第十八話 精霊騎士決定戦!!!
サドンデスマッチとか色々あったけれど、精霊祭は無事に当日を迎えた!
「……ミリア、立派に育って……」
精霊様の衣装を身にまとった私を見て、お父様は涙を滲ませていた。
きっと、お母様のことを思い出しているのね。
私の今の姿は、亡きお母様によく似ていた。
ひらひらでふわふわの衣装はとてもかわいい。私の髪色に合わせて、淡いオレンジ色の布地をベースに差し色として、黄緑の透け感のある素材が使われてる。
衣装に使われている布地はどれも淡い色使いなんだけれど、色の組み合わせがいいのかしら。鮮やかに見える。
お化粧もしてもらった。普段はしないような、華やかでちょっぴり派手かな? というメイク。
「精霊様のお顔が遠くの皆様にもよく見えるように」と……。鏡で見た自分の顔は、まるで自分じゃないように見えた。
でも、お父様も、お兄様も精霊姿の私を見て「ミリアらしい」と仰ってくださっていたから、自分じゃわからないけれど、きっと他の人から見たら、いつもの私とそう大きく印象は変わらないのかもしれない。
とにかく、私はソワソワしていた。これから大役を務める不安、いつもと違う姿をしている緊張感、色々。
「精霊様! ご準備は整いましたな! みんな、待っておりますぞ!」
控室に迎えにきてくださった神官に連れられて、私は王都の中央広場へと歩いてく。
私が歩くと、観衆は歓声をあげて、私を歓迎してくれた。仕切りがされた道沿いには大勢の人が集まっていた。
(す、すごい。さすが、国を挙げてのお祭り……!)
なるべく、周りをキョロキョロ見ないようにしながら、私は前を歩く神官さんの背についていった。
◆
「これより、精霊騎士決定戦を執り行う!」
肌に触れる空気がビリビリするほどの歓声がドッと巻き起こる。
精霊祭の催しの一つ、『精霊騎士決定戦』というトーナメントだ。
「精霊様。精霊様は特別席へお越しください」
神官に促されて、私はトーナメントを行う闘技場の、特別観覧席についた。
闘技場を一望できる特等席だ。
周りの熱気のせいで、ドキドキしてきた。格闘技とか、そういった類のことはあまり興味はなかったけれど……。
「このトーナメントを勝ち上がった者が、精霊様をエスコートできますからな。出場者はみんな、気合が入っておりますな!」
私のそばについてくれている神官が、ほっほっほと上機嫌に笑っていた。こういう催し物が好きな人なのかな?
……私とルーナ様のサドンデスマッチも神官はみんな取り囲んで大盛り上がりしていたから、神官ってみんなそうなのかも……。
なんて思っていると、司会進行役の蝶ネクタイを身につけたダンディなオールバックの男性が、よく通る声でこれから始まる試合の選手の名を呼び始めていた。
「第一試合、Aグループ! 東、ロミオ・クラーク!」
選手の名を呼ばれると、観衆は皆、大きな声をあげて会場を盛り上げた。
リングの上に現れた青年が片手を軽くあげ、それに応えるとより一層会場は沸き立つ。
その喧騒から離れた場所で、神官と二人きりで見ている私はどこかよそごとのような気がしながら、「すごいなあ」と思っていた。
そう、呑気にそんな風に思っていたのだが。
「──西! カミル・ロートン!」
(……え!?)
ドキンと、心臓が一気に跳ね上がる。
精霊は、騎士に導かれ、女神へと至る。
我が国には、そういう伝承があって、これはその伝承の再現だった。
精霊役はくじ引きで選ばれるけど、エスコート役の騎士はトーナメントで勝ち上がった男子から選ばれる。
カミルはその騎士役トーナメントに出場していた。
ハリがあってツンツンとした金の髪、遠目からでもよくわかる整った目鼻立ちは、間違いなく、カミルだった。
(そんな話、聞いてなかったわ!)
どうしてカミルが。
試合では剣を使うのに、剣なんて、握ったことがあったの?
いえ、騎士の鎧姿は、とっても似合っているけれど!
「おや、精霊様も、バトルには興味がおありで!?」
「あ、いえ……」
急に椅子から身を乗り出した私に、神官が興奮気味に話しかけてきた。
取り繕うようにオホホホと笑ってみせると、神官は「興味アリ」と受け取ったようで、ますます機嫌よく、鼻息を荒くしていた。
とにかく、怪我だけはしないでほしい。ミリアはただただ、それだけを祈った。
◆
このトーナメントに出場する者には色んな参加理由があるらしい。
将来、騎士団に入りたい者、腕試し、公の場で合法的に暴れたい、精霊役の女の子とお近づきになりたい、親族が勝手に応募して、などなど。
結構フランクに参加できるけど、勝ち上がれば国中からとても注目されるし、名をあげたい者にはもってこいみたい。
第一試合、カミルはあっという間に相手を制した。
けれど、第一試合はこんなものらしい。有象無象の参加者が強者に絞られてくるのは、大体第三試合からだとか……。
「今回の参加者で要チェックなのは、騎士団長の息子リーガル殿と、平民ですが騎士団入団志願者のカイト殿ですかな……。リーガル殿は言わずもがなですが、カイト殿は出自のハンデはありますが、恵まれた体躯を持っており、研鑽も欠かしておりません」
「なるほど……」
ちなみにこのアレコレの知識は全て、私の横にいる神官さんの受け売りである!!!
第二試合のカミルの相手も、大したことはなかったみたいで、カミルは勝った。
でも、神官のおじさんの言う通りならば、次の試合からは厳しいものになっていくだろう。
「トーナメント表だと、リーガル殿とカイト殿は決勝前にぶち当たりますから、つぶしあいになりますな~。彼らと決勝まで当たらないで済む参加者はラッキーですな」
「……なるほど……!」
トーナメント表を見る。カミルは彼らとは離れた位置に名前があった。つまり、決勝までは彼らとは当たらない。
第三試合。カミルはしばらく打ち合いを続けていたけど……相手が勝負をかけて、大きく振りかぶった構えを取った瞬間、素早く相手の剣を撃ち落として、勝った。
(……カミル、つ、強いんじゃない……!?)
ドキドキした。
「彼は確か、貴族の息子でしたねぇ。貴族も己の名声と好感度アップのために結構出場することが多くて……って、ミリア様も、伯爵令嬢でしたな。失礼いたしました」
興奮のあまり、口が滑ってしまったらしい神官は恭しく私に礼をした。明け透けな口ぶりではあったけれど、この人自身の憎めない雰囲気もあって、不快になったりはしない。はにかんで応えると、神官はホッとしたようだった。
「彼、神官さんから見て、どうですか?」
「ううむ、そうですなあ。荒削りのカンはありますが……。意気込みのようなものは感じますな! 運次第、展開次第ですな!」
「運……展開……」
実力だけでは、厳しい……ってところかしら。
たしかに、素人目からみても、神官が優勝候補と挙げた二人の動きは他とは全く違って見えた。それに比べるとカミルは……。
(……でも、私が想像していたよりも、ずっと強くて立派だわ……)
だって、カミルが剣を習っているだなんて話、聞いたことがない。
私に内緒で実はずっと訓練していたの?