表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
日本 東京
165/175

第25話 『倨傲』の西園寺

 東京都新宿区にある、東京を代表する高級ホテル『皇国ホテル』。その最上階にあるロイヤルスイートは現在、その本来の使用目的に反して超常の力がぶつかり合う異能の戦場と化していた。


「ぬぅらァァァァッ!!」


 武士の甲冑のような神衣を纏った天馬は、手に握った『瀑布割り』を充分な神力と殺気を乗せて、目にも留まらぬ速さで煌めかせる。連続で振るわれる神の刃は、部屋中の高価な家具や調度品を斬断しながら敵……人以上の大きさとなった巨大鎌鼬(かまいたち)と化した西園寺に迫る。


『シハッ! 無駄だ無駄だ!』


 西園寺は流麗とも言える動きで天馬の斬撃を悉くいなしてしまう。巨大とはいえ鼬という流線型の身体を持った柔軟性の高い動物の特徴を兼ね備えているようだ。


『今度はこちらの番だな!』


 西園寺がその両腕(前肢)に付いている長い刃のような器官を振るってきた。ディヤウスである天馬が完全には見切れない程の速さだ。


「……!」


 彼の纏う神衣に大きな切り傷が穿たれる。本物の刃のような鋭利さだ。いや、或いはそれ以上かもしれない。


『くはは、どうした小僧! さっきまでの勢いは!?』


 そのまま反撃を許さず嵩にかかって攻め立ててくる西園寺。腕のブレードによる斬撃は一撃一撃が相当な速さと威力だ。天馬の神衣を切り裂く攻撃力といい、素早い回避能力といい正面から打ち合うのは危険だ。


 だがそれを警戒して守りに徹していてはいつまで経ってもこいつを倒せない。防御を捨ててひたすら攻撃に注力する。それが勝利への一番の近道だ。だが自分の受ける被害も相当なものになるため、相討ち覚悟でなければ普通(・・)は出来ない。しかし今は折角そのため(・・・・)に随伴してきた樹里がいるのだ。



(……やってみるか!) 


 決断は一瞬。天馬は仲間の能力を信じて、一気呵成に西園寺に向けて突進する。防御を捨てたその姿は当然西園寺にとっては格好の隙に映る。


『馬鹿め、捨て身のつもりか!』


 西園寺は腕のブレードで迎撃してくる。天馬は敢えて受けない。受ければ膠着するだけだ。奴の斬撃が天馬の神衣を突き破り、腹部に深い裂傷を穿つ。


「ぬうぅゥゥゥゥッ!!!」


 口から血を吐くが、それを嚙み殺して刀を振るう。西園寺も天馬へ攻撃を当てた直後であったためにその斬撃を躱せなかった。


『ヌガッ!!』


 奴も身体を切り裂かれて苦鳴をあげる。だが流石はウォーデンの変身形態か、それだけでは致命傷には至らなかった。一方で天馬の受けた傷はこれ以上の戦闘継続が不可能なほどの重傷だ。本来なら(・・・・)この時点で勝負ありだ。だが……


『くはは、馬鹿め。玉砕は失敗――』


『――天医無縫!!』


 後方から放たれた神力が天馬を包み込む。するとざっくりと切り裂かれた腹の傷が見る見るうちに塞がっていく。この力を受けたのは二度目だが、解っていても自分で驚くほどだ。


(こりゃ気を付けねぇと癖になりそうだな……)


「助かったぜ、樹里!」


 内心ではそう思いながらも礼を言って攻撃を再開する天馬。一方で焦ったのは西園寺だ。


『そ、その力……あの女はまさか、我妻の……!? おのれ、あの阿呆がぁ!!』


 樹里を直接見た事は無いが知ってはいたらしく、西園寺が憤怒の叫びを上げる。


「今更後悔しても遅ぇぞ!! テメェ如きにかかずらってる暇はねぇんだよ! さっさとくたばれや!!」



『小僧、調子に乗るなよ!? アメノウズメのディヤウスは自身の戦闘能力が皆無だという弱点は知っているのだぞ!』


 大きく跳び退った西園寺はターゲットを樹里に切り替える。そして刃のついた前肢を大きく振りかぶる。


『魔真空刃!』


 奴が振り下ろした刃の軌跡に合わせて、形を得た真空の刃が樹里に撃ち込まれる。天馬の鬼刃斬に似ているが、恐らく威力は更に上だろう。戦闘能力の無い樹里が受けたら一溜まりもない。勿論防御も回避も不可能だ。樹里が目を瞠って青ざめる。しかし、


「させないよっ!!」


 その間に割り込んだぺラギアが神盾アイギスを構えて防御態勢を取る。アイギスに衝突した魔の真空刃は弾け飛んで消滅した。


「ぐ……!」


 だが弾いたぺラギアも予想以上の威力に思わずたたらを踏んでしまう。防御に優れた彼女が一発受けただけで体勢を崩したのだ。西園寺の攻撃力は相当なものだ。


『ち……邪魔するな!』


「てめぇ! 『鬼神三鈷剣!』」


 天馬が目を吊り上げて斬り掛かるが、西園寺は彼との正面衝突を避けて逃げ回りながら樹里を狙う戦法に切り替えたらしい。天馬の攻撃を避けながら樹里に向かって真空刃を次々に飛ばしてくる。


「く……『ウォール・オブ・メイデン!!』」


 だがぺラギアはそれが己の役割とばかりに樹里を守る盾となって、西園寺の攻撃を受け止める。しかしその威力の前に完全には防ぎきれなかった衝撃が彼女の身体を揺さぶる。



『邪魔な異国のディヤウスめ! ならばこれを防ぎ切れるか! 『烈殺風神衝!!』」


 樹里への攻撃を妨害するぺラギアに苛立った西園寺は、後肢で立つとその両前肢真横に振りかぶり、一気に薙ぎ払った。二振りの腕のブレードから放たれた真空刃が斜め十字の形となって撃ち出される。


『リフレクトメイデン!!』


 だが当然ぺラギアは逃げない。アイギスに最大の神力を注ぎ込んで奴の技を受け止める。


「ぬぐっ!!?」


 そして凄まじいまでの圧力に吹き飛ばされそうになる。単純に二つの真空刃で二倍の威力、ではない。まるで掛け算のように威力を増した×字の真空刃は掲げたアイギスごとぺラギアを、そしてその後ろに庇う樹里を斬断しようとしてくる。


 ここで彼女が圧力に負けたらそうなる。歯が割れんばかりに食いしばり、身体中を苛む衝撃に耐える。


「ぐ……おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


『何……!?』


 獣のような咆哮を発しながらぺラギアの神力が一際輝き、彼女の身体が光を帯びる。そして彼女は……西園寺の一撃に耐え切った。ぺラギアが思い切り両手を広げると、それに合わせて真空刃が弾け飛んだのだ。


「……っ」


 だがそれによって文字通り精根尽き果てた彼女は半ば自失して、その場に両膝を落としてしまう。西園寺の再度の攻撃に対処する事は不可能であった。



『ふ、はは……よくぞ我が一撃を防いだ! だがそれが限界のようだな! 次で終わりだ!』


 先の一撃を防ぐのがやっとであったぺラギア。一方で西園寺は今の技を何度でも放てる。いや、今のぺラギアと樹里なら通常の真空刃だけでも事足りる。残酷なまでの力量差。彼女達だけ(・・)であったなら、ここで終わっていただろう。だが……


 ――ザンッ!!!


『……っ!!』


 西園寺の身体が大きく震える。奴の胴体の辺りに……天馬の『瀑布割り』が突き立っていた。



「捉えたぜ、カワウソ野郎。あっちに気を取られすぎたな」


『き、き……貴様――』


 通常の真空刃では倒れないぺラギアに苛立って大技を使った。時間にすれば刹那にも満たない硬直時間の差。だが他ならぬ天馬を相手にしている状態で、その一瞬の差は文字通り明暗を分けた。


『神鳴明王斬!!!』


 刀を突き立てた状態でそのまま神技を発動する。素早さと回避に優れるがその分耐久力はそこまで高くなかった西園寺は、一溜まりもなく体内から胴体を斬断された。


『ゲハァッ!!!』


 大量の血と魔力を吐き出した西園寺が人間の姿に戻る。しかしその状態でも上半身と下半身が泣き別れのままであった。完全決着だ。



「ぐ……ぎ……ふふ……や、靖国神社(・・・・)へ行け。『王』と……天照大御神のディヤウスは……そこにいる」



「靖国神社……!」


「私は……一足先に、あの世で待っているとしよう……。すぐに、貴様らも…………」


 西園寺は歪んだ笑みでそれだけを告げて事切れた。それを見届けて天馬は戦闘態勢を解いた。



「ぺラギアさん、大丈夫ですか!? 『天医快癒!』」


 樹里が慌てて自失しているぺラギアを回復させる。その効果はすぐに現れてぺラギアが意識を取り戻した。


「う……終わったんだね。無様な所を見せてしまったね」


 西園寺の死体が転がっているのを見たぺラギアはすぐに状況を把握して自嘲気味に呟いた。だが樹里はかぶりを振った。


「そんな! ぺラギアさんが守ってくれなかったら私はとうに死んでいました! 生きているのはあなたのお陰です!」


「そうだな……。俺も奴があんな戦術を取ってくるのは予想外だった。考えてみりゃ敵だってゲームのAIみたいに馬鹿じゃねぇんだから当たり前だよな。この戦いの一番の功労者はアンタだよ、ぺラギア」


 天馬も同意するように頷いて補足した。それは彼の本心でもあった。


「テ、テンマ……ジュリ……。す、すまない、もう大丈夫だ」


 ぺラギアは若干感激したように声を震わせたが、すぐに頭を振って平静を取り戻した。そして竜巻が荒れ狂ったような惨状になったロイヤルスイートを見渡して溜息を吐いた。


「早い所ここから立ち去った方が良さそうだね。次の目的地は分かったのかい?」


「ああ……ここからそう遠くない場所だ」


 無論西園寺の言葉を信じればの話だが、『王』の勝利を確信していたらしい西園寺がそんな事で嘘をつくとは思えなかった。『王』と茉莉香は靖国神社にいる。天馬にはその確信があった。



 ロイヤルスイートのテラスにあった『要石』を破壊した天馬達は、騒ぎが大きくなる前にホテルから脱出し、一路靖国神社を目指すのだった……


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=518476793&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ