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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
ギリシャ アテネ
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プロローグ 雷光の聖戦士

 最近アテネの街では凶悪な連続殺人事件が横行していた。被害者は主に若い女性。またそれと同時にやはり若い女性を中心に、何者かに誘拐されて行方不明となり、失踪届が警察に出されるも結局見つからず、後日に惨殺死体となって発見されるという事件も多発していた。


 アテネの警察はこの二つの事件に関連性があると見て捜査を進めていたが、有効な手掛かりは全く掴めない状態であった。


 いや、『手掛かり』ならあったが、それは「魔法のような力で女性を捕らえて消え去った」だの、「人間ではない化け物が女性を襲って殺していた」だのといった荒唐無稽な目撃情報ばかりであり、それらは警察において『有効な手掛かり』とは見做されなかった。


 結果として事件は暗礁に乗り上げて、被害者ばかりが増えていく状況となっていた。事件を止められない警察にマスコミからの批判も殺到し、市民は事件への巻き添えを怖れて家に閉じこもるようになり(男性も目撃等の巻き添えで殺害されたと思しきケースが多発している)、ギリシャの首都であり一大観光地であるはずのアテネは、常日頃からは考えられないほど人通りが少なく閑散とした空気が蔓延していた。




 有名なアテナイのアクロポリスの東側にあるゼウス神殿。ここもまた年中観光客が訪れる有名スポットであったが、連続殺人事件の影響を受けてこの日は殆ど人の姿が無かった。そんな閑散とした古代遺跡の神殿の只中に、この日は1人の女性の姿があった。


 元は壮麗な神殿であっただろうこの場所も時の政権に破壊されて、今は僅かな円柱列石を残すだけの遺跡と化していた。


「……今日もまた女性の死体が発見されたというニュースが流れた。奴等(・・)は日に日に大胆になってきている。奴等は警察の手には負えない」


 女性は誰も居ない遺跡で独り言を喋っているようで、その実彼女にしか認知できない存在に向かって語り掛けているようでもあった。


「主神ゼウスよ、そして我が守護神(・・・)アテナよ。どうか私に、あの邪悪なプログレス(・・・・・)共を駆逐して人々を守る力と加護を与えたまえ……」


 女性は目を閉じて静かに瞑想する。その場にもし他に人がいたなら驚いて目を瞠った事だろう。その女性の身体から淡い光が漏れ出ているのだ。太陽光に当たったなどではなく、その女性自身が発光して輝いているのだった。それは場所柄もあって目を疑うような幻想的な光景であった。


「…………」


 女性が目を開けると、その光も同時に消え去った。


「……さあ、今夜もまた戦いの時間だな。奴等を一匹残らず狩り尽くすまで、私の戦いが終わる事は無い」


 女性はその凛々しい瞳に決意の炎を漲らせると、無人のゼウス神殿を後にしていった。



*****



 アテネの商業地区であるペトラロナ地区。大都市でも深夜ともなればめっきり人通りは少なくなる。まして今この街は連続殺人事件の影響が影を落としており、時刻も夕方を過ぎると皆早々に店じまいして帰路につく。それは他の現地民や観光客にしても同じだ。


 だが……どんな国、どんな街にも一定数、危機管理能力の欠落した者達はいるものだ。


「ひ……ひぃぃ……! な、何!? 何なのよ、あなたは!?」


 深夜のショッピングセンターの駐車場。広いスペースには何人もの若者達の惨殺死体が転がっていた。地元の大学に通う若者グループ。殺人事件の事は当然知っていたが、自分達は男性も含めて何人もいるしまさかターゲットになるとは思っていなかった。


 しかしその根拠のない過信と慢心の代償は、今この駐車場に広がっている光景であった。ただ1人残った女性は、恐怖に目を見開いてその犯人(・・)を見つめていた。



『おぉ……我等が【外なる神々】の一柱、偉大なる風の化身ハストゥール様。今宵も貴方への供物(・・)を捧げましょうぞ』



 犯人は女性には意味不明な独り言を呟いてから彼女に向き直る。その人外(・・)の双眸に射抜かれて、女性は恐怖で硬直する。


 彼女の前にいるのは人間ではなかった。背には巨大な皮膜翼が生え、手足の先には鋭い鉤爪を備え、長い牙が並んだ口、額からは特徴的な角が生えている。そして顔そのものも妙に鼻面が伸びて歪んだ面貌に、瞳はまるで血のように紅く不気味に発光している。


 その姿は伝承や聖書などに登場する『悪魔(デーモン)』以外の何物でもなかった。どう見ても作り物ではないし、実際に彼女の友人達が全員不思議な力によって瞬く間に惨殺されたのだ。


 女性の股間から小水が漏れ出る。恐怖の余り失禁したのだ。だがそれを恥に思っている余裕などない。『悪魔』が女性に向けて手を掲げる。友人達を惨殺したのと同じ力を使う気だ。女性は死を覚悟した。


 だがそこに……



「そこまでだ、邪悪なプログレスめ!」



『……!』


 敢えて『悪魔』の注意を引き付けるような掛け声と共に、『悪魔』の頭上を照らす街灯の光を影が覆った。その影は数メートルの高さから、体重を乗せた踵落としを仕掛ける。『悪魔』は翼をはためかせて素早い動きでそれを回避した。


「おい、君! 大丈夫か!?」


「あ……」


 その隙に走り寄ってきた影の姿を見て、女性は呆然とした声を上げた。その影もまた女性であった。茶色い髪をショートヘアにした凛々しい雰囲気の女性だ。どことなくその女性の顔に見覚えがある気がしたが、この極限状況では咄嗟に思い出す事が出来なかった。


「くそ……遅かったか! 卑しい邪神の眷属どもめ……!」


 ショートヘアの女性は駐車場に転がる若者たちの死体を見て顔を歪めた。そして怒りに満ちた目で『悪魔』を睨み付ける。


『貴様……神力(・・)を感じるぞ。まさか貴様がここ最近、同胞たちを立て続けに斃しているというディヤウス(・・・・・)か……!』



「その通りだ。戦の女神アテナの神化種(ディヤウス)、ぺラギア・ディアマンディス。人に仇なす邪神の眷属共は一人残らず殲滅する!」



 『悪魔』の問いに胸を張って応えた女性――ぺラギアは、天に向かって手を掲げた。


「出でよ! 我が神器(ディバイン)『ニケ―』、そして『アイギス』よ!」


 ぺラギアの呼び声に応えるように彼女の両手に光が集まったかと思うと、その光は収束しながら形を成していく。それは神々しい輝きを放つ剣と盾の形を取った。それだけではない。ぺラギアの纏う衣装(・・)も光に包まれて形を変え、まるで古代の剣士が身に纏うような露出度の高い戦装束となったのだ。


『貴様……神器(ディバイン)のみならず、神衣(アルマ)まで!?』


「お前達の無辜の人々に対する暴虐への怒りが、私にこの力を与えたんだ。自業自得と知れ!」


 驚愕する『悪魔』に啖呵を切ってぺラギアが先制攻撃を仕掛ける。人間離れしたスピードで『悪魔』に肉薄する。



『小癪なっ!!』


 『悪魔』が咆哮すると、両手をぺラギアに向かって突き出した。するとその手の先から激しいスパークが発生し、それは太い電光となってぺラギアに襲い掛かる。


 だがぺラギアは逃げずに盾を翳す。女性の目から見てもそれは無謀な行為に見えたが、何とその神々しい意匠の盾は『悪魔』の電撃を伝播もさせずに弾いて掻き消してしまう。


『何……!?』


「喰らえ、プログレスめ!」


 雷光を掻き消しながら突き進んだぺラギアは、そのままの勢いで踏み込みながら剣を薙ぎ払う。だが『悪魔』も素早い動きで、翼をはためかせながら後退してそれを躱す。


 『悪魔』は飛び退りながら今度は、その掌から大きな火の玉を作り出して発射してきた。


「無駄だっ!」


 だがぺラギアはやはりその盾を翳して火球攻撃も弾いてしまう。



「お前に本物の神の雷という物を見せてやるよ。――『雷光神剣ステロペース』!!」


 ぺラギアが叫んで剣を掲げると、その剣の刀身が眩いばかりの雷光に覆われた!


『……っ!』


「ケラウノス・サンダーッ!!」


 ぺラギアが雷に包まれた剣を横薙ぎに振るうと、その剣の軌跡に合わせて強烈な雷光の束が第二の刀身(・・・・・)となって薙ぎ払われた。その雷撃の刃は離れた間合いにいたはずの『悪魔』にも届き、反応させる間もなくその胴体を上下に分断した。


『ゴァァァァァァァッ!! カ……む、無駄だ……。私だけを倒した所で……ハストゥール様の復活は止められん……! ギハァッ!!!』


「……! ハストゥール……!」


 胴体を分断されながらも捨て台詞を残した『悪魔』は、雷光に包まれて完全に焼き尽くされて消滅した。



 ぺラギアはその捨て台詞に厳しい表情を維持しながらも、戦いが終わった事を確信して戦闘態勢を解いた。すると剣と盾が再び光に包まれて消え去り、その身体を覆う衣装も露出度の高い古代の戦士風衣装から現代風の衣服に戻った。


 彼女が生き残っていた女性の方に振り向いた。女性はビクッと身体を震わせる。


「君だけでも無事で何よりだ。でも……これで解っただろう? 過信や慢心が招く代償という物を」


「……!」


「君達は特別でも何でもない。このようにある日突然、理不尽にその命を奪われる事があるんだ。災難は誰の身にも平等に降りかかる可能性がある。今後はそれを肝に銘じて生きるんだね。この……死んだ友人達の為にも」


「……っ」


 女性は青ざめた顔で、それでも何度も首を縦に振った。それを見届けるとぺラギアは踵を返してその場から走り去っていった。後には未だに腰を抜かして失禁で下半身を汚したままの女性が1人取り残されているのみであった……





「……奴等の活動はどんどん活発化してきている。やはり私だけでは限界があるね。守護神(アテナ)が言っていた協力者達(・・・・)は本当に現れるのかな。もうあまり時間的な猶予はないぞ」


 単身で夜の路地を駆け抜けながら、ぺラギアは憂いに満ちた表情で呟く。自分と同じように神の力をその身に宿した神化種(ディヤウス)が他にもおり、このアテネに向かっているという話。


 これまで単身で邪神の眷属どもと戦ってきた彼女だが、今回のように無駄な犠牲を出してしまう事も少なくなくなってきている。明らかに手が足りなかった。


 人々を奴等から守るにも、この事件の元凶(・・)を突き止めて討ち滅ぼすにも……彼女1人では同時には不可能であった。仲間が……同志が必要であった。


「どんな人達だろうな。自らの使命を自覚して、力に振り回されず正義を貫ける人達なら良いのだけど……」


 ぺラギアはまだ見ぬ同胞たちに期待と不安を同時に抱きながら、夜の街をひたすらに駆け抜けていった……


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