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第十一話 私と湖とため息とカミルさま

 次にカミル様とお会いしたのは、また一ヶ月後のことだった。


 今度は外でお会いした。ロートン家の領地にある湖畔に来ていた。


 青い湖はとてもきれいだった。ちょっと緑色っぽくも見えて、不思議な色。

 湖畔のほとりはサラサラの砂になっていて、海みたいだなあと思った。


 なんでも、ここに別荘を建てていて、カミル様たちはよくキャンプにいらっしゃるらしい。

 我が家の領地にはこんなきれいな湖なんてないから、見慣れない風景は新鮮だった。


「すみません、こんなところまで連れ出してしまって」

「いやいや、ご招待ありがとうございます。良い気分転換になりますよ」


 この会合はカミル様と私の交友を深めるため……という名目だけれど、お父様と、カミル様のお父上も同席していた。


 今はお昼をいただいたばかり。

 お昼ご飯はロートン家のシェフが腕を振るってくれた。燻製のお肉がとっても美味しかった!


 お父様と、ロートン侯爵はお酒を飲んでいて、上機嫌で楽しそう。


「二人で遊んでおいで」


 そう言われて、私とカミル様は二人で水辺の近くまでやってきていた。

 子ども二人だけじゃ危ないから、使用人もそれぞれついてきているけれど、少し離れた位置に控えてくれている。


 彼らって、とっても気配を消すのが上手なのよね。何かに夢中になってしまうと、ついつい存在を忘れてしまう時があるのだわ……。

 きっと『プロの仕事』というやつね。


「カミル様は、泳げるの?」

「泳げるよ、でも、ここの湖は深いから泳いじゃダメなんだ」

「そうなのね……。私は、泳いだこと自体ないの」


 綺麗な川とか、水場の景色を眺めているのは好きなんだけれど。


「お嬢様ならそれで普通じゃないの?」

「泳げたら、きっと気持ちいいんだろうな、と思って……」

「……まあ、夏とかは、気持ちいいけど」

「わあ! いいなあ!」

「君は危ないからやめときなよ」


 ちょっとぶっきらぼうな言い方。はしゃぐ私から目を逸らして、口を尖らせている。


「ごめんなさい、はしたないわよね……」


 うう、いつも私、先生からもはしたないって叱られるのよね……。ちょっと考えてものを言うようにしないと……。


「べっ、別に、悪いとも言ってないだろ!」

「えっ、あ、ごめん、そんなに気にしたわけじゃないの。マナーレッスンの先生からもよく、私、礼節が足りない、子どもっぽいと言われてるから……つい……」

「……そ、そう」


 かえって、気にさせてしまったみたい。いつも言われているからと、何気なく言ってしまった言葉に後悔する。カミル様に言われたから、じゃなくて、いつも言われているからそれで「うう」ってなっただけなのに。

 ……私、こういうところがよくないのよね。気をつけないと。


 カミル様は湖を眉をしかめて、難しい顔で湖を見つめていた。


 ……この間、別れたあとは次に会うのが楽しみ! と思っていたのだけれど……。

 やっぱり、いまいちまだ……気安くお話ができる、という感じでは、ないのよね……。


 また、小説のお話もしたいけれど、せっかく綺麗な湖にまできているのだから、ここまで来て小説のお話をするというのも、もったいないような気がしてしまって……。


 でも、盛り上がる話題……やっぱり、よくわからないわ……。


 難しい顔のカミル様の隣に並んで、私も湖を眺める。

 今日はよく晴れているから、水面が青くてキラキラ光っていて、眩しい。けれど。


「……きれい……」


 思わず、ほう、と声が出た。


「……」


 はあ、と横からため息が出たのが聞こえて、振り向くと、カミル様がいつの間にか、私を見ていた。

 私と目が合うとカミル様は慌てた様子でバッとまた湖の方を向かれた。


(た、ため息……!? つ、つまらないと思われてしまった……!?)


 困惑しながらカミル様の横顔を伺っていると、なんだか、お顔が少し赤い……気がした。膝を抱えている左手の人差し指が、落ち着きなさげにとんとんと、組まれた左手を叩いている。


(……? 照れて、る?)


 ため息をつかれた、と思ったけれど、『嫌な意味』でのため息では、ない?


 私だって、綺麗な景色に思わず『嘆息』したけれど、はたから聞いていたら『ため息』と思われたかもしれない。

 カミル様の『はあ』も、実は、ため息ではなくて別の意味がある……?


 どういう意味なのかは、私にはちょっと、わからないけれど……。


「あ、あの、カミル様」


 直接聞いても、怒られないかしら……?

 どぎまぎしながら、カミル様に声をかける。


「どうか、なさいましたか……?」

「う……」


 あからさまに、カミル様は「まずい」というようなお顔をされた。私の顔を振り向いてくださったのは一瞬だったけれど、顔を真っ赤にされて、目を見開き、口をパクパクとさせているのはバッチリ目に入ってしまった。


「べ、別に、なんでも。……き、きれいだな、湖」

「そうですね! とっても綺麗! 私、思わず見惚れてしまいました!」

「そうだろ、い、一緒だよ、君と。だから、別に……」


 別に、別に、でまたそっぽを向くカミル様。


 ため息ついた時は、私の方を見ながらだったんだけどな……? でも、追求できる雰囲気ではないわ。あんまりしつこくしたら、みっともないし、失礼ですもの。


「本当に、美しいですね」


 湖がとっても綺麗なのは、本当のことだから。

 ニコ、と笑って、私もまた湖を眺めることにした。


 太陽の照り返しが、やっぱりちょっと眩しいけれど……。


「……きれい」

「…………うん……」


 ぽつりとつぶやく、カミル様。


 また、ちょっと視線を感じたけれど……気のせいかしら?


「はあ……」


 あ、またため息だ。


 横目で見たら、頬を赤くして、カミル様も湖が照り返しで煌めいているのを眩しそうに見つめていた。


 眩しいからかな? 眉をちょっとしかめていらっしゃったけど……。


 今日はあんまり、お話しはしなかったけれど、ただ一緒にゆっくり景色を眺めている……っていうのも、これはこれでいいかも、と思った。


 カミル様は時々挙動不審になるけど、ひどいことは言わないし……。何かを言いたそうにして、ソワソワしてたり、口をモゴモゴとはさせてたけど……。何を言いたかったんだろう?


 マチルダに言われてヒロインに素直になれない男の子のお話も読み始めたけれど、ちょっとまだよく、わからない……。


 ……でも、私、カミル様と一緒に過ごす時間って嫌いじゃないなあと思った。

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『追放聖女の再就職』


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偽聖女に騙された王太子から婚約破棄された聖女は隠居した魔王と暮らす

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