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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
エジプト ルクソール
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第12話 女神の弱点

『ディーヴァの舞踏!』


 その頃シャクティも同じように「包囲網」を形成するプログレスの索敵範囲に引っかかり、戦いを演じていた。今彼女の目の前にいるのは蛇の頭を持ったプログレスだ。長い槍を持っていて、尚且つ口から毒液を吐きかけてくるので近付く事が出来ない。


 だが問題はない。完全遠距離特化型のアリシアほどではないが、シャクティも天馬や小鈴に比べると遠距離戦を得意としており、遠近どちらでも戦える中距離型のタイプであったから。 


 接近戦では不利だと悟ったシャクティは、光のチャクラムを出現させてそれを自在に操る事で中距離戦の型に切り替える。


『ぬお!? こいつ……!』


 周囲を飛び回って攻撃してくるチャクラムに驚いた蛇男は槍を振り回して牽制する。だがそれはシャクティから見れば隙だらけの挙動だ。


『ドゥルガーの怒り!』


 彼女の持つ二振りのチャクラムが神力の輝きを帯びると、それを蛇男目掛けて投げつける。光のチャクラムに惑わされていた蛇男は迫りくる本物(・・)のチャクラムへの対処が遅れた。


『ゲハァッ!!』


 そして胴体から上下に分断された。シャクティも既に戦いにおいては確実に敵を殺す覚悟を身に着けている。甘さを見せればそこに付け込まれるだけだ。自分だけならそれでもいいが、それによって仲間達に……天馬に迷惑を掛ける訳には行かないのだ。


 神力を帯びた武器で胴体を輪切りにされた蛇男は一溜まりもなく即死した。それを確認してシャクティは、ふぅ……と一息吐いた。



「どうやら他に敵はいないようですね。でものんびりしていると他の敵がやってこないとも限りませんし、今の内に急いで脱出してしまいましょう」


 敵が他にもどんな罠を仕掛けているか解ったものではないし、とにかく一直線にこの街から脱け出してしまうのが吉だろう。


「うぅ……折角エジプトに来れたというのに、ギザのピラミッドも見れずにこんな風に犯罪者みたいに街から逃げ出す羽目になるなんて。とても悲しいですが仕方ないのでしょうね……」


 色々な国や街を旅して回れると思っていた彼女だが、確かにそれ自体は間違っていなかったが、大前提として自分達はただ旅行を楽しんでいるのではなく、戦っている(・・・・・)のだという自覚が必要であった。



「……我が国を観光地としか思っておらん外国人め。貴様らのような輩がこの国を外貨で堕落させたのだ」



「――っ!?」


 彼女の独り言に対してまさかの反応があった。シャクティは路地裏を走る足を止めて、慌てて周囲を見渡す。すると一体いつの間に現れたのか、彼女のすぐ後ろ……僅か数メートルの距離に、1人の男が佇んでいた。


 その容姿は事前に天馬やラシーダから聞いたものと酷似しており、何よりもこの得体の知れない気配と魔力からその正体は明らかであった。


「そ、そんな、まさか……警察を使って私達を意図的に分断したという事ですか?」


 シャクティが呻く。このタイミングで敵のボスがピンポイントに襲ってくる理由が他に考えられない。


「ほぅ……先程の中国人(・・・)よりは頭が良さそうだな。尤もだからと言って何も変わりはせんが」


「……! 中国人……シャオリンさんの事ですか!? まさか彼女の所にも……?」


「如何にも。あのディヤウスの男が『蠍』を連れて逃亡するのを阻止する為に、貴様らを利用させてもらうぞ。既に中国人は捕らえた。次は貴様の番だ」


「……っ!」

(そんな、何て事……!)


 ここに至って敵の狙いを悟ったシャクティだが、今更どうにもならない。恐らくこの男から逃げる事は不可能だろう。これは周到な罠なのだ。



(だったら……ここで倒すしかない!)


 覚悟を決めたシャクティは神力を全開にして、再びソーマとダラを構える。


『女神の舞踏会!』


 そして自身の周囲に浮遊する光のチャクラムをいくつも出現させる。相手が何かしてくるのを待つ道理はない。先手必勝だ。シャクティは光のチャクラムを操作して、楕円を描くような軌道で左右からマフムード目掛けて射出する。そして自身は正面から攻撃を仕掛けようとするが……


「ふっ……」


 マフムードが両手を左右に掲げると、その手の先に巨大なシャボン玉のような球体が出現した。光のチャクラムがその球体に触れると、何とチャクラムは球体の中に抵抗なく吸い込まれてしまった。


 それだけでも驚くべき事だが、更にマフムードが展開している他のシャボン玉から吸い込まれた時と同じ勢いを保って光のチャクラムが出現して、真っ直ぐシャクティ自身の方に向かってきた!


「な……!?」


 シャクティは驚愕して慌てて横っ飛びに躱す。自分の技でやられるなど笑い話にもならない。だが躱した所を狙って他のチャクラムも飛んでくる。シャクティはやむなく『女神の舞踏会』を解除した。



「その力……まさか空間同士を繋げてでもいるのですか?」


「その通り。なのでこういう芸当も出来るぞ?」


 マフムードは大量のシャボン玉を作り出して、次々とシャクティに向かって飛ばしてくる。否、彼女にではなく、彼女の周囲に、だ。


 そして自分の前にあるシャボン玉に魔力を込めた黒い波動を撃ち込むと、それがシャクティの周囲を漂うシャボン玉から無差別に飛び出してきて彼女を襲うのだ。


「くっ……!?」


 シャクティは咄嗟に再び『女神の舞踏会』を発動させて自分の周囲のガードを固める。光のチャクラムは半自律的に動くので、彼女が予期しない攻撃も防いでくれる。



「ほぅ、やるな。だがいつまで耐えられるかな?」


 マフムードは構わずに次々と魔力弾を撃ち込んでくる。その度に周囲のシャボン玉からランダムに魔力弾が飛び出して、それを光のチャクラムが防ぐという攻防が繰り返される。一見互角に見えるが、マフムードの攻撃の圧は相当なもので、一撃を防ぐ度に神力が削られていくのが自分で解った。


(このままでは……!)  


 完全なジリ貧だ。シャクティの中に焦りが増幅していく。だが打開策が見出せない。


 少しでも『女神の舞踏会』の神力を緩めればマフムードの無差別魔力弾の餌食だ。しかし『女神の舞踏会』に全神力を注いでいる状態では『カーリーの抱擁』などの大技は使う事が出来ない。いや、普通に攻撃に転じるだけでもどうしても防御は緩む。そうなれば『女神の舞踏会』が破られて自分が被弾してしまう。 


「……っ」


 その怖れ(・・)の感情がシャクティに二の足を踏ませた。彼女は傷つく事を怖れていた。インドでの戦いでも基本的に強敵相手には天馬や小鈴が前面に立って敵の攻撃を引き付けてくれた。シャクティは比較的安全な後衛から全力で敵を攻撃するだけで良かった。


 今の所まともに敵の攻撃に被弾した経験が無いシャクティは、傷つく覚悟(・・)が無かったのだ。そのシャクティの心の弱さを見て取ったマフムードが嗤う。


「無様よな。少なくともあの中国女は傷つく事を怖れずに儂に立ち向かってきたぞ? ディヤウスとして高い能力とポテンシャルは持っているようだが……貴様は戦士ではない」


「……っ!!」


 自分の精神的な弱さを見抜かれたシャクティが激しく動揺する。そしてそこに容赦なくマフムードの追撃が畳み掛けられる。


「うっ!? く……ぐっ……!!」


 心を揺さぶられた事で防御にも影響が出始める。神力の集中が上手く行かなくなり、防御に余分な力が掛かって無駄に消耗が激しくなる。


(こ、こうなったら、被弾を覚悟して奴を攻撃するしかない……!)


 そうしなければこのまま削り殺されるだけだ。だが……光のチャクラムを通して伝わるマフムードの攻撃の強さが彼女を怖じ気づかせる。


 これらの攻撃をまともに喰らいながら、それを押して強引にマフムードを攻撃する?


(む、無理! 無理よ、そんなの! とても出来ない……!!)


 最後の最後で決断が出来なかった彼女は、結局他に有効な手立てを見出せず一方的に神力を削られ続け……



「――ぁぁああっ!!」


 遂に神力が枯渇したシャクティは『女神の舞踏会』を維持できずに、弾けるように消滅させてしまう。そのショックで半ば自失してその場に倒れ込む。


「か……はっ……」


 結局肉体は傷つかなかったが、代わりに気力に大きなダメージを負ってまともに立つ事も出来なかった。弱々しい呼気で呻く事しかできない。


「無駄に面倒をかけおって……。だがこれで準備は整った。いよいよ『蠍』が儂の物になるぞ」


 マフムードが嗤いながら近づいてくるが、シャクティはそれに抗う気力も体力も、そして神力も何も残っていなかった。


(テ、テンマさん……)


 彼女は最後に想い人の顔を脳裏に浮かべながら完全に意識を失った。


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