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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
中国 成都市
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第14話 『黒獣』の鑿歯

 その後、散発的に何人かの敵に襲われたが、どれもプログレスではなかった為に天馬が不調であっても問題なく撃退できた。そのまま通路を進んでいくと、突き当りとなっている部分に両開きの重厚そうな扉が見えてきた。扉の造りも豪華な感じだ。見るからに怪しい。


「……よし、開けるぞ。何があってもいいように準備しておけ」


 アリシアが2人を振り返りながら警告する。天馬も小鈴もここに来て油断などするはずもなく、神妙に頷く。それを確認したアリシアは一気に扉を開いた。鍵が掛かっていれば神聖砲弾(ホーリーキャノン)でぶち破るつもりであったが、余計な神力を使わずに済んだようだ。


 そこは地下にあるとは思えないようなかなり広い空間であった。奥には大きな舞台のような演壇があり、それに向き合うようにして沢山の椅子が並んでいる。椅子の間には通路が走り、そのホールの構造は完全に劇場やコンサートホールを彷彿とさせるものであった。床や壁、天井の内装は無駄に豪華だ。


「な、何、ここ……? 劇場みたいだけど……」


 小鈴がホールを呆然と見渡す。だがアリシアには何となく予想が付いたらしく顔を顰めている。


「恐らく実際に商品(・・)の売買が行われている会場ではあるまいか? この形状からして競り(・・)のような事をしていた可能性もあるな」


「……っ!」


 小鈴が息を呑んだ。つまり彼女の友人である吴珊もここで……




「……やれやれ、とうとうここまで来てしまったのか、小鈴(・・)。まあいつかはこんな日が来るという予感もしていたが、現実の物となると残念だよ」




「ッ!?」


 ホールの奥にある壇上……そこに後ろで腕を組んだ1人の壮年男性が佇んでいた。一体いつの間に現れたのか、ここに入ってきて部屋を見渡した時は確かに誰も居なかったはずだ。小鈴は勿論、ディヤウスである天馬やアリシアでさえ気づかなかったのだ。


 小鈴はその男の顔を見て、その大きな目を更に限界まで見開いた。それはただ単に男が突然現れたからというだけではない、信じられない物を見るような目だった。



「え…………お、叔父さん(・・・・)? な、何でここに……?」



「何……!?」


 小鈴の言葉に天馬も驚愕する。確か彼女は叔父夫婦の下で暮らしていると言っていた。彼女が叔父と呼ぶからには、この男は小鈴の現在の養父という事か。



「叔父ではない。ここにいる時の私は、四川省の黒社会を束ねる元締め……【鑿歯(さくし)】だ」



「……!!」


 鑿歯とはこの人身売買組織のボスの名前だったはずだ。それもあのプログレス達をも従える程の……。


「お、叔父さんが鑿歯!? どういう事!? 説明してよ!!」


「どうもこうもない。見たままだよ。道観の道士である苏文生はあくまで表向きの姿に過ぎん。成都の闇を支配する『黒獣』の鑿歯こそが私の本当の姿なのだよ」


「……っ!!」


 小鈴の身体が震える。彼女も頭では理解しているのだろうが、余りにも予想外の事態に心が追い付いていない状態なのだ。無理もない話だ。養父とはいえいきなり自分の親が実は犯罪組織のボスでしたと聞かされただけでも衝撃だというのに、ましてや自分の友人が攫われそれを救出する為に捜索して乗り込んだ先にいた首魁が身内だったというのは余りにも皮肉が効きすぎている。


「そ、そんな……」


「シャオリン、気を確かに持て! ……貴様が何者であろうとこの組織のボスだと言うなら、今すぐ小鈴の友人を解放しろ。そして自首をして今までの罪を償うがいい」


 アリシアが茫然自失としている小鈴を叱咤しつつ、小鈴の叔父……鑿歯に銃口を向ける。だがある意味では予想通りというか、鑿歯は向けられた銃口になんら頓着する事無く酷薄な笑みを浮かべる。


「しかしディヤウスが2人もこの成都を訪れ、しかも小鈴と接触して私の元まで辿り着こうとは。こう出来過ぎていると運命とやらの存在を信じたくなってしまうな」


「……! 動くな!」


 鑿歯が悠々とした足取りで壇上から跳び下りてこちらに歩いてくるのを、アリシアが鋭い声で警告する。しかし鑿歯は全く足を止める気配が無い。



「……警告はしたぞ。小鈴、済まんな」


 曲がりなりにも彼女の叔父を撃つに当たって小鈴に謝罪して、それから容赦なく神聖弾を発射した。吴珊は自分達で探せばいい。そう思っての発砲であったが……


「ふっ……」


「……っ!?」


 信じがたい光景が展開された。後ろで組んでいた鑿歯の手が解かれると、残像すら見えないような速度でその手が動いた。そして……神力の塊であるはずの神聖弾を軽々と打ち払ってしまったのだ!


「んん? 何だ、まさかこの程度の力で大口を叩いていたのではあるまいな?」


「……くっ! なめるな!」


 鑿歯の余裕と嘲りの態度に目を吊り上げたアリシアは、恐ろしい程の早業でまるで一発にしか聞こえない銃声で数発の神聖弾をほぼ同時に撃ち込んだ。


 本物の銃弾以上の速度と威力を伴った神力の塊が超高密度で連続して迫る。まともに喰らえば鑿歯の身体は文字通り蜂の巣と化すであろう。だが……


「シハッ!!」


 鑿歯は今度は両手を使って同じように凄まじい速度で縦横に動かすと、撃ち込まれた神聖弾を全て掻き消してしまった。


「ば、馬鹿な……」


「出し物は終わりか? では次はこちらの番だな」


 鑿歯の身体から異様な程の強烈な邪気が発散される。天馬はこの邪気の強大さだけでなく、その性質にも覚えがあった。そう……あの護国天照宮で戦った我妻という男のそれと同質のものだ。つまりこの男は……



「てめぇ……まさか、浸化種(ウォーデン)か?」



「ほぅ、知っていたのか、小僧。お前はまだウォーデンにはなっていないようだが。如何にもその通り。【鑿歯】は我が神の名でもあるのだ。私をお前達が今まで倒してきたプログレス共と同じに考えない方が良いぞ?」


「……!」


 考えてみれば当然の話だ。組織にもあれだけプログレスがいてそれを統率していたのだから、首領はプログレスよりも強大な存在……つまりウォーデンと考えるのが自然だ。


「ぬぅんっ!」


「っ! 速――――」


 鑿歯が踏み込んできた。狙いはアリシアのようだ。その踏み込みの速さはプログレスなどとは比べ物にならず、アリシアは殆ど反応できずに硬直してしまう。鑿歯の腕にあの黒い波動が濃密に纏わりついて、まるで巨大な獣の爪のような形状を作っていた。


 その黒い爪を容赦なくアリシアに振り下ろそうとして―― 


「――させるかぁっ!!」


 天馬が瀑布割りを掲げてその爪撃を受け止める。勿論神力を纏わせて鬼神三鈷剣を形成済みだ。


「うぐっ!?」


 そして凄まじい圧力に抗しきれずに片膝をついてしまう。勿論天馬が毒で不調だというのもあるが、それを抜きにしても相当の膂力である。


「邪魔だ、小僧!」


 鑿歯がもう片方の手を薙いできた。そちらの手も同じように獣の爪の形状で黒い邪気が纏わりついていた。一方の振り下ろしを防ぐのに精一杯であった天馬はその追撃に対処する余裕が無い。


「ぐぁっ!!」


 咄嗟に身を捻る事で直撃は防いだが、黒い爪によって胴体を抉られてしまう。鮮血が舞った。


「テンマッ!」


 更なる追撃が天馬を襲うが、その前に立ち直ったアリシアが近距離で銃撃を放つ。鑿歯は煩わしそうにその神聖弾を払ったが、それによって一時的に天馬への圧力が止んだ。


「……! うおぉぉぉぉっ!!」


 気力を振り絞って鑿歯の爪を跳ね除けると、刀を横薙ぎに振るう。だが毒や出血によってその斬撃は精彩を欠いており、鑿歯は後方に宙返りして容易く薙ぎ払いを躱してしまう。



「……っ。ふぅ……はぁ……はぁ……!」


「テンマ、大丈夫か!?」


 傷だらけで荒い息を吐く天馬にアリシアが駆け寄る。今の攻防だけでも鑿歯の実力が相当なもので、少なくともアリシアと弱った天馬だけでは厳しいという事を物語っている。


 小鈴は未だにショックから呆然としたままだが、どのみち彼女が加わった所で殆ど意味はないだろう。


「愚かな。女のディヤウスと、ウォーデンにもならぬ半端者の小僧の2人で私に勝てるはずもあるまい? だが貴様らは共に【外なる神々】に歯向かう痴れ者。今ここでその芽を絶ってくれる」


 鑿歯が天馬達の様子を嘲笑うと、その黒い獣の両腕を大きく横に開いた。するとその獣の両手に邪気が集まっていく。そして……


『黒狼爪斬波!!』


 内側に向かって振り抜いた両手の爪から爪撃の形に沿って黒い衝撃波が発生した。しかもその衝撃波は非常に鋭利な切れ味で途中にある椅子などの障害物を輪切りにしながら迫る。先の猫男が使っていた爪撃波とは比較にならない規模と威力だ。しかも攻撃範囲が広く飛び退って躱したりなど出来そうにない。


「……っ!! くっそ……!」


「テンマ……!」


 アリシアが咄嗟に神力を高めながら天馬の肩を掴む。それで彼女の意図を瞬時に察した天馬も、自身の神力を限界まで高めて目の前に手を翳す。


 すると天馬とアリシア、2人の神力を束ねた半透明の厚い『膜』のような物が眼前に形成される。『膜』の大きさは2人を覆い隠すには充分な面積だ。そしてその『膜』に鑿歯の技が衝突する。


「うぐっ……!!」


 そしてその瞬間、防護膜に凄まじいまでの圧力が加わった。勿論幸いにしてそんな経験はないが、イメージ的にはブレーキ無しの全速力で突っ込んできた大型のダンプカーに激突された感じだ。


 毒を喰らっている天馬は勿論、アリシアもこれまでにかなりの神力を消耗しており、その桁外れの攻撃の前に防護膜の強度を保てなくなってきた。膜の表面に亀裂が走り始める。


「……!! いかん!」


 アリシアが気付いた時にはもう手遅れだった。ズタズタに裁断された『膜』が細切れになって消滅していく。


「おあぁぁぁぁぁぁっ!!」「ぐあぁぁっ!!」


 2人は鑿歯の攻撃に曝されて、その衝撃に耐えきれずに吹き飛ばされる。『膜』によって軽減されたもののそれでも充分凄まじい威力で、2人は全身切り傷だらけになってホールの壁に激突して崩れ落ちる。


次回は第15話 火神

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