表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
日本 東京
162/175

第22話 静かな怒り

 東京都中央区にあるデパートの地下駐車場。ここにある『要石』を破壊するためにやってきた天馬とぺラギア、そして樹里の3人だが、天馬達が来る事が分かっていたのか、ここには優に20体以上のプログレスが待ち構えていた。


 大乱戦を覚悟するぺラギアと樹里であったが、蓋を開けてみると彼女らは殆ど何もする事がなく、大半の敵を天馬1人で片付けてしまった。それはまさに『無双』といって差し支えない戦いぶりで、ぺラギア達はただ呆気に取られて見守るだけになっていた。


「……なるほど、ラシーダから聞いてはいたけど、これは確かにある意味で複雑な気分になるね」


「え、ええ……そうですね。でも、本当に凄いです……」


 勿論敵の数が多かったのでぺラギアも樹里を狙ってくる敵をいくらかは倒したが、本当にそれだけであった。


(彼の力は恐ろしいまでに成長している。味方としては頼もしい限りだけど……もし、彼がウォーデンに覚醒したら本当に私達に止められるんだろうか……)


 どうしてもその懸念を抱いてしまう。彼女は当初からその危惧を抱いてきた。ラシーダから聞いた話が本当なら、その懸念が現実(・・)のものとなる時が近付いているのかも知れない。


(まあそうならない為に、こうして『要石』を破壊して回っているんだけどね……)


 『要石』から噴き出す魔の圧力は、天馬の中のウォーデンへの覚醒を促す効果があるらしい。一つでも多くの『要石』を破壊してその圧力を減らす事は、そういう意味でも理に適った行動ではあるはずだ。  


(でも何だろうね。何か首の座りが悪いというか……。順調に行ってるはずなんだけど、本当にこれが正しい行動なんだろうか。これだけの『要石』が破壊されて、既にかなりの数の側近(ウォーデン)兵隊(プログレス)も失っているはずなのに、何故未だに『王』は出てこない? 『王』は一体どこで、そして何をしているんだ?)



「あの……ぺラギアさん? どうしました? 何か気になる事でも……?」


 いつしか沈思黙考していたらしく、その様子に樹里が不安げな顔になる。ぺラギアはそれに気付いてかぶりを振った。


「……いや、すまない。何でもないよ。それより天馬が敵を殲滅し終わったようだ。後は『要石』だけだからさっさと破壊してしまおうか」


「あ……は、はい。そうですね」


 確証のない事で徒に仲間を不安にさせるのは良くない。ぺラギアは気持ちを切り替えるように樹里にそう告げて、『要石』の方に走っていくのだった。



*****



 東京都千代田区。名実ともに東京都の中心と言える地区であり、日本行政の中心である国会議事堂から、皇族の住まいである皇居に至るまで世界的にも有名なランドマークが犇めいている。


 それだけでなく『ホテル御三家』と称される代表的な高級ホテルが揃っている事でもその筋では有名だ。その御三家の1つである『皇国ホテル』。天馬達は現在このホテルの前までやって来ていた。


「元は100年以上前に、外賓の宿泊用に建てられた由緒正しいホテルらしいね。まあ当然改築はされてるようだけど。連中はこんな所にも根を張っていたんだね」


 『要石』の気配は間違いなくこのホテルの中から感じる。既にこの中は魔境と化している可能性もある。


「まああれこれ考えてても仕方ねぇ。ここに『要石』があるってんなら、どこだろうとぶっ壊すまでだ。行くぜ」


 天馬は堂々と正面から乗り込む。ロビーに入ると高級ホテルに相応しい、広々とした豪華な内装が出迎える。ロビーは『結界』に覆われておらずに、一般客と思われる人々が大勢出入りしていた。


「ホテル全体が結界に覆われている訳ではないんですね」


 樹里が意外そうに周囲を見渡す。当然というか普段こういう場所にあまり縁が無いようだ。


「そうだね。でも勿論油断はしないようにね。どんな手を使ってくるか予想も出来ないからね」


 ぺラギアは充分な警戒を促す。そんな3人に対して近付いてくる者が。このホテルの従業員か何かのようだ。


「お待ちしていました、ディヤウス(・・・・・)様御一行でございますね?」


「……! アンタは……?」


 天馬が胡乱な目を向けると、従業員の男性は恭しく頭を下げた。


「私はただ当ホテルのロイヤルスイートにご宿泊されているお客様(・・・)より言伝を預かっているだけです。『部屋で待つ』との事です。そしてこれを一緒にお渡しするようにと」


 従業員はそう言って一枚のカードを手渡してくる。どうやらカードキーのようだ。恐らくはそのロイヤルスイートの鍵なのだろう。


「なるほど、ご丁寧に招待してくれようという訳か。どうする、テンマ?」


「面白れぇ。だったら遠慮なく招待に応じてやろうぜ。どのみち退くつもりはねぇしな」


 天馬は迷いなく即断した。この思い切りの良さは彼の持ち味だ。ぺラギアは苦笑して頷いた。


「ふ……そうだね。確かにここまで来て行かない理由もないね」


 樹里は勿論2人に付いていくだけだ。3人は従業員に案内されるままエレベーターに乗り込む。



「……なあ。一応確認しとくが高所恐怖症とかはないよな、2人とも?」


 エレベーターの中で天馬が確認してくる。スカイツリーでの経験が色んな意味で印象的だったらしい。ラシーダのまさかのカミングアウトで、彼は最初ウォーデン相手に1人で戦う羽目になったのだ。


「ああ、私は問題ないと思うよ。ジュリはどうだい?」


「そ、そうですね。多分大丈夫だと……思います。流石にスカイツリーの頂上となったら解りませんけど」


 樹里はやや自信なさげだったが、まあ今までの生活で特に意識した事がないなら恐らく大丈夫だろう。



 そんな話をしている内にエレベーターは最上階……つまりロイヤルスイートがある階へと到着していた。エレベーターを降りた先の廊下も高級感溢れる内装になっている。その奥に一際豪華で重厚な扉があった。先程渡されたカードキーと同じ部屋番号。ここがロイヤルスイートで間違いないようだ。


 扉を開けて中に入る。そこはこの『ホテル御三家』のロイヤルスイートに相応しい内装や調度品で彩られた広い部屋であった。対面に大きな窓があり、この東京の街並みを一望できるようになっていた。


 そしてその窓を背にして、こちらを向いた1人の男が立っているのが見えた。


「ようこそ、『王』の居室へ。ディヤウスの諸君、歓迎しよう」


「……!!」


 それは体格の良い身体を黒いスーツに押し込めた、まるで格闘家のような風貌の男であった。見たところ日本人のようだ。


「……『王』の居室だと? ここが?」



「左様。だが『王』は今現在重要な案件(・・・・・)で席を外している。用なら私が承ろう。このタケミナカタ(・・・・・・)のウォーデンである西園寺忠嗣がな」



 やはりウォーデンだったようだ。男……西園寺がこちらに一歩踏み出すと、それだけで圧力が増すのを感じた。


「はっ……タケミナカタだと? タケミカヅチに怖れを為して逃げた負け犬(・・・)じゃねぇか。ここ(・・)でもそうだったのか?」


「――――」


 天馬が挑発的に口の端を吊り上げると、西園寺の顔が青ざめて表情を失くした。実際にタケミカヅチのウォーデンもいたので(小鈴達が斃したが)、天馬の言葉はそれを指しているのだろう。


「貴様……あのクズの事は二度と口にするな。女共相手に無様に敗死した奴こそ負け犬よ。私は奴とは違う」


 元の守護神の関係性故か、実際にはかなり我妻の事を意識していたらしいのが、その台詞や憤怒に染まった顔から読み取れる。天馬の笑みが深くなる。


「どうした、図星か? 我妻が死んで一番ホッとしてるのはてめぇじゃねぇのか?」


「……っ!! く……ふ、ふふ……そう余裕ぶっていられるのも今の内よ。貴様にいいものを見せてやろう」


 一瞬激昂しかけた西園寺だが、何かを思い出したように余裕を取り戻し邪な笑みを浮かべた。そして近くのテーブルの上に置いてあった箱から何かを取り出す。それは()のように見えた。独特のデザイン……恐らく制服(・・)の類いか。西園寺はそれを天馬に投げて寄こす。 


「何だ、こりゃ? 服…………っ!!!」


 訝し気にその服を広げた天馬の顔が驚愕に固まり、その目が限界まで見開かれる。


「テンマ、どうしたんだい? その服は一体……?」


 ぺラギアが西園寺から視線を外さずに問い掛けるが、天馬の顔は驚愕に強張ったままだ。



「こ……てめぇ、これは……茉莉香(・・・)? 茉莉香の制服か……?」



「え……!?」


 ぺラギアも樹里も思わず天馬の方を仰ぎ見てしまう。


「くふふ……『王』より、男のディヤウスが来たらそれを見せろと言われていたが効果覿面だな。如何にも、それは茉莉香という女の着ていた服だ」


「茉莉香が……ここに居たのか?」


「それも肯定だ。あの女は『王』の()としてここに留め置かれていたのだ。さて、その間に『王』と同じ部屋で暮らしていて何も(・・)無かったと――――」


 西園寺の言葉が途切れる。何故ならその時には天馬が奴の眼前まで迫っていたからだ。凄まじい速度で『瀑布割り』を一閃する天馬。西園寺は顔を引き攣らせて、辛うじてそれを回避した。


「今すぐ茉莉香の居場所を言え。言えば楽に殺してやる(・・・・・・・)


「……っ! 舐めるな、ガキが! 死ぬのは貴様の方よ!」


 静かな口調と据わった目で凄絶な殺気を放つ天馬に一瞬気圧された西園寺は、それを打ち消すかのように魔力を全開にした。奴の身体が黒いオーラに包まれる。変身(・・)は速やかに完了した。


「どうせこうなるんだ。だったら最初から変身してもらった方が手っ取り早いだろ?」


『抜かせ、小僧が。貴様ら皆殺しだ。誰一人としてここから生きては帰さん』



 黒いオーラの塊が中から割れて、そこから姿を現したのは……体長が2メートル近くありそうな、一匹の巨大な(いたち)であった。全身が黄色っぽい体毛に覆われ目が青色に発光するその巨大鼬は、更にその両前脚にまるで逆手に持った鋭利な刃のような器官が付随していた。



『風神タケミナカタの力を思い知らせてやろう。貴様ら全員なます斬りにしてやる』


「てめぇは俺を怒らせた。なます斬りにされるのはてめぇだ」


 さながら巨大鎌鼬(かまいたち)とでも言うべき怪物となった西園寺だが、天馬は全く恐れる様子もなく静かな怒りを秘めたまま奴に斬り掛かる。


「待ったなしみたいだね! 私達も行くよ、ジュリ!」


「は、はい!」


 ぺラギアと樹里も天馬を援護すべく、その身に神衣を纏って戦闘態勢になる。高級ホテルのロイヤルスイートはたちまちの内に異能の力がぶつかり合う激しい戦場と化した!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=518476793&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ