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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
ギリシャ アテネ
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第16話 南征北伐

 首を刎ねられて転がり落ちたコットスは、驚くべき事にまだ死んではいなかった。ただし流石にもう戦う力はないようだが。


「見事だ。だが我々を倒した所で意味はない。【外なる神々】の力は余りにも強大だ。君達にそれを止められるのかね?」


 どのような原理か、首だけになってなお喋るコットスに答えたのはぺラギアであった。


「さあね。でもやれるかどうかは関係ない。やるのさ。抗う力があるのなら、ただ何もせずに滅びを待つだけなんて馬鹿げてるよ。私はもう二度と(・・・)諦めたりはしない」


「……! ふ……なるほど。一度は挫折した君だからこそ、諦める事の怖さを知っているという訳か。ならば精々抗ってみるといい。私を殺したのだから、それくらいはやってもらわなくては、な……」


 コットスは最後に笑ったように見えた。そして目を閉じるとそれきり二度と目を開ける事も喋る事も無かった。



 コットスの死を証明するように、小鈴達4人が閉じ込められていた紅い結晶の檻がひび割れて一斉に砕け散った。


「天馬!」「テンマさん!!」


 解放された4人が駆け付けてくる。彼女らの顔にはいずれも敵の罠に嵌って決戦で力になれなかった忸怩たる思いが浮かんでいた。


「あのような罠に嵌まるとは、我が一生の不覚だ」


「まあ何にせよ勝てたなら良かったわ。本当に……心配したんだから」


 大人であるアリシアやラシーダも常とは異なる態度で接してくる。


「ああ、まあ気にすんな。終わり良ければ総て良しだ」


 天馬も強敵を無事に打倒した直後で気が鷹揚になっていた事もあって、苦笑しながら彼女らに応えていた。



「でも……これで完全に終わったね。『破滅の風』は壊滅し、混乱はあったがアテネも徐々に元の平穏を取り戻していくはずだ」


 ぺラギアも剣を収めて歩み寄ってきた。故郷が平穏を取り戻したのは間違いなく良い事だが、これで彼女がこの街に……この国に留まり続ける理由もまた無くなってしまった。邪神の勢力と戦い続けるに当たってはこの国から世界に出ていく必要がある。


「でも君達と出会ってその僅かな迷いもなくなった。私も世界に出て君達と共に戦おう」


「ああ。改めて歓迎するぜ、ぺラギア」


 天馬とぺラギアが再び握手を交わす。



 リーダーを失った『破滅の風』の残党達は急速に統制を失い、街で暴れていた奴等は例外なくギリシャの警察や軍隊によって討伐されていった。こうして世を騒がせた悪魔のテロ事件は終息し、同時に天馬達のこの国での戦いも終わりを告げたのであった。





 その数日後、テロ事件の影響で一時閉鎖されていたアテネ国際空港が再稼働した。そして空港のロビーには天馬達一行の姿もあった。勿論皆神衣ではなく普通の装いに戻っている。


 だが天馬達は現在全部で6人なのだが、この時一行は丁度3人ずつで分かれて、互いに向き合うような形になっていた。といっても別に以前のように仲違いした訳ではない。


「……シャオリン、本当にこのメンバー分け(・・・・・・)で良いのだな?」


 アリシアが確認の意味で問うと、小鈴は迷いなく頷いた。


「ええ、問題ないわ。私自身、頭を冷やして自分を見つめ直すいい機会だと思うし」


「シャオリンさん……」


 小鈴の決意にシャクティは何と声を掛けて良いか解らず言葉を詰まらせる。天馬の横にはシャクティとアリシアが立っており、それと向き合うように小鈴、ラシーダ、そしてぺラギアが立っているという構図であった。



 こうなっている理由は昨日、米国聖公会のジューダス主教より新たなディヤウスの所在についての連絡があったからだ。今までは1人ずつであったが、今回は2人(・・)の所在がほぼ同時に判明したとの事であった。


 これは今までにないケースであり、『神』が早く戦力を集めて邪神の勢力を殲滅するように求めているのだという解釈が、特に教会の上層部に急速に広まっているらしい。


 ここでもたもたしているとまた教会のお偉方が騒ぎ出す恐れがあるという事で、アリシアの提案によって二手に分かれてそれぞれのディヤウスの元へ赴く方針となった。こちらはぺラギアも加わって6人いるし、二手に分かれても3人はいるので対ウォーデンの最低限の戦力は確保できている状態だ。


 そして天馬自身も茉莉香の事があるので、悠長に時間を掛けているよりはこの方が都合が良かった。必然一行のリーダー役になっていた天馬が賛成した事で、二手に分かれる方針は決定された。



 問題はそのチーム分け(・・・・・)であった。昨夜急遽ホテルに集まって、このチーム分けをどうするかが話し合われた。その結果が今のこの構図であった。


 シャクティは真っ先に天馬と同じチームを希望した。てっきり小鈴も同じチームを希望すると思っていたので、またエジプトの時のように付き合いの長い同年代3人での旅が出来ると期待していたのだが、小鈴は意外な事に天馬と別のチームでいくと宣言したのだ。


 てっきり一度別れた時の事を引き摺っているのかと思ったが、そうではなく今までずっと天馬と一緒で彼に頼り過ぎだった事を実感して、一度彼から離れて自分自身を鍛え直すのが目的なのだという。


「ふむ、中々素晴らしい心掛けだね。そういう事なら私はシャオリンをサポートさせてもらうよ」


 ぺラギアは小鈴のチームに入る事を希望した。


「そうねぇ。私はどちらでもいいけどシャオリンの方が危なっかしい感じだから、今回は彼女のサポートに回らせてもらおうかしら」


 ラシーダも小鈴のチームに入る事になった。この時点でチーム分けが確定した。


「では私はテンマの方に加わらせてもらおう。戦力的にも丁度良い塩梅だな」


 アリシアが頷いた。天馬も含めた6人は前衛型と後衛型が半々で分かれているので、どちらか一方に偏ってしまうのはバランス的に宜しくないが、天馬と同じ前衛型である小鈴が自発的に別チームを希望してくれたお陰で偏りを防ぐ事が出来た。



「小鈴、そっちは任せたぜ。無事に戻って来いよ」


 空港で別チームとなった小鈴達に一時の別れを告げる天馬。2つのチームはそれぞれの目的を達成したら、再びこのアテネで待ち合わせる予定となっていた。小鈴は力強く頷いた。


「任せて。必ず新しい人を見つけて戻って来るわ。天馬達こそ気を付けてよね?」


 2チーム6人は互いに別れを惜しみつつ相手を激励した。これから天馬達は北欧のスウェーデンに、そして小鈴達は遠く離れた南アフリカへと飛ぶ事になる。


 北と南に遠く離れて戦う事になる仲間を激励しつつ、戦士たちはそれぞれの戦場へと旅立っていった……




*****




「ひっ……」


 茉莉香は目の前に並べられたモノ(・・)を見て、引き攣った悲鳴を押し殺した。



 日本、東京。その只中にある高級ホテルのロイヤルスイートには現在、豪奢な内装からは極めて浮いた異質な光景が広がっていた。否、それは例えロイヤルスイートではなく安宿の一室であろうと浮いていたであろうが。


「さあ、よく見ろ、茉莉香よ。我等に楯突いた者、弓引く者は皆こうなる(・・・・)


 ウォーデンの〈王〉を名乗る男、旧皇族の朝香啓次郎は、目を逸らそうとする茉莉香を許さず、無理やりその光景を見せつける。


 今、彼女達の目の前の大きなテーブルには、人間の生首(・・・・・)が大量に並べられていた。数える気にもなれないが、ざっと見ただけで20人ほどはいる。それだけの人間の生首が茉莉香の前に並べられているのだ。


 生首群は変わり果てた姿ながら、どれも日本人ではないらしい事が一目で分かった。 


「こやつらはほんの一部(・・・・・)だ。実際には恐らく100人程はいたであろうな」


「い、一体……何なの? この人達が何をしたと言うの……?」


 幸か不幸かあの学校での惨劇を経て否が応にも死体に対する耐性が付いていた茉莉香は、辛うじて失神する事無く問い掛けた。啓次郎は「弓引く者」と言っていた。只の一般外国人を虐殺したという訳ではないのだろうか。



「アメリカを拠点とする米国聖公会の者共だ。不遜にも我等を抹殺(・・)しようと攻撃を仕掛けてきおった。その結果がこの目の前の光景という訳だ」



「……!」


 茉莉香は目を見開いた。米国聖公会と言えば、確かあのアリシアという女性が所属していた組織ではなかったか。


 すると彼女の疑問が聞こえた訳でもなかろうが、この生首を持参(・・)して今も2人の前に佇んでいる白人男が口を開いた。


「聖公会の暗部『聖殺部隊』の者達でしょう。主教のジューダスは関わっていないと思われます。奴はこのような無謀な愚挙を仕出かさない。恐らくはその下の過激な幹部達が暴走したという所でしょうな」


 その男はベネディクトという名前で、これまでにも何度かこの部屋を訪れて啓次郎に色々な報告をしていたので茉莉香も顔を覚えていた。この男もウォーデンであるらしい(確か啓次郎が『メタトロン』のウォーデンと言っていた)。


「ふ……流石に古巣(・・)だけあって詳しいな。そう言えば聖公会にはお前の他にも女のディヤウスがいたらしいな?」


「……アリシア(・・・・)ですか。未だにこのような愚かな組織に所属している馬鹿な女です。我等や【外なる神々】に敵うはずもないというのに」


 ベネディクトが吐き捨てた。アリシアとは同じ組織に所属していたらしく面識があるようだ。


「ふむ……今も我等に対抗しようと何やら裏でコソコソと動いているようだが……。取るに足らぬ故に放置していたが、このように身の程知らずにも我等に直接噛み付くというのであれば話は別だ」


「では……叩きますか?」


 ベネディクトの問いに啓次郎は鷹揚に頷いた。


「うむ、お前に任せる、ベネディクト。連中に自分達の愚かさを噛み締めさせてやれ」


 かつて自分が所属していた組織の殲滅を任されたベネディクトだが、彼は一切躊躇う事無く了承した。啓次郎が茉莉香に向き直った。



「これで無用な雑事は片付いた。後はお前だけだ、神代茉莉香。お前が天照大神のディヤウスとして覚醒すれば一気に事を起こし、この国を制圧(・・)できる。最早これ以上は待たぬ。聖公会を蹴散らした後もお前が覚醒せぬようであれば……手荒な(・・・)手段も辞さぬ」


「……!!」


 やはり啓次郎は茉莉香の覚醒を待ってクーデター(・・・・・)を起こすつもりなのだ。覚醒した彼女の力をどう利用するつもりなのかは分からないが、非常に良くない事が起きるのは間違いない。


「友人や家族を殺し精神的に追い詰めるだけではお前は覚醒しなかった。ならば次は肉体的(・・・)に追い詰めるだけだ。私がいつまでも甘い顔をしていると思わぬ事だ」


「……っ!」


 暗に拷問を示唆する啓次郎の言葉だが、茉莉香はそれよりもあの学校や家での惨劇が自分を覚醒させる為だけに仕組まれたものだった事を改めて知らされてショックを受けていた。


 あの時は天馬が代わりに覚醒して戦ってくれた事で、結果的に啓次郎の思惑を挫いた形になっていたのだ。


(て、天馬……私、もう……)


 茉莉香は自分の精神が限界に近付いている事を悟って、絶望と共に幼馴染の顔を思い浮かべて、微かな希望に縋るのであった……


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