第8話 刺客襲来
「む……2人共早かったな。首尾はどうだったのだ?」
建物の外で待っていたアリシアが、出てきた天馬と小鈴の姿を認めて近付いてきた。因みに外にいても結構な注目を浴びていたようだ。
「ああ、確実に手応えはあったぜ。小鈴は結構演技派だな」
「え、そ、そうかしら? 自分では必死だったけど……あそこに行ったら、最初に追い返された時の怒りが再燃しちゃって余り深く考えてなかったわ」
つまり半ば本気で怒鳴っていたという事か。それでもちゃんと探りを入れられたのだから大したものである。
「そうか。いずれにせよ成果はあったという事だな? よくやった。では手筈通りに行くか?」
「ああ」
天馬が頷く。彼の予想では連中は確実に『網』に掛かったはずだ。後はそれを束ねて引き揚げるだけだ。
3人はその足で連れ立って武候区に戻っていく。そしてやはり不自然にならない程度にあちこち寄り道もしながら、徐々に人気の少ない区画に入っていく。こちらには外見的に非常に目立つアリシアがいるので、わざと人目を惹くような不自然な挙動をしなくて済む。そして……
「……!!」
場所こそ違うものの昨日と同じような路地裏に入った所で、天馬達はあの独特の違和感を覚えた。
「『結界』だ。お出ましのようだぞ」
あの内部と外部を隔てる半透明の膜のようなものの事だ。『結界』を張ると中の人間を出さない檻になるだけでなく、外の人間には偽の風景を見せて尚且つ無意識に近寄らなくなる効果があるらしい。
今回のように即席のバトルフィールドを作るには絶好の能力という訳だ。
天馬達がいるのは丁度三叉路が交差する広場のような空間。そしてその三叉路のそれぞれから人影が歩いて近付いてくる。つまり3人だ。
昨日あれだけの数の刺客を返り討ちにした天馬達に対して、たった3人で現れるという事は……
「……本当にこんな女子供が同志を撃ち破ったのか?」
「俄かには信じられんな」
「だが同志の魔力が消えたのは事実。それも10体以上の僵尸共も一緒にな」
近付いてきた男達はいずれも中国人のようで、袖と裾が長い独特の黒い衣装を身に纏っている。
「はっ、お前ら全員プログレスだな? 不思議か? 何で俺達みたいな女子供がお前らの仲間を倒せたのか……!」
天馬が自身の神力を解放しながら出現させた【瀑布割り】を握り締める。それを認めた男達の目付きが変わる。
「……!! こいつら、まさか!?」
「ディヤウスか!?」
「ふ、ようやく気付いたか! 自分達が釣り針に掛かった魚だと!」
アリシアも愛銃【デュランダル】を自分の手に顕現させる。その横では小鈴も、2人のように異次元から呼び寄せるなどという離れ業は使えないものの、素早く自分の得物である梢子棍を取り出して構える。
「さあ、お前らもお仲間と同じ所に送ってやるぜ!」
天馬が瀑布割りを大きく振りかぶり、練り上げた神力と共に一気に振り下ろす。するとまるでその刀の軌跡に合わせるように赤い光が刃となって射出された。
『鬼刃斬!』
「何……!?」
天馬達から向かって前方にいた2人のプログレスが目を剥いて飛び退る。彼等が躱した後、後ろにあった建物の塀が綺麗に切断された。
「こいつ……!」
「油断するな! こうなれば全力で仕留めるぞ!」
天馬の力の一端を見たプログレスたちの態度が完全に変わる。そして奴等の姿が昨日倒したプログレスと同じような、獣の人間が合わさったような怪物の姿に変わっていく。それと同時に天馬を脅威と見做したのが2人掛かりで襲い掛かってきた。残りの1人も同じように変身して、こちらはアリシアと小鈴の方に向かう。
「アリシア! 小鈴! そいつは任せるぞ!」
「うむ! お前は自分の戦いに専念しろ!」
「気を付けて、天馬!」
そして3人はそれぞれの戦場に向き合う。
『死ねッ!』
天馬の元に向かってきた2人の内1人が、あの黒い波動のような物を飛ばして攻撃してくる。天馬は今回は敢えて避けなかった。瀑布割りに神力を纏わせた『鬼神三鈷剣』に振りかぶり、そして再び……
『鬼刃斬!』
天馬が放った赤い刃の波動は、プログレスの放った黒い波動と真っ向からぶつかり合い……そして黒い波動を抵抗なく斬り裂いた!
『何だと!?』
プログレスが驚愕する暇もあればこそ、そのまま突き進んだ鬼刃斬は攻撃を放ったばかりで硬直していたそのプログレスの胴体を斜めに斬断した。2つに分断されて、大量の血を噴き出しながら地面に転がる怪物。
『化け物めっ!』
「お前らに言われたくないぜ!」
だがその間にもう1人のプログレスの接近を許してしまう。奴は顔だけでなくその両手も怪物化させており、鋭い鉤爪を振るって接近戦を仕掛けてくる。
天馬は飛び退って鉤爪を躱すが、プログレスは驚異的な体術と身体能力を駆使して距離を取らせない。そのまま恐ろしい勢いで次々と鉤爪や、時には蹴りも交えた体術で攻め立ててくる。天馬とて鬼神流の修行の一環として体術は学んでいるが、鬼神流は悪く言えば器用貧乏な所があり、やはりそれぞれ専門分野においては一歩譲る。
(ち……このままじゃ埒が明かねぇな! だったら……!)
天馬は自身の修行とそしてディヤウスの潜在能力から、新たな技を引き出す。
『燦閃光!』
『……っ!?』
一瞬だが天馬の身体全体が強烈に発光した。それは本当に一瞬でありしかも何の攻撃能力も持たなかったが、その閃光は至近距離にいたプログレスの視界を灼いて一時的にその目を眩ませる。
一瞬で発動できる分効果は限定的であり、目くらましの効果もそれ程長い間ではないだろうが、天馬にとってはその僅かな時間で充分であった。
視界を焼かれる不意打ちにプログレスが明らかに怯んだ。その隙に距離を取った天馬は鬼神三鈷剣を大上段から斬り下ろした。
「っらああぁぁぁぁっ!!」
『ギャバァァァッ!!!』
頭頂から股間まで唐竹割りにされたプログレスが左右に分断されて地面に転がる。敵の殲滅を確認して天馬は息を吐いた。
「ふぅ……しかしこいつらを殺さずに生け捕るってのはちょっと厳しそうだな」
それくらいには手強い相手だ。しかも下手に生かしておくとどんな反撃を試みてくるか知れない。天馬はアリシア達の状況を確認する。
アリシアと小鈴は天馬とは逆に2人で1人の敵を相手にしていたが、それでも苦戦を強いられていた。やはりアリシアが遠距離特化である事と、前衛役の小鈴が未だにディヤウスとして覚醒できていない通常の人間である事が苦戦の要因となっていた。
「う……く……!」
プログレスの人間離れした挙動と身体能力に付いて行けずに一方的に追い詰められる小鈴。それでも何とか必死で抗う彼女の隙を楽々と突いて、プログレスが致命の一撃を繰り出そうとすると……
「シャオリンッ!!」
『……!』
アリシアが神聖弾を撃ち込んでそれを妨害する。しかしプログレスは素早い挙動で銃弾を躱す。その間に何とか体勢を立て直す小鈴だが、再びプログレスの追撃を受けて強制的に守勢に回らされる。先程からこの繰り返しであった。
「く……奴とシャオリンの距離が離れねば強力な技を使えん」
アリシアが歯噛みする。今の状況では通常の神聖弾で援護するのが精一杯だ。より強力な技を使おうとすれば小鈴を巻き込んでしまいかねないし、何より強力な技には若干の溜めがいるので、その間小鈴の援護が出来なくなる。そうなれば彼女は一溜まりも無いだろう。アリシアもこの状況に縛られて打つ手を見出せなかった。
「小鈴っ!」
だがそこに2体の敵を片付けた天馬が加勢に現れた。丁度小鈴に攻撃を加えようとしていた所だったプログレスは、横から跳んできた天馬の跳び蹴りをまともに喰らって吹き飛ばされた。
「……! 距離が開いた!」
アリシアは素早く神力を練り上げると、跳び蹴りを喰らいながらも空中で1回転して着地したプログレスに銃口を向けた。
『神聖連弾!』
一度の射撃で神聖弾が一発ではなく、それこそマシンガンの如く連続して銃口から発射された。着地の直後であったプログレスはその光の連弾を躱せずに、胴体を文字通り蜂の巣にされて吹き飛んだ。
神力の塊を何発もまともに受けたプログレスは胴体を破裂させて動かなくなった。即死だろう。
次回は第9話 尋問




