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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
インド ハイデラバード
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第21話 尊皇攘夷

 数日後。天馬達の姿は、やはりこの街に入ってきた時と同じラジーヴ・ガンディー国際空港にあった。そして成都の時と同じで、出ていく時には人数が1人増えていた。無論新たに仲間に加わったシャクティである。


 『ヴリトラの怒り』によるシャクティの誘拐事件は、彼女の父親であるザキールが娘の死とその捜索を打ち切った旨をTVに発表した事で、急速に世間の興味を失って忘れ去られていった。今はそれよりも州首相の息子であるナラシンハ・ネルーの惨殺死体(・・・・)がゴールコンダ王国の遺跡で見つかった事で、その殺人事件(・・・・)の捜査に世間の注目は移っていた。


 しかしその真犯人(・・・)が逮捕される事は決してないだろうと天馬達だけは知っていた。そして彼等は次の目的地へと旅立つ為に再びこの空港を訪れたのであった。因みにシャクティは一応サリーを纏ってショールのような物で顔を覆っていた。シャクティは既に世間的には死んだ事になっているので、この程度の偽装でも充分誤魔化せるはずだ。



「さて……ここで一旦お別れだな」


 だが……今回は成都からの旅立ちとは一つ異なる点があった。アリシアは1人だけ他の3人と向き合う形で立っていたのだ。彼女だけ乗る飛行機が違った。


「大丈夫か? 俺達の事で何か迷惑を掛けてなきゃいいんだが」


 天馬が若干の懸念を滲ませる。アリシアは彼女が所属している米国聖公会の本部から召喚を受けていた。しかし同時にその聖公会の主教ジューダスによって次の未覚醒ディヤウスがいると思しき地は示されていた。


 天馬としては寄り道をしている時間も惜しいので一刻も早く次の地へ飛びたい所だったが、アリシアとしては本部からの召喚を無視する事もできない。それで急遽彼女のみアメリカに戻る事になり、天馬たち3人はそのまま次の地での仲間集めに勤しむ事となったのだ。


「ウォーデン共の暗躍は我らの責任ではない。それどころか我らは限られた人数で短期間に2人ものウォーデンを討伐しているのだ。称賛されこそすれ何か責任を問われるような謂れもあるまい」


「でも何の用事なのか、電話では教えてくれなかったのよね?」


 天馬の懸念にかぶりを振るアリシアに小鈴も若干不安を寄せるが、アリシアはそれも笑い飛ばした。


「心配はいらん。あの連中は権威主義で無駄に秘密主義な所もあるから、勿体をつけたいだけだろう。幸いシャクティが加わってくれた事で私が一時的に抜けても戦力的な問題はない」


「せ、精一杯頑張ります」


 シャクティもやや緊張した表情で請け負う。しかしそれと同時に彼女はこれから本当に異国に旅立てるのだという期待と楽しみが先立っているようだ。ディヤウスの言語翻訳能力の事も既に説明済みであったので、言葉の不安がなく余計に楽しみが勝っているようだ。


「まあ心配はいらないってんなら、俺達は俺達で頑張るさ。そっちも何事もないように願ってるぜ」


「うむ、頼むぞ、テンマ、シャオリン、それにシャクティよ」


 アリシアは頷いて天馬達と順に握手をして、彼等に見送られながら自分の乗る便に向かっていった。彼女の乗る飛行機のほうが先に出るのだ。




「……さて、アリシアがいないってのもちょっと変な気分だが、まあじきに慣れるだろ。俺達も行くとするか」


 天馬が旅立った当初から共に戦ってきたアリシアだ。また最年長(・・・)のディヤウスとして、彼女の知識や経験に無意識に頼る部分も大きかった。そのアリシアが一時的とはいえ居なくなった事で、この面子では天馬がディヤウス歴(・・・・・・)としては一番の先輩となってしまった。


 自然一行のリーダー役も回ってきた彼は、頭を掻きながら2人を促す。


「勿論です、テンマさん! 早く行きましょう! ああ、どんな冒険が私達を待ってるのか、ワクワクしますね!」


 シャクティは高いテンションで期待を膨らませると、天馬に密着して腕を絡ませた。それはまるで仲の良いカップルであるかのような振る舞いであった。小鈴が眉をひそめる。


「ちょっと、シャクティ。天馬にくっつき過ぎよ。インド人って結婚前までは異性とそんなに馴れ馴れしくしないって聞いたけど」


「あら、シャオリンさん。別にインド人全員がそうだと言う訳じゃありませんよ? それは所謂ステレオタイプというものですね。恋愛(・・)に積極的なインド人だって大勢いるんです」


「……!」


 恋愛という単語に小鈴が反応して僅かに眉を上げる。


「ふぅん……そう来る訳? 面白いわね」


 シャクティは間違いなく小鈴の感情(・・)に気づいている。気づいた上でお構いなく天馬にアプローチを掛けているのだ。小鈴の中でそれは自分に対する挑戦(・・)であった。そして喧嘩を売られて大人しく引き下がるような中国人はいない。



 小鈴はシャクティが絡めているのとは反対側の腕を取って、同じように自分に絡める。傍目に見ると天馬は両側から若い女性2人を侍らせているように見える。慌てたのは天馬だ。


「お、おい、お前ら、何のつもりだ!? 離れろって! 目立つだろうが!」


 イメージ的なものもあるかも知れないが、欧米ならともかくアジアでは余りこのような光景は一般的ではない。それはこのインドでも同じだろう。事実空港のロビーを行き交う他の利用客達がチラチラと天馬達の方を見ていた。


「ふふん、いいじゃない、見たい人たちには見せてあげれば。ねぇ、天馬。まだ飛行機の時間には余裕あるでしょ? 最初に来た時この空港内に、雰囲気良さそうな中華料理のお店があったわ。折角だからそこでお昼を食べていきましょうよ」


 小鈴はそんな周囲の視線などお構いなしに、艶っぽい笑みを浮かべて絡めていた天馬の腕を引っ張る。


「あら、テンマさん。これからインドを発つのですから、記念として最後にちゃんとしたインド料理を食べていきましょう。私もこれから故郷(・・)を離れるので、せめてもの思い出に故郷の味を噛み締めておきたいですわ」


 シャクティも負けじと天馬の腕を引っ張る。どうやら今まで抑圧されていた分、かなり積極的な性格になっているようだ。


「故郷の味が恋しいのは私だって同じなんだけど? 先輩(・・)に対する配慮ってものはない訳?」


「あら、中華料理なんて今は世界中どこでも食べれるじゃないですか。なら可愛い後輩(・・・・・)の門出の為に一肌脱いでくれても良いんじゃないですか、先輩?」


「……っ! この……!」


 ああ言えばこう言う。小鈴が額に青筋を立てて強引にシャクティを引き剥がそうとする。当然シャクティもそれに抵抗する。



「お、お前ら、頼むから落ち着け! 昼飯くらいで揉めるなって!」


 天馬が必死に仲裁しようとするが、そうすると今度は矛先が彼に向いた。


「天馬! 勿論天馬は中華料理の方がいいわよね? 街でインド料理食べた時はそんなに美味しそうじゃなかったし」


「それはただ単に外国人の皆さんのチョイスが悪かっただけです! 私が本当のインド料理の良さを教えて差し上げます。テンマさんも勿論最後に本場の味を楽しんでいきたいですよね?」


 2人から当然自分の味方をしてくれるよね? という目で見上げられ、天馬は背中に嫌な汗を感じた。


(おいーーー!! 何でいきなりこんな事に!? アリシア、戻ってきてくれぇ!!)


 小鈴やシャクティがいつの間にか自分に対して好意(・・)を寄せていた事にも驚いたが、早速女の感情を剥き出しにする2人に、アリシアはこういう感情を持っていなかったのでいかに気楽な相手であったかを早くも思い知らされていた。


「天馬!」「テンマさん!」


 2人に詰め寄られ、天馬は前途多難に内心で深く嘆息するのであった……




*****




 『魔都』東京の都心、港区に建つ東京の街を一望できる高級ホテル。その最上階を贅沢に専有したロイヤルスイート。そこは現在とある上客が貸し切りで使用している私的なスペースと化していた。


「この場所から見える景色が気に入っていてな。欲にまみれた東京の街と議事堂、そして……あの憎き者共(・・・・)が住まう『皇居』なる建造物が一望できる故にな。私がなすべき事、なさねばならぬ事を常に思い出させてくれる素敵な眺めなのだ」


 部屋の大きな窓の側に立って眼下の景色を眺めながらそう呟くのは、その上客(・・)たる人物。仕立ての良いスーツ姿に感情の起伏が乏しい、人形のように整った容貌の若い男。


 即ちプログレスやウォーデン達の『王』を名乗る男、朝香啓次郎。


「…………」


 部屋の中央にある豪華なソファに居心地悪そうに座って彼の話を黙って聞いているのは、数日前にここに連行(・・)されて以来、実質的な軟禁状態にある神代茉莉香であった。


 この数日の間に啓次郎自身から、彼の素性及びその目的は聞かされていた。



「ほ、本当に……天皇になる(・・・・・)つもりなの……?」



 それが啓次郎の目的。最初に聞かされた時はなにかの冗談かと思った。それは特に日本人からすると荒唐無稽以外の何物でもなかった。だが……


「私にはその権利(・・)がある。私はれっきとした皇族なのだからな。我が家系があの忌々しい皇室典範によって皇籍を剥奪され、旧宮家などという身分に落とされるまでは、だが」


「…………」


 それが啓次郎の素性。彼はかつて自分が奪われた(・・・・)ものを取り戻そうとしている。いや、それだけではない。


「で、でも元から皇位の継承権は今の天皇家にあったんでしょう? あなたの家はどのみち天皇にはなれなかったんじゃ……」


「今の天皇家からは遠縁となるが、それでも我が家系が……私が現在の天皇と同じ万世一系の男系の血を同じ濃さで受け継いでいる存在である事に変わりはない。そして今の天皇家は世継ぎに恵まれず男系が絶えようとしている。今こそ我々旧皇族を復籍させる機会であったというのに……」


 啓次郎は怒りと苛立ちに眉根を寄せる。


「だが日本政府は我らの復籍を認めなかった。挙げ句にどこの馬の骨とも知れぬチンピラを皇女の配偶者(・・・)として認めるなどという暴挙に走った。あれで今の日本政府が女系天皇を推進し、日本の国体を破壊しようとする愚物どもの走狗だと確信するに至ったのだ」


 その話は茉莉香もニュースなどで知っていた。現在の天皇陛下は男児に恵まれず皇女様が1人いるだけであった。そのため世継ぎの問題が紛糾しており、傍系の男性皇族に継がせるか、先程啓次郎が言ったように旧宮家を復籍させるという案も浮上した。


 しかし結局宮内庁や日本政府は皇女様と一般男性を結婚させて、女系天皇を推進するという方向に舵を切った。これは国内からも批判の声が大きく、更に悪いことにこのお相手の一般男性というのが、過去にかなりスキャンダルのある問題人物で、皇女様に近づいたのも自分の借金を帳消しにする為ではないかと噂されていた。


 しかし世間知らずの皇女様はこの男性にすっかり籠絡(・・)されており、婚姻はもはや避けられないものとなりつつあった。



「この期に及んではもはや実力行使(・・・・)以外に方法はない。今の天皇家と日本政府を転覆させ、尊皇攘夷を復活させる。それしかこの国を救う方法はないのだ」



「政府を転覆させるなんて……。そんな事出来るわけないわ。それによしんば出来たとしても、その過程でどれだけの混乱が起きて、どれだけの人が犠牲になるの?」


 実力行使などという言葉を使う者が平和的な手段を想定しているとは思えない。ましてや啓次郎は強大な力を持つウォーデンであり、茉莉香もまだ把握していないがその配下(・・)にはかなりの数のウォーデンやプログレスを集めているようだ。


 茉莉香はあの学校での悲劇を思い出した。プログレスのたった1体であのような大惨事を引き起こす事が可能なのだ。あんな連中が他にも大勢いて、更にそれよりも遥かに強い力を持つウォーデンも複数参加している。


 間違いなく内戦(・・)になる。そしてそんな事になれば、どれだけの犠牲者が出るか想像もつかない。 


「今の日本は余りにも穢れ(・・)過ぎている。かつて幕末にも尊皇攘夷を成し遂げる過程で多くの血が流れた。今また同じ事が起こるだけだ。支那や朝鮮、その他日本を食い物にしようとする周辺諸国に阿る売国奴どもの血が流れれば流れるだけ、日本は『神の国』としての姿を取り戻していく。内戦ではない。これは病巣を取り除く手術(・・)なのだ」


(く、狂ってる……!)


 自身の理論に一変の疑いもなく断言する啓次郎の姿に、茉莉香はこのままでは大勢の人々が犠牲になる内戦(・・)が避けられないと確信した。



 啓次郎が近づいてきて、茉莉香の顎を掴んで自分の方に強引に向かせる。


「そのためにはお前の力も必要なのだ。神国日本を象徴する天照大御神のディヤウスであるお前がな。我が目的のために協力してもらうぞ?」


「ぐ……だ、誰が……!」


 茉莉香は苦しげに呻いて首を振ろうとするが、強い力で押さえつけられていて動かせない。未だにディヤウスとして覚醒する事もできない彼女は余りにも無力であった。いや、啓次郎は茉莉香が覚醒するのを待っている節さえある。覚醒した彼女の力を何かに利用するつもりなのだ。


 そう考えると覚醒する事が正しいのかさえ分からなくなる。もしかすると彼女が未覚醒であるが故に、啓次郎はまだ行動を起こしていないのだとも思える。


(天馬……お願い。日本を救って……)


 今の茉莉香に出来る事は、ただ幼馴染がこの現状を変えてくれる事を願って彼の無事を祈る事だけであった……


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