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グリムズ・ウェポン  作者: かんな
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灰かぶりの剣(2)

「あの、助けて下さって・・・あっ…」


 ひらひらと舞う羽根のように柔らかい灰を顔いっぱいに浴びていると足元から声をかけられた。

 先ほどの少女だ。

 未だ一糸まとわぬ姿で傍に座り込んでいるがその雪のように白い肌、光る黒檀のような髪、りんごの様に赤い唇は絵画や彫刻のように神々しかった。

(美しい娘だな。それにしてもこの容姿、どこかで・・・)

 立とうしているのか私のドレスを引っ張るので手を貸すと、華奢な身体は大した抵抗もなく立ち上がった。 

 引き寄せたそれは、紛れもなく幼い顔立ち。くりっとした瞳は黒いまつげに縁取られ、不安そうに眉をひそめる様子は庇護欲をそそり、まだ大人になり始めたぐらいの小柄な体つきは、中性的とも言えるくらい凹凸が少ない。

 それなのになぜか熟練の娼婦を思わせるような色気があった。

 

「あっ、あり・・・」


 少女は握った手を離さず、俯いて視線を落とす。

 灰を被った黒髪しか見えなかったが、より一層力を込めて握られた手から震えているのが分かった。

 大丈夫か?と声をかけようとすると・・・


「あり・・・ありえなーい!!」


「・・・・・・ん?」


 突然、顔の真ん前で起きた絶叫に思考が一瞬停止する。

 少女は軽く私をどつくと裸のまま両手をグー握りしめ、鼻息も荒く、ムキーと叫びながらガニ股に地団駄を踏んでいる。

 あまりの恐怖にパニックでも起こしたのか? 

 まるでゴリラのように喚いている姿は先ほどの可憐な少女と同一人物とは結びつかない。


「なんで灰かぶりがこっちに来てんのよ!!あんたのテリトリーはもっと東でしょ」

 

 ビシッと真っ直ぐに私を指をさし、目を逆三角に釣り上げながら怒鳴った。


「・・・私の事を灰かぶりと?」


「それ以外の何だっていうのよ!その剣、それが証拠よっ!ー触れれば全てを燃やし尽くし、後には灰が降るだけ。まんま『灰かぶり』の剣じゃない!!」

 

 あまりのガサツで乱暴な素行に呆然と見つめていたが少女が私の役を言い当てた事で冷静になる。

 指さされた先は、私の手の中にある細身の長剣。

 炎の剣(フラムベルく)とも呼ばれる所以は、その両刃が炎を模った曲線だから・・・。

 そして、「ー触れれば全てを燃やし尽くし、後には灰が降るだけ。まんま『灰かぶり』の剣じゃない!!」

 私のことは知らないが、これが灰かぶりのグリムズ・ウェポンであることを知っている。 

 なるほど。

 彼女もメイン、おそらく『プリンセス』なのだろう。




 ーーーこの世界は様々な物語がパラレルに展開していて、特定の人物が同じストーリーの同じ役を何回も繰り返す事でその役に自我が発生することがある。こういう人物をメインと呼ぶ。

 特に主人公であるプリンセス職は、元々頻出する上に悪役のように死んだりすることが少ないので、次のストーリーでもそのまま役が据え置きになる事が多く、必然的に最もメインになりやすい。

 逆にモブは、その一度きりの人生を終えると、その記憶が刻まれた本が再び開かれ、同じような解釈をされない限りは復活しない。


ーーーそしてメインに昇格するとボーナスがつく。

 まずは、自我が生まれること。

 作者の意図邪魔したり、展開を大きく変更しない限り自由に動けるし、一度演じた性格は保持することが可能、つまり前世の記憶を持ったまま人生をループする能力が得られる。

 そして、二つ目はギフト。

 それぞれのメインにちなんだ武器、『グリムズ・ウェポン』が貰える。

 武器と言ってもバトル・ロワイヤルをするわけではないので、必ずしも殺傷能力のあるものとは限らない。

 実際、グリムズ・ウェポンを一度も使わないままその回の生涯(エンデ)を終えることも多々ある。




(誰が何のためにこんなもの作ったかは知らんがな・・・)


「・・・お前は白雪か?」


「そうよ、ここいらに黒髪の姫なんてそうそういないでしょ??」


 何を当たり前の事をと言わんばかりに盛大にため息をつき、腰に手を当てると白雪はふんぞり返って言い放つ。

 せめて何か羽織ったらどうだ、と地面に散らばっていた布切れを拾い上げ渡す。

 性液に汚れた服でも着ないよりマシだろう。

 それなのに白雪は放り投げた服を噛みしめる。

 そして典型的な悪役令嬢がやるように、きぃーと盛大に引っ張って嘆いた。


「あーあ、失敗したわぁ。せっかく珍しく〝狩人とヤレるルート〟だったのにぃー」


「・・・ん?ヤレ・・・る?」


「そうよ、エッチ!セックス!分かる?大事な人間の三大要求よ!まぁ、私たちは人間じゃないけど・・・。でも作ったやつらが人間なんだから同じってことでいいはずよっ!!」


 白雪はまるでこの世の損失とでもいうように「あーあ」と手の甲を額にかざして嘆息する。

 花を恥じらう乙女ともいうべき少女から出てくる恥じらいのない言葉に開いた口が塞がらない。


「お父様は立ちが悪いし、王子は死んでる時しかエッチしてくんないし、ゴブリンどもは・・・まぁまぁだけど小ちゃいし・・・そう考えると一番まともにイイのが狩人だけなのよねー。だけど、あいつとヤレるルートは珍しいのよ。最近は教育的指導?のせいか狩人は『白雪姫が可哀想で、継母の企みを耳打ちしてこっそり逃がす』って設定ばっかでさ。わざわざ忠告してくれるなんて森のくまさんかってのっ!!」


「・・・そうか、合意だったのか。てっきり襲われてるのかと・・・」


「合意じゃないわよ、襲われてるに決まってるじゃない!見てたでしょ腕掴まれてたの?この世界では狩人の性格は結構曖昧なの。だからいい人だったり悪い人だったりするのよねー。今回みたいなマジでゲスい狩人は珍しいんだ。あーゆーのに手加減なくガンガンされるの好きなのよねー、あー思い出しただけでゾクゾクする。もう、せめて後二回くらいやってから殺してくれればよかったのに・・・」


「・・・それは悪かった。」


 ぷんすこ。

 と、バックに掲げて白い頬を膨らませる白雪。

 お人形のように可愛い顔しているのに凄まじくはすっぱな事を言っているはずだが最近の若者はこんなもんなのか?

 正直、聞いているこっちが居たたまれない。

 灰かぶりの役は、物語の前半は家でひたすら家事をさせられてるし、後半は舞踏会に行ったら王子と踊ってすぐ退散、せいぜいガラスの靴をはかされる時に名乗りを上げるくらいが王道ルート(デフォルト)なので、こんなにたくさん、・・・一方的ではあるが・・・人と話したのは久しぶり、いや初めてかもしれない。

 最近の若い子は随分オープンに性事情を話すのだな、と諦めに似た眼差しを向け、その後止めどなく溢れてくる白雪の「エッチがいい男」論を気がすむまで聞かされる羽目になった。



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