第18話 連携の力
「テンマ、無事だったか! 心配したぞ!」
「良かった……! それにその人……まさかシャクティさん? 何か既にディヤウスになってない?」
アリシアと小鈴の2人はナラシンハを牽制、警戒しつつ天馬達と合流する。だが再会の喜びもシャクティへの疑問も今は全て後回しだ。
「ああ、俺もお前らが無事で嬉しいぜ。見ての通り彼女、シャクティは既にディヤウスに覚醒済みで、実戦も経験してる。少なくとも彼女は味方だ。詳細はここを切り抜けたらいくらでも話してやる。今はとりあえずアイツを倒す事を優先するぜ」
「……! む、確かにそうだな。了解した」
「そうね。じゃあとりあえず宜しくね、シャクティさん? 私は小鈴、こっちはアリシア。私達も天馬の仲間よ。詳しい自己紹介もここを切り抜けたら改めてするわ」
「は、はい! シャクティです! 宜しくお願いします、皆さん!」
シャクティも彼女らの素性を聞くよりもまずは優先すべき事柄があるのを理解しているので、味方である事と最低限の呼び名だけ聞けば、それ以外は全部後でも良いと納得してくれた。
「いや、もう一つだけ重大な用件を忘れていたな。これほど早くお前と直に会えるとは思っていなかった故にな」
「え……? っ!! こ、これは……まさか」
アリシアがその腰に提げていた何かを取り外してシャクティに手渡した。シャクティは渡された物を見て目を瞠った。
何故ならばそれは……彼女の実家の部屋に飾られていたはずの、二振りのチャクラムであったから。彼女が子供の頃から慣れ親しんで使っていた実物のチャクラムだ。彼女の手にしっかりと馴染む。間違いなく本物だ。
何故これをたった今出会ったばかりのアリシアが持っているのか不思議であったが、それには小鈴が答えてくれた。
「……あなたの父親からよ。もしあなたに会ったら渡してくれって頼まれたのよ」
「っ!? お、お父様が……!? な、何故……」
娘の事をただの成り上がりの道具としか思っていない父がこのチャクラムの事を覚えていたのも意外なら、それを渡すようにアリシア達に託した事も意外であった。
「おい、話は後だ! 来るぜっ!」
「……っ!」
だがその訳をゆっくり聞いている暇さえないのが現状であった。ナラシンハがこちらに向かって弓を引き絞っている。今はとにかく戦いに集中して勝つ以外にない。他の全てはそれが終わった後だ。
「……まあ良い。わざわざ自分達から来たというのであれば、お前達も共に取り込んでやるまでだ。我が偉業の礎となるがいい」
ナラシンハが弓の弦を弾き黒い矢を放ってきた。戦闘開始だ!
黒い矢がまっすぐ迫ってくるが敢えて回避はしない。それが無駄だという事がわかっているからだ。それどころか下手に回避すると、どんどん敵の手数が増えてしまう。小鈴達も空港でのナラシンハの戦い自体は見ていたのでそれを理解していた。
「任せてっ!」
重体の天馬に代わって小鈴が前に出る。そして朱雀翼に炎をまとわせて、迫りくる黒い矢の先端に棍を叩きつける。
「把っ!」
ディヤウスの動体視力は凄まじいスピードで迫ってくる矢の先端を正確に捉えて、棍で打ち付ける事に成功した。
「ぐっ……!」
そして黒い矢を消し飛ばす事には成功したものの、小鈴自身もその衝撃で体勢を崩してしまう。たった一発の矢で、小鈴が渾身の力でようやく相殺できたレベルだ。ナラシンハはお構いなしに次々と矢を放ってくる。
当たり前だがこれが小鈴1人であったら、殆ど何も出来ずに封殺されていた可能性があった。だがここにいるのは彼女1人ではない。
「神聖連弾!!」
アリシアが目にも留まらぬ速さでデュランダルを連射する。常人には一発撃ったとしか聞こえない程の超速連続射撃。神気の塊は黒い矢とぶつかり合って、そのうちの一つを相殺する事に成功した。だが連続で撃ち込んでようやく矢の一本と相殺というレベルだ。
「ぬおぉぉぉっ!!」
そして勿論天馬も瀑布割りを振るって黒い矢を斬り払う。以前に一度戦っただけあって、初戦では見きれなかったその軌道がある程度見切れるようになっていた。これなら斬り払いで対処できそうだ。だが万全とは程遠い今の状態では、何とか一本の矢を斬り払うのがやっとであった。
天馬、アリシア、小鈴の3人が揃っていてもナラシンハの黒い矢を凌ぐのがやっとであった。だが……今は新たな仲間がいる。
(お父様……!)
そのシャクティは、父から間接的に手渡されたチャクラムを握りしめる。父の真意はわからない。いや、或いはアリシア達が聞いているのかも知れないが、今はその話をしている余裕がない。ならば今この時だけは自分に都合が良いように解釈しても構わないはずだ。
即ち……父が彼女の事を本当は愛していて、気にかけてくれていたのだと。
(ソーマ、ダラ。私に力を貸して!)
彼女の部屋の飾られていた二振りのチャクラム。以前密かに付けていた名前を呼んで神力を込める。すると明らかにチャクラムが彼女の神力に適合して、隅々まで行き渡る感覚があった。シャクティは無意識のうちに自身の【神器】を作り出していたのだ。
「……女神の舞踏会!」
彼女の呼びかけに応じて、持っている二振りのチャクラム(ソーマとダラ)とは別に、彼女の周囲に浮遊する6つの光のチャクラムが出現した。顕現させるスピードが明らかに先程までより上がっている。
そして向上しているのは顕現の速度だけではない。
「……!」
ナラシンハが初めて目を瞠った。6つの光のチャクラムが独自の意思を持ったような不規則な軌道で、黒い矢とそれと戦っている天馬達を避けながら、直接ナラシンハの元に殺到する。
ナラシンハが回避動作を取る。しかしチャクラムはシャクティの意思のもとに統一されて、執拗にナラシンハを追尾し続ける。かつて空港で天馬がやられた攻撃をやり返されているのは皮肉であった。
ナラシンハがチャクラムの対処で意識が割かれると、黒い矢の供給が止まる。そうなればこっちのものだ。ナラシンハの攻勢が弱まった隙をついて、アリシアが奴に向けて神聖弾を撃ち込む。
「気炎弾!」
そこに更に黒い矢から解放された小鈴も遠距離攻撃を撃ち込んでいく。単体ではウォーデン相手には牽制程度にしか役に立たないが、チャクラムと神聖弾と二種類の遠距離攻撃を捌くので精一杯になりつつある今のナラシンハ相手なら別だ。
「ち……!」
ナラシンハが舌打ちして小鈴の気炎弾を弓で弾き落とす。僅かな停滞。それはシャクティのチャクラムをかわし切る余裕を奪うには十分であった。
「っ!」
文字通り四方八方から迫るチャクラムがナラシンハの身体に命中。複数の切り傷をその身体に穿つ。
「神聖連弾!」
そこに再度アリシアの追撃。圧縮された神聖弾の塊が正確な射撃で撃ち込まれ、チャクラムを食らって体勢を崩していたナラシンハの胴体を見事に貫通した!
だが…………胴体を撃ち抜かれたナラシンハの姿が空気に溶け込むように消えてしまう。
「惜しかったな。それは我が幻影――」
「――ああ、そうだと思ったぜ」
「……!!」
幻影のナラシンハが消え、入れ替わるように少し離れた場所に本物のナラシンハが出現する。だがその直後、彼は自身の真後ろから聞こえた声に驚愕して振り向く。そこには既に刀を振りかぶった天馬がいた。
彼は以前の空港での苦い敗戦の体験を無駄にはしていなかった。ナラシンハがシャクティのチャクラムに対処している辺りから、神力を研ぎ澄ませてナラシンハの本物がいる場所を探っていたのだ。
「きさ――」
「鬼神三鈷剣!!」
『瀑布割り』にありったけの神力を纏わせて唐竹割りの一閃。その斬撃は狙い過たず、ナラシンハの『本体』を斜めに斬り裂いた!




