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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
日本 東京
170/175

第30話 正邪大戦

 靖国神社を模した(・・・)亜空間の内部。そこでは互いの存亡を懸けた正と邪の対決が繰り広げられていた。いや……『存亡を懸けた対決』と認識しているのは片方だけ(・・・・)だったかも知れないが。



「ベネディクト! 一度死しながら浅ましく生にしがみつくその姿、かつての同輩として見るに堪えんぞ!」


 アリシアは吼えながら『デュランダル』から目にも留まらぬ速射で神聖弾を撃ち込む。だがsの光弾はベネディクトの持つ剣であっさりと弾かれる。


「何とでも言うがいい。『王』の力の偉大さは貴様らには理解できまいからな」


 アリシアの攻撃を弾いたベネディクトの剣が眩い光に包まれる。奴はそのまま剣を振るって反撃してくる。凄まじい速さだ。尚且つ光の剣はその刀身の長さを自在に変化させて軌道が見切りにくくなっている。


「く……!!」


 アリシアは必死に飛び退って回避する。しかし完全には避けきれずに掠った傷から流血する。感じる魔力の圧から解っていたが、やはりその剣閃の速さも威力も本体(・・)に全く劣る所はない。


(これを私1人でか……! いや、私だけでなく皆も同じ状況か。長くは持たんぞ、シャオリン!)


 そう悟ってしまうアリシアだが、目の前の相手に勝つ必要はない。彼女に……いや、彼女らに出来る事は、ただ小鈴の起死回生の作戦を信じて時間を稼ぐ事のみだ。尤も単身ではそれすら危うい状況ではあったが。




「ドロテアァァ……メキシコでの続きと行こうじゃないか」


「……っ! お前は……兄さんじゃない! 軽々しく私の名前を呼ばないでっ!」


 嫌らしい笑いを浮かべて迫ってくる兄エミリオ……に似た何か(・・)は、禍々しい形状の杖を顕現させると、そこから大量の怒れる怨霊を放ってきた。


「く……『ショトロルの怨嗟!』」


 ドロテアも自らの神器『死者の杖』を顕現させて、そこから大量の怨霊を放出する。双方の技がぶつかり合うが、エミリオの放った怨霊共はドロテアのそれを一方的に食い破り、蹴散らしてそのままドロテアの元に殺到する。


 ドロテアは慌てて神力の障壁を張り巡らせるが、そこに怨霊共が到達して凄まじい圧力を加えてくる。


「う、うう! ぐ……ああぁぁっ!!」


 ドロテアの顔が苦悶に歪み、圧力に耐え切れずに障壁が突き破られてしまう。多少は軽減したものの怨霊共の爆発によって吹き飛ばされるドロテア。


「ははは、そこでしばらく寝ていろ。さて、その間に他の連中を『死儀礼の衣』で――」


 哄笑するエミリオが他のディヤウス達をターゲットにしようとするが、そこに槍を持った骸骨兵士が突きかかってくる。ドロテアの力によるものだ。


「他の皆に……手出しはさせない!」


 傷つきながらも強引に起き上がって技を発動するドロテアだが、ダメージによってふらつき息を喘がせている。しかし何としても目の前の相手を足止めしなければならない。この程度で寝てなどいられない。次々と新しい骸骨兵士を作り出してエミリオに差し向ける。


「ち、馬鹿が! 大人しく寝ていればいいものを!」


 エミリオは舌打ちして、黒い波動で骸骨を破壊する。しかし次から次へとドロテアの骸骨兵士達が殺到し、そちらへの対処を余儀なくされる。足止めと引き付けは成功だ。


(でも長くは持ち堪えられない。お願い……急いで!)


 必死でエミリオを牽制しながらドロテアは、心の中でひたすら作戦の成功を願った。




「あはは! 獲物が一杯だ! 僕の『雀蓮華』がアンタ達の神力を吸いたくて仕方ないってさ!」


 上杉が幼い顔を残忍に歪め、哄笑と共に孔雀の尾のような神器を振るい、大量の触腕を伸ばしてディヤウスの女性達を絡め捕ろうとする。これに捕まったら神力を根こそぎ吸い取られてしまう厄介な代物だ。だが……


「させないわ!」


 そこに独自の意思を持ったような一本の鞭が高速で撓り、『雀蓮華』の触腕を全て弾いて牽制する。ラシーダの『セルケトの尾』だ。


「……! ふぅん……お姉さん、面白そうな神器を使うじゃん。でもたった一本で僕の『雀蓮華』に対抗できるかい? こっちは合計十本(・・・・)だよ?」


 それぞれ五本の触腕を備えた『雀蓮華』を両手に把持した上杉が嘲笑する。それを受けてたった一本の鞭……『セルケトの尾』を構えたラシーダは、内心で激しく緊張しながらも気丈に笑う。


「ふふ、数が多ければいいって物じゃないわよ、坊や? 筋の通っていないふにゃふにゃの触手が数だけ蠢いて自分を強く見せる……。丸っきり坊や自身の写し身のようね」


「……ああ、そう。『雀蓮華』に根こそぎ神力を吸い取られる感覚を味わいたいなんて、とんだマゾの変態だね。じゃあお望み通りにしてあげるよ!」


 目が据わった上杉が静かな怒りの気配を発散しながらラシーダに殺意を向けてくる。挑発で上手く注意を引きつける事が出来た。後は如何にして生き延びるかだ。


「やれるものならやってみなさい、サディスト気取りの臆病者!」


 ラシーダは『セルケトの尾』を振りかぶり、迫りくる十本の触手を迎え撃った。一対十の絶望的な戦いが始まった。




『クロスクレアー!!』


「……!」


 ハリエットはX字に交叉させた二振りの斧槍『ヴァハ』と『バズヴ』を全力で振り抜いて、強烈な真空刃を発生させる。だがそれを叩きつけた相手……ジルベールに敢無く躱される。


「君は……」


「その特徴からしてケルヌンノスのウォーデン、ジルベールとやらですわね? (わたくし)はハリエット。戦女神モリガンのディヤウスですわ。同じケルトの神々をルーツの持つ者同士で決着をつけません事?」


 ハリエットは名乗りを挙げてジルベールを挑発し、一切の油断なく神器を構える。ジルベールはそれを受けて、しかし憐れんだような表情になる。


「愚かな……負けると解っていて儚い抵抗を続けるか」


「お生憎様。慈悲深い振り(・・)をして相手を上から見下す、傲慢なクズ男に負けるつもりなどこれっぽっちもありませんのでご安心なさいな」


 ハリエットこそ上から目線で見下したように鼻で笑ってやると、ジルベールの眉がピクッと動いた。


「愚かだ。本当に愚かだ。クーフーリンに相手にもされなかった道化の女神が、随分と威勢の良い事だね!」


 ジルベールがその手に握った刺突剣の切っ先を向けてくる。その研ぎ澄まされた殺気に冷や汗を垂らしながらも、ハリエットは己の役目を全うすべく一歩も退かずに踏み止まる。


「これ以上の問答は無用! 行きますわよ!」


 そんな己を鼓舞するように吼えたハリエットは、自分からジルベールに打ち掛かっていった。




「さて、邪魔な連中は一気に片付けるとするか。『ラーヴァ……」


『スクルド・フェーデ!』


 広範囲に溶岩を撒き散らそうとしたボリスを、冷気を帯びた鋭い槍の一撃が制する。ミネルヴァだ。神器『ブリュンヒルド』を構えて完全な臨戦態勢と取っている。


「……皆に手出しはさせない。あなたはもう一度(・・・・)私が斃す」


「……! ほう、もう一度と来たか。それでは君が私の本体(・・)を倒して、私をこのような憂き目に遭わせた張本人という事で良いのかな?」


 斃された自分自身を『本体』と言う彼等は、厳密な意味で生き返った(・・・・・)訳ではなく、あくまで『分身』という存在であるようだ。そして本体が斃された時の記憶までは保持していないらしい。


 厳密にはボリスを殺したのはラシーダだが、一々事実を訂正してやる必要などないし、奴の注意を引きつけるという意味では都合が良かったので彼女は頷いた。


「私の力は冷気。あなたとは相性が良かったみたい」


「ふん、どうせ仲間の援護を受けた上での勝利だろう? 一対一でもそう上手く行くかな?」


 案の定不快気に鼻を鳴らしたボリスはミネルヴァのみに標的を絞った様子だ。ここまでは上手く行った。後は如何にしてこの男を引き付けて続けていられるかだ。いみじくもこの男が今言ったように、一対一ではミネルヴァに勝ち目がないのは事実であった。


(でもそんな事は関係ない。この命を賭してでも役目を果たしてみせる)


「上手く行くか試してみる? 『スコルグ・ブロート!』」


 決意を固めたミネルヴァは自分から積極的に攻勢を仕掛ける。とにかく奴の注意を引きつけておかねばならない。


「ふん、今度こそ原子の塵まで焼き尽くしてやるわ。『ラーヴァ・ショット!』」


 ボリスも次々と溶岩弾を放って迎撃してくる。ミネルヴァの死闘が始まった。




「出でよ、『屍魔の軍団(コープス・レギオン)!』 あの女共を一人残らず喰らい尽くせ!」


 ハキ―ムの呼び声に応えて、次々と召喚されるプログレスの屍共。屍魔共はシャオリン達を始め神力を持つディヤウス達にのみ狙いを定めて襲い掛かろうとするが……


『ディーヴァの舞踏会!』


 光り輝く無数のチャクラムが縦横無尽に動き回り、当たるを幸い屍魔共を切り裂いていく。


「あなたの自由にはさせません! あなたは私が抑え込んでみせます!」


 シャクティだ。既に神器である『ソーマ』と『ダラ』という二振りのチャクラムを構えて臨戦態勢だ。数の力を行使するハキ―ムを抑え込めるのは、仲間内で最も手数に優れた自分しかいないという自負があった。


「インド人か、生意気な。ムスリムにもならずヒンドゥー教などという怪しげな宗教を未だに信仰する貴様らは、以前から目障りだと思っておったのよ。丁度いい、まず貴様から血祭りに上げてやろう」


「ウォーデンとなって邪神の下僕に堕しながら、今さら宗教の話など持ち出しますか!? 神聖な牛を平気で喰らいながら、一方で豚は食べれないなどという訳の分からない宗教よりはマシです! ヒンドゥー教は国民に断食など強いる事もありませんからね!」


 場違いな発言ながら、生まれた時から慣れ親しんでいた宗教を馬鹿にされて反射的に言い返すシャクティ。実際にはインド人にもイスラム教を信仰する者はそれなりにいるのだが。


 反論されたハキ―ムが目を吊り上げた。


「ネルガルやクトゥグア様への畏敬は信仰とは異なる物だ! 貴様らこそ神聖な豚を屠殺し、カースト制度などという訳の分からん身分制度を導入して差別を助長しているではないか!」


「人の能力や適性は個々人で違います! カースト制はあらゆる人々に分け隔てなく職業を与え糧を得る手段を獲得させる為にあるのです! 大体イスラム教こそ女性を差別して全然平等ではないじゃないですか!」


 売り言葉に買い言葉。どんな宗教にも欠点はあり、完璧なものなど存在しない。互いに悪口を言い合い始めたらどこまでも平行線だ。案外歴史上の宗教戦争もこのような切っ掛けで始まったのかも知れないが。


「おのれ……低能低俗な異教徒め、最早我慢ならん! 屍魔ども! あの小娘を骨も残さず食い尽くせ!」


「宗教の話を始めたのはそっちでしょう!?」


 シャクティは口を尖らせて抗議しながらもありったけの光のチャクラムを作り出して、迫りくる屍魔どもを迎え撃った。




『回帰の大槌!』


「ぬ……!」 

 

 岩で作り出した巨大なハンマーを西園寺に叩きつけるタビサ。だが奴は素早い身のこなしでハンマーを躱してしまう。


「邪魔だ! 『魔真空刃!』」


 西園寺が手刀を振り下ろすと、その軌跡に合わせて鋭利な風の刃が飛ぶ。だがそれは地面からせり上がった分厚い岩壁に相殺される。


「黒人の小娘、俺の邪魔をするか?」


「はっ、当たり前だろ! テンマをあんなにしやがって、絶対に許さねぇからなテメェら!」


 静かな殺気と怒気を発散させる西園寺に対して少しも怯む事無く、両拳に棘付きの岩石を纏うタビサ。怒っているのは彼女も同じであった。この亜空間に入り込んで最初に見た死に体の天馬の姿に心臓が止まりそうになった程だ。最初からいたこいつらが天馬をあれほど甚振ったに違いない。絶対に許すつもりはなかった。


 今はとにかく樹里の回復が効いてくれる事を願うだけだ。その為には死ぬ気でこいつらを足止めする必要がある。その覚悟は既に出来ていた。


「行くぜェェェッ!!!」


「馬鹿な小娘が! 死ねぃ!」


 拳だけでなく全身に岩石を纏って突撃してくるタビサを迎撃する西園寺。風と大地の凄まじいせめぎ合いが始まった!




「ひはは、雑魚共が! 俺様の技で全員麻痺させてやるよ! 『布都震雷波!!』」


 我妻が哄笑しながら自らの剣を地面に突き立てる。そこから雷撃の波動が地面を伝わって、広範囲を感電させる厄介な技だ。これを使われたら最悪全員が一瞬で無力化してしまう。だが……


『ライトニング・ロッド!』


 発生した雷撃が拡散する事無く、全て一点に収束される。ぺラギアの持つ神剣『ニケ』の元に。『ニケ』は我妻の放った雷撃を全て集めて雷に覆われるが、『ニケ』も、そしてそれを握るぺラギア自身も感電する事無く耐え切る。


「……! テメェは……」


「死んだと聞いていたから、まさかこうして直に相対するとは思わなかったけど……私も雷を操る能力には自信があってね。どちらが真に『雷使い』か、一つ力比べをしてみないかい?」


 『ニケ』と、そして神盾『アイギス』を構えて我妻を挑発するぺラギア。相手は強力だが、短慮で自制の効かない性格とも聞いている。ならばこれで確実に……


「ああ? 俺様に勝てると思ってんのか、雑魚が! 面白ぇ、その勝負受けてやるよ!」


 あっさりと食いついてきた。ぺラギアは内心で苦笑するが、反面激しい緊張も感じていた。奴は性格はともかく、戦闘能力は間違いなく一流らしい。少なくともぺラギアが1人で勝てる相手ではない。


(だけど足止めくらいなら私にだって出来るさ! というよりやってみせる!)


 気合を入れ直すぺラギア。そんな彼女の神衣(アルマ)から露出した素肌を舐め回すように視姦してくる我妻。


「くへへ、堪んねぇな、その姿。他の女共も似たり寄ったりの過激さだしよ。こりゃ後々の愉しみ(・・・・・・)が待ち遠しいぜ」


「……っ! この、下種が……!」


 ぺラギアは全身を視姦される汚辱に耐えつつ、早くその下種な視線から逃れたいという思いも手伝って自分から攻撃を仕掛ける。当然迎え撃つ我妻。激しい雷の束がぶつかり合い、凄まじい閃光を発した!

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