灰かぶりの剣(3)
白雪はとってもおしゃべりらしい。
淀みなく続く話題、小動物のようにくるくる変わる表情は見ているだけで楽しかった。
(テーマが性事情じゃなければもうちょっと楽しめるのだが・・・)
そんな心の声を聞き取ってはくれず、白雪は自分の武勇伝を詳細に語ってくれる。
実は私は白雪のあらすじを知らない。
私が知っているのは私の人生だけだ。
ただ、子供の頃、隣の国の姫が生まれた時、街中で話題になった。
何でも「お妃様が白雪という名の『雪のように白い肌と黒檀のように黒い髪、血のように赤い唇の子』を産んだ」と・・・
「なぁ白雪、この世界のお話はどんな話なんだ?」
片手を上げてマシンガントークを遮る。
この世界のメインに聞くのが一番てっとり早いだろう。
白雪は遮られても全く不快感を出さず、小首を傾げて新しい話題に食いつく。
「この世界?」
「君もプリンセスなんだろう?私はこの世界を知らない、ということはここは君の世界のはずだ。ここがなんという名のどんな世界なのか知りたいんだよ。」
「だから言ってるじゃない?可愛い私、白雪姫が近親相姦から乱交、死姦愛好までを網羅し、雄犬どもを屈服させ、天下をとる性愛無双伝よ!私の手にかかれば干からびた親父だろうがゴブリンだろうが思いのままなんだから!おーほっほっほ。」
「うぅ・・・・・・」
そういうことじゃないんだが・・・。
胸に手を当て、目をキラキラさせて高笑いする白雪を見ていると、自分の言った事をなんら疑っているようには見えない。
聞いた私が馬鹿だったのか、それともまさかこの世界は本当にそんな話なのか?
「・・・その割には狩人に襲われていた時、結構本気で「助けて」と言ってなかったか?涙目だったぞ?」
「あーあれ?・・・てっきりババアが化けて来たのかと思ったのよ。」
自信に溢れたさっきまでとはうって変わってしゅんとなる。
頭を掻きながら「もちろん演技よ、演技」と言っているが、照れ隠しのように気まずそうに笑っている。
「・・・ババア?化ける?」
「あの狩人との濡れ場に人が現れるなんて今までなかったわ、だから久しぶりにイレギュラーが発生したと思ったのよ。狩人はババア・・・お母様の愛人だから、あの場に現れるとしたらお母様以外ありえないわけ。今回は全年齢対象設定だったからだったお母様の前でアンアンやっちゃうとまずいのよ。」
「・・・イレギュラー?」
「知らないの?都市育ちなのに遅れてるわね。イレギュラー、つまり、二次創作よ!!」
「ニジソウサク??」
ーーー白雪ちゃんの小話
いい??この世界は何人かの作家って呼ばれる、んーまぁ、神様みたいなもん??が世界を構築してるのよ。で、そいつらが原作のキャラを使って全然違うお話を作っちゃうのが二次制作。
普通、メインと言えどオリジナルが破綻するような行動は出来ないし、王道補正がかかるんだけど、世界が承認するとその回は二次創作として扱われて、その回はオリジナルとは善悪が逆になったり全く違う結末をもたらしたりするの。
最近流行ってるてしょ!悪役令嬢とか、敵役を主人公にして実はいいやつ的な設定でオリジナルを覆すやつ!
「・・・ほう、そんなことがあるのか」
「私もまだ2、3回しか合ったことないけどね。お母様がいい魔女とか、王子が現れなくて森でみんなで仲良くハッピーエンドみたいなのとかあったわ。」
「・・・私の世界で起きたことはないな」
「そりゃ、あんたんとこはオリジナルが完成しすぎてるからね。「シンデレラストーリー」って形容されるくらい女の子の夢が詰まってるし、変にイレギュラー起こしたら苦情くるんじゃない?悪役が対して極悪じゃないから意外性なくて面白くなさそうだしねー」
白雪はどうやら私の世界の物語を知っているらしい。
何回もループして経験が豊富なのかもしれない。
ならばこの白雪がメインになったのは大分昔なのか?
「ただ、たまに起きるイレギュラーは私たちメインにとってはマンネリ防止。言ってみれば・・・そう、ドキドキ恋してるみたいな感覚なわけ!!なんか『新しい展開キター』ってやつよ!!なのに・・・今回はただあんたが迷い込んだだけってことでしょ?それじゃあお話自体は変わらない・・・普通のオリジナルルートじゃない!」
「それは・・・いいことでは?」
「何言ってるのよ!」
胸ぐらを掴まれ鼻と鼻がくっつくほど近に白雪の顔がある。
ドキドキ。
くわっと目を見開いて詰め寄られたそれは、蛇に睨まれたカエル?猫に追い込まれたネズミ?
私にはマンネリ対策はまだ必要ない気がする。