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ワールドクルセイダーズ  作者: ビジョンXYZ
日本 東京
144/175

第4話 聖邪の戦い

 東京都二十三区の西側。杉並区、練馬区、板橋区の辺りを担当するのはペラギア、シャクティの第二班だ。彼女たちの姿は現在、練馬区にある『光が丘公園』の中にあった。


『ギヒャァァァッ!!』


 頭が魚のようになった怪物……プログレスが、奇声を上げながら連続して黒い波動を放ってくる。ペラギアは小盾『アイギス』を構える。


『リフレクトメイデン!』


 アイギスが光り輝くと、全ての邪悪な魔力を反射する性質を備える。光り輝く盾はプログレスの黒い波動を打消し、清浄なエネルギーに変換して打ち返した。


『グゲッ!?』


 自分の攻撃を跳ね返されたプログレスが怯む。その隙を逃さず接近したペラギアは、小剣『ニケ』を一閃してプログレスの胴体を薙ぎ払う。不浄の怪物は胴体を斬断されて物も言わずに消滅していく。

 

 だがそれとほぼ同時に別のプログレスがペラギアの背後を狙って飛び掛かってきた。敵に攻撃した直後のペラギアはすぐには対処できない。だが……


「シャクティ!」


「は、はい! 『ドゥルガーの怒り!』」


 シャクティが自身の神器(ディバイン)、『ソーマ』と『ダラ』を投擲する。神力によって補強されたチャクラムは独特の軌道を描きながら飛び、ペラギアに襲い掛かろうとしていたプログレスの身体を逆に切り裂いた。


「よい、いい調子! このまま一気に蹴りを付けるよ!」


「はいっ!」


『おのれ、旧神の傀儡どもが調子に乗りおって! 『王』の名のもとに死ぬがいい!』


 全部で5体いた敵のうち2体を倒したペラギア達は、その勢いを駆って一気に決着をつけるべく突撃する。残る3体のプログレスも総力で迎撃してくる。



 担当区域の調査に入ったペラギアは、東京の街並みに目を輝かせるシャクティを尻目に、すぐに街を漂う異様な魔力に気づいた。その魔力の発生源が複数ある事に気づいた彼女はとりあえず最寄であるこの光が丘公園までやってきた。すると『結界』に覆われた木立の奥に真っ黒いモノリス……『要石』を発見したのであった。


 慄くシャクティに『要石』の説明をして、いざ破壊しようという時にこのプログレス共の奇襲を受けたのだ。どうやら『王』とやらの手下であるらしい。そのまま戦闘に突入して現在に至るという訳だ。



「むんっ!」


『グゲェッ!!』


 そして今、ペラギアの剣がプログレスの最後の一体を斬り裂いた。雷に焼かれて消滅していく怪物。これで5体全部倒した。ペラギアは息を吐いて戦闘態勢を解いた。 



「……ふぅ、終わったね。他に敵はいないようだし、さっさと『要石』を破壊してしまおうか」


「そ、そうですね。これの近くにいるだけで気分が悪くなります」


 シャクティも眉を顰めて同意する。魔力と親和性のないディヤウスにとって、確かに『要石』は常に耐え難い臭気を発する汚物のようなものだ。一秒たりとも傍にいたくないというのは本音だ。


 2人は神力を高めて、『要石』に向かって一気に解き放つ。


『ケラウノス・サンダー!』


『カーリーの抱擁!』


 2人の大技が『要石』に炸裂する。大量の神力による攻撃を受けた『要石』は亀裂を生じ、それがどんどん大きくなっていき最後には粉々に砕け散った。それと同時にこの周囲一帯を覆う不快な魔力の靄が明らかに薄れた。


「何だか……少し空気が美味しくなったような感じがします。気のせいでしょうか?」


「いや、実際その通りだよ。少なくともこの練馬区(・・・)を汚染していた魔力は除去できたからね」


 ペラギアも同意するが、その言葉の中に気になる部分があったシャクティが眉根を寄せる。


「練馬区? それって私達が今いるこの行政区の事ですよね? そこだけ、という事は……」



「恐らく君の想像通りだよ。この東京は二十三区に分かれているんだけど、どうもその全ての区に一つずつ(・・・・・・・・・・)『要石』が存在しているようだね。他の班を合わせてもこれは結構な大仕事になるよ」



「……!!」


 シャクティは目を瞠る。単純計算で一つの班につき『要石』を5~6個、破壊しなければならないという事だ。


「まあとりあえず決められた担当区域の『要石』は全部破壊したい所だね。テンマ達の班は一番大変だろうから、こっちの仕事が完了次第、第4班の応援に向かうとしようか」


 1~3班までは二十三区の外縁部に当たる三区ずつを担当している形だが、それ以外の区は全て天馬とラシーダが担当する中心部に集まっている。明らかに比重が違う。


「まあ恐らく彼は解っていて敢えてそういう振り分けにしたんだろうけど、『要石』の事は予想外だったからね。応援に駆け付けるのは問題ないだろうさ」


「そ、そうですね。テンマさん達も心配ですし、早くこちらの分を片付けてしまいましょう」



 そうと決まれば善は急げだ。2人は早速残った二つの区……杉並区と板橋区の調査に向かう。といっても二つの区は地理的に今の練馬区を挟んで両側にある感じだ。


「ど、どうしましょうか。二手に分かれて、それぞれの『要石』を破壊した方が早くないですか?」


 その方が早く天馬達の援護に向かえる。そう思ったがペラギアは難しい顔でかぶりを振った。


「……いや、他の『要石』もここと同じように数体のプログレスしかいないとは限らない。むしろここが破られた事で防備が厚くなるかも知れない。あるいはウォーデンだって待ち構えてるかもね?」


「……っ!」


 その可能性を考えていなかったシャクティがハッとする。確かにそう考えると最低限2人は絶対に欲しい。単独行動は危険だ。


「わ、分かりました。確かにその通りですね。では……どちらから向かいましょうか?」


「そうだね……どちらでもいいけど、『要石』の存在をより近くに感じる杉並区の方から向かおうか。『要石』は一刻も早く一つでも多く破壊したいからね」



 方針を決めた2人は南の杉並区へと進路を取り、再び魔力の発生源を辿る作業に入った。恐らく戦闘になるとしたら『要石』に到達してからになるだろう。この夜でも人通りの多い東京の街中では『結界』で隔離するにも限界がある。となれば予め彼女らが確実に来ると分かっている『要石』の傍で待ち構えていた方が効率がいいからだ。


「……どうやらここで間違いないようだね。ここに杉並区の『要石』がある」


 2人が見据える先には、やはり小規模な森に囲まれた区画。ただし自然公園ではなく『観泉寺』という寺院の敷地であるようだった。


「お寺、ですか……。でもここから魔力の発生を感じるのは間違いないですね」


 シャクティが呟く。仏教には詳しくないが、聖職者である事は確かだろう。この寺の僧侶たちは近くに『要石』があって何も感じないのだろうか。 


「聖職者とはいえ人間だ。あまりそういう期待はしない方がいいだろうね」


 ペラギアは肩をすくめて寺の敷地である小さな森の中に入り込む。勿論無断だが、どのみち『要石』の周囲は結界が張られているので今更だろう。



「……!」


 そして結論から言うと『不法侵入』の心配をする必要はなかった。『要石』はすぐに見つかったが、その黒いモノリスを取り囲むように僧侶たち(・・・・)が祈りを捧げていたのだ。明らかに尋常な光景ではない。


「ペラギアさん、あの人達ってまさか……」


「どうやらそのようだね。プログレスになるのは邪心(・・)を持った男だけ。この寺にはいわゆる生臭坊主しかいなかったようだ。話に聞くテンマの父君とは大違いだね」


 ペラギアが鼻を鳴らす。僧侶たちが読経を中断して立ち上がった。こちらを振り向いた彼らの瞳は人外の色に染まっていた。


「『王』に逆らい【外なる神々】の復活を邪魔する不遜なる大罪人達よ。我らが貴様らを冥土へと送ってやろうぞ」


 言いながら僧侶たちの姿がプログレスのものに変化していく。やはり海洋生物と人間を掛け合わせたような怪物達だ。太平洋一帯を領域とする邪神クトゥルフの眷属たち。


「大罪人か。君達にだけは言われたくないね。シャクティ、準備はいいね?」


「は、はい! いつでも行けます!」


 2人とも既に神器を顕現させ、神衣を纏い、完全な臨戦態勢だ。今度の敵は全部で8体。先ほどよりも多い。格段に厳しい戦いになるだろう。だがシャクティでさえ、この期に及んで退く気はない。


『故説般若波羅蜜多呪、即節呪臼!!』


 数珠や法衣を纏ったまま肉体だけ怪物化したプログレス共が一斉に襲い掛かってくる。敵の数は多い。最初から出し惜しみなしの全力で迎え撃つ2人。『要石』の結界に覆われた寺の境内で、激しい聖邪の力のぶつかり合いが始まった!

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