11話 弟を思う優しい姉(偽)
19時に2話目を投稿します。
宜しくお願いします。
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〜楓視点〜
「え!?別れるってどういう事ですか!?」
「そのままの意味だ」
私はとある男に別れを切り出した。
三ヶ月前から付き合い始めた同級生の男──名前を佐藤哲治という。
亮介の穴埋めで付き合ったが、あまり効果を得られなかった……とても比べるに値しない男だ。
「で、でも、今まで不満なんて言わなかったじゃないですか!?」
「すまない」
いちいち女々しい奴だ。歩き方が亮介とそっくりだったから告白を受け入れたというのに、失敗してしまったようだ。
そもそもいずれは断とうと考えていた関係……それが少し早まっただけに過ぎない。
何より今は亮介に贖罪しなければダメだ。
正直かなり追い込まれている……恋人なんてモノに割いてる時間などない。
私は校舎裏に呼び出した元恋人をそのままにし、急いで家に向かう。
今日は放課後まで気が気じゃなかった。
何度も何度も何度も亮介の教室に行こうかどうか迷ったが、ただでさえ取り返しの付かない程やらかしているんだ。
これ以上嫌われる行動は避けるべきだと思い、どうにか耐えた。
「昨日は帰って来なかった……あの中里麻衣……ッ!!私が目を離している内に好き放題してッ!!」
あんな冴えない女が今でも亮介の隣に居るんだと思うと虫唾が走る。
亮介の隣は本来なら私が居るべき場所だ。
成績も悪く、容姿もずば抜けて良い訳でもないのに、亮介と釣り合うと本気で思っているのか?
私はムシャクシャしながら家へ向かう。
亮介を反省させたくて冷たく当たって来たが、これからどうやって挽回して行こうか?
幸い、仲違いする前の亮介は私にべったりだった。中里麻衣ではなく私にべったりだった。
なので誠心誠意真心込めて尽くせば、前のような関係に戻れるだろう。時間が掛かるかも知れないが、これまで私のした仕打ちを考えればそれも仕方ない。
時間を掛けて亮介との仲を改善すれば良いのだ。
『しばらくそっとしておこう?』
渚沙には止めた方が良いと言われた。
兄へ対する愛情はその程度かとガッカリした。
渚沙とは違い、私は冤罪じゃなくても高校を卒業するタイミングで許すつもりだった。これ以上は弟の居ない日常に耐えられそうにない。
──だがその前にやっておく事がある。
「……昨日、亮介が泊まりに来たらしいな?」
「……はい」
私は隣の家を訪れている。
此処は中里麻衣の家だ。私が距離を置いてたのを良い事に、亮介を誑かした意地汚い女。
大した事のない女だからコレまで眼中になかったが、傷心中の亮介につけ込んで良好な関係を築いたらしい。
犯罪者の弟が反省しなかった……まぁ今となれば無実の罪なのだが、ともかく亮介が私に縋り付いて来なかったのは中里麻衣の所為で間違いない。
母さんもそうだが身内なので良しとしよう。だから排除すべきはこの女1人だけになる。
「……今日から亮介に近付くな」
「え……い、嫌です」
「なんだと!?」
大人しく従うと思ったが……意外にも反抗された。
中里麻衣が私を苦手にしてるのは知っていた……この女が近付くと露骨に嫌な態度を取って来たから当然だ。
一緒に遊んでいた頃、私が亮介に聞こえないように『邪魔だ』と伝えると、トボトボ泣きそうになりながら逃げて行った情けない女。
コイツに反抗されるのだけは腹が立つ。
中里麻衣の所為で私の計画は大幅に狂ったのだ。
本来ならばボロボロになった亮介に近付き、私にどうしようもないほど依存させるつもりだった。
それなのに中里麻衣が側に居た所為で、亮介は私の元へ来なかった……ギリギリの所で耐え抜いてしまった。
妹を出し抜けるチャンスだった、姫川涙子も、桐島文香も追い抜いて亮介を未来永劫わたしのモノにするチャンスだったのに……それをコイツがッ!
──これまでの怒りが溢れ出し、思わず中里麻衣の胸ぐらを掴んでしまった。
暴力を振るうのは初めてだが、もうどうにも止められないッ!コイツさえ居なければ亮介は私のモノだったんだっ!!
「ぐ……苦しい……」
「言えッ!亮介から離れると言えッ!」
「………(ふるふる)」
恐怖のあまり顔中の血の気が引いているのが解る。
それでも首を振り亮介を手放そうとはしない……どこまでも私の神経を逆撫でする女だッ!!
私は空いている方の手で中里麻衣を思いっきり引っ叩こうとした。
「な、何をやってるのッ!?」
「……母さん」
小動物のように小柄な女性に大声で止められる。よく見ると相手は母さんだった。偶に子供だと間違われるほど小さくて若々しい母さん。
「………凛花おば……さん……」
母さんは慌てて駆け付けて来る。
我慢出来ずに叩く所だったが手を出すのは結構マズい……危ない所だった。
でも流石は母さん、娘のピンチには駆け付けてくれる。亮介を守り続けていたから随分評価が下がっていたけど、今回のである程度は持ち直したよ。
「どうしてこんなひどい事したの?」
「この女が亮介を家に泊めたんです」
「貴女たちが亮介の居場所を奪ったからでしょ!?」
「…………」
ああダメだ話にならない。
私ではなく中里麻衣を庇う態度も鼻に付くし、やはり良い母親とは言えないな。
第一、亮介の居場所を奪ったというのは心外だ。
私が作ろうとした居場所を奪ったのは中里麻衣と母さんなのに。私は亮介と相思相愛になれればそれで良かったんだ。
酷い態度を取っていたのは……そうだな……言うなれば試練。
母さんと中里麻衣の邪魔さえなければ、私に甘やかされるだけの幸せの日々が亮介には待っていたんだ。
母さん、父さん、義妹には家族としての愛がある。
だけど亮介にはあらゆる愛情を抱いている……言葉では言い表せないような無限の愛が亮介に対しては有る。
だからこそ知らない女を襲ったのが許せなかったんだっ!そんなの私にすれば良いだろう!?血の繋がった姉弟じゃないかっ!!
……どうしてもこんな風に思ってしまい、優しく出来なかった。
なので指導や警告の気持ちを込め、ボロボロにした後で依存させる事にしたんだ。
まぁ全て無駄に終わったがな。
「………母さん……帰ります」
「待ちなさいッ!かえでッ!!」
──私は踵を返しその場を去った。
背後から母さんがガミガミ言ってたけど、もはや聞く必要性を感じない。
でも亮介に告げ口されたら面倒だから、後で母さんには適当に謝っておくか。中里麻衣の方は大丈夫……どうせ告げ口する度胸なんてアイツにはない、ほっといても良いだろう。
「……ふぅ、無駄に体力を消耗した」
──自宅に入った後、私は亮介の部屋へ向かう。
今は友人と会っているから亮介は居ない。
とにかく弟の行動は全て把握してある──殆ど中里麻衣と一緒に出掛けてるのが不愉快だけどな。
「ああ、亮介ごめん……まさか無実の罪だとは思わなかったんだよ」
私は亮介のベッドに身体を預けながら呟いた。
一年もの間、亮介が居なくても耐えられたのは、このベッドの温もりがあったからに他ならない。
──さて、どうやって許して貰おうか。
この人への復讐が一番エグいです。
次回は妹視点の話です。
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真面目な話を書くのは初めてで不安でしたが……予想を遥かに上回る結果になって凄く嬉しいです!!
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