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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
インド ハイデラバード
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第5話 警察事情

「さあ、外国人という事で肉料理も用意させた。報酬の前払い分だと思って今宵は好きなだけ飲み食いするがいい」


 屋敷にあるダイニング。天馬の見立てでは優に20畳くらいはありそうな広い部屋で、その広さに見合うようなテーブルが横たわっており、その上には所狭しと様々な料理や飲み物が置かれていた。明らかに酒と分かるような飲み物もあったが、それはザキールが個人的に飲む分のようだ。


 テーブルの周囲、壁際には何人かの使用人が控えている。まさに金持ちの晩餐の風景という感じだ。


 料理は食堂でも食べた香辛料の入った野菜スープやご飯物、それにやはり豆類が多かったが、他にも言葉通り肉を使った料理もあった。チキンの照り焼きのような料理だ。他にもカレーと思しき料理やヨーグルトのような物もあった。



「こ、これは……もう食べても良いのか? 何かこの国の作法的な問題などはあるのか?」


 アリシアがそわそわしながら確認する。許可を与えたら、餌を待っている犬のように一目散に料理にかぶり付きそうな勢いだ。


「ん? あ、ああ……お前達は外国人だからな。細かい作法まで強要する気はない。余程見苦しくなければ好きに食べてもらって構わんぞ」


 あからさまな彼女の態度に毒気を抜かれたように目を瞬かせたザキールがそう言うと、アリシアは小さく祈りを捧げてから早速料理にかぶり付いていく。そして周囲の者が呆気に取られるスピードで料理を平らげていく。 


「……相変わらずのブラックホールぶりね。一体どこに入ってるんだか」


 小鈴も呆れたように呟く。勿論ディヤウスとしてその気になれば数日間の絶食も可能であったが、だからこそ有事に備えて普段から食い溜め(・・・・)しているのだ、とはアリシアの弁だ。



「あー……仕事(・・)の話をしてもいいかね?」


「ああ、勿論だ。彼女はああなったら止まらないから放っておいていいさ。話は俺達が聞くよ」


 天馬が苦笑しつつ請け負う。勿論彼等も無作法にならない程度に匙や食器を動かしてはいたが。


「ふん、まあいい。それで本題だが……お前達には何としても我が娘シャクティを無事に取り戻してもらいたい。無事に娘を取り戻した暁には一人当たり100万ルピーを支払おう」


 1ルピーが大体1・5円くらいなので1人150万円くらいか。娘を取り戻す為の報酬としてそれが多いのか少ないのかの判別は天馬には付かなかったが、この国の物価なども加味して考えれば大金なのは確かだろう。


「そりゃいいんだが、取り戻すって言っても手がかりも何もない状態じゃ探しようがないぜ」


 最初に誘拐事件のニュースをテレビで見た時も出た問題点だ。社会的には一介の外国人旅行者に過ぎない彼等に犯罪捜査の情報にアクセスできる権限はない。


「ふん、確かにその通りだが、それに関しては問題ない。娘を攫ったという犯行声明を出したテロ組織……『ヴリトラの怒り』と名乗る連中だが、実は奴等のアジトのいくつかは既に判明している。お前達はそこに奇襲を掛けて構成員から情報を聞き出してもらいたいのだ」


「え……ア、アジトが解ってるんですか? だったら私達なんて雇わずに警察に頼んだらいいんじゃ?」


 小鈴が尤もな疑問を呈する。だがザキールは不快そうに鼻を鳴らした。


「それが出来るならとっくにそうしておる。外国人のお前達には想像が付かんかも知れんが、この国の警察の腐敗ぶりは相当なものだ。恐らくアフリカやブラジルなどと良い勝負だろう。この街の警察には、この『ヴリトラの怒り』を始めとして他にも様々な犯罪組織と結託して、警察の内部情報を売る(・・)事で利益を得ている輩が相当数いるのだ」


「……!」


「警察に踏み込ませた所で、事前の内通によって肩透かしに終わるのは目に見えている。そうなれば奴等は今判明しているアジトも引き払って、より深い場所に潜伏されて二度と捕捉できなくなるかも知れん」


「…………」


 それが本当ならザキールが警察を当てにせずに独自に動いているのも頷ける話だ。


「そして大勢でワラワラと駆け付ければ、やはり奴等に察知されてしまうだろう。少数精鋭で極力迅速に事を運ぶのが望ましいのだ。これが先程の『面接』の理由だ。まさかお前達のような手練れが現れたのは嬉しい誤算だったが」



「なるほど、話は分かったぜ。じゃあ早速その判明してるアジトの場所って奴を教えてくれないか? 俺達に任せてくれればそこにいる奴等を全員叩きのめして情報を吐かせてやるぜ」


 天馬が事も無げに請け負うと小鈴も同意するように頷いた。


 例え武装していたとしてもプログレスでもない一般人が相手なら、ましてやディヤウスが3人もいれば問題なく制圧できるはずだ。むしろ極力余計な殺しをしないよう注意しなければならないかも知れない。


「ほぅ、それは頼もしい限りだな。シャクティは儂が今よりも()に行くために必要な大切な道具(・・)だからな。何としても無傷で連れ戻せ。全く……ネルー首相のご子息との婚約が実現しそうだという所で……。ここで万が一の事があったら、これまでの儂の投資(・・)が全部無駄になってしまうわ」


「……! …………」


 ザキールが思わずといった感じで漏らしたその愚痴(・・)に、天馬達は(食事中のアリシアでさえ)眉をしかめた。同時に天馬はテレビで喋るザキールを見た時に感じた印象が間違っていなかった事を確信した。


(……まあ、今はとにかくそのシャクティって人を助け出すのが最優先だな。その後の事はその時に考えりゃいい)


 まさか逆にこっちが人攫いになる訳にも行かないので、とりあえず無事に救出して、その上で改めてそのシャクティと話をする機会を設けるしかない。



 そんな話をしている内にいつしか食事もかなり進んでいた。アリシアなどは使用人達も驚くほどのスピードで平らげた皿をうず高く重ねてあり、それを見たザキールが僅かに頬を引きつらせる。


「おほん! そう言う訳だ。今夜はこの屋敷の客間に泊まっていくがいい。明日から早速仕事に取り掛かってもらう。既に面識があるようなので、お前達の案内にはアディティを付けるとしよう。後の詳細や細かい事は彼女から聞いてくれ」


 ザキールの言葉に、壁際に控えていたアディティが進み出て一礼する。



 こうして天馬達は正式にシャクティ捜索の仕事に雇われる事となった。自分達だけでは得られなかった手がかりを得られ、尚且つ被害者家族からのお墨付き(・・・・)を得られたのは大きい。


 方針さえ決まれば後は突き進むだけだ。食事を終えてアディティに案内されてダイニングを辞した天馬達は、既に大分夜も更けてきた事もあって、明日に備えて早々に与えられた客間に引きこもるのだった。


次回は第6話 ハイデラバード空港

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