お前は母さんが一生懸命、俺の為に作ってくれた弁当をゴミ箱に捨てたんだよ!それだけの事をしといてどういうつもりだ!お前如きが碓井くんに偉そうな口を利くなっ!!」
「………あ……ぐぅ……」
この女子は事件の前までかなり亮介に気があった。
事件が冤罪だと解って以降は、亮介に対する愛おしい気持ちも復活し、どうにか仲良くなろうと模索していた。
だが、碓井への発言で目論みが台無しとなってしまった──彼女はショックのあまり涙目になりながらこの場を逃げ出そうとする。
「待てよッ!!」
だがそれは亮介に腕を掴まれて止められた。
「碓井くんに謝っていけッ!!」
亮介が怒鳴り声を上げると、腕を掴まれている女の顔は真っ青になってゆく。
掴んだ腕は謝罪するまで離さないつもりだ。触れるのすら不快な相手だが、自分の気持ちより友人の方が大事なのだ。
「あ、ご、ごめんなさい……ッ」
「お、おう」
碓井は戸惑いながらも謝罪の言葉を受け入れた──そして亮介は立ち尽くす残りの二人にも目線を向ける。
「お前ら二人もだよッ!!」
「すいません……」
「ほ、ほんとうにごめんなさい」
「お、お、おぉう」
「目の前から消えろ。それと二度と話し掛けて来るなよ?学校でも当然な?──クラスの奴らに俺から酷いこと言われたって、別に言いたかったら好きに言えよ」
「ぜ、絶対に言いませ──」
「いちいち返事しなくて良いから!友達との大切な時間をこれ以上邪魔しないでくれっ!」
「……はい」
そう言われると三人は落ち込みながら店の外に出て行った。それを不快そうに眺める亮介と、本気でキレた亮介を目の当たりにし、茫然とする碓井。
(だけど、あの態度じゃ仕方ないよな〜)
ただし、今の亮介を見て軽蔑なんてしない。学校でどれだけ苦しんで来たのかを知って居るからだ。むしろあんな無神経な発言をする女子達が理解出来なかった。
結局、クラスメートはあの程度の認識でしかない。
元気になれば良い、明るくなれば良い、また自分達を信じられるようになれば良い──と、亮介の心の傷がそのうち癒やされるものだと勝手に思い込んでいるのだ。
彼女たちだけではなく全員がそう思っている。
深く傷付けられた心は、二度と元通りにならないと言うのに……どこまでも甘く見ている。
立ち直った亮介が見たいのではなく、立ち直った亮介を見て自分達の悪行を無かった事にしたいのだ。
そんな連中を許せる筈がない。
亮介との溝はより一層深くなって行くだけだ。
亮介に慰めの言葉を掛けて良いのは母親と麻衣一家と、この碓井だけなのである。
「それで麻衣とはどうしよう?」
「お前多重人格かよっ!?」
切り替えの速さがおっかないと碓井は思う。
しかし、学校や家の中じゃないのだ……外敵さえ居なくなれば安全な空間に戻る。
せっかく大好きな親友と話をしているのだ……つまらない事をいつまでも引き摺りたくはなかった。
そして碓井もそれを察し、自分は恋愛経験もない癖に亮介と麻衣について考え始める。
「……う〜ん……学校ではどうしてる?」
「だいたい一緒に居るよ」
「………登下校はどうしてる?」
「委員会がある日以外は毎日一緒だよ」
「……………電話やメールは?」
「毎日何回もやってる」
「……………………休日は?」
「いつも遊んでる!」
「俺になに相談したいの?」
「え?麻衣とどうやって仲良くなれるか」
「もう完成してるじゃん?それ恋人だぞ?」
「……いやいやそんな。俺が麻衣の恋人だなんて10年早いよ〜……もぉ〜碓井くんは優しいなぁ」
「だからそれやめて?」
「……え?どうして?」
恋愛マスターじゃなくても解った。
アドバイスなど必要ない……後は、どちらかが最後の一歩を踏み出せば恋人の関係になれる確信があった。
だけどそれを言うつもりはない。
自分で解決するべき問題だと思ってるからだ。
それに、麻衣と恋人関係になったらこうして遊ぶ機会が減る……碓井にとってそれが一番嫌だった。
彼にとっても亮介は掛け替えのない親友なのだ。
冤罪だろうがそんなモノは碓井には関係ない。
このまま無実が証明されなくても、友としてどこまでも付いて行くつもりでいた。
「しばらく様子見した方が良いんじゃない?」
「そうかなぁ?」
「今みたいな関係を続けて行けば良いと思うぞ?」
「……じゃあそうしようかな?」
今の関係が続いて行けば、遅かれ早かれ2人は間違いなく恋人同士になるだろう。
だから碓井は自分の意見なんて必要ないと考えていた……沢山苦しんだ二人はきっと幸せな結末を迎える。
だから友達として優先して貰える今だけは、亮介と一緒に居られる時間を長く楽しみたいと思っていた。
次回は父親と姉からの謝罪です。
5000文字を軽く超えてしまいました。
今回は文字数ちょっと多いので読み辛くないですかね?
少し気になりました。
これからも楽しみ、思ったよりも面白いと感じて頂けたならブックマークやポイント評価を宜しくお願いします!
モチベーションがめちゃくちゃ上がります!!