第12話 和解
「て、天馬……!!」
小鈴は目を瞠った。久しぶりに会った気がする天馬は見慣れない姿になっていた。彼はまるで日本の戦国時代に存在した『武士』のような甲冑を身に着けていたのだ。一見重そうに見えるが天馬は停滞を感じている様子がない。そもそもこんな鎧をいつどこで入手したのか。
それで彼女はピンときた。
「天馬……まさかあなたも神衣を……?」
「まあな。そういうお前達も神衣を会得したみたいだな。あのぺラギアから教わったのか」
「え、ええ。でもあなたはどうやって……?」
ディヤウスとして自分達よりもキャリアが長いぺラギアだから神衣の事も知っていたのだ。天馬達がこの短期間のうちに独力で神衣を会得できたとは思えないが……
彼は苦笑して肩を竦めた。
「忘れたのか? ディヤウスとしてのキャリアが俺達よりも長い奴なら他にもいるだろ?」
「え…………っ!?」
――ドウゥゥゥンッ!!
耳をつんざく重い銃声。同時に何条もの光線が瞬き、正確に胸部を撃ち抜かれたプログレス達が消滅していく。この攻撃には憶えがあった。
「久しぶりだな、シャオリン。そしてシャクティよ」
「あ、あなたは……アリシアさん!?」
シャクティが再び驚愕の声を上げる。露出度の高いカウガールルックの金髪白人女性が目の前にやってきた。それは本当に久しぶりに再会するアメリカ人のディヤウス、アリシア・M・ベイツであった。その手には銀色の拳銃、彼女の神器である『デュランダル』が握られている。
「あ、あなたが天馬に神衣の顕現方法を教えたの?」
「そうだ。もうお前達が神衣を会得できる状態になっている事に気付いていれば、インドで別れる前に教えていったのだがな。済まなかった」
「そ、それは別にいいのよ。でも、それならラシーダも……?」
小鈴がもう1人の仲間について問い掛けようとした時、丁度もう一つの大きな神力を感知した。
『テラー・ニードル・ラピッドファイア!!』
聞き覚えのある声と共に、先端がまるで蠍の尾のような形状になった長い鞭が生き物のように自由自在に、そして素早く蠢いて、ぺラギアを囲んでいたプログレス達に次々と連続して突き刺さる。
僅かに刺されただけだというのにプログレス達は激しく苦悶し出し、間を置かず口から大量の体液を吐き出して、身体中の血液が沸騰したように内側から破裂していった。
「な……」
凄絶な殺し方にぺラギアが唖然とする。
「ふぅ……どうやら『祭り』には間に合ったようね」
消滅していく悪魔達の残骸の後ろから姿を現したのは、妖艶な雰囲気を漂わせるエジプト人美女のラシーダ・アル・ジュンディーであった。
その姿は古代エジプトの女神が身に纏うような衣装に腕輪や宝飾品を身に着けただけの、ムスリムの女性としては考えられないような露出度であり、どうやらあれが彼女の神衣であるらしかった。
天馬達の加勢によって小鈴達も勢いを取り戻し、とりあえず襲ってきたプログレス達は全て殲滅する事が出来た。
「……正直助かったよ。それに関しては素直に感謝する。あくまでディヤウスとして邪神達の勢力と戦う。それが君の答えなのかい?」
ぺラギアが剣を収めて天馬に問い掛ける。彼はその視線を受け止めて首肯した。
「ああ、そうだ。未来の事なんか誰にも分らねぇ。だったら今自分に出来る事を全力でやるだけさ」
「…………」
ぺラギアはそれでもまだ何かを考え込んでいる風であったが、そこにアリシアが近付いてきた。
「あなたがぺラギア・ディアマンディス殿か。私以外にも独自に覚醒しているディヤウスがいたとは思わなかった。私はアリシア・M・ベイツ。アメリカ人だ。そしてテンマをこの旅に誘ったのは私だ」
「……! あなたが? 男性のディヤウスがいずれはウォーデンに変貌するリスクを承知で彼を誘ったのかい?」
アリシアが自分と同じくベテランであると察知したぺラギアは、厳しい問いを彼女に投げかける。アリシアは眉を顰めながらも頷いた。
「そう言われれば返す言葉もない。確かにリスクは承知していた。だが私はあなたと違って現場にいた。彼の……幼馴染に対する思いや、ウォーデンに力及ばず敗退して彼女を攫われた怒り、悲しみ、悔悟……。その全てを間近で見てきたのだ。その上で私は彼ならば邪神の種子に侵される事は無いと確信しているのだ」
「それは……感情論だ。邪神の力は強大だ。いつまでも跳ね除け続ける事は出来ない」
ぺラギアはかぶりを振った。彼女とて別に好んで天馬を排斥したい訳ではないだろう。だが長らく邪神の勢力と戦ってきただけに、その強大さを痛感してしまっているが故の警戒心なのだ。
「感情論が駄目なら、もっと単純に解りやすく戦力面で考えてもらうのはどう?」
ラシーダも参加してきた。ぺラギアが眉を上げる。
「どういう意味だい?」
「言葉通りの意味よ。彼のディヤウスとしての力は相当なものよ。実際に今までの戦いでも彼の力が無かったら到底ウォーデンには勝てなかった。それに今だって彼の加勢であなた達は助かったでしょう?」
「……! それは……」
痛い所を突かれたぺラギアの表情が歪む。
「奇しくもあなたが言ったように邪神の勢力は強大よ。だからこそ彼の力が必要なのよ。この戦いに勝つ為に彼の力を利用する。そう割り切る事は出来ないかしら?」
「……っ。しかし、それでは神の使徒としての示しが……」
単に戦力と割り切って天馬の力を利用するという事にも抵抗があるようだ。元々が非常に生真面目な性格なのだろう。それに神から選ばれたディヤウスとしての使命感が合わさって、より頑なに崇高な誓いを抱いてしまっているのだ。
「……ディヤウスとしての示しなら問題ないわ。前にも言ったようにもし万が一彼がウォーデンに変貌してしまった時は、私が命に換えても彼を殺す。それが私のディヤウスとしての使命よ」
「……! シャオリン……」
その目に決意を湛えた小鈴が断言するとぺラギアは言葉に詰まった。因みに自分を殺すと言われた天馬だが、もし自分がウォーデンになった場合は彼を殺す事は正当であるので、それについては一切怒りを感じなかった。
「わ、私も……! 私も覚悟を決めました! もしテンマさんがウォーデンになってしまった時は、彼を止める為に彼を殺します! そう決めたんです! だからどうか……」
「シャクティ、君もか……」
ぺラギアが疲れたように再びかぶりを振った。他の4人のディヤウス全員が、天馬のリスクを認識しながらも彼を仲間として扱う事に賛成したのだ。こうなればもう大勢は決したようなものであった。
「……私達ディヤウスの真の使命はあくまで邪神達を滅する事。目先のリスクに拘泥して大局を見失っては本末転倒だね」
ぺラギアは溜息を吐きながら呟いた。その顔にはどこか吹っ切れたような笑みが浮かんでいた。彼女は天馬に向き直った。
「あー……テンマと呼んでも?」
「ああ、構わないぜ。俺もあんたの事はぺラギアと呼ばせてもらう」
「ありがとう。じゃあ、テンマ。済まなかったね。私は些か視野狭窄に陥っていたようだ。強大な邪神達との戦いに勝利するには君の力も必要だ。だがもし君がウォーデンへと堕した時は私が必ず君を討つ。それでも構わないかな?」
「ああ、勿論だ。誰に殺されたって文句はねぇ」
天馬は躊躇う事無く首肯した。先も言ったように未来の事など誰にもわからない。邪神の力も未知数だ。自分が絶対にウォーデンにならないと保証する事は出来ない。だからこそもしその時が来た場合にはいつでも殺される覚悟を決めていた。
「良い覚悟だね。なら私も君の事を同志と認めよう。これから宜しく頼むよ、テンマ」
ぺラギアが手を差し出してきたので天馬もそれを握り返す。
「ああ。こっちこそ宜しく頼むぜ、ぺラギア」
2人はしっかりと握手を交わした。行く道を違えていた2人が和解した瞬間であった。それを見て他の4人も一様にホッとした表情を浮かべていた。




