表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
エジプト ルクソール
67/175

第11話 空間を操るもの

「全く……こういう経験は初めてね! まあ私達は観光旅行に来てる訳じゃないからある意味じゃ仕方ないんだけどね……!」


 まだ早朝の完全に覚醒していない街の中を、建物の陰を縫うようにして疾走するのは小鈴だ。ディヤウスならではの身体能力を駆使して、並みの人間では殆ど捉えられないような速度で路地から路地を走り抜ける。


 今は事前に取り決めてある通り、とにかく南に向かって移動している。まずはこの街から出てナイル川沿いにあるエドフという街に行く事が目的だ。


 流石に歩いていく訳にはいかないので、今追って来ている警察を撒いたらバスなりタクシーなりを使って向かう事になるだろう。何ならナイル川を遡っている定期船に乗り込んでしまうのもいい。使えそうなルートはいくつかあった。 



「天馬も今頃は同じように逃げてるわよね。……あのラシーダと一緒に」


 それを思うと少し複雑な感情が胸中に湧き上がる。アラブ系特有のエキゾチックな美貌にメリハリのある肢体。小鈴にはない大人の色香に溢れるあの女性と二人きりで行動を共にしていたら、どんな間違い(・・・)が起きるか知れたものではない。


 普段は小鈴の想いを妨害する要因となっている、天馬の幼馴染への義務感(・・・)がラシーダにも働いてくれる事を願うしかないが、あの色気で迫られたら天馬も若い男性の事。コロッとその気になってしまう可能性は充分にあった。


(……私もちょっと大胆になってみようかしら?)


 そう思わないでもなかったが、もし失敗(・・)したら天馬に嫌われてしまうリスクを考えると踏み出せなかった。案外シャクティも同じような心境かも知れない。



 そんな事を考えながらも人間離れしたスピードで街中を駆け抜けていく小鈴。警察のサイレンも遥か後方に離れている。このままであれば無事に街を抜け出せそうだ。まさに彼女がそう思って別の路地裏に入った瞬間――


「……!!」


 強烈な殺気を感じた彼女は、本能的に身を横に躱して横転する。その直後、今まで彼女が走っていた場所に長い槍(・・・)が突き立った!


 素早く体勢を立て直した彼女が見据える先、路地の反対側から男が1人現れた。こいつが今の槍を投げたらしい。30代くらいのエジプト人男性であった。一見何の変哲もない現地人に見えるが、勿論そんなはずはあるまい。



「くふふ……やはり分散したな。警察を使ったマフムード様の思惑通りだ」


「……! 思惑通りですって?」


 小鈴が目を瞠ると、男は嗤いながら肯定した。


「そうだ。ディヤウスに3人も固まっていられると、あの方をもってしても少々厄介なのでな。搦め手で貴様らの戦力を分散させる事にしたのだ。今この街の外縁には我々の包囲網(・・・)が敷かれている。貴様は偶々俺の受け持ち(・・・・)に当たった訳だ」


「……っ!」


 敵の作戦の全容を知った小鈴だが、今更どうしようもない。こうなったらとにかくここを迅速に突破する以外にない。


「それを聞いたら尚更あなたと遊んでる訳にも行かなくなったわね。今すぐここを通してもらうわよ?」


 小鈴は自身の神器(ディバイン)である朱雀翼を出現させると、一気に打ち掛かった。余り時間を掛けていると他のプログレス達も集まってきかねない。



「ふっ!!」


 呼気と共に跳び上がって上段から炎を纏った棍を打ち付けるが、男は槍を翳してその一撃を受け止めた。


『シハッ!!』


 奇声を上げて反撃に槍を振り回してくる。その顔や頭はいつの間にか蜥蜴の物に変じていた。やはりプログレスだ。


 小鈴は慎重にその槍の穂先を避ける。こいつの槍にも毒が纏わっているはずだ。もうあんな思いをするのはこりごりだ。それにこの場で再びあの毒を受けたら、今はラシーダもいないので完全にアウトだ。


『シャァァァァァァァッ!!』


 蜥蜴男は小鈴の及び腰を悟って、増々かさに着て連続突きを仕掛けてくる。一撃、それも掠っただけでも死は免れない恐怖の連撃。小鈴はそれに押されるようにどんどん後退していき、やがて背中が建物の壁に付いてしまう。これ以上下がれない。蜥蜴男の目が光る。


『キシィィィッ!!』


 奇声と共に強力で鋭い突きを放ってきた。だが追い詰められたと思われた小鈴もまた口の端を吊り上げていた。


「把っ!!」


 何と彼女はその場で垂直(・・)に飛び上がって突きを回避したのだ。助走もなしの一瞬で軽く2メートル以上はジャンプしていた。ディヤウスならではの人間離れした跳躍力だ。


『何……!?』


 プログレスも一瞬意表を突かれた。大振りな攻撃で槍を突き出していたので引き戻しも間に合わない。毒やリーチ差があって中々踏み込めなかった小鈴はこの時を狙っていたのだ。


「砕破っ!!!」


 高く飛び上がった落下の勢いも加味して、炎の梢子棍を全力で打ち下ろした。


『グべ!!?』


 脳天を文字通り叩き割られた蜥蜴男は、醜い呻き声を上げながら倒れ伏した。ほぼ即死であり、当然起き上がってくる気配はない。小鈴は残心で周囲の気配を探るが、今のところ他の敵が増援に駆け付けてきている様子はない。それを確認して、ほぅ……と息を吐いた。



「ふぅ……! 毒さえ喰らわなきゃこんなものよ。プログレス1人くらいなら皆も問題なく突破できそうね」


 街全体を覆う包囲網を敷く為には仕方ないのだろうが、範囲を広げれば広げるほど『壁』は薄くせざるを得ない。相手はそれが解らないほど愚かなのだろうか。


「そのマフムードって奴も思ったより馬鹿だったみたいね。なら『ご厚意』に甘えて、遠慮なくさっさと街から脱け出しちゃいましょうか」


 小鈴がそう独りごちて移動を再開しようとすると……



「……馬鹿というのは相手の真意も読めずに油断するお前のような人種を指すのだよ、外国人」



「――っ!?」


 唐突に聞こえた男の声に動揺して振り向く小鈴。先程気配を探った時には確かに誰も居なかったはずだ。しかし今、彼女の視線の先には1人の壮年男性が佇んでいた。濃い髭を生やしたアラブの富豪か政治家のような雰囲気の男。いや、雰囲気だけではない。その男の容姿は天馬から聞いたものに酷似していた。


「あ、あなた、まさか……」


「マフムード・ビンラディン。我が素性はもう『蠍』から聞いているであろう?」


「……っ!!」


 あっさりと肯定された。まさかのボスが直接登場である。こいつはラシーダを狙っているはずなのに、何故自分の前に現れたのだろうか。


「警察を使ったのは貴様たちを分断する為。そしてプログレス共による包囲網は、最初から私がお前達の居場所を感知する為のものだ。あのディヤウスの男が『蠍』を連れて本気になって逃走に徹すれば、恐らくそれを止めるのは極めて困難であろう。故に……貴様たちを利用させてもらう事にした」


 こちらの心を読んだかのようにマフムードが自身の計画を語る。それは取りも直さず小鈴をここから絶対に逃がさないという自信の表れだ。確かにあのカルナック神殿での『迷宮』を考えると、一度こいつに捕捉されたら逃げ切る事は難しいだろう。つまり……戦うしかないという事だ。



「貴様は中国人か。中国の世界中……特にアフリカでの金にものを言わせた横暴ぶりは目に余る。アフリカの資源を狙っておるのだろうが……『蠍』を手に入れた後は、貴様(中国人)の首を中国政府に送り付けてエジプトの『意思表示』としてやるのも面白いかも知れんな」


「……っ! 舐めるなぁっ!!」


 まともに戦う相手とさえ見做していない態度に激昂した小鈴は、神力を全開にすると朱雀翼に炎を纏わせてマフムードに一直線に突進する。


『気炎弾っ!!』


 その途中に牽制として朱雀翼を振り回して、炎の弾を連続して撃ち込む。しかしそれらの炎弾はマフムードが軽く手を翳しただけで、全て見えない壁に弾かれたように消滅してしまう。


「……!」


 牽制にすらならない。だがやる事は変わらない。まるで地を這うような低い姿勢でマフムードに肉薄した小鈴は、突き上げるように朱雀翼を叩き込む。


『炎帝昇鳳波ッ!!』


 至近距離からの直接攻撃。こいつは同じウォーデンでも鑿歯やナラシンハのように肉弾戦が得意そうには見えないし、この間合いに入れた時点で小鈴は勝ちを確信していた。だが……


「っ!?」


 マフムードの前に巨大なシャボン玉のような球体が出現した。その球体に小鈴の攻撃が触れると、彼女の棍と炎が真横(・・)に突き出された。


「な……!?」


 意味不明な現象に小鈴は一瞬目を剥いた。大きな隙だがマフムードは反撃してこない。


「どうした? まさか今ので終わりか?」


「く……この!」


 明らかに舐められて手を抜かれている様子に小鈴は歯噛みする。そして怯まずに朱雀翼を縦横に振り回してマフムードの身体を滅多打ちにしようとするが……


「……っ!」


 やはりあのシャボン玉が出現して、彼女の攻撃はその球体に触れた瞬間、攻撃の勢いを保ったままあらぬ方向に突き出されてしまう。それは何とも奇怪な現象であった。まるであのシャボン玉の中で空間が歪んで(・・・・・・)でもいるような……



「我が力は空間を歪めるだけではないぞ?」


 またもや小鈴の動揺を読み取ったようにマフムードが嗤うと、奴は新たなシャボン玉をいくつも作り出して小鈴の方に撃ち込んできた。


「……!」


 咄嗟に警戒する小鈴だが、シャボン玉は大した速さではなく避けるのは難しくなかった。だがいくつものシャボン玉は避けられても消えずに、そのまま小鈴の周囲をまるで彼女を取り囲むかのように浮遊している。


「な、何……?」


 不気味なシャボン玉に周りを囲まれた小鈴が戸惑いつつも警戒する。マフムードは構わず自分の前に展開しているシャボン玉に対して、魔力を固めた弾を撃ち込んだ。すると……


「――っ!?」


 小鈴の周りを浮遊しているいくつものシャボン玉のうち、彼女の真後ろにあったシャボン玉から、たった今マフムードが撃ち込んだ魔力弾が飛び出してきたのだ!


 完全に意表を突かれた彼女は回避も防御も間に合わずに、マフムードの攻撃をもろに受けてしまう。


「ぐぁっ!!」


 小鈴の顔が苦痛に歪む。本気の攻撃ではなかったらしく何とか耐えられる一撃ではあったが、それでもかなりのダメージは免れない。


「く……」


「そら、どんどん行くぞ?」


「っ!!」


 マフムードが面白がっているような表情で、次々と魔力弾を自分の目の前のシャボン玉に撃ち込んでいく。すると全く同じ攻撃が、小鈴の周囲を漂っているシャボン玉群のどれかからランダム(・・・・)に発射されるのだ。


「うッ! ぐぁ! がぁ……!!」


 予兆のようなものも一切なく、どこから攻撃がくるのか全く分からない小鈴は回避はおろか防御さえ満足に出来ずに、次々と被弾していく。その度にダメージが蓄積し、体力と神力が恐ろしい勢いで削られていく。



「空間同士を繋げる(・・・)力こそが我が能力の真髄よ。備える事ができない攻撃とは効くものであろう?」



「……っ」


 奴はこのシャボン玉同士の空間を自在に繋げられるという事か。多数のシャボン玉に囲まれてボロボロになっている小鈴は、その能力の恐ろしさに戦慄した。だとすると今の自分の状況は最悪だ。


(このままここに居たらやられる……!)


 なにせ防御さえもろくに出来ないのだ。奴の言う通り、備えられない攻撃というものは通常より遥かに恐ろしい。それを悟った小鈴はまだ体力が多少でも残っているうちに、一か八かシャボン玉を突き抜けての特攻を仕掛ける。


「うおぉぉぉぉぉっ!!」


 女性らしからぬ気合の咆哮とともに、極力シャボン玉を避けるように低い姿勢になって突っ込む。すると周囲のシャボン玉群はそれを妨害する事無く、小鈴の動きに合わせて追随してきた。マフムードは自分の前のシャボン玉を押し立てて防御を固めている。


 だが構わない。こうなったら一か八か、自分の最大の攻撃力で奴の魔力を破ってみせる。


『炎帝爆殺陣ッ!!!』


 朱雀翼を高速で旋回させて炎の渦を作り出した小鈴は、それを自身の脚に纏わせて全力の旋風脚を叩き込んだ!


 隙は大きいが、その分現在小鈴が使える中で最大威力の技である。これが通じなければ他の攻撃も絶対に通じないだろうというレベル。それがマフムードのシャボン玉に真っ向から衝突し……


「あがぁぁっ!!?」


 その神力を纏った炎の力がそっくり、彼女の後ろにある別のシャボン玉から飛び出して小鈴自身を打ち据えた! 


 ……結局ただ受け流されて、自分自身の技で自爆するだけに終わった。


 なにせ自分の中で最強の技である。それをそっくり自分自身に食らった小鈴は、一溜まりもなくボロ雑巾のようになって地面に転がった。



「ぅ……ぁ……」


 最早立ち上がる事はおろか喋る気力さえも失われていた。完全敗北である。しかも奴は全く本気さえ出していなかった。


「これで一匹目。次はあのインド人だな」


 そのマフムードが余裕のある口調と足取りで近づいてくる。しかし小鈴はそれが分かっていても、最早抗う気力も体力も神力もなかった。


(て、天馬……シャクティ……。ご、ごめんなさ、い……)


 薄れゆく意識の中で小鈴は涙を零しながら、自分の大切な仲間たちに侘び続けていた……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=518476793&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ