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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
スウェーデン ゴットランド島
93/175

プロローグ 忍び寄る不安

 気付くと彼女(・・)はどことも知れない場所にいた。淡く発光した靄に包まれた幻想的な空間だ。空も地面もなく、まるで自分が空中に浮遊しているかのような不思議な感覚。


 彼女は特に驚いてはいなかった。何故なら自分がここに来たのは初めてではないからだ。なのでこの後やってくる人物(・・)についても解っていた。


『おお、ミネルヴァよ……。お前はまだ目覚めぬのか』


 嘆くような、そして何かを憂うような怜悧な印象の女性の声が、靄の向こうから響いてきた。やはり今回も現れた。


 靄を割るようにして彼女の前に現れたのは、まるで北欧神話(・・・・)に出てくるような時代がかった独特の意匠の鎧を身に纏った銀髪の女性であった。その美貌は神々が精緻に作り上げたかのような非人間的な硬質さを備えていた。


「また来たの? ……毎度ご苦労様」


 彼女は無感動に肩を竦めた。元々感情の起伏には乏しいという自覚がある所に、何度も同じ事を繰り返されれば無感動になるのも早かった。


「また邪神がどうのとか、地球の危機だとか、荒唐無稽な話を繰り返す気? 何度来ても同じ事。あなたの言う『地球の危機』なんて何も感じられないし、そもそもそんな話を信じられるはずがないから」


 それは当然の話だろう。そもそもこの『夢』自体現実のものではないのだから、このように律儀に答えるのもおかしな話かも知れないが。


 だが目の前の存在はそんな彼女の言動に怒ったり嘆息したりするどころか、微妙に口の端を吊り上げたのだった。それはある意味でこの夢の中の存在が初めて見せる、現実的な『感情』の発露であった。


「……!」


 皮肉にもその反応を見て、彼女は初めてこれが『現実』かも知れないと思い始めていた。



『もうそのように平和ボケ(・・・・)していられる時期は過ぎた。危機はお前のすぐ近くにも迫っている。そして……それに抗する者達(・・・・・)もな』



「え……?」


 これもまた今までにない言葉であった。迫っている危機というのも気になったが、それよりもその危機に抗する者達という言葉がより気になった。この存在は彼女に、その危機に立ち向かうべしと言ってきた。という事はその『抗する者達』というのは、彼女と同じ立場(・・・・)という事にならないか。


『お前の想像する通りだ。危機に備えよ。その時はもうすぐそこまで迫っている』


「あ……」


 鎧の女性はそれだけを告げるとまた靄の中へと消えて行ってしまう。彼女が呼び止める間も無かった。そして……彼女は目を覚ました。



*****



「…………」


 目が覚めると、視線の先には寮の見慣れた天井があった。時計を見ると既に午前10時を回っている。今日は選択している大学の講義が何もない日なので、昨夜はかなり夜更かしをしてしまった。


 寮と言っても人口密度のそれほど高くないこの街の事、全てプライベートな個室であり他人の目を気にする必要が無いので、日中になるまで惰眠を貪っていても何も問題は無かった。


 身支度を整えてから、朝食兼昼食のために大学構内にあるカフェに行く。バルト海の只中に浮かぶこの島は殆どの部分が『海沿い』に当たるが、このカフェからの景色が特に気に入っていたので、講義などがない日でも良く食事の為だけに通っていた。



 大学への道の途上に、大規模な工事現場が横目に見えた。このゴッドランド市には大昔のヴァイキング時代の遺跡が数多く残っており、大戦中の要塞跡とともに観光名所ともなっていた。特に今のハンス・ベルセリウス市長はこうした遺跡の改修に熱心であり、このゴッドランド島をかつてヴァイキングが交易拠点として活用していた頃の繁栄を取り戻すと謳って、選挙に当選した人物であった。


 ヴァイキング時代の遺跡を甦らせる事で、大昔の海賊商人達にあやかろうとでも言うのだろうか。下手に観光客やビジネス目的の人間が増えて騒がしくなるより、この静かで風光明媚な島の方が好きであった彼女は今一つその理念に賛同できず、僅かに眉を顰めて工事現場の横を通り過ぎて行った。



 大学のカフェに着いた彼女は軽食を摂りながら、持参した好きな小説を開いてページを手繰る。悪天候も多いこの地域では珍しく良く晴れたうららかな日和で、まさに彼女にとっては至福のひと時であった。


『……続いてはギリシャのアテネで発生した「悪魔のテロ事件」の続報です。犯人達の射殺によって終息した事件ですが、病院に搬送された被害者のうち新たに3人の死亡が確認され、これで事件による死者の数は200人を超える事となり、ギリシャ史上では最悪の死傷者数を更新する犯罪となりました……』


「…………」


 だがフロアに備え付けられたテレビに流れる血生臭い事件のニュースが、その至福のひと時に無粋な横槍を入れる。他にまばらにいる客(学生)やスタッフ達も殆どがそのニュースに見入っており、チャンネルを変えるように頼むのも難しかった。


 ギリシャで起きた『悪魔のテロ事件』は今の所、欧州のみならず世界中の関心を集める一番にホットな話題である事は確かだった。


 事件の被害規模の大きさは勿論なのだが、注目を集めている本当の理由はこの事件を起こした『犯人達』にあった。


 まるで聖書に出てくる悪魔そのものの姿で、手から炎や電撃など魔法のような力を使って人々を襲う様が現場にいた多くの人々のスマホ等によって動画で撮影されており、それが最初はネットやSNS上に瞬く間に広がって、ついにはマスメディアも地上波で取り上げ始めたのである。 


 この悪魔のような姿をした犯人達は射殺されるといずれも溶けるようにして消えてしまい、死体が残っていなかった。その為本当に悪魔だったのではないかとネットを中心に憶測が憶測を呼び、特に欧州各国のメディアは連日この話題で持ち切りという状態であった。


 遠く離れた極東の日本(・・)でも少し前に、一つの学校の生徒達が教師に至るまで残らず惨殺されるというショッキングな事件があり、しばらく日本だけでなく世界中の関心を引いたが、今回のテロ事件は実際に『犯人』の姿が動画に残されている事もあって、それ以上のセンセーショナルな話題となっていた。


 このような暴力的な事件を嫌う彼女はこの事件の話題を忌避していたくらいであったが、昨日に見た『夢』のせいか、今日はそのニュースから目が離せなくなってしまう。



あの人(・・・)は『邪神』と言っていた。邪神の勢力が地球を危機に陥れている、と。だとするとこの『悪魔』達もまさか……本物、なの?)



 あの夢が現実だとするならば、信じがたいがその可能性は高いと言える。人知を超える存在が実在していて、それが地球を蝕んでいるという話。


 そんな存在に対して自分のような、ただの文学好きの田舎女子大生に一体何が出来るというのか。あの存在はしきりに彼女に対して『目覚めろ』というが、目覚めるというのはどういう事なのか。


(邪神に『抗う者達』が他にもいると言っていた。しかも近くまで来ているって……)


 それが本当なら、その者達に会えば自分の疑問も解けるのだろうか。答えの出ない疑問と漠然とした不安に彼女は憂慮の溜息を吐くのであった。


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