第12話 女体の壁
入り口から入ってすぐに大きなエレベーターがあった。その前に警備員と思しき銃を持った男が2人ほどいた。
「……っ!」
男達は天馬達の姿を見るなり、やはり誰何の声も上げずに銃口を向ける。だがその銃口から銃弾が発射されるよりも遥かに速く、アリシアのクイックショットが2人の男をほぼ同時に撃ち抜いた。
天馬が口笛を吹く。
「ひゅう! 今マジで西部劇の早撃ち勝負みたいだったな!」
「そう思うか? 実は私も、我ながらそう思った所だ」
2人がそんなやり取りをしている間にエレベーターに駆け寄った小鈴が呼び出しボタンを押そうとするが、
「おい、待った小鈴。あそこに監視カメラがある。この状況でエレベーターに乗るのはやめた方がいいかもだぜ」
「……!」
天馬に言われて小鈴も気付いたらしい。天井に小さな監視カメラが取り付けられていて、こちらにレンズを向けていた。常に最悪の状況を想定するのであれば、天馬達の侵入はバレたという前提で動いた方が良い。のこのこエレベーターに乗ったら途中で電源を止められて閉じ込められる可能性もある。
「あ、そ、そうね。迂闊だったわ」
小鈴は気が急くあまり注意力が散漫になっていた事を自覚した。アリシアが視線を巡らせて、すぐに非常階段と思しき通用口に気付いた。
「テンマの言う事も尤もだ。どうやらこの施設は地下に広がっているようだ。あそこから降りるとしよう」
そして3人は非常階段から一気に下まで駆け下りていく。非常階段と言っても普通のビル等のそれと違って途上階がなく、ひたすら階段と踊り場だけで下へ下へと続いているのみだった。
優に10メートル以上の高さを降りただろうか。終着点と思われる『最下層』のフロアへ続く扉が下に見えてきた。するとその扉が中から開いて何人かの男達が現れた。全員銃を持っている。やはりこちらの侵入は察知されていたらしい。
「……! 拡散神聖弾!」
それを認めたアリシアが問答無用で銃技を放つ。何条もの拡散した光線が数人の男達を纏めて撃ち抜いた。
「よし、今の内に侵入するぞ!」
「……やっぱ銃持ってる敵には相性いいよな」
今の所何もせずにアリシアに付いて行ってるだけの天馬はちょっと複雑な気分でそう呟いた。
開いた非常扉から中に侵入した3人。そこは豪華なホテルのロビーのような場所となっていた。綺麗な内装の壁紙には高価そうな絵画が飾られ、所々に天馬には値打も解らないような調度品が並んでいた。照明もシャンデリア風の洒落たデザインの物ばかりであった。
「……意外だな。もっと刑務所みたいな場所かと思ってたが」
陰鬱な牢獄の景色を想像していた天馬は思わず目を瞠って辺りを見渡した。いずれにせよパンダ繁殖施設の地下にあるとは到底思えない場所であった。
「場合によっては『客』との商談も行われる場所だと考えればそう不思議な事でもあるまい」
「そんな事より早く吴珊たちを見つけないと……!」
小鈴が血走った目で周囲を見渡すが、広いロビーからはいくつか廊下が伸びていて、どこに攫われた人達が捕まっているのかも解らない。それにボスである鑿歯とやらがどこにいるかも不明だ。
「ふむ、手当たり次第に探すのは少々骨が折れそうだな……」
3人で手分けして探せば効率が良いかも知れないが、まだ敵がどれくらいの戦力を残しているかも不明な状況で分散するのは悪手だ。敵には少なくともプログレスも所属している事が解っているのだから。
「なぁに、だったら敵がやってくるまで待とうぜ。そいつらが来た方角が正解だ」
「……! ふ、なるほど」
天馬の一見大胆不敵とも思える作戦にアリシアが口の端を吊り上げる。だがどうせ既に侵入がバレているならある意味では一番手っ取り早い方法でもあった。
そして天馬のその作戦はすぐに成就する事になる。複数の足音がこの場に駆け付けてくる。
「……! いたぞ、アイツらだ!」
「殺せっ!」
5、6人の武器を持った男達がロビーに現れ、天馬達の姿を認めると一斉に襲い掛かってきた。今度の男達は銃ではなく、例の刀身が短めの柳葉刀で武装していた。
アリシアが先制の銃撃を仕掛けるが、1人の胴体を撃ち抜くだけに終わった。残りの男達は散開して斬り掛かってくる。天馬は前列にいる3人の敵を受け持った。残り2人の敵がアリシアと小鈴にそれぞれ襲い掛かる。
男達は一斉に……ではなく、互いの隙を補う形で連携して攻撃してくる。数も3人いるのでそのままであれば天馬と言えど苦戦は免れない。
「鬼神天輪眼!」
ディヤウスの動体視力を発揮した天馬の目には男達の鋭い斬撃もスローモーションに映る。そして神力によって肉体や反射神経も強靭になった天馬は、文字通り目にも留まらぬスピードで男達の斬撃を躱すとそのままカウンターで一刀の元に斬り伏せる。
アリシアは接敵される前に再度の銃撃で眼前の敵を倒していた。例によって小鈴だけは苦戦するが、やはり既に敵を倒し終わった天馬達が加勢することで事なきを得た。
「よし、じゃあこっちに進んでみようぜ。気を抜くなよ?」
天馬達は敵が現れた廊下を慎重な足取りで、しかし可能な限り急ぎ足で進んでいく。しばらく進むと壁際にいくつも頑丈そうなドアが並んでいる広めのフロアに出た。フロアにはベンチや灰皿、観葉植物などが置かれている。そしてそこには……
『貴様ら……何者か知らんが、これ以上好き勝手出来ると思うなよ?』
「……!」
まるで犬のような顔をした怪物と、猫のような顔の怪物、そして鼠のような顔をした怪物の3人が待ち構えていた。プログレスだ。だが3人なら昨日の襲撃戦の時と同じなので、油断さえしなければ問題なく勝てるはずだ。
「プログレス……しかも人浚いの一味ってんなら容赦する必要はねぇな。邪魔するならてめぇらから斬り倒してやるぜ」
天馬が神力と闘気を発散させる。アリシアと小鈴もその後ろで武器を構えて戦闘態勢を取る。鼠男が鼻を鳴らした。
『ふん、威勢が良いな、ディヤウスの小僧。ならばまず貴様から片付けてやる』
「……!」
奴等が合図をすると、フロアの壁に並んでいた扉が一斉に開いた。敵の増援かと警戒する天馬達だが、それは半分正しかった。
「なっ……!?」
扉の奥の部屋から現れたのは20人近い数の女性であった。全員が丈の短い貫頭衣のような粗末な服を着せられて、首には金属製の首輪を嵌められている。どうやらここに攫われていた商品の女性達らしい。
一瞬扉が開いて脱走したのかと思ったが、それにしては様子がおかしい。全員恐怖に表情を歪めて顔を引き攣らせているのだ。それでいて彼女らの手足は本人の意思とは関係なく動いているようで、プログレス達の指示に従って殺到してくる。
「……!」
いや、違う。女性達はまるで天馬とアリシア達を分断するかのように間に割り込んできたのだ。そしてそのままアリシアと小鈴の2人を隔離して、フロアから廊下に押し出してしまう。明らかに意図的な動きだ。
「く、こやつら……!?」
「天馬……!!」
2人は反射的にその『壁』を突破しようとするが……
『解ってると思うが、そいつらは我々が魔力で強引に操っているだけの生きた人間だぞ? しかも卑劣な人浚いに誘拐された哀れな被害者様達だ。そいつらを怪我させたり殺したりがお前達に出来るのか?』
「……っ!!」
プログレスの警告にアリシアと小鈴の動きが鈍る。手加減して掻き分けようとしても、操られた女性達は執拗に妨害してくるので、結果として2人は『女体の壁』に阻まれてフロアから完全に締め出されてしまった。
『さて、これで邪魔は入らん。嬲り殺しにしてやるぞ、小僧』
『大変な損害を与えてくれたものだ。貴様を殺し、あの女2人は捕えて「商品」とする。それでようやく鑿歯様のお怒りも鎮まるだろう』
「……っ。てめぇら……!」
いきなりプログレス相手に3対1の状況に置かれる事になった天馬は歯軋りする。こうなったらやるしかない。
次回は第13話 勝利の代償




