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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
エジプト ルクソール
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第2話 ウェルカム・トゥ・エジプト

 方針を決めた一行はカイロ駅に向かう為に空港を後にしようとする。が……


「「……!!」」


 天馬だけでなく小鈴とシャクティの足もほぼ同時に止まった。


「おい、気付いたか……?」


 天馬が確認すると2人とも神妙な表情で頷いた。


「は、はい……どす黒い邪念を感じました」


「何かヤバそうね……。さっきすれ違った奴等かしら?」



 ターミナルビルの入り口から出ようとした3人と入れ違いにビルに入っていく男達の集団があった。といってもここはエジプト首都の国際空港なので、常に多くの人間が出入りしている。なのにその男達とすれ違った時だけ、天馬達は妙な違和感を覚えたのだ。1人だけなら気のせいという事もあり得るが、3人とも同じとなると確実に気のせいではない。


 すれ違った男達は頭にターバンを巻いて、イスラム圏独特の黒いローブのようなタイプの衣服を纏っている。イスラム圏であるエジプトではそこまで珍しい衣装ではない。全員スーツケースやブリーフケースを持っており、これから商用でどこかに向かうビジネスマンといった趣だ。


 だが、違う。理屈ではなくもっと感覚的な部分で天馬達はそれを見抜いた。


 件の男達は、外国人を含めた大勢の人が行き交うターミナルのロビーで急に立ち止まった。そして一斉に持っていたケースを床に置くと、手早く中身(・・)を取り出した。


「え……?」


 呆けた声は誰が発したものだったか。恐らくは行き交う人々の誰かだろう。


「ナギーブ政権に天誅をっ!」

「この国はムスリムだけのものだ!」

「腐敗と汚濁をもたらす外国人どもに死を!!」


 ロビーの真ん中で叫ぶ男達の手には……黒光りするライフル銃やサブマシンガンなどの銃火器が握られていた。どう見ても本物だ。


 その時点で空港にいた警備員達も気付いたがもう後の祭りだ。男達の持つマシンガンが一斉に火を噴いた!



 ――凄まじいマズルフラッシュ。そして銃撃の轟音。ほぼ同時にロビーが……いや、ビル中が阿鼻叫喚に包まれた。銃撃を受けて床に倒れる者、とにかく何も考えずにその場に伏せる者、しかし最も多いのは悲鳴を上げてパニックを起こして出入り口に殺到する群衆だ。


 互いにぶつかり合ったり押しのけ合ったり、倒れた者を容赦なく蹴り飛ばしたりしながら我先にとターミナルビルから逃げ出していく。空港の警備員達はその人の波に押されて中々前に出る事ができない。そうこうしている内にテロリスト達の銃撃を浴びて利用客もろとも倒れていく。ここ最近は大規模なテロ事件も起きていなかったので、施設の警備も緩んでいたらしい。恐らくテロリスト達はそれを見越してこの計画を立てたのだろう。このままでは被害は拡大する一方だ。


「うおぉぉ! マジか、アイツら!? 本物のテロリストかよ!」


 男達に何か不穏なものを感じた天馬達は、予め出入り口の動線から外れた場所に移動していた。その為群衆のパニックに巻き込まれる事はなかったが、それでも銃撃や跳弾を避けるために柱の陰に隠れながら天馬が叫ぶ。


 エジプトに……イスラム教圏に入って早々、とんでもない洗礼を受けた気分である。


「信じられないけどそうみたい! 何だってこんな時に……」


「そ、それより早くなんとかしないと、もっと被害が広がってしまいます!」


 同じように物陰に伏せている小鈴とシャクティも銃撃や悲鳴に負けないように大声で怒鳴る。このままでもいずれは警察の部隊が駆け付けてきて、あのテロリスト達は最終的には射殺されて終わるだろう。恐らく本人たちも最初からそれを覚悟している。テロとはそういうものだ。


 だがそれまでに一体どれほどの被害が出るのか。既にロビーには巻き込まれた大勢の人々が斃れていた。老若男女の区別なし。中には子供と思しき死体もあった。それだけでなく親と思われる女性に取り縋って泣いている子供がいた。その母親が庇ったらしくまだ生きていた。だが……その行為に意味はあったのか。


 泣き叫ぶ子供に気付いたテロリストの1人が、その子供に銃口を向けた。


「……っ! おい、止め――」


 天馬が叫ぶ暇もあればこそ、一切躊躇う事無くテロリストはその子供を射殺した。驚くほどあっさりと殺した。ただ土嚢でも撃つかのような感覚だった。事実そのテロリストはすぐに周囲への無差別射撃を再開していた。



(……ざっ……けんじゃ、ねぇぞ!)


 天馬は割れんばかりに猛烈に歯軋りした。小鈴とシャクティも顔を青ざめさせたり口許を手で覆ったりしていた。


 こいつらが何を目的にこんな事をしているのか天馬達は知らない。そこには彼らなりの正義や理念があるのだろう。だが……そんな事は知った事ではない。少なくとも天馬には斃れている大勢の人々の死体や、先程の子供を射殺する光景を見て、こいつらのやっている事に微塵の正当性も見出す事は出来なかった。


 天馬が旅立つ切っ掛けとなった、あの学校での惨劇を思い出した。今目の前で行われているのは、あれと同じ(・・)だ。実行しているのがプログレスかテロリストかの違いでしかなかった。


(ああ……だったら容赦する必要はねぇよな。あいつらは……『敵』だ)


「小鈴、シャクティ。お前らはここにいろ。あれは……俺がやる」


「え……天馬!?」


 2人が驚いて天馬の方を見た時には、既に彼の姿はその場から消えていた。



「……っ!?」


「よう、腐った人殺しのおっさん共。弱い者いじめは楽しいか?」


 常人には瞬間移動したとしか思えない速度で、一瞬にしてテロリスト達の至近距離に現れた天馬。その顔には怒りと共に獰猛な笑みが浮かんでいた。


「……! なんだ、こいつ!?」


 テロリスト達が慌てて銃を向けようとするが、天馬が亜空間から出現させた『瀑布割り』を握り、やはり刀身が消えたと錯覚する程の速度で振るう。すると……


「……!!」


 彼の方に向けたテロリスト達の銃が軒並み、半ばから綺麗に切断された。


「な――」


「ふっ!!」


 天馬が再度刀を高速で振り抜く。すると今度は周囲にいた4人の男達の四肢(・・)が抵抗なく切り落とされた。


「……っ!! ぎゃああああああああっ!! う、腕が……腕がぁぁっ!!!」


「脚が……俺の脚があぁぁぁっ!!?」


 一瞬で四肢を失って達磨(だるま)になった男達が、大量の血を噴き出しながらのたうち回る。だが天馬はそれに潰れたゴキブリを見るような目を向けた。


「どうしたんだよ? シューキョーの為なら命でも捨てられるんだろ? だったらこのくらいでピーピー喚くんじゃねぇよ。死にたがってる奴等をただ殺してやる程俺は優しくねぇ。地獄の苦しみを味わいな」


 小鈴達を制止して自分だけで飛び出したのはこれが理由だ。曲がりなりにも人間相手にこのような残虐ともとれる行為は彼女達には出来ないだろう。



「ど、同志達!? な、何なんだ、貴様は!? 汚らわしい外国人風情が!」


 少し離れた場所にいた為に難を逃れた2人のテロリストが、天馬に銃口を向けて限界までトリガーを引き絞る。軍用と思われるアサルトライフルから大量の銃弾の雨が天馬に降り注ぐ。


『鬼神鎧手甲』


 天馬の両腕が赤い光に覆われる。その両腕を目にも留まらぬ速さで動かすと、彼に向けて放たれた大量の銃弾が残らず叩き落とされた。


「ひっ!? ば、化け物!?」


「てめぇらはその化け物を怒らせたんだよっ!!」


 あり得ない現象に怯むテロリスト達に向かって、天馬が正面から突進する。再び張られる弾幕を物ともせずに肉薄した天馬は刀を縦横に振るい、残りの男達の手足も切断した。これでこの空港で虐殺を展開したテロリスト達は全員達磨に変えてやった。


 殺しはしない。それは慈悲ではなく先程口にしたように、より長く責め苦を味わわせる為だ。最初から警察と銃撃戦の末に撃ち殺される覚悟で犯行に臨んでいる奴等を殺しても、それは連中に対する『罰』にはならないのだ。



 天馬は素早く『瀑布割り』を収納すると、急いで小鈴達が待っている場所へと引き返した。幸いというかテロリスト達が巻き起こした混乱によって人々は逃げ惑うのに必死で、今の『戦い』自体天馬が速攻で終わらせたのもあって目撃者はいなかった。


 だがテロリスト達の銃撃が止んだ事で、当然何が起きているのか恐る恐る確認する者が出始める。彼等は一様に四肢を失って転がっている変わり果てた姿の男達に驚愕していた。余りこの場に長居しない方が良いだろう。


「待たしたな。もう危険はないだろうから、場が混乱してるうちに俺達も外に出ちまおうぜ」


「え、ええ、そうね……」「は、早く行きましょう」


 天馬の苛烈な一面を改めて見せつけられた小鈴とシャクティは、少し表情を引き攣らせながら頷いた。だがテロリスト達の酷い犯行を間近で見た彼女達は、天馬がやり過ぎたとも思えず、逆に『敵』に対しては一切の容赦をしない精神的な強さを併せ持つ彼の事を増々頼もしく思うのであった……


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