第6話 強さと弱さ
「まずは君達の力を見せて欲しい」
そういうぺラギアの言葉によって小鈴とシャクティは、アテネの街を騒がせる連続殺人カルト集団の凶行を止めて、実行犯であるプログレス達を倒す為の戦いに赴くべく夜の街を疾走していた。
「カルト集団? それが敵の正体なの?」
小鈴は戦いに出向く前にぺラギアと交わした会話を思い出す。ぺラギアが頷く。
「ああ。『破滅の風』という名前らしいね。この地球を汚染する旧支配者達の一柱、風の力を司る邪神ハストゥールを崇める正真正銘のイカれた凶人達さ。まあ邪神の眷属たるプログレスやウォーデンとしてはこの上なく解りやすい王道的な連中とも言えるけどね」
確かに今まで小鈴達が戦ってきた奴等は人身売買組織であったりテロリストであったりと、あまり邪神の眷属という立場や属性を表に出していなかった気がする。
首魁であるウォーデン達にしても【外なる神々】という呼称は口にしていたものの、それ以外には基本私利私欲のために動いていて、『邪神の眷属』としてその復活のために活動しているという印象は薄かった。
そういう意味では今回の敵に関しては、ぺラギアの話を聞く限りまさに『邪神の眷属』というイメージにぴったりの連中であるらしい。
「でも解りやすい分、その凶悪さは抜きんでていると思うよ。何せ人類に仇為して邪神を復活させて地球を滅ぼすっていう目的に向かって邁進している訳だから、無辜の人々が被る被害は君達が今まで戦ってきた連中の比ではないだろうね」
「……!」
言われて小鈴達もその事実に気付いた。今までの敵は直接人々を殺す事を目的とはしていなかったが、今回の敵は違う。放置すれば人的被害は拡大する一方だ。
「そして勿論警察は当てにならない。何せ敵は人知を超えた邪神の眷属達なんだからね。当てにならないというか、手に負えないと言うべきだね。だから奴等……『破滅の風』と戦いこの脅威を終わらせられるのは私達ディヤウスしかいないんだ。でも私1人で出来る事には限界があった。私が君達が現れるのを心待ちにしていた理由が分かるだろう?」
凶悪な邪神の眷属たちとの戦いを続けてきたぺラギアとしては、それだけ奴等に対する敵対心や警戒心も強い事だろう。天馬に対する態度もその辺りが原因と思われた。
「……シャオリンさん。昨日言っていた事、本気ですか?」
出発前のミーティングを回想していた小鈴に、並走するシャクティが遠慮がちに声を掛けてくる。
「昨日言っていた事?」
何の事か予測は付いたが、敢えて解っていない振りをして聞き返す。シャクティは言い辛そうな様子になる。
「その……テンマさんを殺すと言っていた事です」
「ああ、それね。勿論本気よ。彼が世界に仇為すウォーデンへと変貌した時は、ディヤウスとしての義務を果たす。当然の事でしょう?」
「そ、それはそうですが……」
彼女が天馬を殺すと断言した事に戸惑っているようだ。
「勿論それはあくまで最終手段よ。昨日ぺラギアに言ったように私は天馬を信じてる。彼は絶対にウォーデンなんかにはならないってね」
「……!!」
テンマを信じているという小鈴の言葉は本心であり、一片の迷いもない。それを見て取ったシャクティが少し落ち込んだように昏い表情になる。
「強い、ですね、シャオリンさんは。私は……テンマさんを信じ切る事が出来ずに、さりとて彼が本当にウォーデンになってしまった場合に彼を殺すという決断も出来ない……。私は……とても弱い人間です。それが今回改めて身に染みました」
「シャクティ……」
小鈴にも彼女が何を悩んでいたのかが解った。テンマの問題に対して強い態度で処する事を避けていた節のあるシャクティもまた、小鈴とは違う意味で悩んでいたのであった。
「……私にはあなたの問題を解決する術はないわ。自分自身で向き合って乗り越えるしかないのよ」
「……そ、そうですよね。すみませんでした」
シャクティが自嘲気味に笑って俯く。だが小鈴は続けてかぶりを振った。
「でも……あなたなら必ず乗り越えられる。私はそれも信じているわ」
「……!! シャ、シャオリンさん……ありがとうございます。私……頑張ります!」
シャクティは少し目を見開いてからちょっと涙ぐんだ。そしてその表情に決意を滲ませる。2人はそのまま夜のアテネを走り抜けて、魔力反応を感知した場所へと辿り着いた。因みにペラギアは別の場所で発生した魔力反応の方へ向かっておりここにはいない。小鈴達だけで『破滅の風』のプログレス達に対処できるか。これはそのテストのようなものであった。
「……!」
そこはアテネの外れにあるスポーツクラブのような場所で、テニスコートがいくつも並んでいた。そのコートのうちの一つで、まるで悪魔と見紛うような2体の怪物たちが何人かの女性たちを襲っている所であった。『破滅の風』のプログレス達だ。切羽詰まっている状況に小鈴たちは物も言わずに現場に飛び込む。
『ドゥルガーの怒り!!』
遠距離攻撃の得意なシャクティが咄嗟に光のチャクラムを投擲して悪魔達を牽制。奴等の動きが止まった所に小鈴が素早く女性たちとの間に割り込んだ。
「今のうちに逃げなさい!」
小鈴が梢子棍を振り回して悪魔達を牽制しつつ襲われていた女性たちを逃がそうとするが、彼女らは腰が抜けているのか動く事が出来ないようだ。小鈴は舌打ちした。
「シャクティ! 彼女たちを安全な場所に! それまでコイツらは私が引き付ける!」
「わ、分かりました! 少しの間だけお願いします!」
シャクティがディヤウスの身体能力を用いて、女性たちを強引に抱えあげて離脱し始める。勿論悪魔達はそれを妨害しようとするが、それを更に小鈴が阻む。
「あんた達の相手は私よ!」
『……! 東洋人の小娘……貴様、ディヤウスか?』
「ええ、その通りよ。アンタ達の悪行もここまでよ!」
上手く悪魔達の注意を惹きつけた小鈴は自分から奴等に攻めかかる。敵は2体いるので受けに回ったらマズい。
『炎涛昇舞!!』
朱雀翼に炎を纏わせて身体ごと舞うように振り回す。小鈴の闘舞に合わせて炎と熱波が拡散される。
『ヌワッ!! 貴様ァ……!!』
火と熱で炙られたプログレス達が苦痛に叫び、その敵意が完全に小鈴に向く。1体が両手を向けて電撃を放ってきた。小鈴が横っ飛びにそれを躱すと、その隙を突いてもう1体が剣を作り出して斬り掛かってくる。
小鈴は素早く体勢を立て直してその斬撃を躱すが、反撃する前に再びもう1体が電撃を放ってきた。
「ち……!」
小鈴は舌打ちして必死に避ける。だがそこにもう1体が再び斬り掛かってきて完全に防戦一方になってしまう。2体の連携はかなりのもので、しかも斬り掛かってくる奴の剣速も相当なものだ。体勢を立て直す暇がない。
このままでは反撃の糸口すら掴めないまま追い詰められて対処しきれなくなるのも時間の問題であった。だが彼女の中に焦りはない。攻めかかる隙が無いのなら自分は受けに徹していればいい。何故なら……
『……!!』
小鈴を庇い悪魔達を牽制するように光のチャクラムが乱舞する。
「シャオリンさん、お待たせしました!」
襲われていた人たちを安全な場所に逃がしたらしいシャクティが戻ってきて参戦してきた。これを待っていたのだ。
「いいタイミングね、シャクティ! じゃああっちの奴は任せるわ!」
「はいっ!」
小鈴は近接で斬り掛かってくる方を受け持って、シャクティは遠距離の方を受け持つ。適材適所だ。
『おのれ、小娘共が……! いいだろう。ただの人間の生贄よりもディヤウスの命を捧げた方が我等が神もお喜びになられるというもの。ハストゥール様が復活される礎となるがいい!』
プログレス達が魔力を高めて再び襲い掛かってくる。だが今度は1対1であり今までのようにはいかない。プログレスは連続で剣を煌めかせてくるが、落ち着いてそれだけに集中すれば対処する事は決して難しくない。
「ふっ!」
体術とディヤウスの身体能力を駆使して悪魔の剣を最小限の動きで躱す。そして今度は反撃で炎を纏わせた朱雀翼を打ち当てる。悪魔が怯んだ。その隙にさらなる追撃で蹴撃を叩き込む。
『おのれ、ちょこまかと……!』
接近戦では不利と悟ったプログレスが大きく翼をはためかせて距離を取ろうとする。電撃などの遠距離攻撃に切り替える気だろうがそうはさせない。小鈴は悪魔以上のスピードで踏み込んでその懐に潜り込んだ。
『炎帝昇鳳波ッ!!』
そして屈みこんだ体勢から一気に、朱雀翼を上に向かって突き出しながら身体ごと跳び上がった。炎に覆われた梢子棍は一陣の火炎竜巻を作り出し、打撃を与えつつ悪魔をその竜巻で包み込んだ。
『ウギャァァァァァァァァッ!!!』
凄まじい断末魔を上げながらプログレスが炎の竜巻に焼き尽くされて消滅していく。これで1体は倒した。残りの1体は……
『女神の舞踏会!!』
シャクティが神力によっていくつもの光のチャクラムを作り出していた。彼女の周囲を回るチャクラムは悪魔から放たれた電撃や火球などの遠距離攻撃を相殺して阻む。
『ドゥルガーの怒り!』
そこに再びシャクティが、今度は両手に持つ神器であるソーマとダラを直接投擲する。神力のみで作られた光のチャクラムとは比べ物にならない強度の二つのチャクラムは、悪魔の火球を切り裂いて相殺される事無くそのまま直進。プログレスの首と胴体を輪切りにした。
空気に溶け込むように消滅していくプログレス。同時にこの場所を覆っていた『結界』が解ける。決着がついた事を悟って小鈴は一息ついた。
「ふぅ……よくやってくれたわ、シャクティ」
「いえ、シャオリンさんもお見事でした」
互いに褒め合って怪我などがない事を確認する。
「でもこいつら連携されると厄介だけど、単体なら今までの敵と比べてもそこまで手強いって感じじゃないわね」
それが小鈴の率直な感想であった。単体であればエジプトやインドのプログレス達の方が手強かった。だが反面連携能力には優れているようで、2体以上を相手にするとその脅威度は跳ね上がるという印象だ。
「そうですね。私もそう感じました。どのように多対一に持ち込ませずに各個撃破していくかがポイントになりそうですね」
シャクティも同意するように頷いた。とにかくこれでぺラギアの『テスト』はクリアした。2人は『結界』が解けた事で誰か人がやってくる前に、素早くこの場を撤収してぺラギアの家に戻るのであった……




