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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
日本 東京
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第24話 『惨酷』のボリス

 東京都荒川区にある病院の駐車場。深夜に近い時間帯、そして敷地全体に張り巡らされた『結界』によって隔絶された戦場において、強大な力と力がぶつかり合う超常の戦いが展開されていた。


『ジェノサイド・ザッパー!!』


 ハリエットの持つ二振りの斧槍『ヴァハ』と『バズヴ』が強い光を帯び、彼女は長柄の斧槍を軽々と目にも留まらぬ速度で振り回す。強烈な連撃が溶岩ゴーレム……ボリスに叩きつけられる。だが……


『無駄だ。今の私の身体にあらゆる攻撃は通用せん』


「……!」


 その見た目に違わずボリスの耐久力は相当なものと思われ、ハリエットの連撃を受けても表面が僅かに傷ついただけで、それもすぐに修復してしまう。それを見たハリエットが歯噛みする。


「だったらこれはどう? 『ヴァルハラ・スノーストーム!』」


 ミネルヴァが神槍『ブリュンヒルド』を旋回させて局所的な猛吹雪を発生させる。全てを凍てつかせる氷の嵐は岩の巨人と化したボリスの巨体を完全に包み込む。奴の外見的にミネルヴァの操る冷気は相性が良さそうに思えるが……


『ふむ……この程度か。私の内包するマグマを凍てつかせる程ではないな』


「……っ!」


 氷嵐の奥からボリスの声が聞こえてきてミネルヴァが目を瞠る。同時に氷嵐が内部から凄まじい勢いで蒸発(・・)していく。氷嵐の残滓である大量の水蒸気を割るようにして溶岩ゴーレムが迫ってきた。



『さて、今度は私の番だな? 『ラーヴァ・ショット!』』


 ボリスがその『手』をこちら側に向けてきた。するとその『掌』の中心に穴が開いて、そこから凄まじい圧力で溶岩が噴射される。


「……! 散って!」


 溶岩噴射を跳び退って躱す4人。


「く……『ポイズン・ショット!』」


 ラシーダは躱しながら『セルケトの尾』を振るう。鞭の穂先から猛毒を帯びた液弾が放たれ、ボリスの巨体に全弾ヒットする。彼女の操る猛毒は、直撃すれば例えウォーデンであっても致命的になり得るのはスカイツリーでの戦いで実証済みだ。


『愚かな……。液体など私の身体に触れた瞬間に蒸発するだけだ』


「……っ」


 ラシーダが歯噛みする。ボリスの身体の内側は高熱のマグマで満たされている。あのマグマを通る毒物など存在しない。毒霧散布も効果がないだろう。それどころか味方の足を引っ張るだけだ。


「やれる事は全てやってみるべきね! 『冥骸旅団!』」


 ドロテアが不気味な造形をした『死者の杖』を振るうと、地面にいくつもの黒い穴のような物が出現し、そこから槍や弓で武装した骸骨(スケルトン)達が何体も這い出てきた。


「……どちらが悪者か解らない光景ですわね」


 その光景を見たハリエットが何とも言えない微妙な表情になる。そんな彼女を余所にボリスに向けて一斉に投擲や射撃を開始する骸骨達。 的がデカいのでほぼ全ての攻撃が命中するが、当然巨体のゴーレムは揺るぎもしない。



『ええい、鬱陶しい! まとめて吹き飛べ! 『ラーヴァ・フロー!!』』


 だが苛立たせる効果はあったらしく、ボリスの身体全体がオレンジ色に明滅した。そして身体中に小さな噴出孔(・・・)が開くと、そこから一斉にマグマの散弾を全方位に飛ばしてきた。


「……っ!!」


 4人は顔を引き攣らせながら武器で受けたり回避したりするが、一部の散弾は駐車場に停まっている車に着弾。ガソリンに引火して激しく爆発炎上した。


 溶岩や爆発に巻き込まれてドロテアが召喚した骸骨達は残らず吹き飛んだ。それだけでなく爆発の範囲が思ったよりも広く、受けきれなかったハリエット達も炎や煙に巻かれる。


「く……こんな物!」


 ミネルヴァは槍を振るって冷気を纏う事で炎の侵害を防ぐ。だが他の3人はそうもいかない。


「ぐぅ……!!」「……っ!」「あぅ!!」


 纏っている神衣の効果で深刻な火傷こそ負わなかったものの、熱による侵害や爆発の衝撃を完全には防げずにダメージを受けてしまう。地面に転がって呻くラシーダ達。



『ファハハ、私がこの場所を戦場に選んだのは、ただ病院を壊されたくないからというだけではないぞ』


 ボリスが嗤いながら迫ってくる。奴にとってこの駐車場は火薬樽が満載の爆薬庫のようなものという事だ。しかも自分だけは絶対に被害を受けない爆薬庫だ。


 倒れて動けない3人に対してボリスが『手』の噴出孔を向ける。そこから容赦なく大量のマグマが噴出して彼女らに覆い被さる…………


「させないっ!」


 ……直前に割り込んだミネルヴァが、『ブリュンヒルド』を旋回させて作り出した凍てつく風によって受け止めた。


「グ……うぅぅぅぅぅ!!!」


 表情に乏しいミネルヴァの顔が苦悶に歪む。彼女の冷気でマグマを凍らせて止めているのだが、マグマは後から後から噴出されてきて圧力と体積を高める。すぐに限界を迎えてミネルヴァが溶岩を凍結させるスピードよりも、溶岩が継ぎ足される速度が上回り始める。


 ミネルヴァが限界まで神力を振り絞ってもまったく追い付かない。マグマの壁がどんどん距離を詰めてくる。だが彼女には微塵も退く気は無かった。



「く……ルーキー(・・・・)に庇われて足を引っ張るなんて、(わたくし)の沽券に関わりますわ」


 ハリエットがよろめきながらも立ち上がった。ダメージは負っているが、その目に燃える闘志は些かも衰えていない。


「ほら、あなた達もこのままお寝んねじゃありませんわよね!?」


「う……も、勿論よ」「まだ……やれるわ!」


 後衛タイプのラシーダとドロテアはよりダメージが大きいが、それでも何とか身体を支えて立ち上がる。


「よく立てましたわ。ミネルヴァさんが奴の攻撃を抑えておける時間はもう僅かです。ラシーダさん、あなたの攻撃は当たれば(・・・・)確実に奴を倒せるのですね?」


「……! ええ、確かよ」


 ハリエットに問われたラシーダは、それには自信をもって頷いた。尤も例え内心で自信がなかったとしてもこの場では頷いただろうが。



「ならばやる事は決まりですわね。ドロテアさん、私達は一点集中(・・・・)で奴の身体に『穴』を開けます。ラシーダさんの一撃が届く(・・)ように」



「……! 解ったわ」


 ドロテアもすぐに作戦の概要を理解して頷いた。溶岩の壁はその範囲を広げて最早全方位から迫ってきている。ダメージを負っている彼女達では逃げ切れない。それを辛うじて防いでいるミネルヴァの神力も限界だ。最早一刻の猶予もない。


「行きますわ! 『ドローラス・ストローク!!』」


「今度はしくじらない……。『冥府巨王骸!!』」


 ハリエットの二振りの斧槍が光に包まれ、まるで電柱のような太さ、長さに巨大化する。そしてドロテアの後ろの地面に巨大な黒い穴が開き、そこから恐ろしく巨大な骸骨の上半身(・・・)だけが出現する。巨大骸骨はそのサイズに見合った馬鹿げた大きさの薙刀(グレイブ)のような武器を持っている。


 ハリエットは一気に宙高く跳び上がると、巨大化した二本の斧槍を渾身の力で斬り下ろした。


『ぬっ!?』


 その威力と衝撃は巨体の溶岩ゴーレムと化したボリスの身体を揺るがせる程のものであった。だが……奴の身体を大きく抉ったものの、完全に穿つまでには至らなかった。恐ろしいまでの耐久力である。


『ふ、はは……残念だったな。起死回生の一撃も――』


「――ドロテアさん!」


 ハリエットの叫びに応えて巨大髑髏が動き出す。馬鹿げたサイズにグレイブを振りかぶる。


「お願い、これで……!!」


 ドロテアのありったけの神力を注ぎ込まれた巨大骸骨は、振りかぶったグレイブを丁度ハリエットが大きく抉った部分に重ねて叩きつけた!


『ヌガッ!? 貴様……』


 ハリエットとドロテア、2人の最大威力の技を同一箇所に受けたボリスの身体は、強固な岩の外殻が完全に穿たれて『穴』が開いた。ボリスが意図的に開ける噴出孔とは異なる陥穽だ。


 だが……奴の身体は溶岩で構成されている。外部からの力で『穴』をこじ開けても、すぐに溶岩がその穴を塞いでしまう。しかし……


「今ですわ!!」


 その一瞬を待ち望んでいた者にとっては充分な隙であった。ラシーダは溜めに溜めた神力を一気に解放する。


「任せて! 『ブラッド・アブソリューション!!』」


 彼女の神力を媒介した『セルケトの尾』は伸長を重ね、独自の意思を持ったかのように撓り、ハリエット達が開けた『穴』に向かって最大速度で突入する。そしてまさに獲物に噛み付かんとする毒蛇の如き勢いで、溶岩ゴーレムに守られたボリスの本体(・・)に『セルケトの尾』が突き刺さった!



『オゴッ!? ギェ!! ガバァ!!? ウゲェェェェッ!!!!』


 ボリスが聞くに堪えないような苦鳴を漏らし、そのゴーレムの身体が苦悶し始める。その度奴の身体から大量の溶岩が撒き散らされてハリエット達も被害を被る。ドロテアの召喚した巨大骸骨もその溶岩雨を浴びて燃え崩れていく。


「く……とんだ悪あがきですわね!」


「皆……私の後ろに」


 ミネルヴァが息も絶え絶えな様子で、しかし力強い目線と口調で仲間達を後ろに庇う。そしてボリスの身体から溢れ出る溶岩の雨や波を冷気で凍てつかせて無効化していく。


 実際には1分に満たない程度の時間だっただろう。だがラシーダ達には数時間にも感じられる時間が経過した後、地獄の溶岩流の勢いが止まった。



『グ……ゲ……』


 狂乱を止めたボリスの身体がゆっくりと崩壊していく。それと同時に周囲を埋め尽くしていたマグマの海もまた消滅していった。崩壊したゴーレムの後にはボリスが倒れていたが、既に息をしていないようであった。


 それを確認するとほぼ同時に、神力を使い果たしたミネルヴァが自失した。


「ミネルヴァさん!?」


 ハリエットが慌てて受け止めるが、意識が無いようでぐったりしている。だがそれも当然かも知れない。


「……この勝利の立役者は間違いなく彼女ですわね」


 ミネルヴァがいなかったら、自分達は反撃の機会さえ掴めないまま溶岩の海に呑み込まれていただろう。誰か1人でも欠けていたら勝てなかったが、特にミネルヴァの果たしてくれた役割は大きい。


「本当にそうね。病院の中にある『要石』は私とドロテアで破壊してくるから、あなたは彼女を看てあげていて」


 ラシーダは頷いてハリエットにミネルヴァの介抱を託す。ディヤウスの能力で病院に侵入したラシーダとドロテアは、無事に『要石』を見つけ出して破壊する事に成功するのだった。



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