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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
インド ハイデラバード
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第11話 臥薪嘗胆

「ぐ……く……て、天馬……」


 小鈴は裏切ったアディティの毒によって身体を麻痺させられて、しかし意識だけは明瞭に保たれた状態で天馬が1人で戦っているのを見ている事しかできなかった。隣ではアリシアも同じように罠に嵌められて身体を震わせていた。


 しかしどれだけ足掻いても指一本まともに動かす事ができなかった。あのナラシンハというウォーデンの力は強大で、天馬といえど1人では分が悪い。事実敵の攻撃によって一方的に傷ついていく天馬。彼は傷つきながらも起死回生の一撃に賭けて突進する。


 そしてナラシンハを倒したと思ったところで、奴の姿が掻き消えて代わりに天馬の背中に黒い矢が全弾命中した。彼の口から大量の血液が零れ落ちる。



「……っ!!」


 小鈴とアリシアは限界まで目を見開いてその光景を見ていた。その光景が信じられなかった。


(うそ……天馬が……!?)


 天馬は床に倒れ伏して起き上がる気配がない。最悪の想像が小鈴の頭をよぎる。しかしナラシンハ自身の言葉によって、天馬がまだ死んではいない事が解った。だが奴等は天馬をシャクティと共に何らかの目的に利用しようとしているらしく、部下たちを呼び寄せて2人をどこかへ連れ去っていく。あの裏切りのアディティもナラシンハに追随する。アディティが小鈴達の処遇を尋ねているが、ナラシンハは小鈴達の事を歯牙にもかけていない様子でただ放置を命じた。


 奴等が天馬と共に完全にこの場から姿を消した。後には未だに毒で麻痺させられたままの小鈴とアリシアが虚しく放置されているのみだった。



「く……うぅ……!」


 小鈴は必死に身体を動かそうともがく。だが痺れは全身に行き渡って、全身麻酔を打たれたかのように動かなかった。そんな時間がかれこれ数時間ほど経った後……


「……!」


 徐々にだが身体の痺れが軽くなってきた感覚があった。それは気のせいではなく、指先などが僅かに動くようになってきた。彼女らの体内の神力がようやく毒を中和しつつあるのだ。


 そしてそこから更に1時間ほどが経過してようやく……



「く……アリシア、どう? 動けそう?」


「……うむ。何とか、な」


 小鈴の呼び掛けに応えるアリシア。だが彼女もまた辛そうだ。辺りはすっかり暗くなって夜の帳に包まれていた。時刻は真夜中のようだ。


「……殺すまでもないと見做されたか。無様ここに極まれりだな。落ちる所まで落ちたか」


 アリシアが自嘲を込めて乾いた笑い声を上げる。その気持ちは小鈴にもよく理解できた。というか彼女も全く同じ心境であった。折角ディヤウスの力を得て天馬と並び立って戦えると思ったのに、結局またこうして足手まといになって、その結果天馬が危機に陥ってしまった。


 このままでいいはずがない。このままで終われるはずがない。彼女は激しい焦燥と屈辱と、そして怒り(・・)を抱いて立ち上がった。


「天馬を、助けに行かないと……!」


「……助ける? 我等が行ったところで何が出来る? 奴の力を見ただろう? そして我等は奴に殺す価値すらないと見做されたのだ。行ったところでまた足手まといになるだけだ」


 アリシアが昏い声と表情のままで呟く。心が折れかかっているようだ。戦いで無様を晒した事は勿論だが、それ以上に雑魚扱いされて何ら脅威とみなされずに捨て置かれた事が相当に堪えている様子だ。


 ディヤウスとして小鈴達よりも長い期間戦ってきたアリシアからすれば耐え難い屈辱恥辱であろう。だが小鈴は折れなかった。



「私はそうは思わないわ。成都での戦いをもう忘れたの? 叔父さん……いえ、鑿歯にだって天馬だけじゃきっと勝てなかった。私達全員で協力して戦ったから勝てたのよ。鑿歯を直接倒したのはあなたの攻撃でしょ?」


「……!」


「私達一人一人の力じゃ確かにウォーデンからすれば取るに足らないものかもしれない。でも雑魚だって数が揃えば大物を倒せる。それでいいじゃない。『私』じゃなくて『私達』が脅威だって事をアイツに思い知らせてやるのよ」


「……っ」


 アリシアの瞳に若干力が戻ってきていた。だがまだ完全に自信を取り戻せてはいないようだ。しかしもう一押しだと判断した小鈴は、敢えて挑発的に口の端を吊り上げた。


「それにね。中国人は絶対にやられっ放しのままで済ませたりしないのよ。やられたら必ず何倍にもしてやり返す。執念深いとか器が小さいとか外国人からは散々言われるけど、それこそが中国人の強さの秘訣なのよ。それに比べてアメリカ人は随分繊細で軟弱なのね? たった一回の敗北で諦めて全部投げ出しちゃうなんて。やっぱり敗北を経験した事がない国の人間は打たれ弱いわね。漢民族は歴史上何度も敗北を経験して来てるから、こんな事くらいじゃへこたれないわよ?」


「……!! だ、黙れ! 我が国を侮辱するな! アメリカに敗北は許されん。常に最強でなくてはならんのだ!」


 アリシアの口調が強くなる。小鈴は内心でほくそ笑んだ。アメリカ人は愛国心や国に対するプライドが特に高いから、その辺りを突いてやると精神を賦活させやすい。


「だったらこんな所でいじけてる暇なんてないでしょ? アメリカが最強だって証明する方法は一つしかないわよね?」


「っ! む、無論だ! 先程は油断していただけだ。あのウォーデンがどれほど強かろうと、我が神聖砲弾を喰らっては一溜まりもあるまい。そもそも直接戦って負けた訳ではない。次に会った時が奴の最後だ。私を殺さずに放置した事を必ず後悔させてやる!」


 アリシアは立ち上がって威勢よく吼えた。どうやらいつもの調子が戻ったようだ。これでとりあえずは大丈夫だろう。それを見て取って小鈴は頷いた。



「なら早速天馬達の行方を追いましょう。もう大分時間が経っちゃったし、一刻の猶予も無いわ」


「しかし行方を追うと言っても当てはあるのか? それこそただ闇雲に捜すにはこの街は広すぎるぞ」


 アリシアが当然の疑問を呈する。だが小鈴には当てがあった。ヒントはあのナラシンハ達の去り際の会話の中にあった。


「……一旦私達の雇い主(・・・)の所に戻るわ。()ならあいつらが行きそうな場所を他にも知ってるはずよ」


 ザキール・プラサード。彼はこの空港跡以外にも『ヴリトラの怒り』が拠点としている場所を知っているような口ぶりだった。裏切り者のアディティも小鈴達がザキールにこの事を話すのを懸念している節があった。


 しかしアリシアは少し顔をしかめた。


「あの御仁か? だが奴等も言っていたが、ただの外国人に過ぎない我々の言う事など信じると思うか? 一笑に付されるか失敗した言い訳、もしくは報酬を吊り上げようと作り話をしているとさえ疑われかねんぞ?」


 あのザキールならいかにもそうなりそうな気がする。それは小鈴にも解っていた。だが彼女はそれを織り込み済みで不敵な笑みを浮かべる。


「元々私達はお金なんていらないし、雇い主っていうのもあくまで便宜上の話でしょ? もし私達の話を素直に聞かないようなら……聞きたくなるようにするまでよ」


「……!」


 こっちは散々やられた上に天馬の命までかかっているのだ。悠長な事をしている暇はないし、そのつもりもない。怒っているのは小鈴も同じなのだ。目的の為なら多少(・・)強引な手段も厭わないつもりだ。


「……ふふ、なるほど。確かに中国人を怒らせて敵に回すと厄介そうだ」


「そうよ。今頃気付いたの? じゃあ行くわよ」


 毒による麻痺も完全に癒えた怒れる2人の女は、ナラシンハ達の行方を聞き出す為にザキールの屋敷へと戻っていくのであった。


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