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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
中国 成都市
20/175

第5話 キョンシーの恐怖

 さてどうした物かと天馬が頭を悩ませかけるが……幸か不幸かその前に再び事態が急変した。


「む……!? これは……」


 アリシアが眉間に皺を寄せて周囲を見渡す。ほぼ同時に天馬も気づいた。まるでこの路地全体を包み込むかのように半透明の黒い膜(・・・)が出現し、そして強烈な邪気(・・)を感知したのだ。


(これは……あの学校の時と同じ……!?)


 倒れていたはずの男達が一斉に起き上がった。それもただ起きた訳ではない。重力や物理法則を無視するように、まるで一本の棒が縦になるかのような不自然な起き上がり方だったのだ。


 そうして起き上がった男達はしかし、生気のない表情のままだ。まるで死んでいるように……いや、間違いなく男達は死んでいた(・・・・・)。なのに全員が不自然に起き上がったのだ。



「な、何!? 何なの!? それにこの物凄い邪気は……!?」


 小鈴が慌てて身構える。だがその額には大量の冷や汗が滲んでいた。どうやら彼女にはディヤウスに覚醒する前から、魔力などを感じ取れる才能があるようだ。



「気をつけろ、テンマ! 奴等の中に『進化種(プログレス)』が混じっていたようだ!」



「みたいだなっ!」


 天馬とアリシアも自身の得物を構える。彼等の睨み据える先……男達の中で1人だけ不自然な棒のような起き方をせずに、また死んでおらず自我を保っている男がいた。その顔はまるで人と野犬が合わさったようなケダモノじみた面貌に変化しており、両目が赤く煌々と光を放っている。


『……小煩い女鼠を捕獲するだけの簡単な仕事のはずが……まさか既に覚醒しているディヤウスが2人も居合わせるとは。これは不運と言うべきか、それとも……我等が【外なる神々】に歯向かう潜在的な邪魔者を消せる好機と言うべきか』


「……!」


 あの学校で聞いたのと同じブラーが掛かったような人外の音声。しかしディヤウスに覚醒してその力の扱いに習熟してきたお陰だろうか、学校の事件では不明瞭だったプログレス共の言葉が明瞭に聞き取れるようになっていた。


『新しき神々の為に! そして我が主、【鑿歯(さくし)】様の為に!』


 男――プログレスが両手を広げると、それに合わせて周囲の男達(の死体)が一斉にこちらを向いた。まるで操り人形か何かのような不気味さだ。それを見た小鈴が青ざめる。



「こ、これは……まさか、僵尸(キョンシー)!?」


「キョンシー? キョンシーってあれか? あの昔の映画に出てくるぴょんぴょん飛び跳ねるやつ?」


 子供の頃に見た古い中国のコメディ映画を思い出すが、小鈴は激しくかぶりを振った。


「あれは忘れて! 僵尸は恐ろしい妖怪よっ!」


 その真剣で必死な叫びに天馬も気を引き締める。ほぼ同時に僵尸達が襲いかかってくる。



「……っ! 速ぇっ!」


 生前(・・)の男達より格段に素早い動き。しかも人体の構造を無視した突発的で奇怪的な動きなので、なまじ人の形をしているだけに惑わされる。


「ち、こいつら……! 小鈴、下がってろ!」


 会ったばかりの小鈴の名を咄嗟に呼び捨てにしていたが、それに気づく余裕はお互いに無かった。小鈴とアリシアを庇うように前に出た天馬は『瀑布割り』を一閃。前にいた僵尸を2体まとめて薙ぎ払うが、既に生命無き僵尸共は深い裂傷を負っても全くお構いなしに肉薄してくる。


 僵尸の攻撃はかなり速く、ディヤウスの力を発揮していなければ対処が困難なレベルだ。天馬は複数の僵尸からの攻撃を必死になって躱す。


「テンマッ!」


 アリシアも援護で素早く神聖弾を撃ち込むが、僵尸は胸に神力の塊である神聖弾を食らったというのに、それでも消滅する事無く体勢を立て直す。


「ぬぅ、こやつら!?」


『ふぁはは、我が呪力が込められた僵尸共、そう容易くは討ち果たせんぞ』


「……!」


 動揺するアリシアをプログレスが嗤う。この僵尸達はただの妖怪ではなくあのプログレスが作り出して操っているのだ。大元を断たねばキリが無いという事か。ならば天馬がやる事は一つだ。


「アリシア、小鈴を頼む! アイツは俺がやるっ!」


「……っ! 了解した! 頼むぞ、テンマ!」


 この僵尸共の相手はディヤウスとして未覚醒の小鈴ではキツいはずだ。さりとてアリシア1人ではそう長く小鈴を守りきれないだろう。時間は限られている。



「おぉぉぉっ!! どけぇぇぇっ!!」


 天馬は『瀑布割り』を縦横に振るいながら僵尸共を斬り裂く。そして僵尸達が倒れないまでも怯んだ隙をついて、一直線にプログレスの元を目指す。何体かの僵尸はそのまま天馬に追撃を仕掛けてきたが、残りはターゲットを変更してアリシアと小鈴の元に迫る。


拡散神聖弾(ホーリースプレッド)!』


 アリシアの愛銃デュランダルが光の粒子が迸る。拡散する光の弾丸によって彼女らに迫っていた僵尸達がまとめて撃ち抜かれるが、やはり僵尸達は怯んで体勢は崩したもののすぐに持ち直して再び襲いかかってくる。


「く……こいつらを倒すには『神聖砲弾(ホーリーキャノン)』の直撃が必要か」


 アリシアが歯噛みする。ホーリキャノンは威力は大きいがその分隙も大きく、しかも神力を貯めるのにもやや時間がかかる。少なくともこのような白兵戦を余儀なくされている状況で使える技ではない。


 だが僵尸共は容赦なく迫ってくる。こちらがディヤウスだと解って生け捕りはやめたらしく、完全に殺すつもりで攻撃してくる。アリシアは何とか僵尸共の攻撃を躱しつつ牽制で神聖弾を撃ち込むのが精一杯となる。


 だが当然それではこちらに向かってきた僵尸を全て引きつけておく事は出来ずに、一体が小鈴の方にも向かってしまう。

 

「う……く、くそ、かかって来なさい!」


 小鈴は梢子棍を構えて僵尸を迎え撃つ。だが僵尸は生前(・・)とは比較にならないほどのスピードで、一瞬のうちに彼女の前に肉薄した。


「っ!」


 あまりの速さに動揺する小鈴だが、それでも反射的に梢子棍をその頭に叩きつけた。僵尸は避けずにまともに喰らい、衝撃でその首がおかしな方向に折れ曲がる。常人なら勿論即死だ。だが……


「ひっ……」


 小鈴が息を呑む。彼女の前で僵尸の首がゴキゴキという異音と共に元に戻っていくのだ。怯む小鈴に僵尸が襲いかかる。凄まじいスピードと人体の構造を無視した奇怪な動きに惑わされ、瞬く間に防戦一方となる小鈴。


「うぅ……! く……!」


 しかし防戦(それ)すら徐々に危うくなる。僵尸の動きも速さも人間離れしている。そんな妖怪相手に多少持ち堪えられるだけでも大した物だが、それが限界であった。徐々に追い詰められていく小鈴。アリシアはそれが解っていながら自身も複数の僵尸を相手取っている為に助ける余力がない。


「シャオリン! く……テンマ、まだか……!?」


 今の彼女にできる事は少しでも多くの僵尸を引きつけつつ、天馬がプログレスを倒す事を願うのみであった。




 一方その天馬は既にプログレスのもとに到達し、激しい戦闘の真っ最中であった。


『日本人か……愚かな。我々と正面切って争って貴様らに勝ち目があるとでも思っているのか?』


 プログレスは喋りながらその手から黒い波動のような物を放出して攻撃してくる。躱すと後ろにあった建物の壁が粉々に砕け散ったので当たらない方が無難そうだ。


「だからその為の戦力を集めてるんだよ! 邪魔すんじゃねぇっ!」


 天馬が刀を横薙ぎに振るうが、プログレスは素早く飛び退って回避した。元が武術を身に着けた人間だけあってかなりの身のこなしだ。


(ち……悠長に遊んでる場合じゃなさそうだな!)


 このままではアリシアと小鈴が危ない。彼女らが殺されてしまう前にコイツを倒さなくてはならない。天馬は自己の神力を練り上げディヤウスのパワーを全開にする。そして刀を掲げる。


『鬼神三鈷剣!』


 刀に神力が集まり、その刀身が赤い光に包まれる。


『ぬ……!』


 天馬の様子が変わった事を警戒したプログレスがあの黒い波動を連続して、まるで絨毯爆撃のように撃ち込んでくる。だがディヤウスの力を全開にした今の天馬には、迫ってくる黒い光弾が全てスローが掛かったように見切れていた。


「ふっ!」


 呼気と共に、撃ち込まれる黒光弾を次々と躱しながらプログレスに肉薄する。焦ったプログレスが残った僵尸を間に入れて盾にするが、天馬の鬼神三鈷剣は僵尸共を胴体ごとまとめて両断した。


『馬鹿な……!?』



「死ねや、化け物!」


 プログレスが驚愕しつつも放ってきた黒い波動を高く跳躍して躱すと、天馬が頭上に掲げた鬼神三鈷剣が一段と赤光を強めた。


『鬼神両断刃!』


 強烈な赤光の煌めきと共に振り抜かれた刀は、回避も防御も許さずにプログレスを縦に分断した。


『おごあぁぁぁぁ…………』


 神力の剣で両断されたプログレスが一溜まりもなく消滅していく。今度こそ倒せたはずだ。その証拠にそれまでアリシアと小鈴を一方的に追い詰めていた僵尸達が、文字通り糸の切れた操り人形の如く動きを止めて、その場に一斉に倒れ伏した。


次回は第6話 協力体制

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