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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
ギリシャ アテネ
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第13話 紅晶の罠

 和解を為した一行は改めてアクロポリスで待ち受けるウォーデンの元へ向かう。


「見えてきたよ。あれがアクロポリスへの正門(・・)とでも言うべき『プロピュライア』だ」


「……! あれが……」


 ぺラギアが指し示す方向に聳え立つ巨大な門の遺跡にシャクティが目を瞠った。観光好きの彼女としては、こんな状況でなければ、という思いがあるだろう。


 広い階段状の遺跡の左右に台座や柱が立ち並ぶ荘厳な雰囲気の遺跡。台座にはさぞ立派な造りの像が鎮座していたのだろうと想像できる。


「……こんな場合でなければゆっくり見て回りたかった所だけど、生憎無粋な奴等が全部台無しにしてくれてるようね」


 ラシーダが『セルケトの尾』を握りながら周囲を鋭い目で見渡す。当然天馬達もそれには気付いていた。


 門の遺跡の影から続々と這い出して来る異形の悪魔達。そいつらが門や柱の上に停まってこちらを見下ろす様は、まるでそこに最初から悪魔の彫像が据え付けられていたかのようで、歴史ある遺跡に対する大いなる冒涜と言えた。



「消えろ、邪悪な悪魔(デーモン)どもめ!」


 ――ドゥゥゥンッ!!


 アリシアが先制の一撃を撃ち込む。柱の上にいた内の一体が撃ち落とされる。それを合図にプログレス達が一斉に飛び立って、上空から次々と襲い掛かってきた。


 プログレス達はこちらの戦力を警戒してか、降りてはこずに上空から火球や電撃、氷柱といった遠距離攻撃を飛ばしてくる。雨あられと降り注ぐ攻撃は、天馬達が躱すと遺跡の床や壁を抉って傷つける。


「……! 面倒な場所で襲ってきてくれたね! これ以上遺跡を傷つけられる前に早く撃ち落とすんだ!」


 なるべく躱さずに斬り払ったり盾で受けるなりして降り注ぐ遠距離攻撃を凌ぐ一行だが、その分消耗や被弾のリスクは大きくなる。ぺラギアに言われるまでもなく早期決着を付けねばこちらが危うい。



「降りて来ねぇんなら、こっちも遠距離攻撃で行くぜ! 『鬼刃斬!』」


 天馬が『瀑布割り』を振るうと、その刀身から軌跡に合わせて真空刃が射出される。狙い過たず上空のプログレスが一体輪切りにされて消滅していく。だが他のプログレスは散開しつつ飛び回りながら遠距離攻撃をどんどん撃ち込んでくる。


「ったく! キリが無いわね! 『気炎弾!』」


 小鈴も梢子棍『朱雀翼』を縦横に振り回しながら次々と上空に向かって炎弾を飛ばしていく。何発かは躱されたものの、当たったプログレスは炎に包まれて落下していく。


『ポイズンショット!』


『ドゥルガーの怒りッ!!』


 ラシーダとシャクティも遠距離技を使ってプログレス達を撃ち落としていく。アリシアは勿論遠距離攻撃を最も得意としているだけあって、撃墜数(・・・)は他の追随を許さない。神聖弾が煌めくごとにプログレスが消滅していく。


『リフレクトメイデンッ!』


 一方ぺラギアはそれほど遠距離攻撃が得手ではないらしく、代わりにその盾『アイギス』が巨大化して光り輝くと、プログレス達の遠距離攻撃を文字通り反射して跳ね返してしまう。跳ね返ってきた自らの攻撃で撃ち落とされていくプログレス達。


 そのような調子で暫く遠距離攻撃による攻防戦が続いた後、天馬達は襲ってきたプログレス達を全て殲滅する事に成功していた。



「ふぅ……終わったな。皆、怪我は無いか?」


 天馬が刀を収めて確認すると誰も大きな負傷をした者はいないようだった。流石に6人ものディヤウスが集結していただけあって、あれだけの数のプログレスの襲撃を大した被害もなく撃退できた。これが合流前のどちらか3人ずつであったらもっと苦戦していたはずだ。


「皆大丈夫みたい。流石ね。でも思ったより時間が掛かっちゃったわね」


「そうですね。街への被害が現在進行形で続いている以上、あまり悠長にはしていられませんね」


 小鈴が呟くとシャクティがそれに賛同するように頷く。 


「そうだね。ただ……これで恐らく奴等の殆どの戦力を殲滅できたはずだけど、結局ウォーデンは動かないままだったね。何故一緒に襲って来なかったんだ?」


 ぺラギアが疑念に目を細める。ウォーデンの強烈な魔力は今この時もアクロポリス上から動かないままだ。奴は結局戦力を小出しにして無駄に損耗しただけで、6人のディヤウスは健在のままだ。如何にウォーデンが強力であっても、流石に6対1ではこちらの勝ちは揺るがないだろう。


「ふん、余程の馬鹿か自信過剰なだけだろう。ウォーデンなどそんな物だ。すぐにその過信のツケを払う事になるだろうがな」


 脳筋気味なアリシアが鼻を鳴らす。だがラシーダはぺラギアに同調してかぶりを振った。


「だと良いんだけど……。確かに何か嫌な予感がするわね」


「……まあここであれこれ考えてても仕方ねぇ。シャクティの言う通り今も街に被害が出続けてる以上、このまま進む以外に選択肢はねぇ。だろ?」


 天馬が手を叩く。そう。恐らく元凶であるウォーデンを倒さない限り、今街で起きている混乱は止まらない。ならば天馬達は進む以外にない。奇しくもぺラギアが言っていたように、ウォーデンは街の住民を人質(・・)に取っているに等しいのだ。


 一行は罠や襲撃を警戒しつつ、プロピュライアを潜ってアクロポリスの遺跡上に出た。



「……!」


 そしてすぐにソレ(・・)に気付いた。アクロポリスの丘は入ってすぐに瓦礫の散乱した広いスペースがある。かつては巨大な女神アテナ像が建立されていた場所だ。


 その広場の丁度中央辺りに、男が1人佇んでいたのだ。今この瞬間も強烈な魔力を発散し続けているので、広大なスペースにおいてもその姿を見誤る事は絶対になかった。


 背景にはかの有名なパルテノン神殿が聳えているが、誰も……シャクティでさえも、その歴史的世界遺産に視線を向けている余裕が無かった。



「やあ、待っていたよ、ディヤウス諸君。弟たち(・・・)が世話になったね」


「……っ!」


 警戒しながらある程度近付くと、男がこちらに向き直った。年齢は30代と思しきスーツ姿のビジネスマン風の外見であった。一見無害な現地人といった感じの風体だが、天馬達は男を一目見るなり理解した。


 この男こそが『破滅の風』の真のボスなのだと。「弟たち」という表現からも、ギュゲースもブリアレオスも『破滅の風』の幹部ではあってもボスではなかった事が窺える。


「弟たち、ね。つまりは君が……?」


 同国人であるぺラギアが一行を代表して確認すると男はあっさりと首肯した。



「如何にも。ヘカトンケイル3兄弟の長兄『コットス』。それが私の名前(・・)だよ」



 勿論人間としての名は別にあるのだろうが、それを聞く意味はないだろう。コットスが笑った。


「しかし驚いたよ。まさか走り幅跳びのヨーロッパ選手権で優勝し、オリンピック(・・・・・・)金メダルも確実だとギリシャ中の期待を一身に集めたスター、ぺラギア・ディアマンディスが、人知れず怪物と戦うディヤウスなぞに落ちぶれて(・・・・・)いたとはな」


「……っ!?」


 天馬の視線が一瞬、ぺラギアに集中する。特にしばらく行動を共にしていた小鈴とシャクティの驚きは大きかった。


「……もう過ぎ去った話だね。今の私はお前達邪神の勢力と戦う只の戦士ぺラギアだ」


 ぺラギアが苦虫を噛み潰したようような顔になるのを、コットスは更に追い打ちをかける。


「過ぎ去った話か。そうだろうな。国中の期待を一身に集めておきながら、オリンピック直前になって練習中の不注意から靱帯損傷でリタイア。激怒したスポンサー達から訴訟まで起こされて、多額の違約金と共に転落していった過去など思い出したくも――」


「――黙れっ!!」


 ぺラギアが咆哮して一気にコットスに向けて突進した。誰が止める暇もなかった。『ニケ』に雷を纏わせて振りかぶる。


『ケラウノス――』


「――止まれ」


「っ!?」


 いつの間にかコットスの額にもう一つ大きな『眼』が開いていた。その第三の眼から赤紫の光が放射状に放たれる。その光は躱す間もなくぺラギアを包み込んだ。 


 するとぺラギアが不自然な体勢のまま急に動きを止めて、その場にぱったりと倒れ込んでしまった。死んだり気絶したわけでは無さそうだが、何故か身体が全く動かないようだ。


「ぺラギア……!?」


「よせ! 迂闊に近付くな!」


 思わず駆け寄ろうとした小鈴を天馬が押し留める。未知の力に対する警戒があった。


「あの光を浴びると身体が麻痺するとかそんな所かしら?」


「そのようだ。他にもどんな能力があるか知れん。近付かずに遠距離から仕留める方が無難だな」


 同じく警戒するラシーダの言葉にアリシアが頷く。牽制や威力偵察という意味でも、まずは遠距離主体で攻めた方が良いだろう。そう判断した天馬達は一斉に散開して、ある程度の距離を取ってコットスを包囲するような布陣となる。


 だがコットスは少しも慌てた様子がなく、逆に僅かに口の端を吊り上げた。



「君達がそう来る事を予期していないとでも? 私が何故信徒たちを捨て駒にして君達をしばらく足止めしていたか教えてあげよう」


「……! させるか……!」


 コットスが何かしようとしていると察知して、一行の中で最も遠距離攻撃が得意なアリシアが真っ先に先制攻撃を仕掛ける。勿論天馬やシャクティ達もそれに続いて一斉に遠距離攻撃を放とうとする。だが……


「無駄だ。この場にいる時点で君達は私の術中に嵌っているのだよ」


「……っ!?」


 何の前触れもなく天馬達の足元(・・)から赤い半透明のガラスのような物がせり上がってきた。しかも前だけでなく左右や後ろにも同じようなガラスがせり上がってくる。


「……!!」


 天馬は本能的に危険を察知して半ば反射のように大きく跳躍して、そのガラスの『外』に飛び出す事に成功した。だが他の面々は……


「な、何よこれ!?」

「しまった……!」

「テ、テンマさん……!」

「く……閉じ込められた!?」


 仲間達の動揺と焦燥に満ちた声が響く。振り返った天馬は思わず目を瞠った。小鈴達4人全員が赤い半透明の結晶(・・)のような物に閉じ込められていた。結晶の大きさは丁度人1人を捕らえるのに都合が良いサイズで、それが4つ並んでいるのだ。いや、天馬は難を逃れたので誰も入っていない空の結晶が一つだけあるが。



「ふむ……一網打尽とは行かなかったか。流石という所かな」


「……っ! これは……てめぇの仕業か!?」


 コットスの声に振り返ると、奴は笑いながら首肯した。


「勿論だとも。他に誰がいるかね? 流石に1人でディヤウスを6人も相手にする気は無いのでね。事前に細工(・・)をさせてもらった。君だけは取り逃がしたが……まあ想定の範囲内だよ」


「……!!」


 コットスが部下達を使い捨ててもこの場から動かずに待ち構えていたのは、これが理由だったのだ。


「天馬……!? くそ、こんな物……!」


 小鈴が結晶の内側から檻を叩き割ろうとするが、結晶に触れると炎が消えてしまい傷1つ付けられずに弾かれてしまう。シャクティやアリシア達も同様に結晶を割る事が出来ないようで焦っている。


「無駄だよ。それなりの時間と魔力を注いで作った結晶の檻だ。私が意図的に解除するか死なない限り、その『檻』は絶対に破壊できない」


 彼女達の足掻く様子にコットスが再び嗤う。ぺラギアは相変わらず麻痺させられたままだ。つまり天馬はいきなりウォーデンと一対一で戦う羽目になったという訳だ。

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