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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
日本 東京
158/175

第18話 新規メンバー!?

 東京都台東区。浅草寺などで有名な観光地でもある行政区だが、今現在天馬達がいるのはそこから外れた小さな神社の境内であった。東京の街中にあって深い林に覆われたこの神社は、人の目から何かを隠すにはもってこいだ。


 そして実際にこの境内に隠されていた『要石』を見つけ出した天馬とラシーダは、この場を守るプログレス達と激しい戦いの真っ最中であった。


『鬼神三鈷剣!』


 天馬が刀を一閃すると魚の頭をしたプログレスが首と胴を別れさせて消滅していく。


「ぐぬ……!」


 だが敵を倒したはずの天馬は攻撃を喰らった訳でもないのに苦痛に顔を歪めた。動きが停滞する。敵のプログレス達は10体近くいるので、当然その隙を見逃すはずがない。動きの鈍った天馬に今がチャンスとばかりに殺到して襲い掛かる。


「させない! 『テラー・ニードル・ラピッドファイア!』」


 だが戦っているのは天馬だけではない。ラシーダは『セルケトの尾』を縦横に動かし、天馬を襲おうと隙を見せたプログレス達の背中に猛毒針による致命の一撃を突き入れる。


 それによって何とか残りのプログレス共を討伐出来た。『要石』も無事に破壊完了した。



「ふぅ……何とか、なったな。助かったぜ、ラシーダ」


 天馬は大きく息を吐いた。そして傷の痛み(・・・・)に呻いてその場に尻餅を付く。


「テンマ、大丈夫!? やっぱり無茶よ。あなたがプログレス相手にこんな苦戦するなんて……」


「自分じゃ、もうちょっと行けるつもりだったんだがな……」


 天馬は血の気が引いた青白い顔で苦笑した。彼がこうなっている原因は今も脇腹に大きく穿たれた刺し傷(・・・)にあった。スカイツリーでの死闘でジルベールによって付けられた傷だ。


 奴は倒す事が出来たが、その代償は大きかった。神力によって最低限の止血措置だけをして、そのまま次の戦いに赴いていたのだ。しかし待ち構えていたプログレス達との戦いで再び傷が開いてしまい先程の無様に繋がった。



「その傷は最低でも丸一日はどこかで休んで回復に努めないと、如何にディヤウスであっても戦えたものじゃないわ。というよりあなた以外だったら動くのがやっとで、戦うなんてとんでもないという状態よそれ」


 この状態で曲がりなりにも戦えていた天馬が規格外なのだ。だがそれも流石に限界であった。しかし彼はかぶりを振った。


「丸一日なんて休んでる暇はねぇ。こうしてる間にも茉莉香は……。いや、それだけじゃねぇ。早く『要石』を全部ぶっ壊さねぇと……色々とヤバい」


「テンマ?」


 ラシーダは訝し気に眉をしかめる。彼が一刻も早く幼馴染を助けたくて無茶をしているのは周知の事実だ。だが彼の中にある『焦り』は、その幼馴染だけが原因ではない気がした。


「テンマ、気になる事があるなら正直に言って。不穏要素を抱えたままでは戦いにどんな支障をきたすかも分からないわ」


 ラシーダが真剣な表情で問い質すと、天馬は諦めたように息を吐いた。


「……いや、俺にも正直よく分からねぇんだ。ただあの『要石』を最初に見た時から……こいつはヤバい(・・・)と感じた。理屈じゃなく本能的な部分でな」


「ヤバい? 確かにそうね。あれだけの魔力を放散し続けているんだから、この街の人々にも目に見えない何らかの影響を及ぼしてるのは間違いなさそうだけど」


「そういう事じゃねぇ。いや、それもあるが、それよりも俺自身(・・・)がヤバいんだ」


「あなた自身?」



「何というか……俺が俺じゃなくなるような……。多分あまり長い事『要石』の魔力に曝されてると、抑えが効かなくなる(・・・・・・・・・)



「抑え? それって、まさか……」


「ああ、強制的(・・・)にウォーデンに覚醒しちまう。その確信がある」


「……っ!!」


 ラシーダは目を瞠った。男のディヤウスだけがなる、邪神の魔力に浸食される事で移行する更なる覚醒形態。男性はこの覚醒に抗う術はないと言われており、天馬も過去に度々それを指摘されてきた。だが彼は驚異的な克己心でそれを抑えてきたのだ。


 このままではその抑え(・・)が効かなくなるという。


「だからこそ……早いとこ『要石』を全部ぶっ壊しちまわねぇとヤバいんだ。俺は、まだ(・・)ウォーデンになる訳には行かねぇからな」


「…………」


 ラシーダは眉根を寄せた。確かにそれは非常に由々しき問題ではあるが、現実として天馬の負傷はこのまま戦いを継続できる状態ではない。すぐにでも療養させなければならないのだが、さりとて早く『要石』を破壊しなければ彼がウォーデンになってしまうという危険性も無視できない。


(……既に4つの『要石』を破壊している。仮に二十三区すべてに『要石』があるとして、そして他の班が担当区域の『要石』を全て破壊できたとして……残りは9つ。ちょっと厳しいわね。しかもまだ他にもウォーデンが待ち構えている可能性はあるし……)


 戦略(・・)の転換が必要かも知れない。やはり『王』というだけはある。プログレスは勿論だが、思ったより多くのウォーデンが麾下にいる。プログレス相手だけなら最初に天馬が決めた作戦通りで問題なかったが、こうなると話が変わってくる。



「解ったわ。でも今あなたはとてもウォーデンと戦える状態じゃないから、とりあえず一旦どこかで休息を取りましょう。そこで他の班(・・・)に連絡を取って状況を聞きましょう。それによって新しい作戦を立てるべきじゃないかしら?」


「ああ……そうだな。残念だが仕方ねぇか。あのジルベールって奴相手にこれ程の傷を負うのは想定外だったぜ。全く……情けねぇな」


 天馬は自嘲気味に同意した。だが人間状態とはいえウォーデン相手に純粋な一対一で勝利を収めるなど彼にしか出来ない芸当だ。恐らく他の誰であっても真似できなかっただろう。その重傷はむしろ望外の成果の証なのだ。


「そういう事だから、あなたは何も気にする必要も恥じる必要もないわ。解ったらとにかく安静にしていて。他の班への連絡は私がするわ」


「ああ、悪ぃな。ちょっと頼むわ……」


 ラシーダは携帯を取り出して他の班に連絡してみる。状況が分からないのでもし電話に出なければそれはそれで仕方がない。だが幸いというかどの班にも繋がった。仲間達と連絡を取り合ったラシーダは、ある意味で色々と予想外の事態が起きていた事を聞いて目を丸くするのだった。



*****



 今の天馬を無理に動かすのも負担になるし、いっその事この神社を集合場所(・・・・)に指定して、一旦全ての班に集まってもらう事にした。ラシーダから仲間達の状況を聞いた上での天馬自身の判断であった。


 まず最初に到着したのは距離的にも近かったミネルヴァとタビサの新人班だ。いや、今は

もう1・・・・……。


「テンマ……! これは……酷い怪我」


「おい、大丈夫かよ、テンマ!? アタシが来たからにはもう安心だぜ!」


 北欧人とアフリカ人の白黒コンビは神社に到着して天馬の姿を見ると、血相を変えて駆け寄ってきた。


「ああ、まあ、何とかな。お前らもウォーデンを1人倒したって? よくやってくれたな」


「私達だけじゃ無理だった。彼女(・・)が協力してくれたお陰」


 ミネルヴァはそう言って後ろに控えていた女性を示す。一見してラテン系と解るその女性は緊張した面持ちで進み出てきた。



「……ドロテア・ガルべスよ。アステカの死神ミクトランシワトルのディヤウスよ。兄のエミリオを討つ為にここまで来たけど、彼女達のお陰でその目的を達する事が出来たわ。私の方こそお礼を言わせて」



 ラテン女性……ドロテアはそう言って礼を述べた。


「ドロテアの力は凄いぜ。骸骨喚んだり、怨霊みたいな奴等を召喚して援護してくれたりとか。アタシらには無いタイプの力だぜ!」


「後衛向きの能力という事ね。そういう意味では私と近いかも知れないわね」


 タビサの説明を聞いてラシーダも納得したように頷く。彼女もまた完全に後衛特化のスタイルだ。


「ああ、よろしくな、ドロテア。俺は天馬。そっちはラシーダだ。ミネルヴァ達からもう聞いてると思うが、今この東京は『王』を名乗るクソ野郎がのさばって好き放題やってやがる。『要石』も東京中にばら撒いてな。まずはこの『要石』を全部ぶっ壊して、その後は『王』を倒してこの街から邪神の勢力を排除したいんだ。アンタも手を貸してくれるか?」


 茉莉香の事はややこしくなるのでとりあえず伏せておく。別にどのみちやる事は変わらないので問題ないはずだ。ドロテアは頷いた。


「勿論よ。邪神も、その『王』とやらも、兄を歪めて変貌させた存在。絶対に許してはおかないわ。むしろ私の方こそあなた達に協力させて頂戴」


 元々は兄弟仲も良かったのだろう。彼女の怒りは本物だ。天馬も首肯して手を差し出した。


「ああ、勿論だ。今は1人でも多くの力が必要だ。宜しく頼むぜ、ドロテア」


 ドロテアと握手する。ラシーダとも握手を交わしてもらった所で、別の気配が近付いてくるのを察知した。



「テンマさん! 無事で良かった……!」


「まあ余り『無事』という感じではないけど……それでも人間状態のウォーデンを1人で倒すなんて、相変わらず規格外だね君は」


 シャクティが駆け寄ってきて安堵の息を吐く。それを見て後ろからやってきたぺラギアが何故か少し自嘲気味に天馬を讃える。


「ああ、悪い。心配掛けたな。だがそっちもウォーデンを倒してくれたらしいな。よくやってくれたぜ」


 屈みこんで抱き着いてきたシャクティの頭を撫でながら彼女らを労うと、ぺラギアは複雑そうな表情になった。


「……あの学校は君の母校と同じ状況(・・・・)になっていた。だがそれを引き起こした卑劣な輩は私達が成敗したので安心してくれ。私達と……彼女(・・)がね」


「……!」


 ぺラギアの示す先には燃えるような赤毛が目を惹くアイリッシュ系の美女がいた。



「……ケルトの戦女神モリガンのディヤウス、ハリエット・ラザフォードですわ。本当に男性なのにウォーデンになっていないんですの? 俄かには信じられませんが……」



 天馬に警戒した目を向ける赤毛の女性……ハリエット。どうやら彼女はアリシアやぺラギアと同じくベテラン(・・・・)のディヤウスであるようだ。なので男性ディヤウスのウォーデン化は避けられないものと解っているのだろう。


「彼は正真正銘のディヤウスよ。倒してきたプログレスやウォーデンの数はこの中の誰よりも多いわ。恐らくあなたよりもね。彼を侮辱する事は許さないわ」


「……!」


 ラシーダが天馬を庇うように間に立ち塞がる。一瞬驚いたハリエットも負けじと彼女を睨み返す。俄かに一触即発の空気が漂うが……


「ラシーダ、俺なら問題ない。下がってろ」


「……! いいのね? 解ったわ」


 天馬に言われたラシーダが横に退く。それによってハリエットと視線が交錯する。



「俺は天馬だ。あっちはラシーダ。あんたの言う通り、俺がウォーデンにならないって保証はねぇ。だが少なくとも今はまだ(・・・・)ウォーデンじゃねぇ」


「そう……ではもしウォーデンになってしまった時は?」


「その覚悟は出来てる。その時はアンタでも誰でも俺の胸を刺し貫いたらいい」


 再び天馬とハリエットの視線が交錯する。天馬が一切目を逸らさずにいると、やがてハリエットの方が根負けしたように目を逸らした。何故かその顔が少し赤らんでいる。


「し、仕方ありませんわね。そこまで仰るのなら、あなたの覚悟が本物かどうか見極めさせて頂きますわ。もしもの時は私の『ヴァハ』と『バズヴ』で殺して差し上げますので、それが嫌なら精一杯抗ってみなさい」


「へ……そいつはどうも。精々頑張らせてもらうぜ」


 天馬は口の端を吊り上げる。何とか場が収まってハリエットも納得してくれたようで、全員がホッと胸を撫で下ろした。そのままぺラギア達の班とミネルヴァ達の班も、互いの新顔(・・)を相手に紹介し合う。


 これで3つの班が合流した。後は……



「……ふぅ! やっと着いたわ! 天馬、大丈夫!?」


「仔細は聞いたぞ。単身でウォーデンを制するとは相変わらず無茶をするな」


 そう思っている傍から最後の班が到着した。即ち小鈴とアリシアだ。仲間内では古株の2人に天馬は気安く手を挙げる。


「ああ、この通り何とか無事だ。そっちも大変だったらしいな。俺の代わりにあの野郎(・・・・)をぶっ殺してくれたって聞いたぜ。礼を言わせてくれ」


 茉莉香を攫い、天馬の父親を殺した下手人。あの我妻恭司という男を小鈴達は見事打ち破って報いを喰らわせてやったらしい。出来る事なら彼自身が手を下したかったが、勝負も巡り合わせも全ては時の運だ。天馬は改めて父親たちの冥福を祈った。


「ええ、あなたの分まできっちり落とし前を付けてやったから安心して?」


 天馬に礼を言われた小鈴は少し誇らしげに胸を張る。アリシアがそれに苦笑しながら天馬の傷を診る為に屈みこむ。


「ぬぅ……かなりの深手だな。ウォーデンの魔力が込められている事も回復を阻害している要因かも知れんな。であればやはり……あやつ(・・・)の出番だな」


 アリシアが振り返って誰かを呼び寄せる。それに従って後ろから進み出てきたのは、1人の日本人女性だ。茉莉香ではない。歳は20代の前半くらいに見える。



「あの……初めまして。六条樹里と申します。アメノウズメのディヤウスです。我妻に囚われていたのですが、小鈴さんとアリシアさんに救って頂きました」



「……! アメノウズメ……」


 朧気だがそういえばあの時我妻が、アメノウズメのディヤウスがどうとか言っていた記憶はあった。


「救ったっていうか、救われたっていうか……。彼女の助力が無かったらあいつに勝てなかったのは事実ね」


 小鈴がやや複雑そうな表情で認めた。基本的に日本人にあまり好感情を抱いていない彼女がこう言うからには、樹里の働きはかなりのウェイトを占めていたものと思われた。


「そうか。じゃあ俺からも礼を言わせてくれ。奴を倒してくれてありがとう」


「い、いえ、私は攻撃能力(・・・・)を全く持っていないので、奴を倒したのはあくまで彼女達です。でもその代わり……今なら(・・・)私の力がお役に立てそうです」


 樹里はそう言って天馬の脇腹の傷口に手を翳す。


『……天医無縫!』


「っ!!」


 何か非常に心地の良い神力が流れ込んでくる感覚があったかと思うと、あれだけ深かった脇腹の傷が見る見るうちに塞がり始めたのだ。


「こ、これは……他者の回復能力を持つディヤウスという事?」


 ラシーダが戸惑ったように確認すると小鈴は大きく頷いた。


「そういう事。その効果のほどは私の身体で散々(・・)実証してるからお墨付きよ」


 ある意味で今までの天馬達に一番足りなかった能力だ。樹里のこの力があれば天馬達の継戦能力は格段に上がるかも知れない。ただし樹里本人は本当に回復能力以外には力がなく、プログレスから自分の身を守る事さえ覚束ないらしい。


 何事も都合の良いようにとはいかないものである。しかしこの場は彼女のお陰で天馬の傷が回復したのは事実であった。あれだけ彼を苛んでいた深い刺し傷が殆どなくなり、出血も止まっていた。


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