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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
日本 東京
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第20話 屍魔の軍団

 東京都新宿区。東京二十三区の中でも繁栄著しい行政区であり、東京の代名詞的なダウンタウン地区でもある。しかし現在はその繁華街も鳴りを潜めている。今の時刻は夜だが、本来新宿は不夜城として夜中まで人通りが絶える事のない場所だ。


 にも関わらず現在、新宿の繁華街に人通りが少ない理由は、東京都の各地で起きている凶悪なテロ事件(・・・・)の所以であった。杉並区ではヤクザの邸宅(・・・・・・)で『爆破テロ』が発生し、何十人もの構成員が爆死(・・)するという事件が起きた。


 また板橋区の高校で大量殺人事件(・・・・・・)が発生し、学生教職員含めて大勢の人間が犠牲になった。他にも葛飾区でゴミ焼却施設(・・・・・・)が標的となったテロ活動があり、施設が半壊するという被害が起きていた。


 ほぼ同日に発生したこれらの凶悪事件によって、東京には現在警視庁による厳戒態勢が敷かれており、その影響で繁華街にも人通りが少なくなっていたのだ。



「それって全部アタシらの戦いの結果だろ? 何か悪い事した気分になっちまうよなぁ」


 タビサが人通りの途絶えた繁華街を見渡して溜息を吐いた。ここにはそれぞれのテロ事件(・・・・)に関わったメンバーが揃っている。


「で、でもそれは仕方ありませんよ。相手はウォーデンでしたし、とても周囲の被害にまで気を配ってはいられませんでしたから」


 シャクティが何となく自分に言い訳するような口調で応じる。


「うむ、そうだな。それに『要石』を放置していればテロ事件(・・・・)など比較にならんような災厄が起きていたかも知れん。それを考えればやむを得ない被害ではあった」


 アリシアも同意するように補足する。


「そういう事。むしろ日本人は私達に感謝して欲しいくらいだわ。邪神の復活と企みを未然に防いであげたんだからさ」


 小鈴は大して悪びれもせずに頷いた。彼女にとっては日本や日本人が被害をこうむる事より、天馬と同じチームになれなかった事の方が余程重大であった。



 アリシアチームの4人は残りの区のうち、新宿、渋谷、中野を担当する事になって、こうして現地に赴いているのだった。



「店も殆ど閉まってるし、つまんねぇの」


「いや、どっちみちこの時間に開いてるようなお店は、タビサにはちょっと早いかな……?」


 タビサが拍子抜けしたように頭の後ろで手を組んで嘆息するのを、シャクティが困ったような顔で窘めている。


「しかし人の目がない事は、我等にとっては却って好都合かも知れんな?」


「全くね。……そしてそれはどうやら敵さん(・・・)も同じ事みたいだし」


 アリシアの呟きに小鈴は再び同意するように頷く。彼女らは実は先程から、隠す事無く発散されている強大な魔力を感知していた。まるで彼女らに早く来いと言わんばかりだ。


「けっ! 上等だぜ。向こうがご招待してくれるってんなら遠慮なく応じてやろうぜ。なあ?」


「そうだな。だが勿論罠の可能性もあるので索敵は怠るなよ?」


 威勢のいいタビサにアリシアが忠告する。4人はそのまま警戒しながらも、魔力の発散されている地点に真っ直ぐ向かっていく。そして彼女らが辿り着いたのは大きな競技場と思われる建造物であった。


「ここは……?」


「シャオリンさん、これって新国立競技場ですよ! 二度目の東京オリンピックの為に作られた競技場です!」


 外国のランドマークに詳しいシャクティが小鈴に説明している。


「ああ、アレね。でもこんな所で待ち構えてるって事は、いよいよ小細工なしと見ていいのかしら?」


 小鈴が鼻を鳴らす。確かに競技場となれば隠れられるような場所もないし、正面衝突となりやすい。


「増々面白いじゃねぇか! 早いとこ乗り込もうぜ!」


 というタビサの音頭で競技場に乗り込む小鈴達。タビサと常時神衣状態のアリシアを除く2人は、この時点で予め神衣を纏っておく。



 新国立競技場は建物全体が『結界』に覆われているようだった。ロビーを抜けてトラックへと出た4人は、煌々と照らされた屋外照明の明るさに目を細めた。勿論この灯りは『結界』によって外部へと漏れてはいない。


「……! 皆、警戒しろ」


 アリシアが他の3人を押し留めて警戒を促す。彼女の指し示す先……トラックの中央に大きな『要石』が屹立していた。それは今この瞬間も大量の魔力を噴き出して大気を汚染していた。


 そしてその『要石』の前に、1人の人物が佇んでいるのが見えた。当然というか、男だ。堀の深いアラブ系の顔立ちをした男であった。頭に黒っぽいターバンを巻いているが、身体はスーツ姿である。



「逃げずによく来たな、女共。我が名はウスマーン・イブラーヒーム・ハキ―ム。死と破壊の神ネルガルのウォーデンよ」



「ネルガル……!」


 アリシアが目を眇める。ネルガルは古代メソポタミア(バビロニア)の魔神だ。『王』の元に世界中から様々なウォーデンが集っているというのは事実のようだ。


「【外なる神々(アウターゴッズ)】の一柱、クトゥグア様に貴様らの魂を捧げるとしよう」


 ハキ―ムの身体からも強大な魔力が噴き上がる。因みにクトゥグアとは主に中近東から西アジア一帯を領域とする邪神だ。エジプトもここに含まれている。



「上等だ、テメェ! 今すぐぶっ飛ばしてやるからそこ動くなよ!」


「さっさと片付けて天馬の所へ行きたいのよ。そういう訳で今すぐ死になさい!」


 タビサと小鈴の2人が勇んでハキ―ムに向けて突撃する。罠に対する警戒もあったものではない。


「こら、待て、お前達! ぬぅぅ……こうなってはやむを得ん。シャクティ、あやつらを援護するぞ!」


「あ、は、はい!」


 アリシアは舌打ちすると、シャクティを促しつつ急いで援護の態勢に入る。一方でハキ―ムは慌てる様子もなく片手を上げて合図を出す。すると……



「……!」


 突進するタビサと小鈴に向かって無数の攻撃(・・)が殺到する。大半が黒い波動や溶解液、毒液などだ。小鈴とタビサは咄嗟に回避や防御でやり過ごすが、突進の勢いは止まってしまった。


「な…………」


 小鈴達だけでなく後衛のアリシア達も目を瞠る。広大な競技場を取り巻く観客席(・・・)。そこにはいつの間にか観客(・・)達がいた。ただしどれもが異形に変貌した『観客』であったが。


「馬鹿な……プログレスだと!? な、何という数だ……」


 アリシアが愕然として呻いた。観客席にいるギャラリー達は全員がプログレスであった。観客席は広く無数にあるので見た目はまばらだが、それでも優に数百体(・・・)のプログレスがいるものと思われた。


 これまでになかった未曽有の数である。しかも海洋生物と融合したような日本のプログレスは勿論、哺乳類と融合したような中国のプログレスや、多腕異形のインドのプログレス、翼の生えた悪魔のような欧州のプログレス、爬虫類と融合したような中近東のプログレスなど多種多様な地域のプログレス達が一堂に会していたのだ。


「そ、そんな……何で? 警戒していたのに、察知できなかったなんて!?」


 シャクティもまた愕然として周囲を見渡す。彼女は仲間内でも特に索敵探知能力に優れている。いくら『要石』やウォーデンの存在があったとしても、これだけの数のプログレスの魔力を見落とすはずがない。そこで彼女は気付いた。



「こいつら……魔力を発していない(・・・・・・・・・)……?」



「……何だと?」


 アリシアが思わずシャクティを仰ぎ見る。だが事態は悠長に彼女らが考えるのを待ってくれない。



「貴様らは既に何人もの同志を撃ち破っている。油断もお遊びもなしだ。最初から全力(・・)で行かせてもらおう」


「……っ!」


 ハキ―ムの身体が黒い靄に包まれる。まさか初手からコレ(・・)が来るとは予想外だ。全力でという言葉に偽りはないらしい。妨害しようにも周囲のプログレスに逆に妨害されて、誰も奴の変身(・・)を止められなかった。


 そして凄まじい魔力の奔流と共に黒い靄が弾け飛ぶ。そこから現れたのは……見るからに悍ましい物体であった。


 ぱっと見は宙に浮いている直径3メートルほどの巨大な肉塊(・・)だ。しかしその肉塊の表面にはいくつもの人の顔(・・・)が浮き上がって、苦悶の表情を浮かべながら意味の分からない呻き声を上げていた。


 その気色悪い人面群の中に他の人面の倍くらいの大きさの巨大な顔があった。その顔は元の(・・)ハキ―ムと同じ顔をしていた。



『外なる神々に逆らう愚か者ども。貴様らを殺し、その魂をクトゥグア様に捧げるとしよう』


 ハキ―ムの顔が奇怪な音声で喋る。聞いているだけで怖気が走るような声であった。


「ち! 気色悪ぃ奴だな! テメェこそ今すぐアタシの視界から消えやがれ!」


 タビサが我慢できなくなって再び突進する。だがすぐに彼女とハキ―ムとの間に大量の影が割り込む。観客席にいたプログレス達の一部だ。


「邪魔だ、どけぇ! 『回帰の大槌!!』」


 タビサは特大の岩のハンマーを作り出して全力で薙ぎ払う。プログレス共がまとめて数体薙ぎ払われる。上半身が吹っ飛ぶほどの威力だが、ここで驚くべき事象が起きた。


 何と死んだはずのプログレス共が消滅する事無く、タビサに吹き飛ばされて身体が欠損した姿のまま平然と起き上がり、再び襲い掛かってきたのである。


「な、何だぁ!? どうなってんだよ、こいつ等!?」


「死体が……起き上がった!? いえ、それ以前にこいつら……!?」


 自分の技を喰らってもゾンビの如く甦る姿にタビサは動揺を隠せない。小鈴も異常な光景に眉を顰める。彼女は他のプログレス達も様子がおかしい事に気付いた。シャクティが先程言っていた「魔力を感じない」という言葉がよぎる。



『ファハハ、ようやく気付いたか。そう、こやつらは既に死んでいる(・・・・・・・)。『屍魔の軍団(コープス・レギオン)』。死者に仮初の魂を与える我が力……存分に味わうがいい』



「……!!」


 ハキ―ムの哄笑によって事態を把握する小鈴達。奴は死者を操る能力を持っているとでも言うのか。だが目の前のゾンビ(・・・)共は現実だ。


 ただでさえ数百体のプログレスが、尚且つ怖れを知らず文字通り死んでも(・・・・)襲ってくるのだ。



「ア、アリシアさん! どうしたら……!?」


「くっ……襲ってくる敵を無視は出来ん! とりあえず奴等を近づけるな! 私はシャオリン達を援護する!」


「わ、解りました! 『女神の舞踏会!』」


 シャクティはありったけの光のチャクラムを作り出して、殺到してくる屍魔(コープス)共を迎撃する。その間にアリシアは、既に大量の屍魔どもと大立ち回りを演じている小鈴とタビサを神聖弾で援護していく。


 栄光のスタジアムの真ん中で、絶望的な物量差の死闘が始まった。




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