第9話 アジト突入
小鈴とシャクティはぺラギアに導かれるままに『破滅の風』との戦いを続けていた。プログレス達は攻略法さえ解ってしまえばそこまで手強い敵ではなく、3人は順調に『破滅の風』の凶行を妨害してアテネの平穏に貢献していた。
「ねえ、ぺラギア。前から聞こうと思ってたんだけど、あなたのあの『鎧』って何なの? 神器とは違うものなの?」
何度か戦いを共にする中でぺラギアがあの古代の戦士風の鎧姿になるのを目の当たりにした小鈴は、彼女の家に戻った後で気になっていた事を質問する。シャクティも興味深そうにぺラギアを注視する。
「ん? ああ、神衣の事だね。ディヤウスになりたての頃だと神器を顕現するので精一杯で難しいかも知れないけど、今の君達だったら神衣も纏えるようになってるはずだ」
「え……わ、私達も出来るんですか!?」
「神衣、ね……。それはどんな効果があるの?」
シャクティが目を丸くして驚くが、自分達もやり方さえ解れば出来るだろうという事は予測していた小鈴は、神衣の具体的な効能やメリットに話を移す。
「元から存在している武具に神力を通す神器と違って、完全に無から神力によって具現化するのが神衣だ。だから慣れない内は難しいんだけど……その分自分の神力を防御力に変換できるから打たれ強くなるのは間違いないね」
「う、打たれ強く、ですか? あの姿で……?」
シャクティが思わずという感じで疑問を呈する。ぺラギアのあの『鎧』はお世辞にも防御力が高そうには見えない。それどころか露出過多で色んな意味で危なっかしく思える。それを感じ取ったぺラギアが苦笑する。
「まあ言いたい事は解るよ。でも神衣は現実の防具とは違うからね。実際には神衣を纏う事によって、身体全体に不可視の防護膜が張られるような物なんだ。神衣の見かけは実際の防御力とは無関係なのさ」
「……あくまで自分の神力の強弱が、防御力や耐久力に影響するって訳ね?」
小鈴の確認にぺラギアは首肯した。
「そういう事。それに防護膜と言っても万能な訳じゃない。ダメージを軽減してくれるだけで無効化する訳じゃないし、例えばウォーデンのような強力な敵の技をまともに受けたらどっちにしろ大ダメージは必至だ。神衣があるからと過信してしまうのが一番危険なんだ」
20の攻撃を10軽減できればダメージは半減だが、100の攻撃を10軽減した所で90は喰らう。要はそういう事だろう。
「でも無いよりはあった方が確実にプラスにはなるわよね。私達にもやり方を教えてもらえる?」
「勿論、お安い御用さ」
そして2人は神衣の顕現方法についてぺラギアから学ぶのであった……
「2人とも、遂に奴等のアジトが判明したぞ!」
「え……!?」
それからしばらくの後、やはり『破滅の風』のプログレスを狩りに行っていたぺラギアが戻ってくると、興奮した様子で目を輝かせていた。彼女によるとプログレスが追い詰められた際に口を滑らせたらしい。
「アテネの外れにある運送会社だ。それが奴等の隠れ蓑だったらしい」
「運送会社……」
カルト教団と運送会社。それはまた何ともミスマッチな組み合わせであり、確かに隠れ蓑としては効果的かも知れなかった。しかも運送会社となれば広い敷地を持っているもので、多数の構成員が集まるのにも適していただろう。
「言われてみれば納得ね。どうする? これからすぐに向かう?」
「勿論だ。君達さえ良ければこれからすぐにでも乗り込むつもりだ。一分一秒でも早く奴等を殲滅する事がこの街の人々の安寧に繋がるんだからね」
敵のアジトとなれば間違いなく首領であるウォーデンがいるはずだ。流石のぺラギアも単身で突っ込むような愚は犯さないらしい。そして勿論小鈴達にも異論はない。
3人はそのまま夜が明けぬうちに件の運送会社の元に向かう。『破滅の風』による犯行の影響でただでさえ人通りが少ない街の郊外は、深夜となるとほぼ完全に人の姿が無くなる。ましてや……
「ふむ、『結界』が張られているようだね」
「やっぱり奴等のアジトで間違いなさそうね。わざわざそれを知らしめてくれるなんて親切な事だわ」
ぺラギアと小鈴はお構いなしに、『結界』が張られた運送会社の敷地内に踏み込もうとする。だがそれをシャクティが慌てて留める。
「ま、待ってください、2人とも! どんな罠が仕掛けられているか解りませんし、ここは慎重に作戦を立ててからの方が……」
「そんな事をしている間にも奴等は現在進行形で人々を害しているんだ。逆に奴等に時間を与えずに速攻あるのみだよ」
「そうね。それに昨日の今日で罠を仕掛ける余裕なんて無いでしょう。このまま踏み込んで罠を仕掛けられる前に叩くべきね」
だがどちらかと言うと脳筋気味な2人に却下されて、多数決の原理でこのまま突入という事になった。
そして彼女らが敷地に踏み込むとそう間を置く事無く、搬入倉庫と思しき大きな建物から4人程の男達が出てきた。彼等は即座に悪魔のようなプログレスの姿に変身すると、奇声を上げながらこちらに襲い掛かってきた。
「……! 早速お出ましだね。準備はいいかい!?」
「ええ、いつでも!」
「やむを得ませんが、こうなったらやるしかないですね!」
ぺラギアの声に小鈴とシャクティも頷いて戦闘態勢に移行する。ぺラギアは神器である神剣『ニケ』と神盾『アイギス』を素早く顕現させ、そして更にその身体が光に包まれて、収まった時には服が消えて、代わりに神衣である古代の戦士風の露出度が高い鎧姿となっていた。
そして小鈴達もぺラギアから教わった新しい能力を早速試す事となった。小鈴は神器である『朱雀翼』を顕現させ、その身体はやや丈が短めのチャイナドレスを改造したような衣装に、両腕や両脚、そして肩などの要所に中華風の意匠の装甲を身に着けたアクティブな印象の神衣を纏っていた。
シャクティは神器である『ソーマ』と『ダラ』に加えて、裾は長いもののかなり際どいスリットが入ったそれこそインド神話の女神が身に着けるような衣装に代わり、やはり胸や腰、肩、四肢など要所にのみオリエンタルな意匠の装甲を着けた神衣となっていた。
「こ、これが私達の神衣……?」
「な、何だか少し恥ずかしいです……」
2人は初めて身に纏う神衣に戸惑いと気恥ずかしさを感じた。妙に露出度が高い気がする。
だがこれは事前にぺラギアから『神話の神々というのは基本的に見せたがりだから、特に若い女性の場合は自分と同じように露出の多い姿になるかも』という忠告は受けていたので、辛うじて気を取り直して戦闘に集中する事が出来た。
敵は4体だが、こちらはディヤウス3人のうえに、神衣の効果か今までよりも神力の伝導効率が良くなったような気がする。彼女らはそう苦戦する事も無く襲ってきたプログレス達を殲滅する事ができた。
「凄い、こんなあっさりと……。これが神衣の力なの……?」
「何だか身体が軽くなったような感じがします。これならプログレスがどれだけ襲って来ても戦えそうです」
「力が底上げされるのは事実だけど、前も言ったように決して過信はしないようにね。神衣は万能って訳じゃないから」
新しい力に浮かれた様子の2人にぺラギアが改めて忠告する。他に敵が襲って来ない事を確認すると3人は慎重に、しかし大胆に搬入倉庫の中に踏み込む。中は荷物を送るコンベアーが縦横に走るかなり広い空間となっていた。そこら中に段ボールや廃材などが転がっている。そしてそれだけではなく……
「ようこそ、ようこそ。この『破滅の風』のアジトに美しいお嬢さん方をお迎えできて光栄ですよ」
「……!!」
フロアの中央辺りに何人かの男達がいた。いや、そのうちの3人は既に悪魔のような姿のプログレスに変わっていた。残る1人、連中の中央にいる男だけが人間の姿のままだった。今喋ったのはこの男であるらしい。
中肉中背に長い髪を垂らした軟派な容貌の男であったが、その細い目は残忍で邪悪な感情に歪められていた。小鈴は一目見てすぐに解った。
「あなた……ウォーデンね? あなたが『破滅の風』のボスって訳ね」
「如何にも、私はウォーデンです。『破滅の風』において元の名前に意味はなく、ここでは『ブリアレオス』と名乗っております。以後お見知り置きを」
男……ブリアレオスが慇懃な仕草で一礼する。ぺラギアの眉がピクッと上がる。
「ブリアレオスだって? ティタノマギアでは主神ゼウスに味方したヘカトンケイルの名前か。それがお前の神の名前かな?」
「それもご名答。尤も今はハストゥール様の加護を受けておりますので、ブリアレオスはあくまでコードネームに過ぎませんが」
ブリアレオスが喋っている間にシャクティが神力を集中させて索敵していた。
「……とりあえずこのフロアには彼ら以外に敵はいないようです。どうやら皆さんが正解でしたね」
罠の類いが無い事を確認したシャクティが息を吐く。だが慎重であるに越した事は無いというのが彼女の持論だ。
「ありがとう、シャクティ。それじゃウォーデンなんかといつまでもお喋りしてても仕方ないし、さっさと蹴りを付けちゃいましょうか」
小鈴の言葉を合図に全員が臨戦態勢となる。ブリアレオスはわざとらしく嘆くような仕草を取った。
「おお、全くせっかちなお嬢さん方ですね! それほど早く死にたいというなら望み通りにしてあげる事も吝かではありませんが。皆さん、掛かりなさい!」
ブリアレオスは従えていた3体のプログレスをけしかけてくる。プログレス達は命令に疑問を抱く事も無くこちらに向かってきた。1人につき1体ずつだ。
だが外では4体のプログレスをあっさり返り討ちにしているのだ。今更それより少ない数のプログレスを差し向けた所で結果は見えている。そんな簡単な事も解っていないのか、ブリアレオスは戦力の逐次投入という愚を犯した。
「まあ向こうが手を誤ってくれるならそれに越した事は無いね。まずはあいつらを倒すよ!」
ぺラギアの指示に従ってそれぞれが1体ずつ受け持つ。1対1なら敵ではない。ましてや今は神衣も纏っているのだ。
それぞれの神器で敵を攻撃しようと接近する。シャクティもプログレス1体ならと、神力を温存して神器で直接敵を斬り裂こうと接近戦を挑む。だが彼女らはその時、ブリアレオスの顔が邪悪な喜悦に歪んだのを見逃した。
「はは、油断しましたね! 愚かなディヤウス共よ!」
「……!!」
ブリアレオスが哄笑しながら片手を掲げて何かを握りつぶすような動作を取った。すると3人の眼前にいたそれぞれのプログレス達が一斉に、身体の内側から黒い光を撒き散らしながら爆発したのだ!
「な――――!?」
あまりにも予想外の出来事に対処が遅れた3人は、敵の自爆をまともに喰らった。凄まじい衝撃と爆風が至近距離で彼女らを襲い、3人は大きく吹き飛ばされて壁や廃材に激突した。
「あぐぅッ!!」
小鈴が身体中の激痛に呻いた。もし神衣が無かったら今の爆発だけで即死していたかも知れない。神衣によって軽減は出来たが、それでも尚甚大なダメージを負ってしまった。ぺラギアとシャクティも同じような状態だ。




