電子配信記念SS/リュカとルーナのお話
なんと夢中文庫さまより、電子配信されることになりました!
ので、ルーナがリュカのところに嫁いでからのお話を記念に書きました いつか書きたいと思っていたのでスッキリ! 以前からリクエストくださっていたみなさまありがとうございました…!
「なんと美しい銀の御髪でしょう。わが国では見られない貴重な輝きですね」
――この国では髪の黒々しさが美の象徴なのに。銀など老婆のようではないの。
「おや、まるで鳥のさえずる声のよう。ぜひあなたの国の歌を聞かせてください」
――女人が往来の場でこのように大きな声で話すなんて。これが貴族の娘? こんな大声で話すのは劇場の歌姫くらいのものであるのに。
「リュカ様が見染められたのがこのように愛らしい女性だとは」
――わたしはてっきりリュカ様はご自分に見合った控えめな大人の女性を選ぶと思っていたのに……。これではまるで、童女のようではないか。よもや、リュカ様は幼子がお好みであったか?
◆ ◆ ◆
ルーナがわたしの国に嫁いできてくれてから、半年が経った。
ルーナは夫となったわたしの言うことをよく聞き、従順ながらも持ち前の明るさと気丈さでうまく振る舞ってくれている。
異国の地、それも大陸と地続きではない独自の文化を形成している島国に嫁いだとあれば、文化的な差異は大きいだろうに、ルーナがわたしの横を歩くときに不安な顔を浮かべたことは一度たりとてない。
小さな背をピンと伸ばし、着慣れないだろうわたしの国の服を着て、この国の生まれでは見られない銀髪に似合う髪飾りは限られている中で工夫をして美しくして、夫のわたしを立てるべく、善き妻として隣に立ってくれる。
わたしはルーナにとても感謝をしている。そして、このように健気に妻としての役割を努めようとしてくれている彼女に一人の男として純粋に惹かれ、自然と男女の恋慕感情を抱くに至った。
もしも今、政略的な意図があって彼女との離縁を求められたとしても、そのような願いは断固として退けようと思うくらいに、わたしは彼女のことを想うようになっていた。
ルーナはとても明るくて、元気がよくて、自分が思うことをハッキリと言ってくれて、それでいて夫婦の関係をとても大事にして、わたしを立ててくれるとても素晴らしい女性だ。
「……うう」
ひっく、としゃくりあげるルーナの背を、抱きしめたまま撫でてやる。
ときたま、こういう時がある。
真っ暗闇の寝室で、ふとルーナが寝台の上に座り込んで声を潜めて泣いているときが。
わたしの帰りが遅くて一人きりにしているとき、わたしが帰ってきたらそうして泣いていたり。
あるいは二人で横になって寝ていたはずなのに、深夜目を覚ましてルーナのほうに目をやると、上半身を起こして座り込んだ体制で泣いていたり。
気づいてやれるときはいいのだが、きっとわたしが知らないうちに、あるいはわたしに気づかれないようにして泣いているときもあるのだろうと思う。
せめて気づいたときには、こうして抱きしめて背を撫でたり頭を撫でたりするようにしているのだが、率直に言って、泣いているルーナを見ると胸が痛んで仕方がない。
「ルーナ。一度、きみの国に帰っても」
思わずそう言ってしまったことがあった。
彼女が泣く理由など、わかりきっている。
わたしの国、サンスエッドに馴染めないからだ。そしてその理由、非は彼女にはない。ルーナは非常によくやってくれている。
単にわたしの国の人間たちの心が狭いだけだ。
だが、それも個人の問題ではなく、そういった閉鎖的感覚を積極的に育んでいったこの国の文化の責だとわたしは考えている。
うわべではルーナを褒めるような言葉を話していても、内心ではルーナを貶めている人たちがいることを、わたしは知っている。
ルーナは表向き、うわべの言葉にだけ反応するように振る舞っているが、自身がよく思われていないことは肌で伝わってしまうのだろう。
わかっていてそのままにしておくわけはない。探りを入れて、ルーナを悪く思っている素振りを出した人間は厳重に注意、あまりにもひどい場合にはなんらかの処罰を与え、わたしとルーナの婚姻が目指すものを理解してもらえるように、国中の人たちに再三説明をしているが、なかなか周知と理解が進まない。
(わたしの力不足だ)
ルーナを好意的に見てくれている人ももちろん多くいる。ルーナとの結婚を足がかりに、外交施策の活性化の動きもある。
だが、ルーナ自身がこのように辛く感じているこの現状。わたしがルーナのことを守れているとはとても言い難い。
だから、せめて。
少し休ませてやりたい。慣れ親しんだ地にひと時だけでも帰ってもよいのだと、そう伝えたのだが。
「――あたしをバカにしておいでですか」
わたしの提案は、ルーナに一蹴された。
大粒の涙を抱えた瞳でわたしをキッと睨みつけ、ルーナはそう言った。
「あたしのためと言うのであれば、そのようなことはもう言わないで。帰りたいのなら、自分から帰りたいと言います。あたしが言わない限り、あなたがそんなこと言わないで」
「ルーナ……」
「あたしはあたしの務めをちゃんと果たしたいのです」
涙を自分でぬぐいながら、ルーナはハッキリと言った。
◆
――それ以来、わたしはルーナに「帰ってもよい」と言ったことはない。
その日のルーナは謝っても完全にそっぽを向いてしまって、まだ夫として未熟な自分はどうしたよいのか困り果ててしまったことをよく覚えている。
「……」
なので今は、ルーナが泣いているその時はただただ抱きしめて過ごすようにしている。
「ルーナ。わたしの愛しい人。君はいつも頑張っているね」
「……」
「君のおかげでわたしはいつも救われている」
ルーナの美しい銀の髪を撫でながら、耳元で囁く。
「公務の時に、君がわたしの隣にいてくれるととても心強いし、いつもきれいにしてくれていて嬉しい」
ぴく、とルーナの肩が揺れる。
「君がとても強い女性だと知っているよ。だからわたしは君を選んだのだけど、でも、頼りたいことがあったらいつでも頼ってほしい」
「……」
ゆっくりと頭を撫でると、徐々にルーナが自身に身を預けだす。
寄り添ってきた彼女をさらに引き寄せて抱きしめる。
ルーナはわずかにひっくとしゃくりあげる。見下ろすと、耳とうなじが真っ赤だった。
「……」
普段ルーナは元気によく喋る子なのだが、こういうときはほとんど言葉を発さない。
顔やら耳やら首あたりまで真っ赤にさせて、所在なさげに目線を彷徨わせているばかりだ。
嫌ならば「嫌」ということは言うのだが、どうもこういうときにはどういうことを言えばいいのかわからなくなって、何も言えなくなってしまうらしい。
「ルーナ」
小さな手が寝間着をぎゅっと掴んできた。
よしよしと頭を撫で、背を屈めて口づけをする。
「かわいい人だな、君は」
まだ少し、泣いているようだが、じきに落ち着くだろう。
ルーナの華奢な身体を抱きしめながら、ゆっくりと寝台に倒れこみ、額のあたりを撫でながら再び唇を落とした。
そんなわけで、嫁いでからのルーナです。
ずっと私の頭の中ではルーナをよしよししているリュカ様がいたんですがなかなか書くタイミングがなく…書けて個人的にとても楽しかったです。
リュカは外とか公の場だとルーナにも敬語なんですが二人きりの時はこういうよしよし系の口調です。私の趣味です。
すでに今日(11月29日)日付変わりそうなのですが、本日電子配信スタートしております!
当時の私がきままに書きすぎて読みにくかったところとか全面的に読みやすいように改稿頑張ったのと、カミル視点の幕間やこのSSよりももっと先の時系列のリュカルナ夫妻がカミルとミリアのところに遊びに行くオマケのお話とか加筆も頑張ったので、ぜひぜひよろしければお読みいただけましたら嬉しいです!
ちなみにAmazonさんでPODというオンデマンド印刷で物理の紙冊子も得ることができます。私は買いました(予約配送待ちです)
イラストはShabon先生に超ッかっこいいカミルとすっごいかわいいミリアを描いていただいております。しかも、素敵なバラ園まで描いていただき…作者冥利につきます。
ページ下部や活動報告に書影を張っておりますのでぜひごらんください…!!!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!





